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『App Store以外からもアプリの入手』をどう考える?〜モバイル・エコシステムに関する競争報告書から

モバイル・エコシステムに関する競争報告書(以下引用オレンジ部分は筆者追記)

2023年6月、政府のモバイル・エコシステムに関する競争報告書の最終案が出されました。 

デジタル市場競争会議(議長:内閣官房長官)は、令和5年6月、「モバイル・エコシステムに関する競争評価 最終報告」を取りまとめ、公表しました。目的と手段についてこう総括しています。

  • モバイル・エコシステムにおいて、セキュリティやプライバシーを確保しつつ、競争を通じて、多様な主体によるイノベーションが活性化し、消費者がそれによって生まれる多様なサービスを選択できその恩恵を受けることを目指す。
  • 個々の問題に応じて、「事前規制」と「共同規制」のポリシー・ミックスで対応。

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/digitalmarket/kyosokaigi/dai7/siryou2.pdf

スマートフォンは私たちの社会に急速に普及しました。もはや電話だけでなくパソコン以上の昨日を有していると言えます。日常生活を営む上で必要な様々なサービスを享受できるようになっています。消費者は常時保有し、いつでもどこでもサービスを利用することができ、事業者にとっても強い顧客接点としてこれこれまでにない形で幅広 いユーザーにアクセスできる機会が与えられ、両者にとって多大なるメリットをもたらし、経済社会の基盤となっています。

一方で、スマートフォンを通じて顧客にアクセスする事業者は、OSやアプリストア、ブラウザ等によって設定される仕様や「ルール」等に則ってサービスを提供する必要があリます。モバイル・エコシステムを形成するプラットフォーム事業者は、デジタル空間のありようを決定する上で独占的かつ強い影響力を有しています。

スマートフォンが急速に普及し、90.1%の世帯に普及(2022年)
 1日当たりのインターネット平均利用時間もモバイルネットが平日、休日とも大きな伸び
 平日は、37.6分(2012年)→110.0分と約3倍(2021年)
 休日は、53.7分(2013年)→126.8分と2倍超(2021年)
 モバイル・コンテンツ関連市場も拡大(7.7兆円超、対前年比108%)(2021年)

との結果に現れている通り、この市場は拡大の一途を辿っています。モバイル・エコシステムに関する競争報告書にも公正取引委員会モバイルOS等に関する実態調査 (令和5年2月9日公表)が調査した結果が多く引用されています。

モバイルOSは、iOS(Apple)とAndroid(Google)の寡占状態
「モバイル社会白書2022年版」では最もよく利用するOSのシェアは、Androidが53.4%、iOSが46.6%(2022年)となっています。(注)民間調査会社のモニターへの登録者を対象に、ウェブによるアンケート調査によって稼働台数を基準とするOSのシェアを算定)。日本で利用されるモバイルOSはAndroidとiOSの寡占状態となっており、この傾向に大きな変動は見られていません。モバイルOS等に関する実態調査 (令和5年2月9日公表)も同様な傾向です。

モバイル・エコシステムに関する競争報告書によれば、現在のモバイル・エコシステムを大局的に見た特徴として、
・ エコシステムの主要な各レイヤー(注1)は、少数のプラットフォーム事業者による寡占状態(AndroidとiOS)
・ GoogleはモバイルOS、検索エンジン等の主要プロダクトをサードパーティに広く供給する戦略をとりつつ、各レイヤーで有力な地位

・Appleは端末及びOSをベースに、プリインストールするソフトウェアなどの仕様を基本的に自社で決定するなど垂直統合型の戦略
・プラットフォーム事業者は、各レイヤーでの強みをレバレッジにして、他のレイヤーにおける競争条件を規定する各種ルール等を事実上決定する。 自己が強みを有するレイヤーでの地位を確保又はより強固にしている。一方で、他のレイヤーでの自らのサービスの競争力を強化している。
・少数のプラットフォーム事業者によるレイヤー横断的な行為が複合的、相乗的に作用されることによって、各レイヤーにおける当該プラットフォー ム事業者の有力な地位が強化され、それらが相まって、エコシステム全体における影響力が強化、固定化されるという循環ができている。としています。

各レイヤー及びモバイル・エコシステム全体における様々な競争上の懸念
・モバイル・エコシステムのレイヤー構造とは、:少数のプレイヤーのみ存在するOS、それを基盤として各レイヤー(アプリストア、ブラウザ等)が階層化する構造です
・ネットワーク効果としては魅力的なアプリ等を呼び込むことでユーザーが増加。ユーザーが増加するとエコシステムに参加するアプリ・デベロッパ等がさらに増加する
・スイッチングコストについては、UIデザインへの慣れ、データ移動、アプリ再インストールの手間によりユーザーがロックインされます。(スイッチングが起きにくい)
・規模の経済性開発コストの高さ
・データの蓄積により他の事業者では得られないデータが各レイヤーで収集、利用。各レイヤーの競争力がさらに増加する。
これらの事情から、 高い参入障壁。少数のプラットフォーム事業者による寡占構造となる(以上報告書より)

競争のキモはアプリ開発と普及?

すでにOS市場が2大プラットフォーマーの独占状態の中で、どこに独占弊害防止と消費者保護のポイントがあるのでしょうか。デジタル市場競争会議では、App StoreとGoogle Play、スマートフォンの標準Webブラウザ、さらには標準音声アシスタントがアプリ開発者らに公平な競争機会を与えているかの議論が始まった。とされています。GoogleとAppleでは収益構造に大きな違いがあるとされています。報告でも、

・ GoogleはモバイルOS、検索エンジン等の主要プロダクトをサードパーティに広く供給する戦略をとりつつ、各レイヤーで有力な地位

・Appleは端末及びOSをベースに、プリインストールするソフトウェアなどの仕様を基本的に自社で決定するなど垂直統合型の戦略

とされていますが、Googleは広告料収入等が莫大でありアプリ開発は多少出遅れ感があります。

政府の最終報告書では、Androidにある他社ストアはビジネスとしては収益構造が悪く、2番目に人気のAmazon App Storeの利用者でも利用率は5%で他は1.5%未満と、ほとんど使われていないということで規制法案が通っても現状では消費者の選択権に与える影響少ないと思われます。iPhoneの他社ストアも同様で、「他社がApp Store以上のものを作れるとは考えにくく、実際にはほとんど使う人がいないだろう。」という人もいます。

なぜApp Storeが槍玉?に?

米ボストンの歴史あるコンサルティング会社であるAnalysis Groupがまとめた報告書によると2022年、世界におけるApp Storeの経済効果は1.1兆ドル(約153.7兆円)に上ったという(アプリそのものの売り上げや、アプリ内課金だけでなく、宅配サービスなどの物理サービスの売り上げや広告収入による売り上げも含む)。日本でも、460億ドル(約6.5兆円)。App Storeでは、開発したアプリを世界各国に合計150あるApp Storeを通して海外でも展開できるのも大きな強みで、ゲームクリエイターなど日本を基盤にしながらも、App Storeを通して海外でも成功している人もいるようです。良いアプリを作れば、大きな成功が待っています。しかし、そのためには厳しい審査も通らなければならない。マルウェア(malware:ウイルス(コンピューターウイルス)やワーム、トロイの木馬、スパイウェアなど、ユーザーのデバイスに不利益をもたらす悪意のあるソフトウェア)の開発者だったり、Appleが望む品質を提供できない開発者、実際の中身とは異なる過剰な宣伝文句で売り上げを伸ばそうとしたりするアプリ開発者、あるいは公序良俗に反したアプリでひともうけしたいアプリ開発者だったとすると、自分たちの製品を扱ってくれないApp Storeの審査に対しては強い不満を持っているでしょう。政府が設置したデジタル市場競争会議は非公開の情報も多く、そもそも何がきっかけでこの議論が始まったのか、直接のきっかけは明らかになっていませんが、App Store以外からもアプリの入手を可能にすべきという点がアプリ市場開発の競争市場の見直しへの議論にと進んでいるようです。

アプリ開発・承認問題に独占・寡占による弊害はあるか?

Apple Googleのモバイルマーケット寡占による弊害については、独占禁止法や下請け法的な観点で見ると今後も問題となりそうなB to Bの問題が発生することが予測されます。まさに公正取引委員会が強い監視権を持つ場面です。また、最終報告書にあるように、OS更新時等の対応、WebKitの使用義務化、サードパーティに開放しないハード仕様等、ユーザーの不自由に繋がる部分は改善されることは望ましいことです。

サイドローディングストア需要 

競争活性化案としてのサイドローディングと代替アプリストア(注2)についてはどう考えるべきでしょうか。業界が一番関心を持っているところです。米Appleが欧州連合(EU)域内で施行されるデジタル市場法(DMA)を順守するため、スマホ「iPhone」とタブレット端末「iPad」で他社のアプリストアを容認する方針だと、ブルームバーグ通信ロイター通信が2022年12月13日に報じました。利用者は最終的に、外部の開発者(サードパーティー)が提供するアプリをアップルのアプリストア「App Store」を介さずにダウンロードできるようになる。23年に配布する次期OS「iOS 17」の欧州版でこの変更が施される見通しだということです。

一方で、Appleは、自社決済システムか外部決済システムのいずれかを利用者が選べるようにするか否かについてはまだ結論を出していないようです。利用者が外部決済システムを選べるようになれば、Appleは有料アプリやサブスクリプション(継続課金)、アプリ内有料コンテンツから徴収する販売手数料収入を得られない、もしくは手数料収入が減ることになります。

Appleはこれまで一貫してアプリを正規ストア以外からインストールする「サイドローディング」に反対してきました。同社の主張は「ハッカーやネット詐欺師がマルウエア(悪意にあるプログラム)をiPhoneにインストールさせることを許してしまう」というもので、セキュリティとプライバシーのリスクが生じると懸念を示してきたものです。そのため現在は、サイドローディングされるアプリに対しても特定のセキュリティー要件を満たすよう義務づけることを検討しているようです。その場合、アプリはアップルの認証を取得する必要があり、その過程で手数料が発生する可能性もあるとブルームバーグは報じています。こうした欧州での流れの中で、日本でも手数料が高すぎる(30%)点やストア支払に関して、外部決済を認めるべきとの意見が出ているわけです。

中間報告によれば、サイドローディングとは「OS 事業者の提供するアプリストア以外のアプリストアやウェブサイトからダウンロードすることの総称」とされています。iPhoneなどアップル製の端末であれば「App Store」、グーグルOSであるAndroidを搭載した端末であれば「Google Play」が正規のアプリストアです。iPhoneではサイドローディングが一切認められていません。Android端末の場合、初期設定でサイドローディングは無効にされています。ユーザーが設定を変更すれば有効にできますが、警告や通知が端末に表示されるようになっています。

中間報告では、アップルやグーグルによるサイドローディングの禁止や抑制によって「アプリやデジタルコンテンツを販売するためにアプリストアを利用する際に徴収される手数料について競争が機能せず、競争水準から乖離(かいり)している可能性がある」などの弊害を列挙し、対応策の1つとしてサイドローディングを許容する義務を挙げました。しかし、「いかなるアプリも無審査で配信することが可能となり、利用者の安全性を担保することは極めて難しくなる」(日本スマートフォンセキュリティ協会)などがセキュリティーの観点から問題視しています。

最終報告では「セキュリティーやプライバシーの専門家、消費者団体関係者にワーキンググループに参画してもらう」などして、セキュリティーやプライバシーを確保しつつ、公正・公平な競争環境を実現する方策を探った」とされています。最終報告では、サイドローディングという言葉を使わない代わりに、iPhoneにおけるApp Store以外のアプリ流通経路について以下の4類型を念頭に検討されました。

  1. アップルによる審査が前提となるApp Storeを通じてダウンロードされる代替アプリストアを通じたアプリ配布
  2. iPhoneにプリインストールされた代替アプリストアを通じたアプリ配布
  3. ブラウザーを使ってダウンロードされる代替アプリストアを通じたアプリ配布
  4. いかなるアプリストアも経由せずブラウザーを経由してアプリ自体をダウンロードする方法によるアプリ配布

 このうち、4については、不正アプリの配信を防止する観点から、アップル側に対応を求めないとされました。4は「野良アプリ」とも呼ばれるものです。最終報告で「サイドローディング」という言葉を使わなかったのは、「サイドローディング」の定義が様々で、4のみを「サイドローディング」と解する場合も多いことが理由としています。最終報告では、セキュリティー、プライバシーが確保された代替アプリストアをユーザーが実効的に利用できるようにすることを義務付ける規律の導入が提言されました。

結局OS提供事業者に丸投げ?

代替アプリストアのセキュリティーやプライバシーをどう確保するのか。それにはOS提供事業者によるアプリストア運営者に対する審査や、OSにおいて施されるセキュリティー対策などの多様な方策、またその組み合わせなどが考えられるため、「措置の具体的な内容は、OS提供事業者が選択できるようにすることが適切である」とされました。その上で、アプリ代替流通経路が実効的には利用できていないと懸念される場合にOS提供事業者のセキュリティーやプライバシー確保のための措置が過度なものとなっていないかなどを規制当局が判断することが提言されました。

2023年2月に公正取引委員会が公表した「モバイルOS等の取引実態に関する消費者向けアンケート調査」

https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2023/feb/230209mobileos.html

によれば、すでにサイドローディングを許容しているAndroidユーザーのうち82.7%がGoogle Playからアプリをダウンロードしたことがある一方で、Amazon Appstoreは5.0%、Samsung Galaxy Storeは1.4%、Huawei AppGalleryは0.8%にとどまる。また、Androidユーザーがダウンロードしたアプリのうち97.4%はGoogle Playからダウンロードしたもので、Amazon Appstore、Samsung Galaxy Store、Huawei AppGalleryからダウンロードしたアプリはそれぞれ1.2%、0.4%、0.8%でした。

「代替アプリストアを使えるようにしてもあまり使われないことがすでに分かっているのに、なぜ代替アプリストアを利用できるようにすれば、アプリストア間で競争が促されるといえるのか。競争が促進されず、ただiPhoneのセキュリティーが低下するだけで終わってしまいかねないことが懸念されます。

自民党も政府と同様のルールづくりを求める文書を公表

自民党政務調査会競争政策調査会は2023年6月14日、「モバイル・エコシステムの健全な発展に向けたルール整備について」

(参考)

https://www.tatsuyaito.com/archives/10347

という文書を公表しました。政府の最終報告と同様、他のアプリストアの参入を許容すること、アップルがセキュリティーやプライバシー確保のために必要な措置をとることを許容すること、行き過ぎた措置ではないか政府が監視すること、そして、「アプリストアを介さず、ウェブサイトから直接ダウンロードするいわゆる『サイドローディング』を認めることは義務付けない」とされました。

政府の最終報告では、欧州や米国などの状況を見極めながら、モバイル・エコシステムにおける公平・公正な競争環境の確保のために必要な法制度を検討することが示されました。

しかし、公平で公正な競争環境と、セキュリティーやプライバシーの確保を両立させるためには、今後、代替アプリストアで具体的にどのような措置を講じなければならないのかをOS提供事業者や代替アプリストア運営者とも調整し、どのような場合に規制当局が介入するのかなどをさらに明確にしていくことが必要です。サイドローディング許可して、野良アプリOKすれば、リスクは高まる。特に、フィッシングでブラウザ経由マルウェアをインストールされたら危険です。

最終報告の前に行われた公正取引委員会などの調査では、セキュリティについての配慮も必要だが、公正取引委員会ではセキュリティ上の安全性は検証できないとしています。

 「モバイル・エコシステムに関する競争評価」の最終報告書では

  1. 他社ストアがiPhoneに最初からインストールされているケース
  2. 他社ストアをApp Store経由でインストールするケース
  3. 他社ストアをWebページから直接インストールするケース
  4. アプリをストアを介さずに直接ダウンロードするケース

 の4つのパターンに対して、検証されています。まず「3」と「4」は論外。何かのきっかけで電話番号や電子メールアドレスが、迷惑メール業者や詐欺グループに見つかってしまって詐欺メッセージを受信した人がいる。こういった詐欺メッセージを通して、iPhoneに常駐して情報を盗むアプリや、サンドボックスという安全のための仕組みの脆弱性を利用して、他のアプリから情報を盗み出すようなアプリが混入する恐れがあります。iOSでは、そういった危険なアプリから身を守るために二重三重の策が施されているので、例えば大事な個人情報にアクセスしようとしたり、勝手にカメラ機能やマイク機能をオンにしてしまったりする前に「このアプリがこんな情報を利用しようとしているが許可するか」と問い合わせるダイアログが出てきます。

「モバイル・エコシステムに関する競争評価」の最終報告書では、他社ストアで配布されるアプリは、ストアを運営する会社が責任を持って審査すればよく、どの会社がストアを運営するかをAppleが審査すれば問題ないとしています。他の会社がストアを運営したとしても、iOSを真剣に学び、Appleと同じレベルの人員やコストをかけてしっかりと審査を行えば、Appleと同等のレベルの安全基準でのアプリ審査は理論上は可能でしょう。アプリ審査についての明確な判断評価基準を作成することが当面の課題であると考えます。

(古賀 真子)

 

注1)エコシステムのレイヤー

スマートフォンのアプリ流通においては、モバイルOS(基本ソフト)を基盤に、まずアプリストアやブラウザーのレイヤーがあり、さらにその上にアプリやWebサービスのレイヤーがあるといった構造になっている。モバイルOSは米Apple(アップル)と米Google(グーグル)が市場をほぼ独占しており、2つのモバイル・エコシステムが形成されている。

 

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