原発費用を託送料金に上乗せするのがなぜ間違っているのか? 電気料金高騰の中で託送料金の不合理性を問う訴訟の判決がいよいよ出されます
託送料金は電気料金の3〜4割を占める電気の製造原価にかかる費用です。高騰への懸念から規制料金であるために監視の下に置かれてきました。電力システム改革でも大きな論点となっていましたが、原発関連費用を託送料金で回収するシステムを最初に決めたのは電力システム改革貫徹のための政策小委員会でした。
2016年9月20日、経済産業省は、「東京電力改革・1F問題委員会(東電委員会)と「電力システム改革貫徹のための政策小委員会」を設置しました。
当時、消費者団体からの反対の声が相次ぎましたが、2020年6月、電気事業法の改正を含む「強靱かつ持続可能な電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律」(以下「エネルギー供給強靱化法」という。)が成立しました。その後、構築小委は、改正法に基づき、各制度の詳細設計を行うため議論を再開し、2021年8月、第二次中間取りまとめ(2021年8月)を行いました。具体的には、改正電気事業法の施行に向け、送配電網の強靱化とコスト効率化を両立する託送料金制度改革(レベニューキャップ制度)や電源投資確保のための長期的な予見可能性を与える制度措置等について更なる検討を行った他、2022年度に施行予定の配電事業制度の詳細設計等について取りまとめがされました。
第二次中間取りまとめを踏まえ、電力・ガス取引監視等委員会においてレベニューキャップ制度の詳細設計が取りまとめられ、本小委員会において報告されたことから、その内容を中心として、「第三次中間取りまとめ」が出されパブコメが募集されました。
2022年に入り、改正電気事業法の施行に向け、送配電網の強靱化とコスト効率化を両立する託送料金制度改革(レベニューキャップ制度)や電源投資確保のための長期的な予見可能性を与える制度措置等について更なる検討を行った他、2022年度に施行予定の配電事業制度の詳細設計等について取りまとめがされました。
第二次中間取りまとめを踏まえ、電力・ガス取引監視等委員会においてレベニューキャップ制度の詳細設計が取りまとめられました。2023年4月からは託送料金はこれまでの総括原価方式からレベニューキャップ制度へ移行されます。
高騰する電気料金を止められるか?
現状、世界的に電気料金の高騰が大きな社会問題となっています。日本でも電気料金の規制料金の値上げが起き、4月には各地での公聴会が予定されています。2023年2月には消費者庁の公共料金等専門調査会での報告書が出されました。
電気料金の制度設計はエネ庁が、電力関連の監視は電力ガス監視等委員会が行なっています。2022年12月末に現政権はGX専門会合などが原発回帰への大きな方向性を出しました。なぜ料金の高騰が止まらないのかには様々な原因がありますが、一方で、託送料金は電気料金の3〜4割を占めるものであり、送配電部門を独占的に所持している旧一般電力会社の託送料金への支配力は電気料金の趨勢に大きな影響があります。
九州を中心に活動するグリーンコープ生活協同組合は、2020年10月15日、この託送料金に原発費用を上乗せる政策を違法として福岡地方裁判所に提起しました。
コンシューマネットもこの訴訟への協力を行ってきました。
この訴訟は9回の口頭弁論を経て、3年越しの裁判となりましたが、いよいよ今月3月22日に判決が下されます。グリーンコープ共同体の東原晃一郎さんの判決前の総括の報告をいただきましたので、3月22日に予定されている集会の案内とともにご紹介します。 (古賀 真子)
日 時 2023年3月22日(木)午後2時~
場所 福岡地方裁判所1階101号法廷
「判決」午後3時50分(予定)
裁判所入り口門周辺にて結果報告
14:00~判決言い渡し
15:50~旗出し
16:00~記者会見兼報告集会
記者会見兼報告集会は弁護士会館401会議室です。
※オンラインでも全国からご参加できます。
ロ会場 弁護士会館4階401会議室
ZOOMのIDとパスコード
https://us06web.zoom.us/j/82743746697
ミーティングID: 827 4374 6697
パスコード: 163873
■グル―ンコープでんき 託送料金裁判の判決(3月22日)を前に
報告者:グリーンコープ共同体(※1) 常務理事 東原晃一郎
2023年3月22日、託送料金訴訟第一審の判決が出されます。
この裁判の経緯(※2)と経過をご報告させていただきます。
■2020年9月に国が「賠償負担金」と「廃炉円滑化負担金」を電線使用料である託送料金に上乗せするとして、九州電力送配電会社の託送供給等約款変更を認可したことの取消しを求める訴訟を、わたしたちグリーンコープは、2020年10月15日、福岡地方裁判所に提起しました。
(1)国によるこの認可は全国の大手電力送配電会社に一斉に行われました。グリーンコープでんきエリア内では他に、関西電力送配電と中国電力送配電も含まれますが、論理的にはすべて同じものですから、訴訟体力を考えて、九州電力送配電に対する認可を対象とする訴訟に絞りました。
(2)原告は小売電気事業者であるグリーンコープでんき、被告は国(管轄庁は経済産業省)です。
■提訴以降、2022年1月13日第1回から2022年11月14日まで9回の弁論期日が開かれ、結審しました。足かけ2年強でした。そして、来る3月22日に判決が言い渡されます。
(1)日本の裁判の現状は、多くが書面の出し合いのみで終わることが多くなっています。私たちは2017年から、弁護団5名・公認会計士1名・東京や静岡で市民運動をおこなう3名の皆さんと検討委員会を40回行い、原案をねり、提出書面をグリーンコープ共同体理事会として検討し、提出するとともに、9回の期日ごとに、スライドを作って法廷で映し出し、弁護団より口頭でその考えを裁判官、相手方の国、傍聴する報道機関、傍聴する組合員に話し続けました。
(2)また、毎回期日終了後に、報道機関向け説明会と、弁護団および傍聴組合員・ウエブ参加組合員による報告集会をもってきました。参加する組合員は共同体や単協の理事会メンバーや地域組合員の皆さんがた。裁判で双方から提出した書面は、グリーンコープのホームページにアップしています(トップのグリーンコープの取り組み⇒託送料金を問う、をクリックすると開きます。ぜひ一度ご覧ください)。
■訴訟の争点は大きく2つ。「原告適格の有無」と「託送料金に2つの負担金を上乗せすることが国(経済産業大臣の命令)の一存でできるのか」です。
(1)国は、「この認可は国が九州電力送配電に対して行ったもの。小売電気事業者であるグリーンコープでんきにはその是非や違法を問える資格はない」と主張しています。
訴訟を議決したグリ―ンコープ総代会(2020年2月12日)
私たちは、「この認可によって、九州電力送配電はグリーンコープでんきに請求する電線使用料としての託送料金に2つの負担金を上乗せすることになった。その影響を現に受けている。したがって、その是非や違法を問う資格がある」と主張しています。
(2)また国は、「そもそも託送料金は、国の判断で、負担金を営業費として含めることができる」と主張しています。私たちは、「こうした負担金が最終電気料金として国民の負担になっている。国民の財産や意思に関わるこれら負担金を、法律に基づかない行政判断(経済産業大臣の命令)=省令で決めるのは違法だ」と主張しています。
(3)2つの負担金とは次のようなものです。「賠償負担金」は2011年3月に起きた東京電力福島第一原発事故の賠償金を、全国の電気利用者に負担させる、とするもの。「廃炉円滑化負担金」は、全国の大手電力が所有する50余基の原発を廃炉する費用として準備できていないお金を、全国の電気利用者に負担させる、とするものです。
■今、3名の裁判官が合議で3月22日に出す判決を鋭意作成されています。
(1)日本は「国民主権」の国です。それを根元に三権分立(立法=国民が選んだ議員が国会で法律をつくる。/行政=法律にもとづいて公務員が大臣の指揮下で公共の仕事をする。/司法=裁判所が国民相互や国民と行政間の争いごとを裁決する。)の統治がされています。すべての根源は「国民主権」、つまり国民の存在と意思にあります。地方も同じです。
(2)三権分立では、行政と司法は独立したものです。ただし、いずれも国の機関であります。だから、司法が行政を負けさせる判断はそう容易には得られません。国を勝たせるのはある意味で簡単です。逆に、国のやったことは違法だと判決するならば、後から、上級審の高裁や最高裁から覆されないように、しっかりとその論拠と判断が構築されたものを書かないといけません。9回の期日をふり返って、今3名の裁判官はその作業をやっていると、私たちは信じています。弁護団の手応えと感触も同じです。
■訴訟の本質として2つの大切に思うことを伝えさせてください。
まず1つは、上にも触れた「国民主権(組合員主権)」とは何かをあらためて考えてみることです。
(1)国民主権は国民の存在と意思から始まるものです。国民の権利・義務に関わることは、その情報が明示されたうえで、国民が選ぶ議員が国会で法律として決めねばならぬものです。それを差し置いて、国民が選ばない行政庁の者がこうしろと決めてはならないものです。
(2)12年前、2011年3月に東京電力福島第一原発事故が起きました。今もなお多くの被害者が苦しみ、がんばっています。それらの損害賠償額も今なお増えつつ、最新時点で12兆5.865億4.100万円(昨年4月東京電力と原子力損害賠償・廃炉等支援機構の公表。除染と中間貯蔵を含む)です。事故の直後、元々その責任を負う東京電力が払えないとなり、原子力事業者の相互扶助として全国の大手電力会社もお金を出すことになり(注:これは法律で決められました。2011年8月第177国会の原子力損害賠償・廃炉等支援機構法です。なお、これも、その額が電気料金に上乗せとなったことを国民のほとんどは知りませんでした)、それでも足りなくなることから、経済産業省の者たちが考えついたのが「賠償負担金」でした。
(3)彼らとて強欲な悪人ではないでしょう。彼らなりに原発事故の被害者にきちんと賠償がされねばならないと考えていると信じます。そして、だからこそ怖ろしいのです。そうしたことを誰が決めるのか。それを間違えて、国のことを考える自分たち役人が決めていくのだとばかりの振舞いです。そして、異論や意見を許しません。行政のこうした増長が本来の主権者を踏みにじった歴史を私たちは知っています。
(4)また、経済産業省の長たる西村大臣に信を置けるのか、と思います。12年前、西村さんは前述の第177国会の場で原子力損害賠償・廃炉等支援機構法の修正案を提出し、その内容で可決に運んだ要員のお一人でした。
提訴する原告団 2020年10月15日
この時、何度も何度も、東京電力の経営者や株主など利害関係者の責任を述べ、同じように原発事業を進めてきたとは言え、全国の大手電力とその電気利用者がこうした負担を課されることに疑問をとなえ、こう述べ続けられました。そして、同法附則6条2項にその旨を明記させもしました。
「……株主初めステークホルダーの皆さんにはさまざまな局面で一定の責任を負っていただくということで、特定事業計画を作るときにも、東電はしっかりと関係者に協力を要請し、機構はそれを確認する、それが十分なものであるかどうかを確認する……さらに、附則の6条第2項で、将来、これは早期にということでありますけれども、賠償額の全体が見えてくる、そうした状況を踏まえながら今回の賠償の費用負担をどうするのかということを検討する……その際に、東電、国、他の電力事業者、我々は他の電力事業者は基本的に負担金は最終的には充てないものというふうに立法者の意思として思っておりますが、プラス株主はじめステークホルダーの方々の責任をどう分かち合ってもらうのかというところを早期に検討する。その際に大事なことは、委員から御指摘のあった国民負担を最小化するということでありますし、同時に、賠償を確実に進めるということであります(7月26日)」
「……これまで一応ほかの電力会社からのお金を一旦使ったとしても、あるいは偉い人(注:政府)がお金を出したとしても、その負担をどう分かち合うかはその時点で判断しましょう、したがって、その車に乗っている同乗者(注:東電の利益関係者)であったり、Tさん自身(注:東電)が財産を持っている、これはもう今の段階からそれは徹底的にTさんには払ってもらいますけれども、あるいは貸している方々(注:金融機関)含めて、その段階で国民負担、つまり被災者も含めて国民の負担が最小になるように最も適切な解をその段階で考えましょうと、今は賠償を優先しようというのが今回の修正案であります(8月1日)」
(5)ご自分が言われたこれらをふり返ってみられると良いです。それと真逆の、しかも、原発事業に関係をもたない新電力事業者とその電気利用者にまで、この負担を課そうとする、さらに、それを法律でもない省令で決めるわけです。それを分かって、今経済産業大臣を務めておられるのであれば、私たちは、行政と立法を媒介する政治の言葉として、そこに信を置くことはできないと思うのです。
■もう1つの大切なこと。この2つの負担金の託送料金への上乗せ認可は、あからさまな原発温存、大手電力優遇の行政行為であると知ることです。これは1つ目と表裏一体です。
(1)昨年(2022年)11月に、会計検査院が国の21年度決算への検査報告を発表しました。その1つに、「賠償負担金が上乗せされた一方で、それまで大手電力会社が負担してきた一般負担金が減額されている。その変更の理由を国民に説明すべき」という指摘がありました。これは、私たちの懸念していたものでした。
「大手電力の収支が大変だ」という理由でしたが、それ以上に多くの新電力の経営は追い詰められています。それは見捨ててよいのでしょうか。とても公平に欠く実態が1つ見えました。
(2)昨年8月以後、あれよという間に「原発依存度を低下させる」とした事故後の政策が、首相の発信と経済産業省の場でくつがえされ、原発の最大限利用、新増設、60年以上の運転を可とする等が決められようとしています。そうした背景に昨今の電力安定供給問題が挙げられました。
60年以上の運転可と言いますが、60年以上の運転をしている原発は世界に1基もありません。
最大の問題だと思うのは、安全性の確保として、事故前には“推進”と“規制(保安)”のどちらもが経済産業省に管轄されていた結果が大事故につながったという大きな反省から、“推進”は経済産業省に、“規制”は原子力規制庁にと分離されたものが、今度60年以上の運転を許可するか否かの判断をまた経済産業省が行うようにする、ということのようです。その問題を物語るかのように、今般のルール変更が委員会等で検討される前に、経済産業省と規制庁の職員の談合が何度も行われていたと報じられました。行政への信はこうした時に揺るぎます。
(3)原発のコストは天井知らずです。「廃炉円滑化負担金」が教える廃炉費用の不足は、30~40年の問題です。最大の問題はその後やってきます。放射性廃棄物、いわゆる核のゴミです。これについて、300~400年の検査と管理、それから10万年の監視が必要とされています。
一方、どこでそれをするかも決まっていません。こうした長い時間の仕事と費用の多くはどこにも誰にも準備されていません。これらが、今般の2つの負担金と同じ理屈とやり方で託送料金にまた上乗せされることはない、とは誰も言えません。私たちは、今般の一事は万事につながると思っています。そして、皆さんと共に止めさせたいと考えています。
こうした中、3月22日に判決を迎えます。いずれの判決であっても、高裁、最高裁と続くことが予想されます。それらも組合員(原告グリーンコープ)が話し合って決めていきます。皆さんにもともに考えていただけること、知り続けていただけることを心からお願いいたします。
以上。
(※1)グル―ンコープ共同体 →