2.26託送料金裁判が示す日本のエネルギー政策〜福岡高裁の判断は?

「控訴審」判決言い渡し期日 傍聴及び記者会見・報告集会のご案内

経済産業省令による「賠償負担金」と「廃炉円滑化負担金」の託送料金上乗せの違法性を問う控訴審が昨年11月27日に結審し、その判決が2月26日に言い渡されます。

国の主張をそのまま鵜呑みにしたような一審判決を受けて、控訴審では原判決をつぶさに検証し、間違っている国の主張の証拠を提示し反論を重ねてきました。反論の確証の根拠となったのは、経済学や会計学などの専門家からの、これまでにない人間性が息づく意見書でした。
弁護団が全ての力を出し尽くし闘ってきた控訴審の判決言い渡しの傍聴に、みなさま、ぜひご参加ください。

判決言い渡し後は、裁判所前での「旗だし」(勝訴、敗訴、いずれの場合も)を行い、その後、記者会見・報告集会を行います。

開催要領は、以下の通りです。

■判決言い渡し・旗だし
日時/2025年2月26日(水)14時~
場所/福岡高等裁判所「101号法廷」

※13時30分頃までに裁判所1階ロビーに集合。
※判決言い渡し後、「旗だし」を裁判所入口で行い、その後に記者会見・報告集会を開催します。なお弁護団による判決内容の精査に時間を要することから、開催時間は以下のようになります。

■記者会見・報告集会
開催時間/閉廷後15時30分頃~
会場/福岡県弁護士会館 301会議室

これまでの経緯は

https://www.greencoop.or.jp/takuso-ryokin/


環境エネルギー最前線フォロー

原発ないのに「新電力」がなぜ負担?東電事故の賠償と廃炉費

https://mainichi.jp/premier/business/articles/20250216/biz/00m/020/005000c

川口雅浩・経済プレミア編集部

(最終準備書面)

令和5年(行コ)第30号 託送料金認可取消請求控訴事件

控訴人    一般社団法人グリーンコープでんき

被控訴人     国

(処分行政庁 経済産業大臣)

 

控訴準備書面8

 

                                                 令和6年11月13福岡高等裁判所 第3民事部ホ係 御中

 

 

                     控訴人訴訟代理人

                      弁護士             小島延夫

                    弁護士             北古賀 康 博

                      弁護士             篠木 潔

                     弁護士             馬場 勝

            弁護士            福島健史

 

 

(目次)

第1 本件の争点と賠償負担金及び廃炉円滑化負担金

1 本件の争点

(1)本件の事案の概要

(2)本件の争点

2 賠償負担金及び廃炉円滑化負担金は、原子力発電事業者の費用であること

3 一般送配電事業者に、小売電気事業者からの賠償負担金及び廃炉円滑化負担金の徴収義務及び原子力発電事業者への賠償負担金相当金及び廃炉円滑化負担金相当金の払い渡し義務を課す本件施行規則の定めが、法律上の根拠を欠くこと

4 賠償負担金及び廃炉円滑化負担金が法18条3項1号の「適正な原価」といえるという論理との関係

第2 法18条1項の委任と法18条3項1号の「適正な原価」

1 法18条1項の委任と託送料金についての基準

2 法18条3項1号の「適正な原価」

3 託送料金制度の制度趣旨(平成11年報告(乙14)が示した託送料金制度の二つの原則)からすると、法18条3項1号にいう「原価」、特に、託送料金の「原価」は、「一般送配電事業を行うために必要な原価」ということになること

(1)平成11年報告(乙14)が示した託送料金制度の二つの原則

(2)八田達夫氏が作成した二つの意見書(甲23の1、甲46)が示した電力自由化のもとでの費用負担に関する3つの原則

(3)平成11年報告(乙14)が示した託送料金制度の二つの原則と八田達夫氏が作成した二つの意見書(甲23の1、甲46)が示した電力自由化のもとでの費用負担に関する3つの原則の関係

(4)電力自由化とその効果

(5)電力の自由化と平成11年報告の第二原則・八田意見書の「電源費用自己負担の原則」

(6)小括

(7)電力自由化の効果を実現するために不可欠な発電事業者間の競争 原判決に欠落している視点

第3 原判決の法18条3項1号の「適正な原価」についての委任の範囲の解釈の誤り

1 原判決の判示

2 原判決の上記判示には重大な誤りがあること(その1)「法は、託送供給制度を導入した平成11年改正当初から、託送供給制度において、電気の全需要家が公平に負担すべき電気事業に係る公益的課題に要する費用を回収することを想定して」いた事実はないこと

3 原判決の上記判示には重大な誤りがあること(その2)制度設計ワーキンググループが、法の平成26年改正に際し、「小売全面自由化後の託送制度においても、電気の全需要家が公平に負担すべき費用については、負担の公平性や事業者間の競争条件の確保を前提に、託送料金で回収できる仕組みとすることが必要ではないか。」との提言をした事実はないこと

4 原判決の論拠がなくなったこと及び「一般送配電事業を行うために必要な原価」ではなくても「電気の全需要家が公平に負担すべき電気事業に係る公益的課題に要する費用」を「原価」に含ませることができるとする法文上(文理上)の根拠は、何らかの手がかりを含め示されていないこと

第4 専門技術的検討と政治的判断、会計原則との関係

1 専門技術的検討を超える、政治的判断をすることは、託送料金の算定にあたって経済産業大臣に与えられた権限を超えること

2 会計原則との関係

第5 賠償負担金も廃炉円滑化負担金も、電気の全需要家が公平に負担すべき電気事業に係る公益的課題に要する費用ですらないこと

1 原判決の判示

2 賠償負担金及び廃炉円滑化負担金が、「本件算定規則4条2項の改正により導入された」との認定が誤りであること

3 廃炉円滑化負担金について

(1)原判決では、電気の全需要家が公平に負担すべき電気事業に係る公益的課題に要する費用であることすらも認定されていないこと

(2)発電工作物を廃止することは、発電事業者の基本的な業務で、費用は発電事業者が負担すべきものであること

(3)政治的判断事項、「送電に関する公益的課題」とは無関係

(4)電力自由化のもとでは、廃炉円滑化負担金のような発電事業者の費用は、発電事業者が負担すべきこと

(5)小括

4 賠償負担金は、そもそも、需要家が負担すべきものではないこと

(1)一事業者が起こした事故の賠償金は、当該事業者が負担すべきこと

(2)原子力損害賠償法の定めからみると、需要家に賠償負担を課すことは認められていないこと

(3)そもそも不足分が生じないこと

5 平成29年の国会での質疑応答では、改正法案が国会に出されたわけでなく、国会審議といえるものはなく、かつ、平成11年報告の内容を誤って引用した答弁がなされていること

6 ストランデッドコスト論について

(1)被控訴人の主張

(2)ストランデッドコストを持ち出すことが不適切であること

7 「過去に安価な原子力発電による電気を等しく利用してきたにもかかわらず、原子力発電事業者から契約を切り替えた需要家は負担せず、引き続き原子力発電事業者から電気の供給を受ける需要家のみが全てを負担することは、需要家間の公平性の観点から適当ではなく、こうした需要家間の格差を解消し、公平性を確保するためには、全需要家が等しく受益していた過去分について、託送料金を通じて、原子力発電の利益を受けた全ての需要家から公平に回収することが適当である旨の専門家の意見(貫徹小委員会中間とりまとめ)」について

(1)電力自由化の下では、電力料金は競争的市場で決定されるので、上記見解が誤りであること

(2)被控訴人からの反論

(3)被控訴人の主張は、電力自由化後の価格決定方式は、電力自由化前の価格(料金)決定方式とは全く異なっていることを理解していないこと

(4)相対取引の価格と競争的市場の価格

(5)価格が同一でも、原子力発電事業者から電気の供給を受ける需要家とそれ以外から電気の供給を受ける需要家の間に負担の公平性が保てないことになることに変わりがないとの主張の誤り

8 まとめ

第6 最後に

 


第1 本件の争点と賠償負担金及び廃炉円滑化負担金

1 本件の争点

(1)本件の事案の概要

本件は、小売電気事業者である控訴人(一般社団法人グリーンコープでんき)が、平成28年6月30日、一般送配電事業者であった九州電力株式会社(以下「九州電力」という。)との間で、託送供給等約款に基づき接続供給兼基本契約(以下「本件接続供給契約」という。)を締結し、小売供給を受けようとする者に対し、電気の供給をしていたところ、経済産業大臣が、平成29年9月に改正した、電気事業法施行規則(以下、平成29年9月の改正後、令和4年経済産業省令第24号による改正前のものを「本件施行規則」という。)において、①賠償負担金及び廃炉円滑化負担金を定義(本件施行規則45条の21の3及び45条の21の6)する規定、並びに、②一般送配電事業者が経済産業大臣の通知に従い賠償負担金及び廃炉円滑化負担金をその接続供給の相手方から回収し、回収した賠償負担金及び廃炉円滑化負担金(賠償負担金相当金及び廃炉円滑化負担金相当金・本件施行規則45条の21の4第1項三号及び45条の21の7第1項三号)を原子力発電事業者に払い渡さなければならない旨(本件施行規則45条の21の2及び45条の21の5)及び③原子力発電事業者が賠償負担金及び廃炉円滑化負担金の額について経済産業大臣の承認を受けなければならない旨(本件施行規則45条の21の3及び45条の21の6)の規定等を設け、また、同時に改正した、一般送配電事業託送供給等約款料金算定規則(以下、平成29年9月の改正後、令和3年経済産業省令第22号による改正前のものを「本件算定規則」という。)において、一般送配電事業者が、一般送配電事業を運営するに当たって必要であると見込まれる営業費として、賠償負担金相当金及び廃炉円滑化負担金相当金の額を算定しなければならない旨の規定(本件算定規則4条2項)等を設け、これらの改正後の規定が令和2年4月1日に施行されたので、九州電力から令和2年4月に一般送配電事業等を承継した九州電力送配電株式会社が、経済産業大臣に対し、本件施行規則45条の21の4及び45条の21の7によって通知をうけた賠償負担金及び廃炉円滑化負担金を、本件施行規則45条の21の2第1項及び45条の21の5第1項に従い、その接続供給の相手方から回収すべく、前記の通知をうけた賠償負担金及び廃炉円滑化負担金(注2)を営業費として算定し、これに基づいて託送料金単価を変更する旨の託送供給等約款の変更認可の申請をし、令和4年9月4日付けで、経済産業大臣から、上記申請に係る託送供給等約款の変更を認可する旨の処分(本件処分)を受けたが、上記の本件施行規則の①から③までの規定及び本件算定規則4条2項の規定などが、電気事業法(令和2年法律第49号による改正前のもの。以下「法」という。)の委任に基づくことなく又は法の委任の範囲を越えるもので違憲・違法であるから、上記各規則に基づいてされた本件処分は違法・無効であると主張しているものである。

 

(注1)  下線部について 原判決の「第2 事案の概要」の(1)及び(2)は、上記下線部分(4箇所)の追加、訂正がないと正確さを欠く。この4箇所について、訂正を要する。

(注2)  本件施行規則45条の21の2第1項及び45条の21の5第1項の通り、回収するべきとされているのは、賠償負担金及び廃炉円滑化負担金である。本件算定規則4条2項は「賠償負担金相当金」「廃炉円滑化負担金相当金」としているが、本件施行規則45条の21の4第1項三号及び45条の21の7第1項三号では、賠償負担金相当金及び廃炉円滑化負担金相当金は、回収した賠償負担金及び廃炉円滑化負担金と定義しているので、本件算定規則4条2項の「賠償負担金相当金」「廃炉円滑化負担金相当金」との表現自体誤りである。

(2)本件の争点

以上の本件の事案の概要に基づけば、本件の争点は、

 

本件施行規則の、

①   賠償負担金及び廃炉円滑化負担金を定義(本件施行規則45条の21の3及び45条の21の6)する規定、

②   一般送配電事業者が経済産業大臣の通知に従い賠償負担金及び廃炉円滑化負担金をその接続供給の相手方から回収し、原子力発電事業者に払い渡さなければならない旨(本件施行規則45条の21の2及び45条の21の5)の規定、

③   原子力発電事業者が賠償負担金等の額について経済産業大臣の承認を受けなければならない旨(本件施行規則45条の21の3及び45条の21の6)の規定

並びに、

本件算定規則の、一般送配電事業者が、一般送配電事業を運営するに当たって必要であると見込まれる営業費として、賠償負担金相当金及び廃炉円滑化負担金相当金の額を算定しなければならない旨の規定(本件算定規則4条2項)(以下、「一般送配電事業者が、一般送配電事業を運営するに当たって必要であると見込まれる営業費として、賠償負担金相当金及び廃炉円滑化負担金相当金(以下「賠償負担金相当金等」という。)の額を算定しなければならない旨の規定(本件算定規則4条2項)」のことを、「賠償負担金及び廃炉円滑化負担金についての本件算定規則4条2項の規定」という。)

が、法の委任に基づくものではないか、又は法の委任の範囲を越えるものであるので、違憲・違法といえるかどうかという点になる。

2 賠償負担金及び廃炉円滑化負担金は、原子力発電事業者の費用であること

以上の争点を検討するにあたり、第一に確認しておきたい点は、賠償負担金及び廃炉円滑化負担金は、原子力発電事業者の費用であるという点である。

この点は、第一に、その定義から、明らかである。すなわち、

「賠償負担金」は、原子力損害の賠償のために備えておくべきであった資金であって、旧原子力発電事業者が平成23年3月31日以前に原価として算定することができなかったもの(本件施行規則45条の21の3第1項)とされている。この損害賠償の責を負うのは、原子力損害賠償法にいう原子力事業者であり(原子力損害賠償法3条)、法にいう原子力発電事業者である。

廃炉円滑化負担金も、原子力発電工作物の廃止を円滑に実施するために必要な資金(本件施行規則45条の21の6第1項)であるので、原子力発電事業者が負担すべきものである。

規則のこの定義からして、明確に、「賠償負担金」及び「廃炉円滑化負担金」は、原子力発電事業のための費用である。

第二に、本件施行規則の章立てもそのようになっていることである。

「賠償負担金」及び「廃炉円滑化負担金」は、本件施行規則の「第2章 電気事業」の「第2節 一般送配電事業」の中において規定されていない。他方、本件施行規則は、「第2章 電気事業」の「第5節 発電事業」の次に、「第5節の2 賠償負担金の回収等」、「第5節の3 廃炉円滑化負担金の回収等」という節を新たに設け、その中において、「賠償負担金」及び「廃炉円滑化負担金」に関する規定を定めた点である。

第三に、「賠償負担金」及び「廃炉円滑化負担金」は、一般送配電事業者が回収するものの、そのまま、原子力発電事業者に渡される(本件施行規則45条の21の2第2項、本件施行規則45条の21の5第2項)ことからもそういえる。

原子力発電事業者のための費用であるから、一般送配電事業のために使われず、全額原子力発電事業者に渡されるのである。

以上の通り、賠償負担金及び廃炉円滑化負担金は、原子力発電事業者の費用である。その点をまず確認しておきたい。

 

3 一般送配電事業者に、小売電気事業者からの賠償負担金及び廃炉円滑化負担金の徴収義務及び原子力発電事業者への賠償負担金相当金及び廃炉円滑化負担金相当金の払い渡し義務を課す本件施行規則の定めが、法律上の根拠を欠くこと

本件施行規則45条の21の2及び45条の21の5は、一般送配電事業者に対し、小売電気事業者からの賠償負担金及び廃炉円滑化負担金の徴収義務及び原子力発電事業者への賠償負担金相当金及び廃炉円滑化負担金相当金の払い渡し義務を課している。

前項において確認したように、賠償負担金及び廃炉円滑化負担金は、原子力発電事業者の費用である。

他方、一般送配電事業者の業務は、「自らが維持し、及び運用する送電用及び配電用の電気工作物によりその供給区域において託送供給及び電力量調整供給を行う(発電事業に該当する部分を除く。)業務(当該送電用及び配電用の電気工作物により次に掲げる小売供給(最終保障供給と離島等供給)を行う事業(発電事業に該当する部分を除く。)を含む)」である(法2条八号)。

一般送配電事業者の業務の中に、「原子力損害の賠償をする業務」あるいは「原子力損害を賠償するための措置を講じる義務(原子力損害賠償法第6条)または原子力損害の賠償のために備えておくべき義務」といったものはない。むしろ、法2条八号の規定からは、明示的に「発電事業に該当する部分を除く。」との規定がされているところ、「原子力損害の賠償をする業務」あるいは「原子力損害を賠償するための措置を講じる義務」は、原子力損害賠償法上、原子力発電事業者の業務あるいは事務とされているので、賠償負担金を徴収する業務は、一般送配電事業者の業務ではない。

さらに、この業務の中に、「原子力発電工作物を廃止する業務」あるいは「原子力発電工作物の廃止を円滑に実施するために必要な資金を確保する業務」というものは含まれない。「原子力発電工作物を廃止する業務」は、発電事業者の業務あるいは事務であるので、一般送配電事業者の業務と解する余地はない。

そうしてみると、一般送配電事業者に対し、賠償負担金(賠償負担金相当金)及び廃炉円滑化負担金(廃炉円滑化負担金相当金)の徴収義務及び原子力発電事業者への払い渡し義務を課している、本件施行規則45条の21の2及び45条の21の5は、一般送配電事業者に対し、一般送配電事業以外の行為を行う義務を課しているものである。

それを行う法的義務は、法にもどこにも記されていない。

八田達夫氏の2024年10月30日付け意見書・甲46号証の24頁以下の「(4)離島補助金について」のところにあるように、離島などの供給は、一般送配電事業者によってなされている。これは、本来的な意味での送配電業務ではないが、法律によって明示的に規定されている(法2条八号)ものである。

また、電源開発促進税についても、法律で明示的に、その徴収義務が、一般送配電事業者に課されている(電源開発促進税法・昭和49年法律第79号)。

しかし、賠償負担金(賠償負担金相当金)及び廃炉円滑化負担金(廃炉円滑化負担金相当金)の徴収義務及び原子力発電事業者への払い渡し義務について、法律上何らの規定もない。平成29年9月の電気事業法施行規則及び一般送配電事業託送供給等約款料金算定規則の改正(本件施行規則及び本件算定規則)にあたり、電気事業法は、この点で、改正された事実もない。

そうなると、法律上の根拠なく、省令で義務を課すものであるので、この点だけでも、本件施行規則は違憲・違法である。

この義務を課すことが違法だということになれば、一般送配電事業者は、賠償負担金及び廃炉円滑化負担金を徴収することができないので、小売電気事業者の支払い義務も発生しない。

 

4 賠償負担金及び廃炉円滑化負担金が法18条3項1号の「適正な原価」といえるという論理との関係

上記3項までにみたことでもって、本件の争点である、本件施行規則の①から③までの規定及び賠償負担金及び廃炉円滑化負担金についての本件算定規則4条2項の規定が、法の委任に基づいていないものであり、違憲・違法であると認められる。

しかし、他方、被控訴人は、それに対し、賠償負担金及び廃炉円滑化負担金が法18条3項1号の「適正な原価」になるとの理解から、一般送配電事業者に対し、適正な原価に含まれる賠償負担金及び廃炉円滑化負担金を小売電気事業者から徴収する義務を課すこともその徴収した賠償負担金相当金及び廃炉円滑化負担金相当金を原子力発電事業者へ払い渡す義務を課すことも、一般送配電事業者に業務外の業務をすべき義務を課すことであっても、適法であるとしているようである。

次項以降で、賠償負担金及び廃炉円滑化負担金が法18条3項1号の「適正な原価」ではないことを論証し、被控訴人の主張がいかなる意味でも理由がないことを明らかにするが、そもそも、法18条3項1号の「適正な原価」になることから、一般送配電事業者に業務外の業務をすべき義務を課すことが適法であるとするのは論理が逆立ちしており、理由がないことは一言付言しておく。

 

第2 法18条1項の委任と法18条3項1号の「適正な原価」

1 法18条1項の委任と託送料金についての基準

本件の争点は、すでにみたように、本件施行規則の①から③までの規定並びに賠償負担金及び廃炉円滑化負担金についての本件算定規則4条2項の規定が、法の委任に基づくものではないか、又は法の委任の範囲を越えるものであるので、違憲・違法といえるかどうかという点である。

賠償負担金(賠償負担金相当金)及び廃炉円滑化負担金(廃炉円滑化負担金相当金)の徴収義務及び原子力発電事業者への払い渡し義務(本件施行規則45条の21の2及び45条の21の5)について、法律上何らの規定もない。平成29年9月の電気事業法施行規則及び一般送配電事業託送供給等約款料金算定規則の改正(本件施行規則及び本件算定規則)にあたり、電気事業法は、この点で、改正されていない。したがって、本件施行規則45条の21の2及び45条の21の5は、法律上の根拠なく、省令で義務を課すものであるので、この点だけでも、本件施行規則は違憲・違法である。

原判決は、この点について検討することなく、賠償負担金及び廃炉円滑化負担金についての本件算定規則4条2項の規定が法18条1項の委任の範囲を逸脱するかどうかについて論じている。しかし、そもそも、賠償負担金(賠償負担金相当金)及び廃炉円滑化負担金(廃炉円滑化負担金相当金)の徴収及び原子力発電事業者への払い渡しという業務は、「自らが維持し、及び運用する送電用及び配電用の電気工作物によりその供給区域において託送供給及び電力量調整供給を行う(発電事業に該当する部分を除く。)業務」(法2条八号)ではないから、一般送配電事業者の業務ではない。したがって、電気事業法という法律の解釈上、一般送配電事業者が、賠償負担金(賠償負担金相当金)及び廃炉円滑化負担金(廃炉円滑化負担金相当金)の徴収をする義務も権限も出てこない。原判決において、その点の検討が全くされていないのは、重大な判断の欠落があることとなる。極めて残念である。

以上の通り、原判決には重大な欠落があるが、他方、原判決は、「賠償負担金及び廃炉円滑化負担金についての本件算定規則4条2項の規定が法18条1項の委任の範囲を逸脱するかどうか」という点は、「賠償負担金及び廃炉円滑化負担金が法18条3項1号の「適正な原価」に該当するのかどうか」ということであると、正確に認識されている(原判決14頁)。

原判決14頁は、「賠償負担金(賠償負担金相当金)及び廃炉円滑化負担金(廃炉円滑化負担金相当金)は、電気の全需要家が公平に負担すべき電気事業に係る公益的課題に要する費用であるといえ、これらを託送供給等約款料金に係る原価等(具体的には営業費)の構成要素とした本件算定規則4条2項の規定は、法の委任の趣旨及び所管行政庁である経済産業大臣の裁量権の範囲を逸脱するものとはいえない。」と判示している。

そうしてみると、結局、「賠償負担金及び廃炉円滑化負担金についての本件算定規則4条2項の規定が法18条1項の委任の範囲を逸脱するかどうか」という点は、「賠償負担金及び廃炉円滑化負担金が法18条3項1号の「適正な原価」に該当するのかどうか」という点になる。

2 法18条3項1号の「適正な原価」

では、法18条3項1号の「適正な原価」とはどのように解すべきなのだろうか。

第一に、条文の文理解釈上、「適正な原価」は、「一般送配電事業を営むために必要な原価」と解する他ないことは、控訴人の控訴準備書面6の5頁において述べた通りである。

繰り返して述べると、法18条3項1号は、同条1項の「一般送配電事業者は、その供給区域における託送供給及び電力量調整供給に係る料金その他の供給条件について、託送供給等約款を定め、経済産業大臣の認可を受けなければならない。」との規定を受けて、「その供給区域における託送供給及び電力量調整供給に係る料金」、すなわち託送料金についての基準を定めるものである。

前述したように、一般送配電事業者の業務は、「自らが維持し、及び運用する送電用及び配電用の電気工作物によりその供給区域において託送供給及び電力量調整供給を行う(発電事業に該当する部分を除く。)業務」である(法2条八号)。

したがって、法18条3項1号にいう「原価」は、託送料金、すなわち、「その供給区域における託送供給及び電力量調整供給に係る料金」について定める限り、「その供給区域における託送供給及び電力量調整供給」に必要な原価、すなわち、一般送配電事業を行うために必要な原価ということになる。

第二に、託送料金制度の制度趣旨(平成11年報告(乙14)が示した託送料金制度の二つの原則)からしても、法18条3項1号にいう「原価」、特に、託送料金の「原価」は、「一般送配電事業を行うために必要な原価」ということになる。

この点は、託送料金制度を開始するにあたって、通商産業大臣から諮問を受けた電気事業審議会基本政策部会によって取りまとめられ、平成11年1月21日に公表された、電気事業審議会基本政策部会報告(以下「平成11年報告」という。)(乙14)及び、その当時から制度設計の中心にいた一人である八田達夫氏(八田達夫氏は、1997年から1999年まで、電気事業審議会の専門委員をしている)が作成した二つの意見書(2023年9月1日八田達夫意見書・甲23の1、2024年10月30日八田達夫意見書・甲46)に記述されているので、次の項において、その点を述べる。

 

3 託送料金制度の制度趣旨(平成11年報告(乙14)が示した託送料金制度の二つの原則)からすると、法18条3項1号にいう「原価」、特に、託送料金の「原価」は、「一般送配電事業を行うために必要な原価」ということになること

(1)平成11年報告(乙14)が示した託送料金制度の二つの原則

「平成11年報告」(乙14)は、望ましい電力自由化の制度設計の検討は、次の3つの視点からなされるべきことを示した。

① 民間事業者の創意工夫・経営の自主性を最大限活用し、行政の介入を最小化するという視点

②  電力会社と新規参入者との対等競争、有効競争の確保という視点

(注 この報告書がここで言っている「電力会社」は、現在の旧一般電気事業者系の発電事業者のことであり、新規参入者は、それ以外の発電事業者のことである)

③  電力の需要家全般にいかに効率化の成果を行き渡らせるかという視点。

「平成11年報告」(乙14)は、上記の3視点に基づいて、電力自由化後の競争的な電力市場にふさわしい透明な託送料金について、次の2つの原則を定めた。

・ 第一原則 託送コストの公正回収原則

託送料金に含めてコスト回収すべき設備や関連するサービスを具体的かつ明確に特定した上で、そのコストを適正に回収することが必要である。その上で、実績も、その考え方に従ってなされることが必要であり、そのことを中立的な第三者が確認することとする。

・ 第二原則 事業者間公平の原則

託送料金は、ネットワークの所有者・運用者である電力会社、供給区域外の電力会社、新規参入者にとって「同一」であることが必要である。そのため、約款を通じて予め託送料金を公表し、それ以外の料金で託送利用ができないことを担保することが必要である。その際、事業者間での託送料金負担の「同一」性の確保については、例えば、負荷率、供給区域をまたがる託送等の評価など、電気の使用形態等を勘案することとする。

 

なお、平成11年報告は、部分的自由化を提言しているので、上記の2つの原則は、完全自由化に関係するものではないとするのは誤りである。

当時の状況を見ると、すでに、1991年にはノルウェーでエネルギー法が可決され、ノルウェーの国営電力会社であるStatkraftverkeneが送電会社と発電会社に分離され、発電分野の自由競争が実現し、1996年から電力会社間の自由な電力取引が可能となり、一般家庭を含めた電力需要家は電力会社を自由に選べるようになった。また、スウェーデン、デンマーク、フィンランドでも自由化が進められ、1998年までに、北欧では、全域での電力完全自由化が進行していった。

英国では、イングランド・ウェールズでは、国有電力会社が発電と送電を独占してきたが、1990年に、発電会社3社と送電会社1社に分割・民営化(所有権分離)され、発電市場が自由化された。小売市場では、区域内の需要家に独占的に電力供給してきた国有の12の配電局が民営化され、新規参入が認められるようになり、1999年までに、全ての需要家が供給事業者を選択できるようになった。

1998年には、ドイツでも、電力の完全自由化が実施された。

EUでは、1998年に、EU電力指令が発効し、加盟国は2003年までに、電力自由化を進めるべきことが法的義務となった。

アメリカ合衆国でも、1990年代から、州ごとに、電力自由化が進められていった。

1997年当時、日本の電力料金は、アメリカ合衆国に比較して、3倍とも言われており、日本においても、電力自由化が重要な課題となっていた。当然いずれかの時期までには、電力の完全自由化まで実施しなければならないことは見通せていた。平成11年報告は、そうした状況の中で、作成されていったもので、最終的には、日本においても、電力の完全自由化を実施することを見通して、提案された2つの原則なのである。

(2)八田達夫氏が作成した二つの意見書(甲23の1、甲46)が示した電力自由化のもとでの費用負担に関する3つの原則

八田達夫氏が作成した二つの意見書(2023年9月1日八田達夫意見書・甲23の1、2024年10月30日八田達夫意見書・甲46)においては、電力自由化のもとでの費用負担に関し、以下の3つの原則が提唱されている。

「電源費用自己負担の原則」(以下「原則A」)

「送電費用による送電料金の算定原則」(以下「原則B」)

「公益補助一般財源負担原則」(以下「原則C」)。

これらの原則は、

発電事業者が発生させたコストは、発生源の発電事業者によって;

送電事業に要する費用は、送電事業者によって;

国民一般の公益的な便益に資する支出の財源は、国によって;

それぞれまかなうべきだとするものである。

その際、送電事業に関する費用は、規制によってそのまま需要家に送電料金(託送料金)として転嫁される。

発電事業者は、市場で決まった価格を操作できないから、発電事業の費用は、利益減少を通じて、結局、発電事業者が負担することになる。

また、国民一般に便益を及ぼす支出に関しては、税で(あるいは電気のエネルギー料金以外によって)調達されるべきことを意味する。

これらのうち原則Aは、ある発電事業者はその費用を他社に負担させるべきではないことを意味する。原則Bは、送電費用のみを送電料金(託送料金)に含めるべきだとしている。この原則は、ある一つの発電事業者はその費用を送電料金(託送料金)に上乗せすることによって他者に負担させてはいけないことを含意する。さらに、原則Cは、発電費用や送電費用以外で国民一般に便益が及ぶ補助金が例え電力に関係したとしていても、国民一般に便益を及ぼす支出は、一般財源を充てるべきだとするものである。

(3)平成11年報告(乙14)が示した託送料金制度の二つの原則と八田達夫氏が作成した二つの意見書(甲23の1、甲46)が示した電力自由化のもとでの費用負担に関する3つの原則の関係

平成11年報告(乙14)が示した託送料金制度についての第一原則は、二つの八田意見書において述べられている「送電費用による送電料金の算定原則」と同一のものである。すなわち、「送電料金(託送料金)は、送電費用(施設の建設費とその維持運営費、同時同量サービスを提供するための費用)のみに基づいて算定すべきである。つまり、「送電費用以外の費用を上乗せすべきでない」ということを明示しているものである(2024年10月30日八田達夫意見書・甲46・19頁)。

また、平成11年報告(乙14)が示した託送料金制度についての第二原則は、託送料金(送電料金)が発電事業者によって異なることがないようにするものであるが、これも、特定の発電事業者の発電コストを、託送料金(送電料金)に追加して徴収してはならないことも意味する。すなわち、二つの八田意見書で述べられた「電源費用自己負担の原則」を含んでいる。すなわち、この原則は、発電事業者間の競争によって、費用節約のインセンティブを与えるという市場の効率的な資源配分機能を確保する。第二原則は、電力自由化体制の下で、発電事業者間の競争を担保するために不可欠の原則である。(2024年10月30日八田達夫意見書・甲46・19頁)

(4)電力自由化とその効果

2つの八田意見書において整理されている通り、本来、独占や寡占の下では、①最も低コストの生産技術が選ばれなくなる、②価格が吊り上げられ、そのサービスが効率的な資源配分量に比べて、過少に供給されることとなるという不効率が発生することから、国が介入して、独占や寡占を制限して、自由競争を確保すべきとされるが、電力事業においては、二つの理由から、かつて、発送電一貫体制による地域独占で行うことが認められてきた。

第一に、電力事業では発電事業と送電事業のそれぞれに規模の経済が認められ、発電についても、大規模な水力・火力・原子力発電が発電の主体であった時代には、明白に規模の経済があったことから、電力事業は、地域独占で行う必要があるとされた。

第二に、電力事業では、需要と供給を変動に応じて一致させる「同時同量」が必要であるため、一つの会社内で、送電と発電を行い、自社内の発電所をコントロールすることが効率的であったため、地域独占は、発送電一貫体制によることとされた。

ところが、小規模発電技術の進歩の結果、発電における独占を容認することの合理性がなくなった。しかも情報通信技術の発達により、複数事業者間での需給調整が可能となったため、発送電一貫体制の必要もなくなった。このため、規模の経済が残る送電部門のみに、託送料金(送電料金)規制を伴う地域独占を認めることとなった。一方で、発電に関しては、新規事業者の参入が認められ競争が導入された。それが電力の自由化である。

電力が自由化された以降は、電力価格は、卸売電力取引所の競争的市場において決定される。そのため、発電会社が高いコストをかけて発電すれば、利潤がその分だけ低くなり、発電コストを引き下げればその分だけ利潤が増大する。このようにして、発電事業者に発電コストを下げるインセンティブが与えられる。

また、市場で価格が決定されるということは、需要と供給によって価格が決定されることになる。その場合、電力需要が増加する時期には、電力価格が高騰するので、電力消費を抑える効果が働く。他方、電力需要が低い時期には、電力価格が低くなり、コストのかかる電源の発電が縮小されたり、停止されたりする。

以上の2つのルートによって、競争によって効率化が行われ、発電コストが下がり、電力価格の引下げが実現されていく。これが電力自由化の効果である。(以上、2023年9月1日八田達夫意見書・甲23の1・2頁から5頁まで、2024年10月30日八田達夫意見書・甲46・19頁)

(5)電力の自由化と平成11年報告の第二原則・八田意見書の「電源費用自己負担の原則」

電力自由化後は、卸売電力価格は、総括原価方式とは異なり、「内訳」の積み上げによって価格が決定されるわけではなく、競争的市場において、決定される。価格が市場で決定される以上、発電事業者の利益は、費用が高ければその分低い。

したがって、費用が高い企業は競争に敗れ、費用が低い企業は競争に勝ち抜くことができる。

競争が公平であるためには、発電事業者に自社費用を全て自社で負担させることが必要である。「発電費用自己負担の原則」が決定的に重要である。この原則の下でこそ、自社の費用を下げようとする動機が働くからである(2024年10月30日八田達夫意見書・甲46・19頁)

前述の通り、平成11年報告(乙14)が示した託送料金制度についての第二原則は、二つの八田意見書で述べられた「電源費用自己負担の原則」を含んでいる。発電事業者間の競争を担保するためには、平成11年報告(乙14)が示した託送料金制度についての第二原則を貫くことが決定的に重要である。

(6)小括

以上の通り、託送料金制度の制度趣旨(平成11年1月21日に公表された、電気事業審議会基本政策部会報告(「平成11年報告」)(乙14)の、託送料金制度についての二つの原則(託送コストの公正回収原則及び事業者間公平の原則)を示す諸原則)からも、法18条3項1号にいう「原価」、特に、託送料金の「原価」は、「一般送配電事業を行うために必要な原価」に限定されるべきであることがわかる。

まして、一部の発電事業者の費用を、託送料金に含ませることは、電力自由化が目指す、発電事業者間の競争によって、費用節約のインセンティブを与えるという市場の効率的な資源配分機能を阻害し、託送料金(送電料金)設計原則の屋台骨を危うくすることとなるので、認められる余地がないこととなる。(2024年10月30日八田達夫意見書・甲46・19頁及び25頁から28頁まで)

(7)電力自由化の効果を実現するために不可欠な発電事業者間の競争 原判決に欠落している視点

以上みてきた通り、電力自由化における競争の基本は、発電事業者間の競争である。自由な市場競争が成立するためには、買い手側と売り手側双方が、自由に市場参加でき、市場で卸売電力価格が決定されることが必要なので、発電事業者及び小売電気事業者の双方が完全に自由化されなければならないが、電力自由化は、すでにみたように、主には、発電事業者間の自由競争を通じ、発電コストを下げるというインセンティブを働かせ、競争によって発電コストを下げることによって、可能な限りの電力料金の引下げを実現するものであるから、電力自由化における競争の要点は、発電事業者間の競争の確保である。

だからこそ、平成11年報告は、第二原則として、「事業者間公平の原則」を掲げたのである。同原則は、「ネットワークの所有者・運用者である電力会社、供給区域外の電力会社、新規参入者にとって「同一」であることが必要である。」としているが、ここでいう、「ネットワークの所有者・運用者である電力会社」は送電網を所有している旧一般電力事業者と同一の企業に属する発電会社、「供給区域外の電力会社」は送電網を所有している旧一般電力事業者と別の旧一般電力事業者に属する発電会社、「新規参入者」とは新規参入の発電事業者のことであり、平成11年報告の第二原則にいう「事業者間公平の原則」の「事業者」とは、今日の「発電事業者」のことである。

この点、原判決においては、「当該一般送配電事業者の供給区域における供給条件が電気の供給を受ける者(小売電気事業者)において適正な市場競争を営むことができるもの」(原判決6頁)などとして、小売電気事業者間の競争を確保することに重点が置かれているかのような記載がある。

確かに、小売電気事業者間の自由な競争は、卸売電力が自由市場において決定されるための一つの前提ではある。しかし、電力自由化の効果として、「競争によって効率化が行われ、発電コストが下がり、電力価格の引下げが実現されていく」ためには、発電事業者間の平等性が確保されることが不可欠である。その視点は、平成11年報告の時点から、政府の立場として貫かれてきたところであるが、原判決には抜け落ちている。

 

第3 原判決の法18条3項1号の「適正な原価」についての委任の範囲の解釈の誤り

1 原判決の判示

原判決の法18条3項1号の「適正な原価」についての委任の範囲について、以下のように判示している。

 

「法の改正経緯及びその立法過程における議論(前提事実1⑵ア(ア)・⑷ア(ア)参照)に照らすと、法は、託送供給制度を導入した平成11年改正当初から、託送供給制度において、電気の全需要家が公平に負担すべき電気事業に係る公益的課題に要する費用を回収することを想定しており、小売分野の全面自由化に伴う平成26年改正後も、その仕組みに変化が生じたものとは認められないから、託送供給制度において、電気の全需要家が公平に負担すべき電気事業に係る公益的課題に要する費用を託送料金として回収することを許容するものであると解される。

そうすると、経済産業大臣が経済産業省令において原価等の算定方法を定めるに当たり、託送供給制度において、電気の全需要家が公平に負担すべき電気事業に係る公益的課題に要する費用を託送料金として回収することを前提とすること(本件に則していえば、託送供給等に係る供給条件の一つである料金に係る原価等の構成要素である営業費の算定に当たり、電気の全需要家が公平に負担すべき電気事業に係る公益的課題に要する費用を含めること)も、法の委任の趣旨の範囲内であると解するのが相当である。」(原判決11頁)

 

前提事実1⑵ア(ア)には、以下の通り整理されている(原判決35頁から36頁)。

「⑵ 託送供給制度及び託送供給約款認可の仕組みについて

ア 託送供給制度

(ア)  託送供給制度について

a 小売分野の部分自由化に伴う法の平成11年改正において、新規参入者が需要家に対して電気を供給するために、旧一般電気事業者の送配電設備を利用することが不可欠となることから、送配電設備を有する旧一般電気事業者と送配電設備を持たない新規参入者との対等な競争関係を確保する上で、送配電設備の利用に関するルールを透明で客観的なものとして定めることが必要となり、託送供給制度が新しく創設された(乙14【7頁】)。

b 電気事業審議会基本政策部会は、平成9年7月に設置され、託送供給制度については、経済効率性の向上を図るための小売供給の部分自由化と、供給の信頼度や望ましい電源構成の維持という公益的課題を両立させるため、旧一般電気事業者、新規参入者、行政、需要家の適切な役割等を検討してきた。同部会は、平成11年1月21日付けで、①託送ルールの在り方について、託送の利用条件に関しては、電力会社の応諾要件、託送料金、接続に当たっての技術的要件及び公益的課題との両立のための必要事項について、公平・公正・透明という原則の下、明確化する必要があること、②公益的課題達成のための必要事項については、公益的課題のうち、供給信頼度の確保、エネルギーセキュリティ・環境保全に関する事項に関しては、いずれもネットワークを保有する電力会社の給電指令によって担保されるものであること等を踏まえ、旧一般電気事業者は新規参入者に対して託送約款に基づく給電指令を適切に行うことを通じて公益的課題を達成すること、行政はその公益的課題の内容設定等を行うこと、需要家は公益的課題の成果を享受する主体として、そのために必要な負担について、全ての需要家が公平に負うこと等を内容とする報告書(乙14)を提出した。(乙14【1、7~10頁】)

c 政府は、電気事業審議会基本政策部会の上記意見を踏まえ、法の改正案を提出し、平成11年改正時の国会審議においても、電気事業の公益的課題に対応する必要性等が議論された上(別紙3の2(第1項)は、その一部である。)、小売分野の部分自由化に伴う託送供給制度の導入を内容とする法の平成11年改正が行われた。

d 電力システム改革小委員会は、総合資源エネルギー調査会(経済産業大臣の諮問機関)の下に設置され、その作業部会である制度設計ワーキンググループにおいて、小売分野の全面自由化に伴う法の平成26年改正に際し、旧一般電気事業者が独占的に維持管理してきた送配電設備が一般送配電事業者に引き継がれることを踏まえ、電気の全需要家が公平に負担すべき費用の回収を検討し、「小売全面自由化後の託送制度においても、電気の全需要家が公平に負担すべき費用については、負担の公平性や事業者間の競争条件の確保を前提に、託送料金で回収できる仕組みとすることが必要ではないか。」との提言をした(乙20【33頁】)。

e   政府は、上記dのような専門家の意見も踏まえ、法の改正案を提出し、平成26年改正時の国会審議においても、託送料金によって電気の全需要家が公平に負担すべき費用、すなわち、電気事業の公益的課題に対応する費用を回収していくことの必要性につき議論された上(別紙3の2(第2項)は、その一部である。)、小売分野の全面自由化を内容とする法の平成26年改正が行われた。」

前提事実⑷ア(ア)には、以下の通り整理されている(原判決41頁)。

 

「⑷ 原価算入するための制度改正等

ア  改正前の議論等

(ア)内閣は、平成25年4月、平成23年3月に発生した東日本大震災を踏まえ、①広域系統運用の拡大、②小売及び発電の全面自由化、③法的分離の方式による送配電部門の中立性の一層の確保を柱とする電力システム改革につき、3段階に分け、各段階で課題克服のための十分な検証を行い、その結果を踏まえた必要な措置を講じながら実行する旨の「電力システムに関する改革方針」を閣議決定した(乙1)。

さらに、内閣は、原子力発電を含むエネルギー政策について、平成26年4月、福島の復興・再生を全力で成し遂げることや、震災前に描いてきたエネルギー戦略は白紙から見直し、原発依存度を可能な限り低減すること等を示した「第4次エネルギー基本計画」を閣議決定した(乙6【4頁】)。

また、法の平成26年改正前の電力システムにおいては、家庭等の需要家への電気の供給に係る一般電気事業者の制度的独占が担保され、原子力発電設備の長期停止や燃料コストの増加等による電気料金の上昇圧力がある中、電気事業者間の競争を促進することにより、電気料金を最大限抑制することが重要であると考えられたことを踏まえ、電気の小売業への参入の全面自由化を内容とする電気事業法等の一部を改正する法律(平成26年法律第72号。以下「平成26年改正法」という。)が成立した(乙11【16~19頁、42~45頁】)。」

 

2 原判決の上記判示には重大な誤りがあること(その1)「法は、託送供給制度を導入した平成11年改正当初から、託送供給制度において、電気の全需要家が公平に負担すべき電気事業に係る公益的課題に要する費用を回収することを想定して」いた事実はないこと

しかし、控訴人の控訴準備書面7の6頁から10頁の1行目までに述べ、また、本準備書面の「第2」の「3」において述べた通り、「法は、託送供給制度を導入した平成11年改正当初から、託送供給制度において、電気の全需要家が公平に負担すべき電気事業に係る公益的課題に要する費用を回収することを想定して」いた事実はなく、原判決のこの点の判示は誤りである。

すなわち、第一に、平成11年改正の基礎となった、「平成11年報告」(乙14号証)において、「託送供給制度において、電気の全需要家が公平に負担すべき電気事業に係る公益的課題に要する費用を回収すること」は、記載されておらず、逆に、本準備書面の「第2」の「3」において述べた通り、「平成11年報告」は、託送料金の「原価」は、「一般送配電事業を行うために必要な原価」に限定することを要求しており、まして、一部の発電事業者の費用を、託送料金に含ませることは認めていない。

平成11年報告において、託送料金についての原則としては、「託送コストの公正回収原則」(第一原則)と「事業者間公平の原則」(第二原則)が定められている(乙14・「3 託送制度について」「(2) 託送ルールの在り方」「② 託送料金について」)が、これらの原則からすれば、法18条3項1号にいう「原価」、特に、託送料金の「原価」は、「一般送配電事業を行うために必要な原価」に限定されるべきであり、まして、一部の発電事業者の費用を、託送料金に含ませることは認められる余地がないことは、本準備書面の「第2」の「3」において述べた通りである。

また、平成11年報告では、「送電における公益的課題」を、同時同量サービスを実現するためのものに限定しており、しかも、その公益的課題を実現する方法は、「ネットワークを保有する電力会社(注:現在の一般送配電事業者)の給電指令によって担保されるものである」としており、託送料金で考慮すべきものとはしていない。

この点は、当時、政府の審議会の委員としてこの議論に参加していた、八田達夫氏も、「「平成11年当時から、需要家は託送料金を通じて必要な負担を公平に負うべきことが確認されていた」事実はない。この点の国の主張は、全くの誤りである。」(2024年10月30日八田達夫意見書・甲46・22頁から23頁まで)としている。

第二に、平成11年の国会審議においても、「託送供給制度において、電気の全需要家が公平に負担すべき電気事業に係る公益的課題に要する費用を回収する」などといったことは議論されていない。

しかも、平成11年の時点で、そもそも、原子力発電の設置コスト・廃止コストや事故が起きた時の賠償負担金などが課題となることは全く想定されていなかったのであるから、議論があるわけもなかった。

さらに、平成11年改正の際に、法の法文上も、「託送供給制度において、電気の全需要家が公平に負担すべき電気事業に係る公益的課題に要する費用を回収する」旨の定めはされなかった。

以上からは、「平成11年改正当初から、託送供給制度において、電気の全需要家が公平に負担すべき電気事業に係る公益的課題に要する費用を回収することは想定されて」いる事実は存在しないことが確認でき、この点の原判決の判示は誤っている。

 

3 原判決の上記判示には重大な誤りがあること(その2)制度設計ワーキンググループが、法の平成26年改正に際し、「小売全面自由化後の託送制度においても、電気の全需要家が公平に負担すべき費用については、負担の公平性や事業者間の競争条件の確保を前提に、託送料金で回収できる仕組みとすることが必要ではないか。」との提言をした事実はないこと

また、原判決が、原判決の36頁のdにおいて、当事者間に争いがないか、各項掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実として、整理した「制度設計ワーキンググループにおいて、小売分野の全面自由化に伴う法の平成26年改正に際し、旧一般電気事業者が独占的に維持管理してきた送配電設備が一般送配電事業者に引き継がれることを踏まえ、電気の全需要家が公平に負担すべき費用の回収を検討し、「小売全面自由化後の託送制度においても、電気の全需要家が公平に負担すべき費用については、負担の公平性や事業者間の競争条件の確保を前提に、託送料金で回収できる仕組みとすることが必要ではないか。」との提言をした(乙20【33頁】)」との点及び同「e」において、当事者間に争いがないか、各項掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実として、整理した「上記dのような専門家の意見も踏まえ」との点は、いずれも誤りである。

この点は、令和5年9月12日付け控訴準備書面1において詳述したところであるが、被控訴人は、何ら反論しておらず、控訴人の主張に反する書証も提出できていない(控訴人の控訴準備書面7の10頁の3行目から15頁まで)。

 

4 原判決の論拠がなくなったこと及び「一般送配電事業を行うために必要な原価」ではなくても「電気の全需要家が公平に負担すべき電気事業に係る公益的課題に要する費用」を「原価」に含ませることができるとする法文上(文理上)の根拠は、何らかの手がかりを含め示されていないこと

以上からすると、原判決が、「法は、託送供給制度を導入した平成11年改正当初から、託送供給制度において、電気の全需要家が公平に負担すべき電気事業に係る公益的課題に要する費用を回収することを想定しており」、「託送供給制度において、電気の全需要家が公平に負担すべき電気事業に係る公益的課題に要する費用を託送料金として回収することを許容するものであると解される」とし、「そうすると、経済産業大臣が経済産業省令において原価等の算定方法を定めるに当たり、託送供給制度において、電気の全需要家が公平に負担すべき電気事業に係る公益的課題に要する費用を託送料金として回収することを前提とすること(本件に則していえば、託送供給等に係る供給条件の一つである料金に係る原価等の構成要素である営業費の算定に当たり、電気の全需要家が公平に負担すべき電気事業に係る公益的課題に要する費用を含めること)も、法の委任の趣旨の範囲内であると解する」とした論拠は、なくなったことが確認できる。

他方、そもそも、本準備書面の「第2」においてみた通り、法18条3項1号の「適正な原価」は、条文の文理解釈上「一般送配電事業を営むために必要な原価」と解する他なく、「託送供給等に係る供給条件の一つである料金に係る原価等の構成要素である営業費の算定に当たり、電気の全需要家が公平に負担すべき電気事業に係る公益的課題に要する費用を含めることも、法の委任の趣旨の範囲内である」とする文理上の根拠はない。

それどころか、託送供給制度を導入した平成11年改正当初から、法制度が予定していたのは、法18条3項1号にいう「原価」、特に、託送料金の「原価」は、「一般送配電事業を行うために必要な原価」に限定されるということであり、まして、一部の発電事業者の費用を、託送料金に含ませることは、認められる余地がない(2024年10月30日八田達夫意見書・甲46・19頁及び25頁から28頁まで)。

電気事業法のような行政法規においては、法律による行政の原理は、極めて基本的な原理であるから、明文の規定がないにもかかわらず、法の文理上認められない義務負担を課すことは、著しく困難であり、相当強い制度解釈上の理由と法文上(文理上)の手がかりが必要である。

しかし、本件の場合、「一般送配電事業を行うために必要な原価」ではなくても、「電気の全需要家が公平に負担すべき電気事業に係る公益的課題に要する費用」を、「原価」に含ませることができるとする法文上(文理上)の根拠は、何らかの手がかりを含め示されていない。

その上、「法は、託送供給制度を導入した平成11年改正当初から、託送供給制度において、電気の全需要家が公平に負担すべき電気事業に係る公益的課題に要する費用を回収することを想定して」いたことを裏付ける政府の報告書も、議会の議論も示されていない。逆に、「平成11年報告」は、託送料金の「原価」は、「一般送配電事業を行うために必要な原価」に限定することを要求していた。

この状況では、「一般送配電事業を行うために必要な原価」ではなくても、「電気の全需要家が公平に負担すべき電気事業に係る公益的課題に要する費用」を、「原価」に含ませることができるという法解釈は、どう考えても、無理があると言わなければならない。

 

第4 専門技術的検討と政治的判断、会計原則との関係

1 専門技術的検討を超える、政治的判断をすることは、託送料金の算定にあたって経済産業大臣に与えられた権限を超えること

控訴人らは、一貫して、何が「託送料金の原価」かは、小売電気事業者、ひいては、需要家の権利義務に直接影響を及ぼすものである上、会計原則(公正妥当と認められる企業会計の慣行)により決定されるべきことなので、そこに、裁判所の判断が及ばない部分があるという意味の「行政機関の裁量」はない(行政事件訴訟法30条にいう「裁量処分」に該当しない)旨を主張してきた。

しかし、仮に、何を「託送料金の原価」と判断するかについて、省令を定める行政機関の裁量に委ねられる部分があるとしても、第一に、それは、明確な託送料金原則に基づき、「独立した」専門家(法66条の4)が算定可能な、専門技術的部分に限定されなければならない。専門家が判断できない、政治的な判断を要することは、経済産業大臣の権限を超えることとなる。

それは、託送料金は、小売電気事業者、ひいては、需要家の権利義務に直接影響を及ぼすものであるにもかかわらず、その算定については、国会審議を経る必要がなく、経済産業大臣に一定の権限が許されているものであるからである(2024年10月30日八田達夫意見書・甲46・23頁から24頁)。

確かに、国の電力行政が、全体としてみれば、「送電に関する公益的課題」を超えて、ユニバーサルサービスの達成、安定供給の維持、エネルギーセキュリティーの確保、地球環境の保全といった公益的な課題に、対応しなければならないことはある。

しかし、これらは「電力行政一般が実現すべき公益的課題」の問題である。「送電における公益的課題」の問題と、「電力行政一般が実現すべき公益的課題」の問題は、混同してはならない(2024年10月30日八田達夫意見書・甲46・23頁)。

「電力行政一般が実現すべき公益的課題」については、国会というオープンな場で議論されて法律として決定されるが故に、透明性と民主性は確保され、憲法41条にも整合することになる。

他方、国民の権利義務に関することである以上、託送料金の算定について経済産業大臣に一定の権限が許されるのは、「送電における公益的課題」の範囲内で、明確な託送料金原則に基づき、専門的判断を行うために、「法律、経済、金融又は工学に関して専門的な知識と経験を有し、その職務に関し公正かつ中立な判断をすることができる者のうちから」選ばれた者(法66条の7)からなる、電力ガス取引監視等委員会という「独立した」専門家(法66条の4)がチェックを行うからである。

そうすると、そうした専門家の判断を超え、政治的な判断が要求されることについては、経済産業大臣の権限を超えることになる。

平成11年報告では安易に競争を制限する料金が導入されることを防ぐため、二つの原則が明示されている。その原則からすれば、安易に競争を制限する料金が導入されることは、「送電に関する公益的課題」を超えて、明確な料金算定基準以外の政治的な要因を導入する場合に該当し、専門家の判断を超え、政治的な判断が要求される場合となる。

したがって、「送電に関する公益的課題」を超えて、明確な料金算定基準以外の政治的な要因を導入する場合には、国会での政治的議論に基づいた法律に依拠せねばならない。

エネルギーセキュリティーに関して電源開発促進税が導入されている。これは、税として国会審議によって決められたものであり、託送料金の算定に係る問題ではない。

また地球環境の保全のために導入された再エネ特措法の賦課金も、託送料金として取られているものではない。

さらに、離島等供給も、国会での審議を経て法律で定められたものである。なお、離島等供給は、第一原則には違反していたが、第二原則「事業者間公平の原則」には違反しておらず、発電事業者間の平等性には反していない。

(以上、2024年10月30日八田達夫意見書・甲46・23頁から24頁の「(3)」、同24頁から25頁の「(4)」)

以上の通り、専門技術的検討を超える、政治的判断をすることは、託送料金の算定にあたって経済産業大臣に与えられた権限を超えることになり、この観点からも、「一般送配電事業を行うために必要な原価」ではなくても、「電気の全需要家が公平に負担すべき電気事業に係る公益的課題に要する費用」を、法律改正なく「原価」に含ませることができるという法解釈は誤りであるということになる。

 

2 会計原則との関係

また、会計原則との関係でも、「一般送配電事業を行うために必要な原価」ではなくても、「電気の全需要家が公平に負担すべき電気事業に係る公益的課題に要する費用」を、法律改正なく「原価」に含ませることができるという法解釈は、誤りがある。

この点、被控訴人は、第一に、「一般的に事業の内容を問わず広く製造業・サービス業を対象とするもので、実際の企業の慣行により、一般的に公正妥当と認められるものを要約したところのものであり、これ自体が法律上定められているわけではない。」(被控訴人控訴第1準備書面27頁から28頁)として、あたかも、原価計算基準などの法的拘束力を否定するかのような主張をするが、誤りである。

原価計算基準は、その経緯から、英米法的な慣習法としての効力を持つものとして、企業における原価計算の慣行のうちから一般に公正妥当と認められるところを要約して設定されたものであり、原価計算を制度化したものである。そのため、原価計算基準は慣習法として位置づけられ、旧商法32条にいう「公正なる会計慣行」として適用されることになる(甲42・37~38頁)。

現行の会社法431条においても「株式会社の会計は、一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従うものとする」と規定されており、企業における会計は原価計算基準に従うべき法的義務を負うことになる。

さらに、被控訴人は、第二に、「法18条1項3号の「適正な原価」は、(中略)経済産業大臣が託送契約等約款を認可(中略)における料金を算定するための要素として法律上規定されたものであって、行政庁が、特定の事業の特定の契約を審査するに当たっての法律上の規範概念であり、原価計算基準とはその意義や目的が全く異なり、同一視されるべきものではない。」(被控訴人控訴第1準備書面28頁)と主張する。

しかし、「一般送配電事業託送供給等約款料金算定規則」では第1条で「電気事業会計規則」に依拠することが明記されており 、「電気事業会計規則」では第1条で「一般に公正妥当であると認められる会計の原則によって会計を整理すべき」と規定されている(「鑑定意見書」に対する国(経済産業省)側の反論(国側7月31日準備書面)に対する疑問と反論・甲47号証5頁から6頁)。

原価計算の面での「一般に公正妥当であると認められる会計の原則」とは、「原価計算基準」である(甲47号証6頁)。したがって、被控訴人が定めた省令からしても、原価計算基準を無視するのは誤りである。

その上、被控訴人は、第三に、「託送供給等約款の内容細目について、(中略)その内容が経済産業大臣の広い裁量判断に委ねられていることは文理上明らかである。」とした上で、「「適正な原価」は、一般送配電事業者の固有コストに含まれるものはもとより、必ずしも固有のコストに含まれないものであっても、それが電気事業に係る「公益的課題に要する費用」に当たるのであれば、「適正な原価」に含まれることは明らかである。」としている。

しかし、一般送配電事業の固有のコストではないもの(本件の場合の賠償負担金(相当金)及び廃炉円滑化負担金(相当金)は、原子力発電事業者の費用である)を、一般送配電事業の原価とすることは、会計原則の根幹を揺るがすことである。

賠償負担金及び廃炉円滑化負担金は、一般送配電事業者によって、小売電気事業者などの託送供給の相手方から徴収され、そのまま、原子力発電事業者に払い渡されるものだから、本来、賠償負担金及び廃炉円滑化負担金は、預り金として入金し、預り金の払い出しとして、原子力発電事業者に払い渡されるとするのが相当である。その場合、賠償負担金及び廃炉円滑化負担金は、売上(収益)にも経費(費用)にもならないので、損益計算書上には計上されない。

ところが、賠償負担金及び廃炉円滑化負担金についての本件算定規則4条2項は、賠償負担金及び廃炉円滑化負担金という、原子力発電事業者の費用を、一般送配電事業の「原価」として整理することを求めるものである。より具体的には、一般送配電事業者の「営業費」として、賠償負担金及び廃炉円滑化負担金を算定することを求める。そうである以上、一般送配電事業者は、賠償負担金及び廃炉円滑化負担金を、会計上、「原価」または営業費として整理するほかなくなる。そうなると、一般送配電事業の、売上でもない託送供給の相手方からの「賠償負担金相当金又は廃炉円滑化負担金相当金」分の入金を「託送料収益」として「収益」に計上し、経費(費用)でもない「賠償負担金(相当金)や廃炉円滑化負担金(相当金)」を経費(費用)として計上することとなり、それに沿って、損益計算書その他の計算書類が作成されることとなる(甲48・九州電力送配電株式会社・第5期決算公告・損益計算書)。現に、九州電力送配電株式会社・第5期決算公告・損益計算書(甲48)では、「賠償負担金(相当金)や廃炉円滑化負担金(相当金)」が、「営業費用」の中の「電気事業営業費用」として計上されている。他方、託送供給の相手方からの「賠償負担金相当金又は廃炉円滑化負担金相当金」分の入金は、「営業収益」の中の「電気事業営業収益」の中の「託送料収益」に含まれている(甲48・九州電力送配電株式会社・第5期決算公告の「損益計算書」)。

以上の通り、今回の省令改正によって、本来なされるべき会計と全く異なる会計が、賠償負担金及び廃炉円滑化負担金について、なされることとなる。

会計原則は、その事業の原価が何かを公開し、需要家・株主その他の関係者が識別可能な状態にし、公正さを保つためのものである。とりわけ、電気事業の企業会計は、企業の正確な財務状況を表示し、株式市場・債券市場・労働市場・電力市場などの参加者をはじめ、電力消費者や地域住民といったさまざまな利害関係者に、意思決定をおこなうための基礎情報を提供するものである。

ところが、前述の通り、賠償負担金及び廃炉円滑化負担金のような原子力発電事業者の費用を、一般送配電事業の「原価」ということにすると、原子力発電事業者の費用が、一般送配電事業者の費用として、決算書類上整理されてしまうことになる。これでは、有価証券報告書その他の計算書類(会計書類)に期待される機能は果たせなくなる。

そもそも、財務諸表等規則は、「一般に公正妥当であると認められるところに従つて」、作成されなければならず(金融商品取引法193条)、一般送配電事業託送供給等約款料金算定規則が依拠する電気会計規則も「一般に公正妥当であると認められる会計の原則によって会計を整理すべき」としており、一般送配電事業託送供給等約款料金算定規則も、「一般に公正妥当であると認められる会計の原則」から逸脱することはできない。仮に、一般送配電事業託送供給等約款料金算定規則が「一般に公正妥当であると認められる会計の原則」から逸脱することを規定したとしてもそれは効力を有しない。

賠償負担金及び廃炉円滑化負担金のような原子力発電事業者の費用を、一般送配電事業の「原価」、あるいは「営業費」として整理することが、「一般に公正妥当であると認められるところ」(金融商品取引法193条)及び「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行」(会社法431条)に従っていると評価できる理由が見当たらない。

会計原則との関係でも、「一般送配電事業を行うために必要な原価」ではなくても、「電気の全需要家が公平に負担すべき電気事業に係る公益的課題に要する費用」を、法律改正なく「原価」に含ませることができるという法解釈は、誤りである。

 

 

第5 賠償負担金も廃炉円滑化負担金も、電気の全需要家が公平に負担すべき電気事業に係る公益的課題に要する費用ですらないこと

1 原判決の判示

原判決は、

 

「① 賠償負担金は、原子力発電事業者の運用する原子力発電工作物及び廃止した原子力発電工作物に係る原子力損害(原子力損害の賠償に関する法律2条2項に規定する原子力損害及びこれに相当するものをいう。)の賠償のために備えておくべきた資金であって、旧原子力発電事業者が平成23年3月31日以前に原価として算定することができなかったものであり(本件施行規則45条の21の3第1項)、内閣が閣議決定した「原子力災害からの福島復興の加速のための基本方針」(乙39)において、国民全体で福島を支える観点から、福島第一原子力発電所の事故前には確保されていなかった分の賠償の備えについてのみ、広く需要家全体の負担とし、そのために必要な託送料金の見直し等の制度整備を行うとして、本来納付されておくべきであった過去(原子炉運転当初から)の原子力損害の賠償への備えの不足分の費用(約3.8兆円から令和元年度分までの推定類型(原判決ママ・正しくは、累計)納付額約1.3兆円を控除した約2.4兆円)について、需要家への負担を求めるために40年度程度にわたって回収していくものである(前提事実1⑶ア参照)。このような賠償負担金は、原子力発電という国のエネルギー・電気事業政策を進める上で、原子力の損害賠償に対処するために必要な費用であり、過去に安価な原子力発電による電気を等しく利用してきたにもかかわらず、原子力発電事業者から契約を切り替えた需要家は負担せず、引き続き原子力発電事業者から電気の供給を受ける需要家のみが全てを負担することは、需要家間の公平性の観点から適当ではなく、こうした需要家間の格差を解消し、公平性を確保するためには、全需要家が等しく受益していた過去分について、託送料金を通じて、原子力発電の利益を受けた全ての需要家から公平に回収すること適当である旨の専門家の意見(貫徹小委員会中間とりまとめ)を踏まえ(前提事実1⑷ア(ウ))、国会審議においても、託送料金によって賠償負担金相当金を回収することの必要性等につき議論がされた上で、本件算定規則4条2項の改正により導入されたものである。

また、② 廃炉円滑化負担金は、特定原子力発電事業者が受けた所定の承認に係る原子力発電工作物の廃止を円滑に実施するために必要な資金であり(本件施行規則45条の21の6第1項)、平成26年の小売全面自由化以前から、原発依存度の低減という国のエネルギー政策における基本方針の中、原子力発電事業者が会計上の理由から廃炉判断を躊躇することや廃炉の円滑な実施に支障を来すことがないよう措置された廃炉会計制度を継続するためのものである(前提事実1⑶イ)。このような廃炉円滑化負担金は、廃炉会計制度が、原発依存度の低減という国のエネルギー政策に沿って措置されたものであり、小売全面自由化においてもその政策に変わりがないことから、制度を継続することが適当であり、そのために必要となる着実な費用回収の仕組みについては、小売全面自由化の下でも原発依存度低減や廃炉の円滑な実施等のエネルギー政策の目的を達成するために例外的な措置として、規制料金として残る託送料金の仕組みを利用することが妥当である旨の専門家の意見(貫徹小委員会中間とりまとめ)も踏まえ(前提事実1⑷ア(ウ)参照)、国会においても、託送料金によって廃炉円滑化負担金(相当金)を回収することの必要性等につき議論された上で(前提事実1⑷ア(エ))、本件算定規則4条2項の改正により導入されたものである(前提事実1⑷イ参照)。

以上に加え、国の電気・エネルギー事業に係る政策と密接に関わる①原子力損害の賠償への備えや②廃炉会計制度の継続に必要な費用の回収の在り方及びその仕組みの構築は、その性質上、専門技術的・政策的な領域に属するものであることを踏まえると、賠償負担金(賠償負担金相当金)及び廃炉円滑化負担金(廃炉円滑化負担金相当金)は、電気の全需要家が公平に負担すべき電気事業に係る公益的課題に要する費用であるといえ」(原判決12頁から14頁)

 

と判示している。

 

2 賠償負担金及び廃炉円滑化負担金が、「本件算定規則4条2項の改正により導入された」との認定が誤りであること

しかし、第一に、賠償負担金及び廃炉円滑化負担金が、「本件算定規則4条2項の改正により導入された」との認定が誤りである。

賠償負担金(賠償負担金相当金)及び廃炉円滑化負担金(廃炉円滑化負担金相当金)は、それ自体は、会計学において通常用いられない概念である上、算定規則には初めて記載されたもので、かつ、本件施行規則までは法令に規定されたことがないので、本件算定規則において規定しただけでは、どんな費用なのか・何に使うお金なのかも、また、どのように算定するかも不明なものである。そのように実体が不明なものを算定規則に記述したとしても、「導入した」ことにはならない。

そもそも、賠償負担金(賠償負担金相当金)及び廃炉円滑化負担金(廃炉円滑化負担金相当金)を定義し、その具体的な金額を算定・決定する方法を定め、誰がどのように徴収し、誰に渡すのかを定めているのは、本件施行規則45条の21の2~45条の21の7である。本件施行規則45条の21の2~45条の21の7がなければ、賠償負担金(賠償負担金相当金)及び廃炉円滑化負担金(廃炉円滑化負担金相当金)の定義も、具体的な金額を算定・決定する方法も、誰がどのように徴収し、誰に渡すのかも不明である。したがって、賠償負担金及び廃炉円滑化負担金が、「本件算定規則4条2項の改正により導入された」との判断は、誤りである。

 

3 廃炉円滑化負担金について

(1)原判決では、電気の全需要家が公平に負担すべき電気事業に係る公益的課題に要する費用であることすらも認定されていないこと

廃炉円滑化負担金については、原判決において、そもそも、廃炉円滑化負担金も、電気の全需要家が公平に負担すべき電気事業に係る公益的課題に要する費用である理由すら述べられていない。

そこに記載されているのは、「廃炉円滑化負担金は、(中略)平成26年の小売全面自由化以前から、原発依存度の低減という国のエネルギー政策における基本方針の中、原子力発電事業者が会計上の理由から廃炉判断を躊躇することや廃炉の円滑な実施に支障を来すことがないよう措置された廃炉会計制度を継続するためのもので、(中略)廃炉会計制度が、原発依存度の低減という国のエネルギー政策に沿って措置されたものであり、小売全面自由化においてもその政策に変わりがないことから、制度を継続することが適当であり、そのために必要となる着実な費用回収の仕組みについては、小売全面自由化の下でも原発依存度低減や廃炉の円滑な実施等のエネルギー政策の目的を達成するために例外的な措置として、規制料金として残る託送料金の仕組みを利用することが妥当である旨の専門家の意見」があるということだけである。

廃炉円滑化負担金が、「電気の全需要家が公平に負担すべき電気事業に係る公益的課題に要する費用」であることすら、理由が示されていないのである。

(2)発電工作物を廃止することは、発電事業者の基本的な業務で、費用は発電事業者が負担すべきものであること

そもそも、廃炉円滑化負担金は、「特定原子力発電事業者が受けた所定の承認に係る原子力発電工作物の廃止を円滑に実施するために必要な資金」とされている。

原子力発電工作物は、原子力発電事業者が事業を営むための本来的、基礎的な事業工作物である。その設置は、原子力発電事業者が当然負担すべきものであるのと同様に、原子力発電工作物の廃止に要する費用も、原子力発電事業者が当然負担すべきものである。発電事業者は、事業を営むためには、必ず発電工作物を所有運営しており、その廃止も発電事業者が自らの責任と負担で行う。

廃炉円滑化負担金は、原子力発電事業者の費用に他ならない。

(3)政治的判断事項、「送電に関する公益的課題」とは無関係

しかも、「原子力発電事業者が会計上の理由から廃炉判断を躊躇することや廃炉の円滑な実施に支障を来すことがないよう措置された廃炉会計制度を継続する」ことも、「廃炉会計制度が、原発依存度の低減という国のエネルギー政策に沿って措置されたものであり、小売全面自由化においてもその政策に変わりがないことから、制度を継続する」であることも、「小売全面自由化の下でも原発依存度低減や廃炉の円滑な実施等のエネルギー政策の目的を達成する」ことも、政治的判断にかかる事項で、かつ、電力行政一般が実現すべき公益的課題である。「送電に関する公益的課題」とは関係がない。

「送電における公益的課題」の問題と、「電力行政一般が実現すべき公益的課題」の問題は、混同してはならない(2024年10月30日八田達夫意見書・甲46・23頁)し、前述した通り、政治的判断にかかる事項は、経済産業大臣の権限の範囲外である。

(4)電力自由化のもとでは、廃炉円滑化負担金のような発電事業者の費用は、発電事業者が負担すべきこと

電力自由化のもとでは、発電事業者の費用は、発電事業者が負担することが、平成11年報告の第二原則及び八田意見書のいう「電源費用自己負担の原則」(原則A)から導き出される。電力自由化を実現するためには、競争が公平である必要があり、そのためには、発電事業者に自社費用を全て自社で負担させなければならず、「発電費用自己負担の原則」が決定的に重要である。この原則の下でこそ、自社の費用を下げようとする動機が働くからである(2024年10月30日八田達夫意見書・甲46・19頁)。

そうすると、発電事業者の費用である、廃炉資金(廃炉円滑化負担金)を、需要家に負担させることはできないことになる。

(5)小括

以上の通り、本来、廃炉円滑化負担金は、発電工作物を廃止することであり、発電事業者の基本的な業務を実行することであるので、費用は発電事業者が負担すべきものである上、その目的とされているところも、政治的課題で「電力行政一般が実現すべき公益的課題」であり、「送電に関する公益的課題」とは関係がない。電力自由化のもとでは、廃炉円滑化負担金のような発電事業者の費用は、発電事業者が負担すべきで、そうしないと、競争の公平さが保てず、自社の費用を下げようとする動機が働かず、効率化により電力料金を下げるという、電力自由化の目的が達成できない。

原判決は、廃炉円滑化負担金が「電気の全需要家が公平に負担すべき電気事業に係る公益的課題に要する費用」である理由を示すことすらしておらず、廃炉円滑化負担金について、託送料金の原価として徴収することができるとする法的根拠は全く存在しない。

 

4 賠償負担金は、そもそも、需要家が負担すべきものではないこと

(1)一事業者が起こした事故の賠償金は、当該事業者が負担すべきこと

「賠償負担金」は、原子力損害の賠償のために備えておくべきであった資金であって、旧原子力発電事業者が平成23年3月31日以前に原価として算定することができなかったもの(規則45条の21の3第1項)とされている。

しかし、そもそも、この賠償負担金は、毎日新聞2017年2月3日記事・<論点>原発賠償・廃炉費の転嫁(甲第20号証)において、明らかになっている通り、福島第一原発事故の賠償費が膨らんだ中で、その不足分2.5兆円を穴埋めするために負担を求められたものであり、福島第一原発事故の損害賠償金に充てられるお金である。したがって、本来、事故を起こした原子力(発電)事業者が負担すべきものである。

実際、賠償負担金として、原子力発電事業者に渡された金員は、そのまま、原子力損害賠償・廃炉等支援機構に渡され(原子力損害賠償・廃炉等支援機構法38条)、福島第一原発事故の損害賠償に充てる資金に使用されている(原子力損害賠償・廃炉等支援機構法41条)。

また、被控訴人の経済産業省自体、平成29年における国会での質疑で、賠償負担金は、福島第一原発事故の損害賠償に充てる資金に使用されるとしている。平成29年4月5日の衆議院経済産業委員会で、経済産業大臣は、「福島の復興のため、福島の皆さんに必要な賠償金を支払う原資である」(平成29年4月5日衆議院経済産業委員会議事録39頁・甲第21号証)と答弁し、平成29年4月25日の参議院経済産業委員会でも、経済産業大臣は、「過去分の2.4兆円はこれ何らかの形で措置しなければいけない、そうでないと福島の皆さんへの賠償を貫徹ができない」(平成29年4月25日参議院経済産業委員会議事録29頁・甲第22号証)と答弁している。

原発事故の損害賠償責任は、その本質は、不法行為に基づく損害賠償であるとされている。不法行為に基づく損害賠償は、被害救済機能と並んで、事故の再発防止機能もある。事故の再発防止機能という観点からみた場合、事故を起こした原子力発電事業者及びその事業に関係した者がその責任を十分に問われることが重要である。その責任を曖昧にすることはモラル・ハザードとなる上、事故の再発防止機能を大きく阻害する。

まして、その事故を起こした原子力発電事業者の発電する電気の需要家であったことすらない、全国の人々に、損害賠償資金の捻出をさせることは、民事法上は全く根拠のない話である上、事故の原因者に事故防止のインセンティブを与えなくなることになるという多大な経済的非効率を生む(2024年10月30日八田達夫意見書・甲46・13頁)。

一事業者が起こした事故の賠償金は、当該事業者が負担すべきものであって、「需要家」に負担させることを正当化する根拠は存在しない。

なお、「外部不経済によって生じる損害は、発生者に負担させる」原則は、事故防止投資の促進などの観点から効率的であることによる。この原則は、原子力損害賠償法が制定された1961年の6年後に制定された公害対策基本法(法律昭和42年第132号)において規定され(公害対策基本法第22条)、経済協力開発機構(OECD)が1972年に提唱した、汚染者負担の原則(Polluter-Pays Principle)にも合致するものである(大島意見書(甲31の1・8p)および2024年10月30日八田意見書(甲46・14p))。なお、この原則は、公害問題における、外部費用の内部化を、法原則にまで高めたものと言える。その後、環境基本法では、汚染者負担原則は、37条において、原因者負担として承継されている。

(2)原子力損害賠償法の定めからみると、需要家に賠償負担を課すことは認められていないこと

また、原子力損害賠償法の定めからしても、需要家に賠償負担を課すことは認められていないことがわかる。

原子力損害賠償法は、「原子炉の運転等の際、当該原子炉の運転等により原子力損害を与えたときは、当該原子炉の運転等に係る原子力事業者がその損害を賠償する責めに任ずる。」と定めている(同法3条1)。

その点は、2023年9月1日八田意見書の「原発事故の損害は発電者に負担させるべきということになる。」との意見(甲23の1・10頁)及び、同意見書の、福島第一原発事故の損害賠償については「東京電力が、資産を売却してでも支払う。払えなかったら、東京電力には法的整理を行う。その上で、賠償を含めて全ての債務から自由になった後、かつての日本航空のように一旦国有化して、再出発」すべきとの意見(甲23の1・11頁)とも一致している。原子力損害賠償法のこの定めは、事故の賠償金は、事故を起こした当事者が負担するということが、外部不経済によって生じる損害を、発生者に負担させることになり、事故防止投資の促進などの観点から効率的である(外部費用の内部化)(甲23の1・10頁)という点とも一致しているのである。

この事故などの外部不経済の内部化は、汚染者負担の原則(Polluter-Pays Principle)として、法原則にまで高められており、公害対策基本法第22条などに明記されたことは前述の通りである。

さらに、原子力損害賠償法は、その損害賠償に充てるために、賠償措置を講じることを要求しており(6条)、その賠償措置を講じなければ、「原子力事業者は、原子炉の運転等をしてはならない。」(原子力損害賠償法6条)と規定している。

国が、損害賠償のために必要な措置を、事業者に取らせることとしているのである。

以上の原子力損害賠償法の定めからすれば、原子力損害が発生した場合に、その責任を負うのは、原子力(発電)事業者である。

他方、原子力損害賠償法は、その4条において、「前条の場合においては、同条の規定により損害を賠償する責めに任ずべき原子力事業者以外の者は、その損害を賠償する責めに任じない。」と規定しているのだから、原子力損害賠償法は、原子力損害について、原子力(発電)事業者以外が負担させることを想定していない。素直に条文を読めば、特定の発電事業者の損害賠償金をすべての電力需要家に負担させることは、認められていないということになる。

以上の通り、原子力損害賠償法の定めからすれば、需要家に賠償負担を課すことは認められていない。

被控訴人は、2023年9月1日八田達夫意見書(甲23の1)は、政策論を述べるものだとする(被控訴人控訴第1準備書面22頁以下)。

しかし、上記の通り、2023年9月1日八田達夫意見書(甲23の1)で述べられている内容は、原子力損害賠償法及び公害対策法制(汚染者負担原則)に沿った内容を述べているものであって、政策論ではない。

(3)そもそも不足分が生じないこと

また、別の視点からみると、原子力損害賠償法の規定によれば、いわゆる「不足分」なるもの自体が発生しないことがわかる。

仮に、賠償負担金は、本件施行規則45条の21の3第1項において定義されている通り、「原子力損害賠償法に基づく原子力損害賠償の資金として備えることができなかった「不足分」である」とした場合、原子力損害賠償法の規定からは、そうした「不足分」は発生しないことがわかる。

すなわち、原子力損害賠償法は、原子力(発電)事業者に対し無過失の原子力損害賠償責任を負わせるとともに(原子力損害賠償法3条)、原子力損害を賠償するための措置(損害賠償措置)を講じる義務(同法6条)を負わせて、「原子力事業者は、原子力損害を賠償するための措置(損害賠償措置)を講じていなければ、原子炉の運転等をしてはならない。」と規定している(同法6条)。

以上からすれば、原子力損害賠償法の下では、「原子力損害の賠償のために備えておくべきであった資金」とは、損害賠償措置を意味することとなる。したがって、原子力(発電)事業者は、原子力損害賠償責任保険契約及び原子力損害賠償補償契約を締結し、保険料及び補償料を支払うことによって、「原子力損害の賠償のために備えておくべきであった資金」を支払っていることとなる。

原子力発電事業者は、すべて、国の法律で決めた通り、損害賠償措置をとっていた。

だとすれば、原子力発電事業者は、「原子力損害の賠償のために備えておくべきであった資金」を支払っていることとなり、そもそも「不足分」は発生していないのである。

である以上、経済産業省が本件施行規則45条の21の3第1項において定義する、賠償負担金は存在しないことになり、その点からも、賠償負担金は「電気の全需要家が公平に負担すべき電気事業に係る公益的課題に要する費用」ではないことになる。

 

5 平成29年の国会での質疑応答では、改正法案が国会に出されたわけでなく、国会審議といえるものはなく、かつ、平成11年報告の内容を誤って引用した答弁がなされていること

原判決は、平成29年の国会において審議がなされたとしているので、その点についても検討する。

平成29年の国会での質疑においては、経済産業大臣が「全ての消費者が広く公平に負担すべき費用を託送料金により回収できる、これが電気事業法の解釈であります。その根源は、2000年に電力小売を部分的に自由化したときに、やはりそういった費用が取れなくなっていく可能性があるということで、当時、審議会で議論をしていただいて、託送料金で回収をするというメカニズムを入れていった」といった答弁をしている。

原判決は、この質疑をもって、「国会審議においても、託送料金によって賠償負担金相当金を回収することの必要性等につき議論がされた」(13頁)、「国会においても、託送料金によって廃炉円滑化負担金(相当金)を回収することの必要性等につき議論された」(13頁最後から14頁初めまで)としているようである。

しかし、第一に、平成29年においては、「託送料金によって賠償負担金(相当金)を回収する」あるいは「託送料金によって廃炉円滑化負担金(相当金)を回収する」といった電気事業法その他の法律の改正案が国会にかかったことはなく、そうした法案の審議がされたことはない。これをもって、国会審議と表現することは不正確である。

第二に、そこでは、あたかも、「(平成11年改正のときに)審議会で議論をし、(全ての消費者が広く公平に負担すべき費用を)託送料金で回収をするというメカニズムを入れていった」という事実があるかのように答弁されているが、その答弁は、事実に基づかないものである。すでにみたように、「平成11年報告」では、需要家の負担とは、給電指令及び同時同量などの給電ルールに従うこととされていて、託送料金で、全ての消費者が広く公平に負担すべき費用を回収するなどとは記述されていない。平成11年の電気事業法改正の際の国会審議においてもその点は同様である。

むしろ、すでに指摘した通り、平成11年報告では、託送料金については、「託送コストの公正回収原則」(第一原則)として、「託送料金に含めてコスト回収すべき設備や関連するサービスを具体的かつ明確に特定した上で、そのコストを適正に回収することが必要である。」とされていて、託送コスト=一般送配電費用のみを具体的に特定し、それを適正に回収することが必要であるとされているのである。この原則からは、託送料金の「原価」は、「一般送配電事業を行うために必要な原価」に限定されるべきとなる。

まして、一部の発電事業者の費用を、託送料金に含ませることは、電力自由化が目指す、発電事業者間の競争によって、費用節約のインセンティブを与えるという市場の効率的な資源配分機能を阻害し、託送料金(送電料金)設計原則の屋台骨を危うくすることとなるので、認められる余地がなく、「平成11年報告」の第二原則(事業者間公平の原則)にも反することになる。

原判決は、平成29年の経済産業委員会での経済産業大臣の誤った答弁に引っ張られて誤った結論を導いてしまっているのであって、原判決はその判断の基礎となる重要な事実について、誤解・誤認しているのである。

6 ストランデッドコスト論について

(1)被控訴人の主張

被控訴人は、「小売全面自由化となったことで、それ以降、総括原価方式による料金規制が撤廃されたことに伴い、旧一般電気事業者である原子力発電事業者が、これまで規制料金の下で保証されてきた確実な原価回収が見込めなくなるという新たな課題が生じた。」と主張し(被控訴人控訴第1準備書面14頁)、また、「地域独占・総括原価方式から一気に電力自由化に移行すると、規制料金の下で保証されてきた確実な原価回収が見込めなくなり、競争環境の下で回収することが困難となる費用(ストランデッドコスト)が発生する。そのため、アメリカ(ペンシルバニア州、テキサス州等)、カナダ、スペイン、イタリア等では、電力自由化に際し、適切な競争の促進に向けて、ストランデッドコストの回収のための措置が講じられている。」「小売の全面自由化に伴い、それまで規制料金により全ての需要家から回収可能であった費用が回収困難になることは、ストランデッドコストと同様である。」と主張する(被控訴人控訴第1準備書面19頁)。

(2)ストランデッドコストを持ち出すことが不適切であること

しかし、ストランデッドコストは、電力自由化を進める際に、その国・地域の原子力発電事業者が、電力自由化によって予想される価格低下のために、自社の建設コストを回収できなくなるとして、電力自由化の前提として、その具体的な手当てを要求したものである。その意味で、もともと、建設コストなどの発電の原価とみなされるものを回収する方法についての議論である上に、そうした要求がされた国・地域固有の問題である。

他方、日本では、電力自由化の議論がされていた1990年代半ばから2010年までの間、電力会社は、原子力発電の巨大事故発生のリスクは無視できるほど小さいものであるとしていたため、原子力発電のコストは安いものとし、原子力発電は、電力自由化で優位に立つとして、電力自由化にともなうストランデッドコストはないとしてきた。日本における、電力自由化においては、福島第一原発事故が起きるまでは、「旧一般電気事業者である原子力発電事業者が、これまで規制料金の下で保証されてきた確実な原価回収が見込めなくなるという課題」などが問題とされたことはなかったのである。

経済産業省及び旧一般電気事業者は、福島第一原発事故までは、原子力発電のコストは、安いものとし、原子力発電は、電力自由化で優位に立つとしてきた(現在でも、経済産業省及び旧一般電気事業者は、原子力発電のコストは安いとしている)。経済産業省及び旧一般電気事業者は、2004年の時点では、1kwhあたり5.9円としていた(平成26年5月14日衆議院経済産業委員会における、高橋泰三・資源エネルギー庁電力・ガス事業部長の答弁・乙第58号証の31頁)。従って、日本では、原子力発電事業者には、電力自由化にともなうストランデッドコストはないとしてきた。その立場に立って、電力自由化を進めてきたのである。

そうした発言(及び現在の、経済産業省及び旧一般電気事業者の、原子力発電のコストは安いとする発言)とまったく反する、このような主張は、自己の過去の立場及び現在の発言をまったく無視する、ご都合主義的なもので、主張すること自体、適切ではない。

しかも、ここで問題となっている、賠償負担金や廃炉円滑化負担金は、いずれも、電力自由化によって生じたものではないので、ストランデッドコストではない。賠償負担金は、福島第一原発事故によって生じたものである。廃炉円滑化負担金は、国の規制強化により廃炉に追い込まれたものである。事後的な規制強化による事業廃止は、規制強化をした国が、補償をすべきものである(建築基準法11条参照)。

その上、先述したような過去の経緯を考えると、賠償負担金及び廃炉円滑化負担金を議論する際に、ストランデッドコストを持ち出すのは、適切ではない。

 

7 「過去に安価な原子力発電による電気を等しく利用してきたにもかかわらず、原子力発電事業者から契約を切り替えた需要家は負担せず、引き続き原子力発電事業者から電気の供給を受ける需要家のみが全てを負担することは、需要家間の公平性の観点から適当ではなく、こうした需要家間の格差を解消し、公平性を確保するためには、全需要家が等しく受益していた過去分について、託送料金を通じて、原子力発電の利益を受けた全ての需要家から公平に回収することが適当である旨の専門家の意見(貫徹小委員会中間とりまとめ)」について

(1)電力自由化の下では、電力料金は競争的市場で決定されるので、上記見解が誤りであること

賠償負担金を規定する本件施行規則や本件算定規則の制定の根拠として説明されている「原子力発電事業者から契約を切り替えた需要家は負担せず、引き続き原子力発電事業者から電気の供給を受ける需要家のみが全てを負担する」は誤りである。

このことは、原判決が指摘する上記の「専門家の意見」が、電力自由化の下で需要家が支払う電力料金がどのように決定されるのかを誤解していることに起因するものである。

電力自由化の下では、電力料金は競争的市場で決定される(2023年9月1日八田達夫意見書・甲23の1・12頁)。

したがって、「原子力発電事業者から電気の供給を受けた場合と、原子力発電事業者以外から電気の供給を受けた場合で、電力料金は基本的に同一である。」(2023年9月1日八田達夫意見書・甲23の1・12頁)。

したがって、「原子力発電事業者から契約を切り替えた需要家は負担せず、引き続き原子力発電事業者から電気の供給を受ける需要家のみが全てを負担する」ということにはならない。

(2)被控訴人からの反論

被控訴人は、それに対し、「小売電気事業者は、その日の需要に対応した電力を調達し、安定した電力供給を行うため、相対取引を行うことがあるが、市場環境、取引期間、取引規模等の取引条件が異なる上、各発電事業者において異なる人件費や燃料費等の経費のほか、交渉過程による影響もあると考えられるから、当該日の相対取引ごとに取引価格は異なる。また、上記の取引条件等は、日々異なることが明らかであるから、前日の取引と当該日の相対取引との間でも取引価格は異なる。そうすると、発電事業者から電気の供給を受ける場合の電気料金が、市場価格との比較のみによって決定され、電気の供給先にかかわらず電気料金が基本的に同一になるなどという事態になるとはおよそ考え難い。」「八田意見書は、一定の考えに依拠した上で様々な条件を捨象した場合に理論上想定される状態をいうものにすぎず、実際の社会の実情とは異なるものを前提とするもので、現実的な前提を欠くものであり、これに依拠する控訴人の主張には理由がない。」と主張する(被控訴人控訴第1準備書面20頁から21頁)。

(3)被控訴人の主張は、電力自由化後の価格決定方式は、電力自由化前の価格(料金)決定方式とは全く異なっていることを理解していないこと

しかし、被控訴人の主張は、電力自由化後の価格決定方式は、電力自由化前の価格(料金)決定方式とは全く異なっていることを理解していない。

電力自由化前の価格決定方式である総括原価方式の場合、価格は、その発電をするのに要した原価に基づいて規制によって決定されてきた。その方法だと、電力市場全体の需要が増加したときも、需要が少なくなったときも、電力価格は一定のままとなるので、価格メカニズムを通じた需給調整のメカニズムが働かず、資源の最適配分がされない。

そこで、電力自由化がされることになる。電力が自由化された以降は、電力価格は、卸売電力取引所の競争的市場において決定される。市場で価格が決定されるということは、需要と供給によって価格が決定されることになる。その場合、電力需要が増加する時期には、電力価格が高騰するので、電力消費を抑える効果が働く。他方、電力需要が低い時期には、電力価格が低くなり、コストのかかる電源の発電が縮小されたり、停止されたりする。

また、電力自由化後の電力価格は市場で決まるため、発電会社が高いコストをかけて発電すれば、利潤がその分だけ低くなり、発電コストを引き下げればその分だけ利潤が増大する。このようにして、発電事業者に発電コストを下げるインセンティブが与えられ、競争によって効率化が行われ、発電コストが下がる。

以上の過程を通じて、電力価格の引下げが実現されていく。これが電力自由化の効果である。

その意味では、電力価格が競争的市場において決定されるというのが、電力自由化の要である。

競争的市場を通じて電力価格が決定されることを通じ、①最も低コストの生産技術が選ばれなくなる、②価格が吊り上げられ、そのサービスが効率的な資源配分量に比べて、過少に供給されることとなるという不効率が発生するといった、独占・寡占の不具合をなくし、電力供給を効率化し、電力料金を下げていくのである。

(4)相対取引の価格と競争的市場の価格

では、競争的市場において、相対取引はどのように決定されているのであろうか。

2024年10月30日八田達夫意見書(甲46)に沿って見ていくと以下の通りである。

相対契約間の競争

まず、相対契約は市場において自由に結ばれるため、相対契約同士の競争が生じ、相場が形成される。したがって、特定の電源の発電事業者がその特異なコストに基づいて特別な価格を設定することはできない。コストが高ければ、それはその発電事業者の負担となるため、その分利益は低くなり、コストが低ければ、その分利益は高くなる。

前日市場価格と相対価格の間の裁定

取引所の前日市場に加えて、取引所外で、相対契約が並行して行われるのは、売り手買い手双方が前日市場価格の乱高下に対するヘッジを望むからである。(多くの電力自由化先進国では、ヘッジの大半を先物市場で行っているが、日本のように先物市場がまだ発達していない国では、多くの場合、相対契約によって契約期間中の取引価格を固定し、前日市場の価格変動をヘッジする。)

相対契約をすでに結んでいる需要家は、相対契約で購入した電力の一部を、前日市場に売り戻すこともできるし、追加的に買うこともできる。(このため、長期に確定した価格で契約数量を購入した後、日々の数量調整を前日市場による市場価格による売買でできることになる。)

これは、相対契約の価格と前日市場価格とが裁定で結びついていることを意味する。具体的には、相対契約の価格は、裁定を通じて、「相対契約の相場価格」と等しくなる。「相対契約の相場価格」とは、契約期間中における前日市場価格の期待値と、期間や条件ごとに市場で決まるリスクプレミアムとの和である。仮に特定の電源の相対契約の価格が相対契約の相場価格と比べて低ければ、需要家はその相対契約において自社が必要とする以上に購入し、大量に発生する余剰分を前日市場に売り渡して利潤を得ることができる。したがってそのような電源の相対契約の需要量は増えるので相対価格は上がり、相場の水準で均衡する。一方、電源コストが高いからという理由で、相場より高い相対価格がつけられている場合には、需要家は他の安い相対価格の契約に乗り移るから、結局は高い発電コストであるにもかかわらず、この電源の相対契約の価格は下落し、相場水準に落ち着く。このような形で相対価格と前日市場価格の間では裁定が行われ、前日市場価格を通じて全ての相対契約が(リスクプレミアムに影響を与える期間や条件ごとに)基本的には同一の価格となる。

2つの発電事業者の原価が異なるためにこれらの発電事業者が結ぶ相対契約の価格が異なることはない。

電力自由化は、卸売電力価格を競争的市場で決定し、発電コストを下げるインセンティブを発電事業者に与え、競争によって発電コストを下げることによって、可能な限りの電力料金の引下げを実現するものである。

そうした制度の趣旨から、相対契約価格を含む卸電力価格の体系は、前日市場価格と裁定を通じて結びつけられているため、リスクプレミアムに影響を与える期間や条件を超えて、特定の電源の相対契約価格のみが相場価格と乖離すると言うことはあり得ない。

(5)価格が同一でも、原子力発電事業者から電気の供給を受ける需要家とそれ以外から電気の供給を受ける需要家の間に負担の公平性が保てないことになることに変わりがないとの主張の誤り

被控訴人は、「原子力発電事業者から電気の供給を受けた場合と、原子力発電事業者以外から電気の供給を受けた場合とで、電力自由化後の電気料金が同一となるようなことがあったとしても、(中略)賠償負担金及び廃炉円滑化負担金を託送回収しないこととすると、原子力発電事業者は、託送回収の有無にかかわらず賠償負担金及び廃炉円滑化負担金を回収する必要があることから、必然的に電気料金の中にこれらを算入せざるを得ず、(中略)原子力発電事業者以外から電気の供給を受けた場合は電気料金の内訳に上記賠償負担金及び廃炉円滑化負担金が含まれないことになるため、原子力発電事業者から電気の供給を受ける需要家とそれ以外から電気の供給を受ける需要家の間に負担の公平性が保てないことになることに変わりがない。控訴人の(中略)主張は、最終的な電気料金の額のみを問題とし、その内訳について検討されていない点において明らかな誤りがある。」とも主張する(被控訴人控訴第1準備書面21頁から22頁)。

その点、2024年10月30日八田達夫意見書(甲46)に沿ってみていくと以下の通りである。

第一に、電力自由化後は、発電事業者に生じたコストはその発電事業者自身が負担することとなる(平成11年報告の第二原則)ので、発電事業者は、第三者に発電コストを転嫁することはできない。第三者に発電コストを転嫁することができるとすると、発電事業者間の競争がうまくできなくなる。

その意味で、そもそも、卸売電気料金の中に、賠償負担金及び廃炉円滑化負担金を算入することはできない。

他方、需要家は全て同じ電気料金を支払う以上、「原子力発電事業者から電気の供給を受けた需要家と、原子力発電事業者以外から電気の供給を受けた需要家」の負担は、同じである。負担が同じである以上、「負担の公平性が保てない」状況は生じない。

第二に、電力自由化後は、競争的市場において、卸売り電力料金は、決定される。総括原価方式とは異なり、「内訳」の積み上げによって価格が決定されるわけではない。電力自由化後は、「内訳」を積み上げた「原価」よりも、卸売電力料金は安くなることもある。現に、春や秋の土日休日には、昼間の時間帯の電力料金は、0円となることも多い。

0円の場合などは、原子力発電事業者から電気の供給を受けた場合であっても、賠償負担金及び廃炉円滑化負担金を支払っていないことは明らかである。価格が市場で決定される以上、「内訳」あるいは「原価」の支払いが確約されているわけではない。

したがって、原子力発電事業者は、「電気料金の中に賠償負担金及び廃炉円滑化負担金を算入する」ことはできない。第三に、電力自由化の下では、需要家は、誰から電気を購入するか自由であるので、仮に負担の不公平があったらそれは需要家自身が他の供給者から購入することによって、直ちに是正できる。

需要家の意思によって、直ちに是正することが可能である以上、「負担の公平性が保てない」状況は生じない。

以上の通り、「電力自由化後の電気料金が同一となるようなことがあった」場合、「原子力発電事業者から電気の供給を受ける需要家とそれ以外から電気の供給を受ける需要家の間に負担の公平性が保てない」状態は存在しない。被控訴人の反論は、この点でも理由がない。

 

8 まとめ

以上みてきた通り、廃炉円滑化負担金については、原判決において、「電気の全需要家が公平に負担すべき電気事業に係る公益的課題に要する費用」であることすら、理由に基づく認定がされていないのである。廃炉円滑化負担金は、「特定原子力発電事業者が受けた所定の承認に係る原子力発電工作物の廃止を円滑に実施するために必要な資金」とされているから、廃炉円滑化負担金は、原子力発電事業者の費用に他ならず、しかも、「原子力発電事業者が会計上の理由から廃炉判断を躊躇することや廃炉の円滑な実施に支障を来すことがないよう措置された廃炉会計制度を継続する」ことも、「小売全面自由化の下でも原発依存度低減や廃炉の円滑な実施等のエネルギー政策の目的を達成する」ことも、政治的判断にかかる事項であって「送電に関する公益的課題」とは関係がない。電力自由化のもとでは、発電事業者の費用は、発電事業者が負担することが、平成11年報告の第二原則及び八田意見書のいう「電源費用自己負担の原則」(原則A)から導き出されるところで、この点は、電力自由化を実現するための競争の公平さを保つために不可欠なことである。したがって、発電事業者の費用である、廃炉資金(廃炉円滑化負担金)を、需要家に負担させることはできないことになる。

また、賠償負担金についても、福島第一原発事故の賠償費が膨らんだ中で、その不足分2.5兆円を穴埋めするために負担を求められたものであり、福島第一原発事故の損害賠償金に充てられるお金である以上、本来、事故を起こした原子力(発電)事業者が負担すべきものである。事故を起こした原子力発電事業者及びその事業に関係した者がその責任を十分に問われないことは、事故の再発防止機能を大きく阻害する。まして、その事故を起こした原子力発電事業者の発電する電気の需要家であったことすらない、全国の人々に、損害賠償資金の捻出をさせることは、民事法上は全く根拠のない話である上、事故の原因者に事故防止のインセンティブを与えなくなることになるという多大な経済的非効率を生む(2024年10月30日八田達夫意見書・甲46・13頁)。それが公害対策基本法第22条に規定され、経済協力開発機構(OECD)が1972年に提唱した、汚染者負担の原則(Polluter-Pays Principle)にも合致する上、原子力損害賠償法は、原子力(発電)事業が責任を負うことを規定し、需要家に賠償負担を課すことを認めていない。仮に、賠償負担金は、本件施行規則45条の21の3第1項において定義されている通り、「原子力損害賠償法に基づく原子力損害賠償の資金として備えることができなかった「不足分」である」とした場合でも、原子力損害賠償法の規定からは、賠償する際に賠償措置を取ることを要求しているので、そうした「不足分」は発生しないこととなり、その点からも、賠償負担金は「電気の全需要家が公平に負担すべき電気事業に係る公益的課題に要する費用」ではないことになる。

また、賠償負担金を規定する本件施行規則や本件算定規則の制定の根拠として説明されている「原子力発電事業者から契約を切り替えた需要家は負担せず、引き続き原子力発電事業者から電気の供給を受ける需要家のみが全てを負担する」は誤りである。それに対し、被控訴人から反論があったが、被控訴人の反論は、電力自由化後の価格決定方式は、電力自由化前の価格(料金)決定方式とは全く異なっていることを理解していない。電力価格が競争的市場において決定されるというのが、電力自由化の要である。それは相対取引の場合にも差がなく、相対価格と前日市場価格の間では裁定が行われ、前日市場価格を通じて全ての相対契約が(リスクプレミアムに影響を与える期間や条件ごとに)基本的には同一の価格となる。

2つの発電事業者の原価が異なるためにこれらの発電事業者が結ぶ相対契約の価格が異なることはない。

さらに、被控訴人は、「電力自由化後の電気料金が同一となるようなことがあった」場合であっても、「賠償負担金及び廃炉円滑化負担金を(中略)電気料金の中に(中略)算入」せざるを得ないので、「原子力発電事業者から電気の供給を受ける需要家とそれ以外から電気の供給を受ける需要家の間に負担の公平性が保てない」と主張するが、これは、負担が同じである以上、「負担の公平性が保てない」状況は生じないという基本的な事項の認識が欠落している上、電力自由化後は、「内訳」を積み上げた「原価」よりも、卸売電力料金は安くなることもあり、現に、春や秋の土日休日には、昼間の時間帯の電力料金は、0円となることも多いので、原子力発電事業者から電気の供給を受けた場合であっても、「内訳」あるいは「原価」の支払いが確約されているわけではなく、賠償負担金及び廃炉円滑化負担金を支払っていないこととなることがあることの認識を欠いている。また、電力自由化の下では、需要家は、誰から電気を購入するか自由であるので、需要家の意思によって、直ちに是正することが可能である以上、「負担の公平性が保てない」状況は生じない。よって、被控訴人の控訴第1準備書面における反論は理由がない。

以上からすると、廃炉円滑化負担金も、賠償負担金も、「電気の全需要家が公平に負担すべき電気事業に係る公益的課題に要する費用」とすら、言えない。

 

 

第6 最後に

本件において、第一に、今回の省令改正は、政府の中の一部の声に基づいてなされたものであり、それまでの政策とも矛盾し、電力自由化の本質を揺るがす重大な事態であるということを確認したい。

今回の省令改正に至る経過をみると、そもそも、託送料金制度を開始するにあたって、通商産業大臣から諮問を受けた電気事業審議会基本政策部会によって取りまとめられ、平成11年1月21日に公表された、電気事業審議会基本政策部会報告(「平成11年報告」)(乙14)は、「第一原則 託送コストの公正回収原則」及び「第二原則 事業者間公平の原則」を提言し、それに基づいて実際の制度設計が進められた。その原則からみて、「託送コスト」に含まれないものを、法律による特別な規定なく、託送料金に加えることなど想定されていなかった。

また、1997年から1999年まで、電気事業審議会の専門委員として、その当時から制度設計の中心にいた八田達夫氏が作成した二つの意見書(2023年9月1日八田達夫意見書・甲23の1、2024年10月30日八田達夫意見書・甲46)において述べている3つの原則(「電源費用自己負担の原則」(「原則A」)、「送電費用による送電料金の算定原則」(「原則B」)、「公益補助一般財源負担原則」(「原則C」)は、電力自由化を進めるにあたっての世界の常識であり、非常に重要な基本原則であり、平成11年報告(乙14)の提言する二つの原則にも沿うものであり、電力自由化を進めるにあたり尊重されてきた。だからこそ、八田達夫氏は、その間の2001年から2010年まで、内閣府 (総合)規制改⾰会議の委員・議⻑代理をつとめ、2004年から2010年までは、経済産業省総合資源エネルギー調査会臨時委員を、2011年から2013年までは、経済産業省電⼒システム改⾰専⾨委員会委員をつとめ、2015年に、電力ガス取引等監視委員会の初代委員長にも就任したのである。そうした八田達夫氏が、「「電源費用自己負担の原則」を含んでいる(中略)第二原則は、電力自由化体制の下で、発電事業者間の競争を担保するために不可欠の原則である。」(甲46・19頁)、「賠償負担金及び廃炉円滑化負担金のいずれも、その負担を発生させた原子力発電事業者のコストである。そのコストを、送電料金(託送料金)に上乗せすることは、平成11年報告がいう、託送料金についての、第一原則「託送コストの公正回収原則」及び第二原則「事業者間公平の原則」に明らかに反する。」(甲46・20頁)、「安易に競争を制限する料金が導入されることを防がねばならない。したがって、「送電に関する公益的課題」を超えて、明確な料金算定基準以外の政治的な要因を導入する場合は、専門家の判断を超え、政治的な判断が要求される場合であるから、国会での政治的議論に基づいた法律に依拠せねばならない。」(甲46・24頁)、「国は、東京電力の大株主である。この負担金制度、特に、賠償負担金制度は、その東京電力の費用を他の新規参入者を含む発電事業者に押し付ける内容である。しかも、これは、電力自由化の制度の根幹を侵食する制度改革である。実際、経済産業省自身定めてきた送電料金の算定原則の中で最重要なものに違反している。経済産業大臣が、国会の審議を経ずに、その権限のみでこのような決定を行う事には、許容される余地がない。「貫徹小委員会における見解を踏まえたと」いうことは、何の弁明にもならない。」(甲46・26頁)、「東京電力が存続している場合には、同業者とその需要家に賠償負担を転嫁することは、「全ての原発事業者から、事故防止の努力や事故損害賠償保険への加入へのインセンティブを奪う」という現象を起こし、結果的に、業界内の企業同士の競争がもたらす効率化の機能を破壊してしまう。」「破綻していない原子力発電事業者が発生させた被害を他の発電事業者にも送電料金を通じて負担させるということは、電力自由化が目指す、発電所間の効率的な競争を妨げるから、送電料金設計原則の屋台骨を危うくする」(甲46・28頁)と述べていることは極めて大きな意味を持つ。

今回の本件施行規則の改正部分(「第2章 電気事業」「第5節の2 賠償負担金の回収等」「第5節の3 廃炉円滑化負担金の回収等」の規定全て、すなわち、本件施行規則45条の21の2から45条の21の7までの規定)及び賠償負担金及び廃炉円滑化負担金についての本件算定規則4条2項の定めは、省令において、送配電に必要とはいえない費用で、一部の発電事業者の費用であるものを、託送料金として徴収することとした。これは、電力自由化の本質を揺るがす重大な事態であり、いままで、政府が進めてきた政策そのものも覆すことになるものである。政府の内部にも重大な矛盾を生じさせている。

八田達夫氏は、「本件においては政治的な圧力によって合理的な政策形成が歪められ、その結果、競争を抑制し非効率をもたらす諸政策が生み出されてきた。それらを、なんとか合理的で適正な政策に転換しようとしている多くの経済産業省官僚がいる。しかし彼らは、立場上、そうは言えない。中立的立場にある私が書いた本意見書は、彼らの声を代弁する役割も果たしていると思う。」と述べている(甲46・35頁)。

裁判所におかれては、是非とも、今回の省令改正が、それまでの政策とも矛盾し、電力自由化の本質を揺るがす重大な事態であり、一部の声に基づいてなされたものであることをご認識いただきたい。

第二に、今回の省令改正は、賠償負担金及び廃炉円滑化負担金という、原子力発電事業者の費用を、一般送配電事業の「原価」として整理することを求めるものである。賠償負担金及び廃炉円滑化負担金についての本件算定規則4条2項は、具体的に、一般送配電事業者の「営業費」として、賠償負担金及び廃炉円滑化負担金を算定することを求める。

賠償負担金及び廃炉円滑化負担金は、一般送配電事業者によって、小売電気事業者などの託送供給の相手方から徴収され、そのまま、原子力発電事業者に払い渡されるものだから、本来、賠償負担金及び廃炉円滑化負担金は、預り金として入金し、預り金の払い出しとして、原子力発電事業者に払い渡されるとするのが相当である。その場合、賠償負担金及び廃炉円滑化負担金は、売上(収益)にも経費(費用)にもならないので、損益計算書上には計上されない。

ところが、賠償負担金及び廃炉円滑化負担金についての本件算定規則4条2項は、賠償負担金及び廃炉円滑化負担金という、原子力発電事業者の費用を、一般送配電事業の「原価」として整理することを求めるものである。より具体的には、一般送配電事業者の「営業費」として、賠償負担金及び廃炉円滑化負担金を算定することを求める。そうである以上、一般送配電事業者は、賠償負担金及び廃炉円滑化負担金を、会計上、「原価」または営業費として整理するほかなくなる。そうなると、一般送配電事業の売上でも収益でもない託送供給の相手方からの「賠償負担金相当金又は廃炉円滑化負担金相当金」分の入金を「託送料収益」として「電気事業営業収益」に計上し、経費(費用)でもない「賠償負担金(相当金)や廃炉円滑化負担金(相当金)」を経費(費用)として計上することとなり、それに沿って、損益計算書その他の計算書類が作成されることとなる(甲48・九州電力送配電株式会社・第5期決算公告・損益計算書)。

以上の通り、今回の省令改正によって、本来なされるべき会計と全く異なる会計が、賠償負担金及び廃炉円滑化負担金について、なされることとなる。

会計原則は、その事業の原価が何かを公開し、需要家・株主その他の関係者が識別可能な状態にし、公正さを保つためのものである。とりわけ、電気事業の企業会計は、企業の正確な財務状況を表示し、株式市場・債券市場・労働市場・電力市場などの参加者をはじめ、電力消費者や地域住民といったさまざまな利害関係者に、意思決定をおこなうための基礎情報を提供するものである。

ところが、賠償負担金及び廃炉円滑化負担金のような原子力発電事業者の費用を、一般送配電事業の「原価」ということにすると、原子力発電事業者の費用が、一般送配電事業者の費用として、決算書類上整理されてしまうことになる。これでは、有価証券報告書その他の計算書類(会計書類)に期待される機能は果たせなくなる。

賠償負担金及び廃炉円滑化負担金を、一般送配電事業の「原価」、あるいは、「営業費」として、整理するべきという、賠償負担金及び廃炉円滑化負担金についての本件算定規則4条2項の規定は、「一般に公正妥当であると認められるところ」に従って、損益計算書その他の計算書類を作成すべきとする金融商品取引法(金融商品取引法193条)の規定及び「株式会社の会計は、一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従うものとする」と規定する会社法431条に反する結果をももたらす。このことは、電気事業の企業会計に期待される機能を大きく損ない、経済のインフラである会計を歪め、会計学の観点からはもちろん、金融商品取引法及び会社法上も容認できない結果をもたらすことになる。

以上のようにとんでもない、しかも、文理上、その解釈上の根拠がない、今回の省令改正は正すべき必要がある。

裁判所におかれては、以上の点をよくご賢察の上、また、八田達夫氏が述べている、「中立的立場にある私が書いた本意見書は、彼らの声を代弁する役割も果たしていると思う。政治から独立している裁判所が、公正なご判断を下さることの意義は、この件については、とりわけ大きいと信じる。」との声を踏まえていただいて、是非とも公正なるご判断を下さるよう願うものである。

 

                                                               以 上

 

 

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