価格価格転嫁円滑化スキームとは何か?〜買い叩きから中小企業を守るには?リーフレットの活用と申し出制度の周知を!

労務費、原材料費、エネルギーコスト等のコストの上昇分の取引価格への反映の必要性について、価格の交渉の場において明示的に協議することなく、従来どおりの取引価格に据え置くこと 労務費、原材料費、エネルギーコスト等のコストが上昇したため、下請事業者が取引価格の引上げを求めたにもかかわらず、価格転嫁をしない理由を文書や 電子メールなどで下請事業者に回答することなく、従来どおりの取引価格に据え置くこと
「競争の番人」というテレビドラマが始まり話題になっていますが、独占禁止法を執行する公正取引委員会は、独禁法の目的である競争の公平な実現は私たち消費者の日々の生活における物の価格を左右する重要な要因であり、独禁法は一方で消費者保護に資する重要な法律です。
独禁法は1947年に制定されて以降、何度かの重要な法改正を経て、市場競争と市場メカニズム(価格メカニズムとも言われる市場の自動調節機能)の中で、違反行為が行われた場合のサンクション(排除措置、課徴金、刑事罰)や違反事例に対する事件の端緒(の調査)からサンクションの賦課に至る手続きを定めてきたものです。
2022年7月27日、公正取引委員会と消費者団体との意見交換会がリモートで行われました。今回は「パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化パッケージ」及び 「令和4年中小事業者等取引公正化推進アクションプラン」等に関する 公正取引委員会の取組」ということで解説を受けたのち意見交換がされました。
(関係資料については公正取引委員会HP参照)
https://www.jftc.go.jp/partnership_package/index.html
パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化施策パッケージとは?
令和3年12月27日、内閣官房、消費者庁、厚生労働省、経済産業省、国 土交通省及び公正取引委員会において、「パートナーシップによる価値創 造のための転嫁円滑化施策パッケージ」が取りまとめられた。
これは、中小企業等が労務費、原材料費、エネルギーコストの上昇分を適切に転嫁できるよう、政府横断的な転嫁対策に取り組む。というものです。
公正取引委員会・中小企業庁は、事業所管省庁と緊密に連携を図り、下請事業者から寄せられた情報も活用し、体制強化を行いつつ、執行強化の取組を進めていくとし、具体的な取組としては、
1価格転嫁円滑化スキームの創設(公正取引委員会・中小企業庁・事業所管省庁)
2独占禁止法の執行強化(公正取引委員会)
3下請法の執行強化(公正取引委員会・中小企業庁)
がされるということです。
1については、価格転嫁円滑化スキームの創設(公正取引委員会・中小企業庁・事業所管省庁)
業種別の法遵守状況の点検を行う新たな仕組みの創設 【今後、自主点検の要請や重点立入調査を実施】
•公正取引委員会・中小企業庁が事業所管省庁と連携を図り、
1 関係省庁 からの情報提供や要請を受けるとともに、
2 下請事業者が匿名で違反行為を行っていると疑われる親事業者に関する情報を提供できる「違反行為情報提供フォーム」をHPに開設(1月26日開設済)し、広範囲に情報 提供を受け付ける。(令和3年度末までに把握した情報に基づき、事例、実績、業種別状況等 についての報告書を取りまとめ(5月31日公表済)、法違反が多く認められる業種については、公正取引委員会・中小企業庁と事業所管省庁が連名で、事業者団体に対して、傘下企業において法遵守状況の自主点検を行うよう要請を実施)重点立入業種を定めて重点的な立入調査を実施(5月31日重点立入業種 として道路貨物運送業、金属製品製造業、生産用機械器具製造業及び輸 送用機械器具製造業を選定)したとされています。
価格転嫁という言葉自体が消費者にはわかりにくいので、具体的な買い叩きの事例を見てみましょう。
買いたたきの事例
・ 親事業者は、下請事業者から燃料価格が上昇したた め、上昇分の取引価格への反映を求められたにもかか わらず、運送料金は荷主との間で既に決まっており、 荷主の業界の景気が悪い状況で下請事業者に利益を還 元することは困難であるとして、下請事業者と十分に 協議をすることなく、一方的に従来どおりに取引価格 を据え置いていた。【道路貨物運送業】
・ 親事業者は、最低賃金が引き上げられたことを理由 に下請事業者から単価の引上げを求められたにもかか わらず、自社のコスト上昇につながることは受け入れ られないとして、下請事業者と十分に協議をすることな一方的に従来どおりに単価を据え置いていた。 【金属製品製造業】
・ 親事業者は、新型コロナウイルス感染症の影響により下請事業者への発注数量が大幅に減少しているにもかかわらず、単価を見直すことなく、一方的に量産時の大量発注を前提とした単価で下請代金の額を定めていた。【生産用機械 器具製造業】
・ 親事業者は、下請事業者から、鋼材の仕入価 格が高騰したことを理由に単価の引上げを求め られたにもかかわらず、顧客が認めない限り、 値上げ要請には応じないとして、下請事業者と 十分に協議をすることなく一方的に従来どおり に単価を据え置いていた。【輸送用機械器具製造業】
2独占禁止法の執行強化(公正取引委員会)はどう考えられているか
緊急調査の実施
*労務費、原材料費、エネルギーコストの上昇分の転嫁拒否が疑われる事案が発生していると見込まれる業種について、下請法の適用対象とならない取引も含めて、新たに独占禁止法上の優越的地位の濫用に関する緊急調査を実施。関係事業者に対し、立入調査の実施や、具体的な懸念事項を明示した文書を送付【3月30日に緊急調査の中心となる対象業種として22業種を選定。 6月3日調査票発送開始】
*優越的地位の濫用に係る事件調査を効率的かつ効果的に行うため、「優越的地位濫用事件タスクフォース」を設置し、必要な是正措置を講じてきたが、新たに「優越的地位濫用未然防止対策調査室」を設置し、上記の問題業種における関係事業者に対して機動的な調査と文書送付を行い、優越的地位の濫用の未然防止をより一層図っていく。 【2月16日設置済。5月20日 「優越Gメン」の体制創設】
*大企業とスタートアップとの取引に関する調査を実施。関係事業者に対し 立入調査の実施や具体的な懸念事項を明示した文書を送付【6月15日調査票発送開始】
下請法の執行強化
*労務費、原材料費、エネルギーコストの上昇を取引価格に反映しない取引 が「買いたたき」に該当するおそれがあることの明確化【1月26日措置済】
(公正取引委員会)
*労務費、原材料費、エネルギーコスト等のコストの上昇分の取引価格への反映の必要性について、価格の交渉の場において明示的に協議することなく、従来 どおりの取引価格に据え置くこと
*労務費、原材料費、エネルギーコスト等のコストが上昇したため、下請事業者が取引価格の引上げを求めたにもかかわらず、価格転嫁をしない理由を文書や 電子メールなどで下請事業者に回答することなく、従来どおりの取引価格に据え置くこと
*「不当なしわ寄せに関する下請相談窓口」のフリーダイヤル(0120-060- 110)の更なる周知徹底【実施中】(公正取引委員会)
*親事業者への立入調査の件数を増やすなど、取締りを強化するとともに、 再発防止が不十分な事業者に対しては、取締役会決議を経た上で改善報告書の提出を求める【5月20日運用開始】(公正取引委員会・中小企業庁)
*違反行為を行っているおそれが強い事業者を抽出し、優先的に調査するため、過去の措置実績や関係省庁が提供する情報などを一元的に管理でhttps://www.jftc.go.jp/partnership_package/yuetsushitu_t.pdfきる
情報提供・収集をどうするか(調査の端緒)
公正取引委員会では、リーフレットも作成して、情報提供を呼びかけています。調査を補完し、不当な買い叩きを防止し、健全な競争環境を守るために消費者も「競争の番人」を応援し、独禁法の優越的地位の濫用に象徴される下請け法改正の経緯や価格転嫁円滑化スキームを理解していく必要があると思います。
(古賀 真子)