スマホの特定アプリの競争は促進されるのか〜消費者保護の観点からの意見(案)〜政令パブコメ締切迫る
「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律」(以下、スマホソフトウェア競争促進法)は、特定ソフトウェア事業者を対象とした、公正競争推進・強化のための法律であり、今回パブリックコメント募集の対象となっているのは法施行のための政令案です。
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=110200064&Mode=0
1. スマホアプリにおける公正な競争
公正な競争とは、企業がイノベーションや価格、品質などの面で自由かつ平等に競い合える状態を指します。ソフトウェア開発者にとっては、誰でも市場にアクセスできるオープンな市場、競争を不当に妨げる規制がないこと、アプリの公開や更新が正当な理由なく拒否されないことが必要です。
2. GoogleやAppleの独占的地位
App StoreとGoogle Playの寡占状態については世界的にも競争政策上の問題が世界的にも指摘されその対応が迫られてきました。
世界的な動き(EU・米国・日本など)EUの「デジタル市場法(DMA)」の制定(AppleやGoogleにアプリストアの代替手段を認めるよう求める。)米国の独禁法改革(Epic Games対Apple訴訟などがきっかけで動き始めている。)日本の公正取引委員会(AppleやGoogleの支配力に対する調査・報告を強化し報告書を作成。)
これまで指摘されてきた問題
- AppleはiOSデバイス上のアプリ配信を完全に自社のApp Storeに限定しています。GoogleはAndroidでGoogle Playが中心ですが、サイドローディングや他のストアが可能です(ただし制限あり)。
- 30%の手数料(アプリ内課金)は多くの開発者や消費者にとってコストが高い。
- ガイドラインの不透明さ:App StoreやGoogle Playの審査基準が曖昧で、恣意的な拒否もあること。
- 自社サービスの優遇:たとえばAppleがApple MusicをApp Storeで優遇し、Spotifyなどの競合に不利になる可能性があること。
公正取引委員会は2025年3月31日、いわゆるスマホソフトウェア競争促進法3条1項に基づき「特定ソフトウェア事業者」として3事業者を指定しました。
指定は3月26日付で①米アップル社(所在地・アメリカ合衆国カリフォルニア州、当該指定に係る特定ソフトウェアの種類として基本動作ソフトウェア・アプリストア・ブラウザ。以下同様)、②iTunes株式会社(東京都港区、アプリストア)、③米グーグル社(アメリカ合衆国カリフォルニア州、基本動作ソフトウェア・アプリストア・ブラウザ・検索エンジン)の3社が指定されました。
スマホソフトウェア競争促進法は2024年4月26日、「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律案」として閣議決定・国会提出されました。スマートフォンを利用した事業に係る競争環境を整備するとの観点から
(ア)当該利用に特に必要なモバイルOS・アプリストア・ブラウザおよび検索エンジン(以下「特定ソフトウェア」という)の提供等を行う事業者(以下「特定ソフトウェア事業者」という)を対象として指定し、当該「指定事業者」につき
(イ)事前規制として競争を制限する恐れのある行為を禁止するとともに(禁止事項)、一定の措置を講じることを義務付ける(遵守事項)こととし、
(ウ)これらの規制の実効性確保措置として指定事業者による遵守状況の報告、公取委の調査権限や違反を是正するための命令とともに課徴金納付命令などの規定を整備することとしたものです。
独占禁止法との整合性も踏まえ、確定手続きを的確に運用することで、禁止行為に違反した指定業者に対する適正な競争政策を実現させるものとして評価できます。
同法は、アプリの配信や決済システムなど、「特定ソフトウェア」と呼称する、基本ソフト(OS)とアプリストア、ブラウザー、検索エンジンについて、指定事業者(「特定ソフトウェア事業者」)が他社の参入を妨害することを禁じる内容で、独占禁止法と異なり、前もって禁止事項を定める「事前規制」を採用していることが特徴です。
規制の対象となる「特定ソフトウェア事業者」に規定する根拠として、「特定ソフトウェア」の年度の利用者数によって線引きし、月一回以上利用するスマートフォン利用者の数を平均した数が4000万人である事業者を対象として規制します。国内のスマフォOSはアップルとグーグルが9割以上のシェアを握る中、公正取引委員会はこの法律を使って、国内の中小IT(情報技術)企業などが新規参入しやすい環境を整えることを目指しているとされます。
今回のパブリックコメント募集は、必要となる関係政令等を整備するため、「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律第三条第一項の事業の規模を定める政令等の一部を改正する政令(案)」の内容についてのパブコメ募集です。(締め切り2025年6月13日)。
新たな市場参入やイノベーションを推進しながら、スマホを利用する消費者の安全を確保しつつ利便性の向上に寄与することが期待されます。消費者にとっては、この法律によって、多様なアプリストアからの選択が可能になる、アプリの購入価格が安くなる可能性があると言われる一方で、必要な措置は講じるとされながらも、多様なアプリストアやサードパーティーアプリの利用において、セキュリティー対策、プライバシー保護など、消費者・利用者の安全についての懸念があるとされます。阻害する可能性があることなどが挙げられていました。
4.今回の政令(案)には、以下のような意見があります。
1. 40 %(4,000万人)閾値の根拠が“恣意的”である。
政令では「年度における各月の平均スマホ利用者の40%(約4,000万人)」を指定基準としていますが、これは「スマホ全体」利用者を母数としたものであり、特定ソフトウェアに限定されたものではありません 。本来はOS・ブラウザ・検索など各ソフトウェア固有の市場における利用者数やシェアで判断すべきとの批判があります。
2. クロスデバイス需給を無視しているとの批判
ブラウザや検索エンジンはスマホだけでなくPC等でも利用されおり、跨機種での利用が当たり前です。しかし政令はスマホ利用だけを集計対象としているため、実態を反映せず不公平ではないかという意見が出ています。
3. 対象ソフトの利用実態とズレがある
「スマホ利用者=特定ソフトウェア利用者」とする前提に疑問が投げかけられています。スマホ利用者全体を分母とする方式では、実際にそのソフトを使っていないユーザーまで対象に含まれかねない、という問題です。
これらの指摘については、利用対象の明確化のために、母数はスマホ利用者全体ではなく、OS/ブラウザ/検索など該当ソフトウェアの実利用者とすべきかは今後拡大していく可能性を視野に入れながらも、まず利用頻度の多いスマホでの規制をすることには意味があると考えます。指定業者については、パソコンやタブレット等も含めたクロスデバイス集計を今後盛り込む必要があります。これらの指標の合理的構築については、利用者数、アクティブ比率、市場シェアなどを組み合わせて基準の科学性を担保することを考慮する必要があります。
5.消費者保護の観点からの意見(案)
1. 選択の自由が本当に確保されるか?
政令の目的は「競争促進」ですが、競争の手段としてアプリのプリインストールや自社製品の優遇を制限することが含まれます。しかし、消費者にとって「使いやすく連携された標準アプリ」は利便性が高く、制限によって逆に使いにくくなる可能性があります。
強制的に特定アプリを削除可能にしたり、初期設定で無効化する仕組みが増えると、「初心者ユーザーの混乱」や「セキュリティリスク」が増す可能性もないとは言えません。
一方で外部決済を容認することで低コスト化することもあり得ます。自社や関連会社優遇については公正なプラットフォーム中立性を確保することが必要で、今回の政令は指定事業者への事前規制と独禁法に事後規制を行うことを明確化したことにより、今後の適切な運用が期待されます。
⒉プライバシーとデータ保護
競争を促すためにサードパーティ製アプリの導入や連携が進むと、ユーザーの個人データがより多くの事業者に渡ることになります。利用者がよく理解しないまま、多様なアプリやサービスに位置情報、連絡先、検索履歴などを提供する危険があります。
プライバシーポリシーやデータ利用の説明が不十分なアプリに対する規制が不十分だと、情報漏洩リスクが高まります。
Appleは厳しい審査でマルウェアを防ぎ、ユーザーデータ保護していると強調していますが、他社も含めより透明かつ公平な選択肢を提供できる内部審査の強化と公取への定期的な情報提供の制度化を要望します。
3. 情報の非対称性
新たなアプリやサービスが選べるようになっても、ユーザーがそれぞれの違いやリスクを理解しきれない可能性があります。表示義務や比較情報提供がなければ、結局「何が安全で便利なのか分からない」まま使うことになり、高齢者やデジタルリテラシーの低い層ほど影響を受けやすくなります。
消費者の選択肢を確保するために、サイドローディングや代替ストアの合法化のためのガイドラインなどを明確にし、消費者にわかりやすく周知することが必要です。
4. サポート・保守の信頼性
標準アプリやOSと深く連携したアプリが排除・制限されることで、ユーザーが自己責任で不安定なアプリを導入せざるを得なくなる懸念もあります。例えば、標準メールアプリを無効にしてサードパーティ製を使わせると、セキュリティ更新やサポートが追いつかない場合があるでしょう。結果的にサポートの一元性が損なわれ、トラブル対応が複雑になる恐れがあります。
消費者保護のためには、競争促進とあわせて、ユーザーへの説明義務の強化、プライバシー保護指針の整備、リテラシーに応じた操作ガイド・UI設計、苦情・被害救済の体制強化等が政令の運用段階で確実に反映されることを要望します。
(参考)
公取委、スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律における特定ソフトウェア事業者の指定について
https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2025/mar/250331_smartphone.html
スマフォソフトウェア競争促進法下位法令案概要