電気料金はどうなる その3 電力逼迫対応の検証・パブコメ募集〜需要家がDRに取り組める具体的な制度設計と補助金措置を!
「2022年3月の東日本における電力需給ひっ迫に係る検証取りまとめ(案)」に関する意見募集がされています。
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=620222014&Mode=0
この検証会議の報告書では、2022年3月に起きた東北関東での需給逼迫はこのようにまとめられています。
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000236465
パブコメで問いたいこと
需要家がDR取り組める具体的な制度設計と補助金措置を早急に検討することを求めます
需給逼迫した原因究明、気候変動の影響、電力システム改革での再エネ政策の遅れ、化石燃料への依存、電気はあくまで買う(消費する)ものだという観点からDRの具体的方策がとられてこなかったことを見直すべきです。
需要側の対策、特に経済合理的な需要側で実施するDRや断熱に取り組むべきです。新規電源の投資や原子力の再稼働といった電源側の対策で備えようとすると、期待される便益(需給ひっ迫や停電の発生確率×被害額)に対して対策コストが必要以上に高くつく可能性があり、費用対効果(費用便益比)が期待できません稀頻度事象に対しては、コストが比較的安く済む需要側で対策を推進することが合理的です。
報告書で詳述されているように、2022年3月の需給逼迫に対して、5 GW分の需要側対応ができたということは、一定の評価ができますが、次に同じようなリスクが到来した際は、これらの一連の事業者等の行動に加え、需要家である消費者もあらかじめ逼迫予想に対応した契約や危機回避のために市場取引によって促されるよう制度設計を進める必要があります。報告書では言及されていませんが、一方で、卸売市場価格が高騰して再エネを軸とした新電力が撤退を余儀なくされる事態は防がなければなりません。
報告書は、節電要請のあり方の問題に具体性がなく、根本的には価格値上げと計画停電という需要家(消費者)への負担増が回避できないとの結論に誘導されているように感じられます。しかし、電力システム改革は、「電力の安定供給の確保」、「電気料金上昇の抑制」、そして「需要家の選択肢の拡大と事業者へのビジネスチャンスの創出」を主な目的として進められてきたはずです。火力への依存や原発への回帰は、原発事故を契機に、電力も自給自足したいという消費者の権利への希求を踏みにじるものです。
今、エネルギー政策はどうあるべきかの根本が問われています。このパブコメ募集に向けた国のエネルギー対策の前提には、再エネ普及に取り組み、エネルギーの自立を促す新電力や節電や自己電源確保に取り組む消費者が不在であると感じざるを得ません。
火力発電への回帰は世界の流れに反していますが、報告書では下記のように述べられています。
「火力発電は我が国の発電電力量の7割を占める供給力としての役割を担うとともに、太陽光や風力といった変動再エネの導入の進展に伴い、その出力変動を吸収し、需給バランスする調整力の機能や、周波数や電流の急激な変化に対して、発電を継続し、周波数を維持する慣性力の機能を有することで、電力の安定供給上、重要な役割を担ってきた。
一方、経年による設備の劣化、電力自由化の進展による卸電力取引市場の価格の低迷、 脱炭素化に伴う卸電力取引市場の価格の低迷等により、事業者により採算が取れなくなっ てきた火力発電は、近年、休廃止が増加傾向である。
また、当面は火力の新設計画も予定されている一方、供給力全体としては減少傾向にあり、今後は更に休廃止が加速し、供給力が低下する懸念がある。」としています。
この10年余、原発事故で原発の大半が休止し、FITなどの再エネの促進や主なベースロード電源として火力発電に頼ってきたことは已むを得ないことでした。しかし、世界的な気候温暖化対策の中で、日本も火力依存を見直す時期に来ています。今こそ火力発電や原発依存を脱却し再生可能エネルギーの利用・普及を促進するべきです。化石燃料を使用した火力発電は、日本の電力需要の約8割を支える一方で、国内のCO2総排出量の約4割を占めており、低炭素社会の実現には火力発電からのCO2排出量削減が欠かせません。
原子力発電所の再稼働や小型原子力の開発などに期待する声も聞かれていますが、使用済み核燃料の処分問題、汚染水の海洋放出、福島第一原発の事故から10年以上が経過した現在においても廃炉の道筋が立たないどころか、ふるさとや健康を失った被害救済もされない司法判断が国民を苦しめている中で、安易に原子力に回帰をすることに国民は理解を示せません。何よりも安全基準を厳しくすればするほど原発が「割に合わない電源」であり経済的にも破綻していることは明らかです。
報告書では、「各エリアの電力需要予測については、電力広域機関が策定している需要想定要領に基づ いて、一般送配電事業者が行っていることから、こうした変化を考慮した需要想定が可能となるように、本要領を適切に見直していくことが必要である。」とされており、まさにこの点を深く掘り下げるべきです。需要予測を精緻し、危機に対応できる具体的なノウハウの確立、電力需要家に対するDR、電源の掘り起こしのための効果的な再エネ投資などが求められています。
報告書からは、準備情報、注意報など余裕を持った情報提供がなされなかったという問題意識は時系列的に分析され、要領の改訂の必要性に言及されていますが、今後も起きるであろう逼迫や価格高騰への対応に関する具体的方策が示されていないと思われます。
これまでは「電力は需要側が使いたい時に必ず供給されるもの」という考え方が支配的な時代でした。これからは、エネルギーの供給の形態が大きく変わる中で、需要側が賢く効率的に電力を使用する時代に変わります。今まで通りのやり方を続ける限り、迫り来る需給ひっ迫リスクに対応することはますます難しくなります。節電や省エネルギーは「お願い」や「協力」ではなく、「投資」や効率的な「補助金制度」という経済行為を通じて社会実装するのが合理的かつ健全です。
需要家がDRに対処するための環境整備、事前に蓄電によるピークシフトなど、需要家の積極的な取り組みがどうすればできるのかについて、需要者にできることを積極的に国や自治体が支援し、一足飛びに節電要請や計画停電にならないために何が必要かを電力システム改革の原点に戻って考え直すべきです。
これまで需要家は、電力の需給の変化や電力市場価格の変動と無縁でした。今後は市場連動型の電気料金や、価格高騰時の電気料金割引などを組み合わせることで、需要家は経済合理的な行動としてDRに取り組むようなインセンティブが生まれます。FIT終了後、補助金も休止され高額な蓄電池などへの補助金シフト要件も厳しい中で消費者の再エネ志向も減退しています。今一度関係省庁との連携を図り再エネへの取り組みを進めるべきです。
電力市場はLNG価格の高騰などを反映して高値が続いていますが、太陽光発電のおかげで昼間は安価に推移する日も少なくありません。こうした電力市場価格の変動は、需要家が日々のオペレーションに組み込んでいく行動変容に繋がります。DRは平時の電気料金削減に加えて、需給ひっ迫が発生した緊急時にも確実は効果を発揮します。短期的な電力需給ひっ迫への対策と長期的な脱炭素の両者に合致し、今すぐ投資等を活性化させるべきと考えます。
以下の報告書抜粋を多くの方に読んでいただきたいと思います。電力システム改革の向かう先はどこか?
多くの方が、パブリックコメント出していただくことをお願いします。
(古賀 真子)
パブコメの元となる報告書抜粋(太字、下線青字コメントは筆者)
3月16日(水)23時36分に発生した福島沖地震により、東北地方に所在する複数の火力発電所(最大出力合計 647.9 万 kW)が緊急停止した。供給力の減少に伴うUFRの作動により、東京エリアにおいて最大約210万戸、東北エリアにおいて最大約16万戸が停電し、これにより需給が瞬時にバランスされたことにより、大規模停電は回避された。しかしながら、この地震により緊急停止した火力発電所のうち、一部は停止が長期化し、地震から二日後の 3月18日(金)の時点で約440万 kW分の火力発電所の停止が継続していた。
地震により供給力が減少している状態が続く中、3月18日(金)及び 22日(火)の二日間、想定を上回る気温の低下により電力需要が増大した。その他、地震による地域間連系線の運用容量の低下や、悪天候により太陽光の出力が伸びなかったことといった複数の要因が重なった結果、3 月18 日(金)には東京エリアにおいて、3 月22 日(火)には東京エリア及び東北エリアにおいて、電力需給がひっ迫する事態が発生した。
政府、電力広域的運営推進機関(以下「電力広域機関」という。)及び事業者においては、発電所の出力増加、地域間での機動的な電力融通、DR の最大限の発動等、電力需給を緩和するためにあらゆる取組を行った。また、3月22日の需給ひっ迫に際しては、政府は「需給ひっ迫警報」を 2012 年の制度整備後初めて発令した他、官民双方において各種媒体を通 じて広く国民に節電を要請した。
多くの需要家の協力により、合計約 4,400 万 kWh の需要抑制がなされ、結果として大規模停電は回避された。しかしながら、今回、需給ひっ迫の度合いが高まり、需給ひっ迫警報を発令せざるを得ない状況にまで至ったことは事実であり、国としては、これを受けて、今回の電力需給ひっ迫の経緯と要因について検証を行った上で、今後の対応策を検討するべく、総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会電力・ガス基本政策小委員会において、集中的な検討を行った。
その際、電気の広域的運用を担う電力広域機関や、今回の電力需給ひっ迫が発生したエリアにおいて一般送配電事業を営む東京電力パワーグリッド及び東北電力ネットワークにおいて並行して行われた検証・分析結果についても報告を受け、議論を深めた。
本取りまとめでは、まず、需給ひっ迫の概要や要因分析を行った上で、ひっ迫発生に際 しての政府・電力広域機関及び事業者の対応について示し、今回の事象の評価を行うとともに、その課題を抽出した。そして、それらを踏まえた今後取るべき対策について、1需給ひっ迫への事前準備の高度化、2需給ひっ迫時における対策の高度化、3需給ひっ迫 避に向けた構造的対策の 3 つに分けて整理を行った。
1 3月22日東京及び東北エリアにおける需給ひっ迫について
(3)ひっ迫発生時の政府、電力広域的運営推進機関及び事業者の対応
1ひっ迫発生を受けた関係者の対応の推移
a)経済産業省の対応
経済産業省資源エネルギー庁は 3 月 20 日(日)の夜、3 月 22 日(火)の電力需給につい て、東京エリアで予備率が最小 2.2%になる見込みとの連絡を東京電力パワーグリッドから受け取った。この時点では東北エリアと合わせた予備率はわからなかったものの、翌21日 (月・祝)の昼前の時点では、東京エリアと東北エリアを合わせた予備率は 3.0%との連絡があった。
その後、東京エリアの 22 日の予想気温が真冬並みに低下する予報に変わり、17 時 30 分 から東京電力パワーグリッド、電力広域機関、経済産業省の 3 者で打ち合わせをした際、 22 日の予備率を3%以上とするためには需要全体の約1割にあたる約 6,000 万 kWh の節電が必要との説明が東京電力パワーグリッドからあった。
→Q1 予備率を3%以上とするためには需要全体の約1割にあたる約 6,000 万 kWh の節電が必要との説明は妥当か?
経済産業省資源エネルギー庁では、供給力の追加対策や北エリアを含む他エリアからの 最大限の融通を行った上での数値であることを確認し、最終的に需給ひっ迫警報の発令基準に該当することを確認したため、20 時過ぎにニュースリリースを行うとともに、プレスブリーフィングにおいて需給ひっ迫警報を発令したことを説明し、節電の呼びかけを開始 した。22 日(火)朝にかけて、経済産業省から、他の 18 省庁や省内各局、地方経済産業局を通じて、業界団体・主要企業・自治体への需給ひっ迫警報の周知と節電を依頼した。 また、SNS やホームページを通じて、節電に努めていただくよう呼びかけた。
→Q2需給逼迫警報発令の基準は?需要家に対する節電要請のタイミングや周知の仕方は妥当か?
22 日(火)の午前中には、東北電力ネットワークから東北エリアにおいても需給がひっ迫するとの連絡があったことを受けて、11時34分に発令した需給ひっ迫警報(第2報) において、東北エリアを警報発令の対象に含めることとした。
22 日(火)の昼の時点で、節電が想定していたほど進んでおらず、夜までに揚水発電の水を使い果たし供給力が不足する可能性が高くなったため、14 時 40 分に萩生田経済産業大臣が緊急記者会見を開き、更なる節電をお願いした。その後、節電量が増加して需要が想定よりも低下したため、20 時 47 分からのプレスブリーフィングにおいて、22 日中の停電は回避した旨を説明するとともに、23 時 11 分に発令した需給ひっ迫警報(第 3 報)に おいて、東北エリアにおける需給ひっ迫警報を解除した。他方、東京エリアは翌 23 日(水) も予備率が 3%を下回る見通しであったため、需給ひっ迫警報の発令を継続した。
翌 23 日(水)の朝、東京エリアの需給状況の確認を行い、前日夜の想定よりも需給状況が改善し、予備率 3%以上を維持できる見通しとなったことから、11 時をもって東京エリ アの需給ひっ迫警報を解除した。
→Q3 22日(火)14時40分から20時47分のプレスブリーフィングまでに「節電量が増加して需要が想定よりも低下した」というのは、どこで誰がどのように判断したのか?
2 当初、ニュースリリースにおいては、当該発表が「需給ひっ迫警報」である旨の記載は行わなかったものの、ブリーフィングの場で記者から質問が出たことを踏まえ、22 日(火)午前 2 時頃、「需給ひっ迫警報」である旨をニュースリリースにも記載した。
→Q4 需給ひっ迫警報がブリーフィングで記者の質問から出たというのは問題ではないか?
b)電力広域機関の対応
21日(月・祝)に、国、東京電力パワーグリッド、電力広域機関の三者打合せを実施した際、最新の気象予報に基づく需要想定、前日スポット市場の約定価格や発電事業者・小売電気事業者などから提出された発電計画・需要計画、追加供給力対策に加え、節電効果を見込んだ場合には予備率が 2.5%となることが東京電力パワーグリッドより提示された。 ただし節電効果は実効性が確保できない期待量であり、節電効果を織り込まない実質の予備率は▲7.8%であった。
→Q5節電効果を期待量としている対応では心もといものと言わざるを得ないのではないか?
最大限の融通指示は不可欠となっていたことから、電力広域機関は各一般送配電事業者に対して22日(火)の送電可能量を確認し、連系線の空容量やマージンを最大限活用し融通できる見通しを確認した。また、会員に対する節電や自家発の焚き増し運転の協力依頼の準備に取りかかった。
22日(火)午前 5時59分に、東北電力ネットワークから予備率 8.4%の見通しを確認し、 東京エリアへの融通指示を行ったものの、22 日(火)9 時頃に東北電力ネットワークから、 低気温により想定以上に需要が増加し、需給ひっ迫の恐れが生じたことから融通の申出があり、同日 9時39分に北海道電力ネットワークから東北エリアへの融通指示を行った。
ひっ迫当日の 22日(火)には、資源エネルギー庁及び東京電力パワーグリッドにリエゾンを派遣し、一連の対応にあたりつつ、会員に対する節電や自家発の焚き増し運転の協力 依頼を実施した(政府の発表に合わせて実施し、計 4 回の協力依頼を発出)。同趣旨の情報を電力広域機関の Web ページにて情報発信した。
Q6 一連の対応に改善点はどう議論されたか?
c)電気事業者の対応
各一般送配電事業者においては、プレス発出や各種メディアによる節電への協力の呼びかけを行うとともに,追加供給力対策を実施し需給バランスの確保に努めた。
3 電力広域機関ホームページ:https://www.occto.or.jp/oshirase/shiji/ 10
i 火力発電所に対する増出力要請
東京エリアにおいて、富津火力1号系列、袖ケ浦火力 2~4 号機、横浜火力8号系列1~ 3 軸、南横浜火力2号機、常陸那珂火力1・2号機、常陸那珂共同火力1 号機、広野火力5号機において、増出力運転(定格出力を上回る出力での運転)を実施し、22日の最大設備利用率は、LNG が 101%、石炭は 107%となり、その結果、計 26.5 万 kWh の出力を確保し た。
東北エリアにおいて、能代1号、東新潟1・2号・3系、秋田4号、勿来9号、酒田1号において、増出力運転を実施し、22日の最大設備利用率は、LNGが101%、石炭は101%となり、その結果、計9.8万kWの供給力を確保した。
→Q7 東京エリアでLNG が 101%、石炭は 107%で26.5万kWhの出力確保、東北エリアでLNGが101%、石炭は101%となり、その結果、計9.8万kWの供給力を確保した。ことはどう評価されるか。
ii 電源I’の発動
電源I’4の調整力提供に係る冬季の提供期間は、12月1日~2月28日であるため、今回の需給ひっ迫に際しては任意での調整力提供を要請した。3 月は提供期間外のため、すでに小売電気事業者や市場に拠出されており、一般送配電事業者からの依頼に応えられな かったものも多かったと考えられる。
→Q8 任意での調整力提供を要請は見直すべきではないか?
iii 自家用発電機を所有する企業からの電力の調達
東京電力パワーグリッド及び東北電力ネットワークは、小売電気事業者及び自家発事業者に対して、発電余力の焚き増しの要請を行った。東京エリアでは、3月22日、23日で計約 207万kWhの発電量が得られた。
iv 補修点検のため停止させていた発電所の稼働
東京エリアにおいて JERA は、当初 3 月 21~22 日の間に発電を停止して補修調整作業を予定していた火力発電所において、補修作業の実施時期をずらすことにより、追加的に計171.2 万kWの出力を新たに確保した。
v 供給電圧調整
供給電圧調整5を行うことにより、東京エリアで計約 986 万 kWh、東北エリアで計約 13.3 万 kWh の需要を抑制した。
5 供給電圧を低下することにより、需要を抑制して需給バランスを維持するための措置
→Q9供給電圧調整5とは?
vi 節電協力依頼の実施
東京電力パワーグリッドにおいては 21日(月・祝)から22日にかけてプレスリリース・記者ブリーフィング、Twitter、LINE(voom 投稿・push 配信)、HP 掲載、メール送信などにより、需要家へ継続的に節電協力依頼を実施。
東京電力PGからの節電協力発信状況 東北電力ネットワークにおいて22 日に、プレスリリース・記者ブリーフィング、Twitter、HP 掲載、ラジオスポット放送等により、需要家へ継続的に節電協力依頼を実施した。
vii 小売電気事業者の取組
小売電気事業者約 750 社にアンケートを行ったところ、3月22日、23日に小売事業者から需要家に対して節電を目的に実施された事項の内訳は HP、メール、電話等での節電の周知が 60%、自家発焚き増しを含む DR が14%、未実施が33%、その他が20%となっていた。「その他」については、需要家向けアプリ内での節電の呼びかけ、といった積極的な回 答も一部あった一方、自社の店舗や事業所での節電、電話連絡体制の整備等にとどまったという回答が多かった。
2関係者の対応への評価
上記の通り、電気事業者、電力広域機関、経済産業省においては、電力需給ひっ迫の発生に際して、大規模停電を回避するため様々な手段をもって対応した。結果として停電は 回避されたものの、本委員会でも指摘がなされた通り、電力需給のひっ迫回避のための事 前の準備や、当日の対応については、今回の対応をひとつひとつ振り返ったときに、改善すべき点があることも事実である。
本委員会において議論された課題は以下のようなものである。
○ 需給ひっ迫への事前の対策に関する課題
➢ 事前の需給検証、供給力確保の状況
・コロナの影響等で電力需要が従来と比べて変化している可能性があり、需要の上振れリスクをこれまで以上に考慮する必要がある。
・全体の供給力に余裕がなくなる中で、徹底的な補修点検の調整により高需要期の供給力を確保することが、高需要期以外の時期のリスク対応力を低下させている。 ※背景に、再エネの導入拡大に伴う火力の休廃止の増加等による供給力の低下という構造的な課題あり
→Q10火力はフェイドアウトする方向ではないのか、構造的問題とは?
○ 需給ひっ迫時の対応に関する課題
➢ 需給ひっ迫警報発令までのプロセス
・需給ひっ迫警報の発令が予定より遅れたほか、当初発表に「警報」の文言がないなど、発令方法にも課題がある。
➢ ひっ迫時の需給調整オペレーション
・一般送配電事業者間及び電力広域機関と一般送配電事業者との間の円滑な情報共有・連携に改善の余地がある。
➢ 電気事業者や国・広域機関による情報発信/節電要請・需要家に需給ひっ迫を伝える情報発信をできる限り早く行うとともに、受け手にとってわかりやすく、具体的な行動に結びつけやすい形で節電要請を行う必要がある。
本委員会においては、委員からのご指摘も踏まえながら、これらの課題への対応策についても議論を行ってきた。
本検証取りまとめにおいては、当日の関係者の対応に関するこれまでの議論を踏まえて、「需給ひっ迫への事前準備の高度化」及び「需給ひっ迫時における対応の高度化」につい て、今後の対策を提示する。(中略)
(4)3 月 22 日の需給ひっ迫を受けた節電の状況 1需要家(産業界)へのアンケートの結果
今回の電力需給ひっ迫の検証や今後の施策の参考とするべく、節電対応の個別事例を把 握することを目的として、所管団体を通じてアンケートを行い、製造業や小売業等、870 社から回答を得た。
情報発信については、小売電気事業者からの個別の節電依頼があったのは 3割程度、自治体からの節電依頼や周知があったのは2割程度。国から「需給ひっ迫警報」が発令されていることは、3月21日(月・祝)以前の段階で約5割、22日(火)の午前中までには 9 割の事業者が認識していた。電力需給情報の情報源としてはテレビやインターネットのニ ュースが圧倒的多く、次いで各社のホームページが見られていた。他方、各社や経産省の Twitter による情報発信は事業者には、ほとんど見られていなかった。
需給ひっ迫警報により、需要家の約 8 割が普段と行動を変えた。ただし、具体的な取組内容は、「節電の呼びかけ」「消灯」「暖房の温度調整」といった身近なものが大宗を占め、 各事業者の節電効果は 0~5%が約 3 割、6~10%が約 1 割、それ以上の節電率を達成した 事業者は極少数(その他は「わからない」又は未回答)だった。節電依頼があった場合への事前の備えがあった事業者は約 2 割に留まる。今後、突発的な節電の依頼が発された場合、最大限対応可能な節電規模は 0~5%が約 4 割、6~10%が約 2 割であったが、そのためには 1 日前までの周知が望ましいという回答が多かった。
3 月 22 日のひっ迫発生を受けた節電の状況(東京エリア)
a)節電前の需要量と節電量の推計方法
需給ひっ迫時の 3 月 22 日(火)の東京エリアにおける節電の実績について、東京電力パ ワーグリッドが当日の実際の気温や天気をもとに電圧種別の節電前の需要量と節電量を推計した。なお、推計にあたっては、2021 年と2022年の2年分のデータを使って推計した (2020 年 4 月以降にスマートメーターによって集められたデータが分析に活用できるよう整備されていたため)。
低圧電灯の需要のうち、冷暖房需要は気温との相関が強く、また照明需要は昼間の日照が影響する。そのため、3 月22日(火)の1時間ごとの24点において、2021年と2022年の3月平日の需要実績と気温実績の回帰直線を求め、3月22日(火)当日の気温実績を元に想定需要を求めた。その際、照明需要の影響が大きい 9 時~18 時は、「雨・雪・曇の日」 の実績値のみを用いて回帰直線を求めた。低圧動力の需要は、低圧電灯の推計方法と同様であるが、日照の影響が少ないため、天気を区別せず、気温との相関のみを用いて推計し た。低圧電灯と低圧動力のいずれについても、気温との相関を求める際に、平年気温と実 績気温の差が大きい場合(極端な寒暖)には回帰直線から外れる傾向にあったため、平年気温と実績気温の差が 7.5 度以上の日は異常値として除外している。(高圧と特別高圧にお いて推計する際にも同様に除外)
高圧の需要は、日中は気温との相関が強いが、深夜帯は気温によらず一定となる傾向に ある。そのため、1 時間ごとの 24 点において、2021 年と 2022 年の 3 月平日の需要実績と 気温実績の回帰直線を求め、原則として当日の気温実績をもとに想定需要を求めたが、気 温との関係が小さい時間帯の推計値には 2021・2022 年実績平均値を適用した。
特別高圧も、高圧と同様の方法で推計したが、経済状況の違い等により 2021 年と 2022 年で需要水準に差がみられるため、2022 年の実績データのみを使って推計を行った。
なお、特別高圧の産業用は休み明けの午前中の需要が小さくなる傾向にあるが、データ数が少なくなってしまうため、休み明けかどうかは考慮せずに推計を行った。また、日ごとのばらつきが大きいため、3 月 22 日(三連休明け)の推計としては、午前中が高めの推計となっている可能性がある。
b)電圧種別の節電量
低圧の電灯需要(主に家庭)は朝 8 時以降に節電の効果がみられたが、その効果は小さく、更なる節電のお願いを行った15時以降に節電量の大幅な増加がみられた。節電量は3月22日(火)の24時間計で1594 万 kWh、節電率は4%であった。節電量が最大となったの は 17 時~18 時であり、節電量 203 万 kWh、節電率は 11%であった。低圧の動力需要(小規模な商店・工場など)では節電効果はほとんど見られなかった。
※東京電力パワーグリッドのデータをもとに資源エネルギー庁作成
高圧需要は業務用(ビル・商店・百貨店・スーパーなど)、産業用(工場など)ともに、 2%程度の節電実績であったと推計された。高圧業務用の節電量は 3 月 22 日(火)の 24 時 間計で 353 万 kWh、節電率は 2%であった。節電量が最大となったのは 17 時~18 時であり、 節電量 45 万 kWh、節電率は 4%であった。高圧産業用の節電量は 3 月 22 日(火)の 24 時間 計で 194 万 kWh、節電率は 2%であった。
特別高圧の産業用需要は、気温との相関が比較的弱く、日ごとのばらつきが大きい。ま た、休み明けの日の未明から午前中にかけては、他の平日と比べて需要が低くなる傾向が あるが、今回の推計の際には休み明けかどうかは考慮していない。そのため、特に未明か ら明け方にかけては推計需要が大きくなっている可能性があるが、特別高圧の産業用は DR の発動連絡や電気事業者からの個別連絡があった需要家が多く、昼以降は大幅な節電が行 われていたと考えられる。特別高圧産業用の節電量は 3 月 22 日(火)の 24 時間計で 1,060 万 kWh、節電率は 7%であった。節電量が最大となったのは 18 時~19 時であり、節電量 85 万 kWh、節電率は 13%であった。
c)節電取組の効果分析と前日時点の想定需要との差異
3 月 22 日(火)の節電前の推計需要は、すべての電圧種別を足し合わせると計 92,294 万 kWh、節電量は計 3,149 万 kWh であり、1 日を通じて3%の節電率となっていた。節電率が 最も高かったのは特別高圧産業用で 7%の節電率であり、節電量が最も大きかったのは低圧 電灯で節電量の約半分を占めていた。
また、節電量が最大だったのは 17 時~18 時で 352 万 kWh であり、約 8%の節電となっていた。
また、3月22日(火)の需給ひっ迫における節電を要請する際の目標などは、前日18時時点に想定した需要を基に呼びかけが行われたが、前述の事後的な需要の推計では全体的に需要が小さく推計されていた。これは、前日 18 時時点の想定需要は気象予測等に基づいて翌日のエリア全体の需給バランスを検討するために算出したものであり、今回の推計は 当日の実際の天気、気温等に基づいて事後的に節電前の電圧種別の需要を推計したもので あることによるものである。そのため、前日想定を行った時点での想定気温推移と実際の 気温の推移は異なっており、15 時頃~22 時すぎまでは実際の気温は高くなっていた。その ため、その分、推計需要は前日想定需要より低くなったと考えられる。
II.今回の電力需給ひっ迫の要因と電力システム上の課題
今回の電力需給ひっ迫は、今回のひっ迫に固有の要因と、構造的な要因が複合的に存在 し、引き起こされたものである。直接的な要因としては、3 月16日に発生した地震による 発電所の計画外停止や、真冬並みの寒さによる需要の大幅な増大といった、今回の電力需給ひっ迫に固有の要因が指摘できる。他方、その背景には、火力発電の長期的な退出の傾向に代表される構造的な要因もある。
今後の電力需給対策を検討する上では、これらの要因を踏まえ、対応を進めていくべきである。
(1)電力需給ひっ迫の発生に至る直接的な要因
1高需要期への対応のための補修点検時期の調整に伴う供給力の減少
今回の電力需給ひっ迫は、高需要期以外の時期に発生した電力需給ひっ迫であるという点に一つの特徴がある。
発電事業者の供給計画の策定に当たっては、電力広域機関より、発電所の補修について、 夏季、冬季の高需要期を避けるよう依頼しており、2021 年度供給計画とりまとめにおいて は、2022 年 3 月の全国の補修量は 1,2 月の約 2 倍となる約 1,000 万 kW の予定となってい た。また、2021 年 4 月時点で、2021 年度冬の厳寒 H1 需要に対して、安定供給に最低限必 要な予備率を確保できていなかったことから、追加でさらなる補修時期の調整を実施して いた。
東京エリアにおいては、3 月 22 日(火)に計画停止していた火力発電は約 570 万 kW で あった。これは、例えば 2021 年度の厳寒 H1 需要の想定を上回った 2022 年 1 月 6 日(計画停止中の火力発電は約230万kW)と比べると、3月22日(火)においては、計画停止を理 由として約340万 kW の供給力が低下していたことになる。
このような状況の中で、次頁以降に述べる種々の要因が重なり、3 月という高需要期以外の時期において、電力需給ひっ迫が発生するに至った。
2地震に起因する火力発電所の計画外停止に伴う供給力の減少と、地域間連系線 の運用容量の低下
3 月 16 日に発生した福島沖を震源とする地震により停止した火力発電所のうち、一部は 復旧に時間がかかり、3 月 23 日時点で、計 14 基・647.9 万 kW が停止していた。また、こ れに加えて、3 月 17 日以降に地震とは関係なく、火力発電所が 3 月 20 日(日)までの間 に計 3 基・134.4 万 kW がトラブル停止していた。
これらにより、需給ひっ迫当日の東北電力・東京電力両エリアにおける供給力が大きく 低下していたことが、今回の電力需給ひっ迫の直接的な要因の一つとして指摘できる。
また、今回の東北電力・東京電力エリアにおける電力需給ひっ迫時には、地域間連系線 の活用により、沖縄を除く各エリアからそれぞれ東北・東京エリアに向けて送電が行われ た。例えば、東京エリアに対しては、当日の潮流上限である、東北東京間連系線 250 万 kW 程度、東京中部間連系設備 180 万 kW 程度を最大限利用して送電を行った。
なお、東北東京間連系線については、3 月 16 日に発生した福島沖を震源とする地震の影 響で、原町火力発電所や新地火力発電所など相馬双葉幹線の近くにある東北エリアの火力 発電所が合計 200 万 kW 以上停止したことにより、通常時であれば、約 500 万 kW の送電が 可能である(※2027 年度末までに約 1,000 万 kW まで拡充すべく工事中)が、同期安定性 制約のため運用容量が概ね半減した*。 *連系線近傍の電源が停止したことで、東北の電源バランスは北部寄りになり、需要(東京エリア)との距離が長くなり、同期安定性制
約により運用容量が低下
また、東京中部間を結ぶ、東西 50/60Hz 周波数変換装置(いわゆる FC)については、東西間で電力を授受する周波数変換装置は、通常、約210万kW の送電が可能である(※2027年度末までに300万kWまで拡充すべく工事中)。今回の需給ひっ迫に際しては、定期点検中であった30万 kW を除く180万 kW を最大限利用し、西日本エリアから東日本エリアに送電した。なお、現状、地域間連系線の利用は、原則全ての連系線容量をスポット市場等で割り当てることとなっており、需給ひっ迫やそのおそれがある場合には、残りの容量を電力広域機関による融通指示により利用するという運用になっている。当日、120 万 kW 分は あらかじめスポット取引等に割り当てられ送電されており、緊急時用のマージンとなる 60万kW分について電力融通を行い、合計 180 万 kW 分の送電を行った。
3 悪天候による太陽光発電の出力減
3 月 22 日(火)は一日を通じて日差しが少なく、太陽光発電の出力が低い状態に留まった。3 月 22 日(火)の太陽光発電量の最大値は175万 kWであり、発電量はおよそ1,189万kWh だった。2021年3月16日~31日の16 日間における平均値はそれぞれ、最大値が1,075万 kW、1日の発電量が7,208万kWhであり、需給ひっ迫が発生した 2022 年3月22日(火)は、太陽光発電の出力が大幅に低下していたと言える。
なお、翌 23 日においては、朝から太陽光発電の出力が大きく伸び、需給の緩和に貢献した。
4 気温低下に伴う需要増
3 月 22 日(火)の電力需給ひっ迫当日、東京及び東北エリアにおいては、3 月としては 記録的な寒さにより電力需要が大きく増大していた。
東京エリアでは、3月19日(土)夜時点で、22日(火)の最高気温が約10°Cであることなどを踏まえ、22日(火)の最大需要は 4,300 万 kWと想定していた。その後、20日(日)、21日(月・祝)と天気予報が悪化。最高・最低気温ともに大きく下がり、都心でも雪が混じる予報となったことから、これらを反映した 22 日(火)の想定最大需要は、前日(21日) 夜の時点で約 4,840 万 kW と大幅に増加した(+540 万 kW)。これは、2021年10月に調整力等委員会において公表された電力需給検証報告書で示された 2021年度の電力需給見通しにおける、10 年で一度の厳しい寒さを想定した場合の3月の最大需要4,536万kWを約300万kW上回る、極めて高い水準だった。
3 月 22 日夜の東京エリアの電力需給見通しの変化について 東北エリアでは宮城県、福島県がエリア需要の約 4割を占めているところ、22日(火)の9時時点では、前日の想定よりも宮城県が約2°C、福島県が約 5°C低い気温の見通しとなっていたことが需要の想定外の増加の大きな要因の一つとなった。電力需給検証報告書に おいて、10年で一度の厳しい寒さを想定した場合の3月の最大需要は 1,286万kWだったが、当日 10 時~11 時にそれに近い水準の需要となる見通しとなった。
5 揚水発電のメカニズムと、18 日及び 22 日に揚水余力が不足した経緯と背景
今般の電力需給ひっ迫に際しては、需要家の節電により揚水発電の発電余力を確保することが大規模停電を回避するために重要な条件となり、揚水発電の役割・重要性が再認識 されることになった。揚水発電とは、余剰電力がある時間帯に高所の貯水池(上池)に水 を汲み上げ、電力需要が大きい必要なときに落下させることで発電する方式であり、いわば、それ自体が大きな「蓄電施設」の役割を果たしている。近年では、再生可能エネルギーの導入拡大に当たっても、必要な調整電源としての重要な役割を担っている。
今回の18日(金)及び22日(火)のひっ迫においては、上池に貯められていた揚水発電所の水の残量(発電可能量)が払底してしまうことで、必要な供給力が不足してしまう可能性が生じた。18日(金)には、東京エリアにおいて、ピーク時を過ぎた夜間になっても需要の減少がみられず、21-22 時に揚水発電が枯渇・kW 不足に陥る恐れが生じた。22日(火)には、当日を迎える前に汲み上げを行い、約 1 億 kWh 弱の発電可能量を確保していたものの、当日の電力需要が大きく、これが枯渇する恐れがあったため、時間帯毎の目標確保量と節電を要する時間帯を特定した上で、節電要請を行ったのである。
なお、こうした状況に際し、東京電力パワーグリッドは、揚水発電の可能量の目標値と 実績値を満水時との割合で分かりやすく表示することにより、情報発信に努めた。
(2)電力需給状況の構造的変化 120 年間の供給力の変化
2014 年頃から新エネルギー(水力発電所を除く)等の発電設備の設備容量が急増し、2019 年には全体の設備容量の 21.1%を占めている。原子力発電所については、設備容量はほぼ 一定で推移しているものの、東日本大震災以降、全国の原子力発電所は順次停止し2014年度の2014年度の原子力発電所の発電電力量の割合は 0%となっていた。
火力発電所については、2000年には、約 5,000 万kWの石油火力が存在していたが、2019年度には、約 3,000万kW 程度まで減少。設備の老朽化や稼働率の低下、燃料のサプライチェーン維持の負担等を背景に、廃止の傾向は今後も継続すると考えられる。
他方、電源種別の発電電力量を見ると、震災以降、原子力発電所の稼働停止に伴い、火 力発電所の割合が大きく増加している。このような状況を反映し、震災以前に比べて低い 供給予備率が低い状態が長期的に続いている。
2火力発電の退出状況とその背景
火力発電所は、電力を取り巻く環境変化の中で、近年、その役割を大きく変化させている。上で述べた火力発電所の発電容量の減少と発電電力量の増大は、電力を取り巻く環境変化の中で生じているものである。
まず、東日本大震災以降、全国の原子力発電所は順次停止し、2014 年度の原子力発電所の発電電力量の割合は 0%となった。積極的に再生可能エネルギーも導入しているものの、 安定供給を確保するためには、これまで休止していた経年火力を再稼働させたり、最新の 設備に更新して発電効率を高めるなど、火力発電所の発電電力量の割合を増加し、電力の 安定供給を確保してきた。
一方で、地球温暖化対策として CO2 を排出するという環境面の問題がある課題がある火 力発電は、近年、世界的な脱炭素化等の背景により、政府としても将来的なカーボンニュ ートラルの実現のために、火力発電の発電比率は安定供給を大前提に引き下げることとしており、また、再生可能エネルギーの拡大が進められている。
従来、火力発電は我が国の発電電力量の7割を占める供給力としての役割を担うとともに、太陽光や風力といった変動再エネの導入の進展に伴い、その出力変動を吸収し、需給バランスする調整力の機能や、周波数や電流の急激な変化に対して、発電を継続し、周波 数を維持する慣性力の機能を有することで、電力の安定供給上、重要な役割を担ってきた。
一方、経年による設備の劣化、電力自由化の進展による卸電力取引市場の価格の低迷、 脱炭素化に伴う卸電力取引市場の価格の低迷等により、事業者により採算が取れなくなっ てきた火力発電は、近年、休廃止が増加傾向である。
また、当面は火力の新設計画も予定されている一方、供給力全体としては減少傾向にあ り、今後は更に休廃止が加速し、供給力が低下する懸念がある。
3過去 10 年間の最大需要電力の推移
電力需要の見通しについては、過去10年間において、実績が想定を上回り、想定外の高需要が発生するケースが増えている。
2011年の東日本大震災以降、最大需要電力を想定している2013年以降の需給状況を見ると、2017年以前と比べて実績が想定を超えるケースの発生が近年増加している。
2017年までに実績が想定を超えたケースは、冬季については、2013年と2014年は3エリア、2015 年は 2 エリアにおいて発生した後、2017 年には沖縄を除く全国 9 エリアで発生した一方、夏季については、2013 年、2016 年における各1エリアの発生に限られている。
しかしながら、2018 年以降では、夏季においても実績が想定を上回るケースが増加しており、2018 年は 5 エリアにおいて発生し、2019 年から 2021 年まで毎年複数エリアで発生している。冬季については、2018 年で1エリア、2019 年では発生しなかったが、2020年には7 エリア、2021年に4エリアで発生している。
想定が需要を上回る主な要因は、想定外の気温の変動にあると考えられることから、こうしたケースの発生機会の増加は、これまでに蓄積したデータから得られる予測の傾向が変化してきている可能性があることや、近年、太陽光パネルの普及と売電価格が低下した結果、自家消費量が増加し、晴雨での需要変動が拡大するなどの需給構造の変化が現れ始めている可能性がある。
各エリアの電力需要予測については、電力広域機関が策定している需要想定要領に基づ いて、一般送配電事業者が行っていることから、こうした変化を考慮した需要想定が可能となるように、本要領を適切に見直していくことが必要である。
4 2020 年度冬季の電力需給ひっ迫と、2021 年度冬季の需給状況
今冬の電力需給ひっ迫の約1年前、2021年1月上旬にも全国大で電力需給がひっ迫する事態が生じていた。昨冬と今冬の電力需給ひっ迫は、直接的な要因こそ異なるものの、電力事業の構造的な変化が背景にある点で共通しているといえる。
2022 年3月の電力需給ひっ迫については、本検証とりまとめにおいて既に確認してきた通り、高需要期を外れ補修点検件数が多くなっていたことや、直前の地震による火力発電所の停止で、東京・東北エリアの供給力(kW)が低下していたこと、真冬並みの寒さにより需要が大きく伸びたことがその直接的要因として指摘できる一方、21年1月の電力需給ひっ迫は、20年12 月中旬からの断続的な寒波による電力需要の大幅な増加と、産ガス国 における LNG 設備トラブル等に起因した LNG 在庫減少による LNG 火力の稼働抑制により、 電力量(kWh)が不足したことが主因であった。両年とも、ひっ迫当日の悪天候による太陽光発電の稼働率低下や、気温低下による電力需要の増大はみられるものの、深刻な電力需給ひっ迫に陥るまでの直接的要因は異なるといえる。
6 「2020 年度冬期の電力需給ひっ迫・市場価格高騰に係る検証」中間とりまとめ
他方、構造的な要因としては、両事象に共通するものとして、「2020年度冬期の電力需給ひっ迫・市場価格高騰に係る検証中間とりまとめ(2021年6月)」でも指摘されたように、東日本大震災後の火力発電比率の増加といった電源構成の変化や、再生可能エネルギ ーの拡大に伴う調整力としての LNG 火力依存度の増大、自由化下での電気事業者の経済合理的行動に伴う石油火力等電源の退出傾向があると考えられる。
このような構造的要因が引き続き存在する以上、2020 年度冬季及び 2022 年3月の電力 需給ひっ迫は一過性のものではなく、引き続き同様の電力需給ひっ迫が発生する可能性が ある。
(3)今回の需給ひっ迫の要因に対する評価と対策の方向性
上記の通り、3 月 22 日(火)の東京・東北エリアにおける電力需給ひっ迫の直接的要因 は、3月16日の福島沖地震以降の火力発電所の停止、真冬並みの寒さによる需要の増大、 悪天候による太陽光発電の稼働率の低下といった、2022年3月の需給ひっ迫に固有のものが挙げられる。
しかしながら、その背景には、火力発電所の休廃止をはじめとする構造的要因があると見られる。したがって、今回の電力需給ひっ迫を一過性のものと捉えるのではなく、その 背景にある構造的要因にも着目しながら、今後の電力需給対策を検討することが重要であ る。
III.今後の対策
(1)対策の必要性と基本的な考え方
1今回のひっ迫を通じて明らかになった課題と対策の必要性
本委員会においては、2022 年 3 月に発生した電力需給ひっ迫の経緯とその要因について、 様々な角度から検証を行ってきた。結果として停電は回避されたものの、本委員会におい ては、電力需給ひっ迫に至るまでの事前準備や、当日の対応には改善可能な点が存在することが指摘された。
また、今回の需給ひっ迫の要因としては、地震や気温の低下といった、今回の需給ひっ 迫に固有のもののみならず、電力システム全体に関わる構造的な要因が存在することも指 摘された。したがって、今回の電力需給ひっ迫は一過性の出来事ではなく、今後も同様の 事態が発生する可能性がある。
以上を踏まえ、電力需給ひっ迫への事前の備えと当日の対応のみならず、その背景にあ る構造的な要因も射程とし、需要及び供給の両面から対策を進めていくべきである。
2需給ひっ迫の度合いに応じた需要対策の手法についての考え方
今回の電力需給ひっ迫に際しては、初の「需給ひっ迫警報」が発令されるなど、大規模な停電を回避するために、国及び一般送配電事業者から需要家に対する強力な働きかけを行った。また、任意の協力を求める節電要請のみならず、需要家のインセンティブに働き かけて電力需要を制御するビジネスモデルである「DR(ディマンド・リスポンス)」についても、電力需給の緩和に大きな役割を果たした。
結果として、東京エリアにおいては一日の総電力需要の 6%にあたる 4,400 万 kWh に及ぶ節電がなされるなど、国民全般の多大な協力が得られ、停電を回避することができた。 こうした経緯を受けて、電力需給対策を検討する上で、供給側のみならず需要側にも働きかける必要性があるということが強く認識されることとなり、本委員会においても、需給ひっ迫警報の運用やDRの在り方、また今回は発動に至らなかったものの、電気使用制限令、計画停電といった強制力を伴った手法の事前準備といった、電力需給ひっ迫に際して 需要側に働きかける仕組みについて、議論がなされた。
今回の事象を踏まえても、電力需給対策の観点から需要側へのアプローチを検討することは重要である一方、節電要請等の需要対策は、需要抑制に伴う負担・不利益を考慮しなければ、事実上限界がなく、需要家に一方的な負担・不利益を強いる節電は持続可能性に欠け、国民生活及び経済活動に悪影響をもたらすこともまた事実である。
このため、電力需給対策を検討する上では、まずは供給面の対策を最大限講じることとしつつ、需要面の対策は、対価の支払いを伴うDR等のほか、需要家の活動に支障を生じない範囲での緩やかな節電を基本とするべきである。
その上で、需給両面の対策を講じてもなお生じ得る需給ひっ迫に備え、法律上の電力の使用制限のほか、セーフティネットとしての計画停電について、事前の準備を進めることとする。
(2)需給ひっ迫への事前準備の高度化
今回の電力需給ひっ迫においては、国及び電気事業者から、需要家に対して最大限の節電を要請することをはじめとして大幅な需要抑制がなされ、結果として停電を回避することができた。実際の節電行動については、需要家による任意の節電協力に加えて、小売電気事業者へのアンケートから、DR も需要抑制に大きな貢献をしたことが確認されている。
DRの導入や、需給ひっ迫の際の需要家による適切な節電行動の周知については、電力需給ひっ迫が実際に発生するよりも前に、導入の後押しや情報発信を徹底しておくことが重要である。加えて、今回は発動されなかったものの、電気事業法に基づく使用制限令についても、万が一必要性が生じた場合に発動ができるよう、事前の準備を進めておくことが重要である。
1経済 DR 導入促進に向けた対策の検討
今回の電力需給ひっ迫を受けて、資源エネルギー庁が小売電気事業社約750社にアンケートを行った結果、「エネルギーの使用の合理化等に関する法律」第155条8に記載のある「需要の平準化に資する取組の効果的かつ効率的な実施に資するための措置の実施」について、認識している小売電気事業者は約 7.5割であったのに対し、実際に電気料金メニュー整備の対応をしている事業者は全体の約1.5割に留まっていた。また、回答のあった小売で電気事業者の大半(85%)はDRメニューを有しておらず、そのうち約3割の事業者は 実証実験を行うなどして、DR対応を現在準備中とのことであったが、残りの約7割の事業者は、主に「需要家が DR 対象として不適」「システムや人員等体制確保が困難」「具体的な 手法が不明」といった理由で、実施を検討していないことが分かった。
そもそも DR は、全体の需給改善に資するだけでなく、需要家にとっても料金高騰対策の手段となり得るものである。また、今夏・今冬の需給見通しや、既に明らかとなっている 先物市場価格の相場を踏まえれば、小売電気事業者としては、その市場価格高騰を避ける 手段を少しでも多く確保することが重要である。特に、先物価格も既に高騰している足下の状況において、小売電気事業者による DR は、比較的簡易な方法でも実践可能なリスクヘッジ手段の一つとなると考えられる。また、電力需給がひっ迫する際には、発電効率の低い火力電源等も稼働していることが想定され、DR を実施することで、結果としてそのよう な火力電源等の稼働を抑えることに繋がり、ひいては日本全体での燃料消費量の低減や CO2 の排出抑制にも繋がり得る。
今夏今冬に向けて実現可能な DR のあり方を構造的に整理し、今後の促進につなげるため、資源エネルギー庁では、先般の需給ひっ迫等において DR を実施した事業者複数社に、 取組内容に関するヒアリングを行った。その結果は以下のとおり。
・ 対象需要家毎に様々な契約が存在。旧一電小売、新電力問わず、多くがアドオン可能 な kWh 報酬型の DR を実施。報酬は、kWh 量に応じた対価支払い、電気料金割引、ポイント付与等様々。
・ 需給ひっ迫の発生に関する予測は、簡易的なものから独自のノウハウを含む自社予測まで幅広い。
・ 業務・産業用、家庭用等の需要家種別を問わず、一定のベースライン(High 4 of 59) を設定して節電量を評価し、未達時においてもペナルティは無しとする事例が大半。 うち回答があったのは220社。
8 エネルギーの使用の合理化等に関する法律(抜粋)
第 155 条 電気事業者は、基本方針の定めるところに留意して、次に掲げる措置その他の電気を使用す る者による電気の需要の平準化に資する取組の効果的かつ効率 的な実施に資するための措置の実施に 関する計画を作成しなければならない。 一 その供給する電気を使用する者による電気の需要の平準化 に資する取組を促すための電気の料金その他の供給条件の整備
9 各種取引におけるDR実施量(需要抑制量)を正確・公平に算定するための「標準ベースライン」と して「エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネスに関するガイドライン」において規定され ている。
ヒアリングを通じて、DR の実施に向けては、需給ひっ迫の発生に関する予測(DR 発動の トリガー)、ベースライン設定(DR 実施量の把握)、報酬設定(需要家へのインセンティブ) がポイントとなることが示唆された。
これらをどこまで精緻に実施するかによって DR を導入するハードルは変わるが、経済 DR の手法は一概に定義されるものではなく、小売電気事業者の創意工夫により、多様な形 で実施が可能である。そのため、需要家の属性や状況を把握し、それぞれに適した DR を検 討することが重要である。また、簡易的な DR であれば、システム等の構築に必ずしもコス トをかける必要はなく、実施のハードルは比較的低いと考えられる。特に、高圧需要家な ど、契約需要家数が比較的限られる場合には、簡易的な DR を実施することも可能である。 低圧需要家のように契約件数が多い場合には、DR 実施量の算定や報酬支払の仕組み構築に 工夫が必要となるが、DR 実施量算定等の外部サービスの活用も考えられる。
これらを踏まえ、小売電気事業者が今夏・今冬に向けて、各々実施可能な DR を検討して いくことを促進するため、資源エネルギー庁としては、図 51 のように整理した経済 DR の 実施方法等について小売電気事業者に幅広く周知すべく、勉強会を実施することとする。 また、多くの需要家に DR に協力していただくことが重要であるため、産業界への周知及び 呼びかけも併せて行うこととする。その上で、夏季終了後に DR の普及・実施状況について フォローアップ調査を行うこととする。
2 産業、 オフィス、家庭等の場面ごとに、ひっ迫度合いに応じた個別的な節電行動様式の提示
今回、需給ひっ迫警報の発令により、国や自治体等において、関係機関や事業者団体、 メディア等を通じ、様々なルートで幅広い需要家に対する節電要請が行われた。
ひっ迫を踏まえ実施した需要家アンケート(19 頁参照)によると、国から「需給ひっ迫警報」が発令されていることは、3 月 21 日(月・祝)以前の段階で約 5 割、22 日(火)の午前中までには 9 割の事業者が認識していた。加えて、需給ひっ迫警報により、約8割の事業者が普段と行動を変えた。
しかし、節電への協力意思はあるものの、具体的にとるべき行動や切迫度合いが分から ず、結果的に身近な取組に留まった事業者が多かったことが示されていた。
こうした需要家に対し、具体的な節電の取組と効果をあらかじめ示し、需給ひっ迫時に 速やかな節電の取組を促すことが需要。2011 年の東日本大震災後、資源エネルギー庁にお いて「節電アクション」を作成し、事業者及び家庭それぞれに向けて、具体的な節電行動 とその効果を提示した。
こうした「節電アクション」を参考に、求められる節電のレベルに応じ、個々の需要家が具体的にどのような節電行動を行うべきかどうか示すこととする。
3産業界の需給ひっ迫への対応の促進に向けた検討
今回のひっ迫に係る需要家へのアンケートでは、節電要請があった際に停止できる設備の選定や優先順位などの取り決めといった、需給ひっ迫への事前の対策をしている大口需要家がいることが確認された。こういった事前の対策や、電力需給ひっ迫時の連絡体制の構築などについて、業界ごとの対応を促すこととする。
4高需要期以外への対策
3 月は1月や2月と比較すると気象の厳しさが緩和しており、それに伴って、電力需要は小さくなる傾向にある。需給検証報告書において、10年に一度の厳しい寒さを想定した場合の最大需要は、東京エリアで比較すると、1,2 月は5,332万 kW、3月は4,536万 kW の見通しだった。
現在、電源I ́は夏季及び冬季の厳気象発生時等の需給バランス調整に用いるための調整力であり、各一般送配電事業者が毎年度公募によって調達している。2021 年度活用分について提供期間は夏季が2021年7月1日から2021年9月30日、冬季は2021年12月1日から2022年2月28日までであり、今回ひっ迫が生じた 3 月は提供期間外となっていたため、ひっ迫時には各一般送配電事業者から、任意での調整力提供を要請した。
3 月 22 日(火)時点では、すでに小売電気事業者や市場に拠出されており、一般送配電 事業者からの依頼に応えられなかったものも多かったと考えられるが、発動量(速報値) は東京エリアは 2.8 万 kW(内 2.3 万 kW は東京エリア内の電源)、東北エリアは 6.5 万 kW と契約容量と比較すると非常に小さかった。
なお、2024 年度以降においては、容量市場の発動指令電源が電源I ́と類似の役割を担 うこととなり、発動指令電源は通年での発動が可能となっている。
また、2021 年度冬季において東京エリアで不足する供給力の追加的確保策として、東京 電力パワーグリッドが主体となり、追加供給力公募を実施したが、提供期間は 2022 年 1 月 4 日から 2022 年 2 月 28 日までとなっており、3 月 22 日(火)には供給力の提供はできな かった。こちらも電源 I ́と同様 3 月は冬の需要最大期を過ぎることや、補修調整を反映 した厳寒 H1 需要に対する予備率の不足分(1 月:35 万 kW、2 月:55 万 kW)を確保するこ ととしていたためである。
こうした中で、2021 年度冬季においては、3 月下旬に需給ひっ迫が生じ、大規模な節電 要請に至ったことを踏まえ、今後の発電所等の補修点検調整や kW 公募等の追加の供給力対 策においては、需要が最大となる 7・8 月や 1・2 月以外の時期についても、従来以上に供 給力確保の状況を精査するとともに、必要な対策を検討する。
5電気使用制限令の事前準備
電気事業法に定める電気の使用制限は、1964 年の法制定時に措置されたものであり、1974 年の石油危機時と、2011 年の東日本大震災後の電力需給ひっ迫に際して発動された経緯がある。使用制限令の発動に当たっては、対象となるエリアや期間について省令で定める必要があるため、実際に需給ひっ迫が発生した時点において緊急的に発動することは困難であるものの、特定の時期及びエリアにおいて電力需給ひっ迫が発生することが事前にわかっている場合においては、需要抑制のための有効な手段となる。
使用制限令を発動するための省令の制定にあたっては、対象となる需要家への通知・連絡体制の構築、委任省令の整備など、国及び事業者において、事前に調整すべき事項が数多く存在するものの、前回発動時の 2011 年に比べ、電力システム改革の進展や新型コロナ ウイルスによる社会構造の変化など、発動の前提となる状況は大きく変化している。
こうした状況変化を踏まえ、電気使用制限令について、発動が必要な事態が生じた場合 において迅速な対応が可能となるよう、事前準備を進める。
(3)需給ひっ迫時における対応の高度化
実際に電力需給ひっ迫が発生した場合においても、効果的に情報を発信し、迅速な対応 ができるようにすることが重要である。今回初めて発令した「需給ひっ迫警報」のほか、 需要家への情報発信の手法や経路について、今回の電力需給ひっ迫を踏まえて見直しを行 う。また、あらゆる手段を尽くしても停電を回避することが困難となり、発動が不可欠と なった場合におけるセーフティネットとしての計画停電についても、必要な場面において 迅速に発動ができるよう、事前の準備を行う。
1需給ひっ迫に関する情 発信時期と方法の見直し
電力需給ひっ迫の可能性を伝える需給ひっ迫警報については、審議会におけるこれまで の整理の中で、前日 18 時を目処に発令とされていた。これは、通常、前日 12 時に事業者 から提出される翌日計画をもとに、一般送配電事業者が翌日の電力需給の見通しを前日 18 時頃に算定していることを踏まえたものであるが、今回、初めてとなる警報発令のタイミ ングは、これまで目処としていた 2 時間遅れの 20 時頃であった。警報の発令時期につい て、需要家の積極的な節電行動を促すためには、現行の仕組みで目処とする前日 18 時より 前に公表することが求められていた。一方で、警報の発令は、国民生活に大きな影響を及 ぼし得るという観点から、精度の低い見通しに基づく拙速な判断は避ける必要がある。
前日時点で、一般送配電事業者が需給見通しを作成するに際し、需給バランスに大きな 影響を与えうる事象は、スポット市場の約定結果と気象予報となっている。スポット市場 の約定結果は前日 10 時過ぎに判明し、スポット市場に基づく連系線潮流が決まるととも に、約定結果を踏まえて、発電事業者、小売電気事業者等が前日 12 時までに翌日計画を作成している。また、気象予報については、各一般送配電事業者において概ね 14 時のデータ を参照して需給見通しを策定している。
各一般送配電事業者においては、連系線潮流、各事業者からの翌日計画、気象予報、ま た 3 次調整力210の約定結果、系統制約を参照し、エリアの需給見通しを算定し、17 時 30 分までに電力広域機関に対し、翌日計画として提出している。電力広域機関では一般送配 電事業者から提出された翌日計画の内容を踏まえ、広域予備率の算定を実施し、広域予備 率としての需給見通しの公表を概ね 18 時頃に行っている。
このうち、3 次調整力2の約定結果と系統制約の算定については、3 次調整力2の現在の リソースはその大半が電源IIであり一般送配電事業者が事前に一定程度の把握が可能であ ること、系統制約は特異な事象がない限り現状では前日段階では大きく変わらないといっ た理由から、現時点では需給バランス算定に与える影響はスポット市場の約定結果等に比 較すると小さい。また、気象予報については、できるだけ至近の予報を用いることが望ま しいものの、ある時点までで参照可能な予報を使用することで一定の精度の需給バランス の算定は可能である。これらを踏まえ、前日 16 時目処に従来の整理と同じく、あらゆる供 給対策を踏まえても広域予備率 3%未満の際には警報を発令し、熱中症等健康に悪影響が 生じない範囲で最大限の節電の協力を促すこととする。
その際、従来の広域予備率の算定の流れでは、16 時の警報発令には間に合わないことか ら、広域予備率の算定が前日 15 時までには終了し、資源エネルギー庁に共有することがで きるよう、一般送配電事業者、電力広域的運営推進機関とともに検討を進める必要がある。 具体的には、沖縄電力を除く一般送配電事業者 9 社から 14 時頃までに電力広域機関に需給 見通しを提出し、電力広域機関において 15 時までに広域予備率の算出を行い、資源エネル ギー庁に共有する形とし、今夏から運用を開始すべく検討を進める。11
また、精度の高いアラートを直前に出すより、一定の余裕をもって早めに段階的に出す べきとの意見もあった。前日段階で警報発令の基準(広域予備率 3%未満)には届かないま でも、需給ひっ迫の可能性を事前に幅広く周知する観点から、あらゆる供給対策を踏まえ ても広域予備率 5%を下回る場合には、需給ひっ迫注意報を発令し、生活・経済活動に支障 のない範囲で最大限の節電の協力を促すこととする。さらに、前々日段階においても電力 需給ひっ迫の可能性を伝え、需要家や事業者が事前に需給両面の対策の準備時間を確保す るために、前々日 18 時頃に一般送配電事業者より電力需給ひっ迫準備情報を発信すること とする。
なお、前々日段階では、電力需要に大きな影響を与える天気予報を含め、必ずしも需給 見通しの精度は高くない。このため、具体的な節電行動を求めるものではなく、一般的な 情報提供とする。 基準となる予備率については、前日の警報・注意報と同様、広域予備率を基準とすること
10 FIT特例制度1およびFIT特例制度3を利用している再生可能エネルギーの予測誤差に対応する調整 力。実需給の前日に調達するもの。(募集対象期間:実需給断面1日、募集期間:前日の 12 時~14 時) 11 15時までに算定し、資源エネルギー庁に共有する広域予備率は、需給ひっ迫警報・注意報の判断基準 とするために、需給ひっ迫が予見される場合に追加的に対応するもの。通常の 18 時頃を目途に公表す る広域予備率の算出・公表は、上記に関係なく毎日実施する。が望ましいが、前々日段階では各事業者からの計画提出を含めた全エリアのコマ毎の詳細 な需給状況を一律にシステムで把握し需給バランスを算出することが現状はできないこと から、短期的には広域予備率の算定が困難となっている。そのため、注意報の基準を参考 としつつ、エリア予備率で蓋然性のある供給対策を踏まえても 5%を下回る場合に需給ひ っ迫準備情報の発信を行うこととする。
また、前々日については、従来、予備率を公表し、情報提供を実施する仕組みがなかっ たため、前々日の情報発信にかかる詳細も警報・注意報の発令と同様に、一般送配電事業 者、電力広域的運営推進機関とともに検討を進めていく。その際、エリア予備率の算定に は、需給ひっ迫が予見されるエリアの一般送配電事業者単独の需給見通しだけでなく、そ の周辺エリアの一般送配電事業者の需給見通しも、連系線活用の想定等の観点から確認・ 共有が必要になるところ、エリア予備率算定に関する具体的な一般送配電事業者や電力広 域機関の対応についても、今夏から運用を開始すべく検討を進める。
更に、ひっ迫警報の発令については、メディアを通じて広く周知が行われた一方、個々 の需要家において、具体的にどのような取組を行えば良いかがわからなかったとの声も多 い。警報については、具体的な切迫度を明確化した上でレベル別に発出し、切迫度合いに 応じて需要家に求められる節電行動を示すことが、より積極的な節電を促すことになると 考えられる。例えば、米国カリフォルニアにおいては、電力需給のひっ迫度合いに応じて 複数のアラートを出すこととし、あらかじめアラートのテンプレートが HP に掲載されると ともに、需要家に求められる具体的な節電事例を示すなどの工夫が行われている。 こう した事例も参考としつつ、警報等の発令フォーマットをあらかじめ定型化するとともに、 具体的な節電事例等を示すこととし、具体内容については検討を深めていく。
警報の発令方法は、2021 年度以前については事前に登録されているメディアに対して発令することとしていたが、SNS 等による情報発信手段の多様化を踏まえ、2022 年度は HP 等 を通じて行いつつ、SNS やプレス会見等により周知を図ることとする。
2自治体との連携体制の構築
今回の電力需給ひっ迫に際しては、警報の発令後、経済産業省から産業界や自治体に対して警報発令の旨を周知し、需要家への節電を要請したが、今後、節電の効果を一層高めるためには、需給ひっ迫における、前々日の準備情報、前日の警報/注意報、当日の警報/ 注意報の各段階において、それぞれ具体的なアクションに繋げられるように、産業界、自治体とも連携して、幅広く継続的に情報発信を行う体制を整備していくことが必要である。
3でんき の表示の見直し
2011 年 3 月に発生した東日本大震災により、複数の発電所が甚大な被害を受けた。震災直後、長期にわたって供給力が不足し、計画停電や節電要請など需要家への負担を始めとして、経済・社会活動への影響が生じる中で、計画停電の効果や節電の加減を測る指標として、各地域の電力需給の見通しや実績をでんき予報という形で公表してきた。
電力需給の実績として、主に電気使用率や使用電力、供給力を掲載しているが、使用電 力が供給力を上回る場合は、停電が発生するため、使用電力が供給力を上回るようなことは無い。
一方で、東京エリアで電力需給がひっ迫した3月22日(火)、当日の電力の使用状況を示すでんき予報において、10~15 時の電気使用率が100%を超えた。
これは、電気使用率の分子に相当する使用電力はリアルタイムに表示される一方、分母に相当する供給力はゲートクローズ(GC)時点の供給力が表示されるため、結果として、 GC 以降の当日の需要の上振れに伴う揚水の発電量増加が反映されなかったためである。
現実には需要を満たす供給力が確保されているにもかかわらず、100%を超える電気使用 率を表示することは誤解を招く。このため、当日の供給力の増加を反映することにより、 電気使用率の表示は最大 100%とする。
また、電気使用率が 100%となるときに、100%の表示だけでは需給のアンバランスによ る停電が発生しているか分からない。そのため、100%表示の際は需給のアンバランスによ る停電発生の有無についてコメントを記載する。
4計画停電の事前準備
計画停電は、あらかじめ定められた区域割りに沿って人為的に停電を起こすものである。 東日本大震災直後の電力需給ひっ迫を受けて東京電力管内で実施されたものの、国民生活や経済活動に与える影響は多大であり、大きな社会的混乱が生じた。このため、東京電力は、2011 年度夏季に向けた需給対策において、計画停電は原則不実施とする方針を公表した。国においても、2012 年 6 月 22 日に開催された「電力需給に関する検討会合12及びエネルギー・環境会議」において、需給ひっ迫時の「需給ひっ迫警報」を発令することを定めるとともに、「セーフティネットとしての計画停電について13」を公表し、この中で、計画停電については、万一に備えた準備であり、「不実施が原則である」と整理した。その後も、 2017 年 10 月 24 日の本委員会においても、計画停電は不実施が原則であるが、万一の際の備えという位置づけのもと、計画停電に関する考え方を各一般送配電事業者が整理1415し、 各社のホームページを通じて公表している。
一方で、今回の電力需給ひっ迫においては、節電が不十分であったときに生じ得る予測 不能な大規模停電は課題が多く、国民生活及び経済活動の安定性を確保する観点から、あ らかじめ停電区域が明確になる計画停電の準備を進めることにより予見可能性を確保すべ きとの意見もあった。
こうした中で、今回の需給ひっ迫を踏まえ、従来、原則実施しないこととされてきた計 画停電の準備の在り方について検討を行う。
(4)需給ひっ迫回避に向けた構造的対策
今回の電力需給ひっ迫には、電力需給構造の長期的な変化という構造的背景が存在する。 電力需給ひっ迫が発生した場合の対応は依然として重要である一方、電力需給ひっ迫の発 生を回避するため、これら構造的課題への対処も、併せて進めていく必要がある。
1供給力の維持及び管理 a)発電所の休廃止に関する事前届出制の導入
再生可能エネルギーの導入量拡大に伴って、その出力変動に対応する調整電源、供給力 不足が見込まれる場合のセーフティネットの重要性が高まっている。一方で、近年、事業 採算性が悪化した電源の休廃止は増加し、安定供給に支障が生じるリスクが高まっている。
2021 年度冬季においては、2022 年 1 月、2 月に東京エリアで安定供給に必要な予備率を 確保するために、東京電力パワーグリッドにより追加の供給力公募を実施して、安定供給 に必要な予備率を確保することができた。
従前の発電事業変更届出は事後届出であり、発電事業用の電気工作物の出力等に変更が 生じた後に届出がなされていた。供給計画は計画段階で、今後 10 年の供給力の見通し等を 把握する制度だが、変更が生じた後の届出で足りるため、発電設備廃止のタイミングに非 常に近い時期に出される例が散見される。
追加の供給力公募は、電源の再稼働にかかる時間との関係から、一定のリードタイムが 必要。従前の事後届出では、発電設備の休廃止による供給力の減少を事前に把握できず、 追加の供給力公募等の必要な供給力確保策を講じる時間を確保することができない恐れが あった。
総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 第 5 回電力・ガス基本政策小委員会(2017 年 10 月 24 日開催)において、万一の際の備えとして計画停電の考え方を改めて検討・公表することの必要性が確認された。
災害等に起因する大規模停電を回避するため最大限の取組を行ってもなお需給バランスの回復が見 込めないときは、最終手段として計画停電を実施することとしている。また、医療機関等の緊急かつ直 接的に人命に関わる施設等については、技術的に可能な範囲で停電による影響をできる限り緩和するよう、対象地域をグループ分けするなどの工夫を行っている。
こうした状況を踏まえ、一定規模以上の発電設備の休廃止について、発電事業変更届出 の提出を事後届出制から事前届出制とすることとし、こうした措置を含む法律16が 2022 年 5 月 13 日に国会で成立した。
10 万 kW 以上の発電設備の停止情報等については「適正な電力取引についての指針(令 和 3 年 11 月 5 日)」において電気の卸取引に関係があり、卸電力市場の価格に重大な影響 を及ぼす事実とされており、その発電設備の休廃止は需給上の影響も大きい。したがって、 本措置に基づき必要な供給力確保策を講じる時間を確保するため、10 万 kW 以上の発電設 備については休廃止予定日の 9 か月前までに届け出ることとする方向で検討を進めている (出力が 10 万 kW 未満の設備の休廃止については 10 日前までに届け出ることとする方向)。
稼働可能な電源を確保する kW 公募は、主に休止火力を対象とするものであり、公募に応 じるかどうかは、各発電事業者の判断に委ねられる。その結果、仮に公募を実施しても、 最悪の場合、応札ゼロとなる恐れがある。また、kW 公募が行われるかどうかは、その時々 の電力需給の状況によるため、公募に備えて休止電源が維持される保証はなく、事業者の 判断で休止中の電源が廃止される可能性もある。一方で、2024 年度からは容量市場での実 際の受渡が開始され、日本全体で必要な供給力が確保されることになる。その際、容量市 場が想定していない事象が生じ、供給力対策が必要となった場合に対象電源が十分に確保 できないということは、安定供給上、避けなければならない事態。そのため、一定期間内 に再稼働可能な休止電源を維持する枠組みについて、容量市場など既存の制度を補完する ものとして検討を進めていくこととする。
ii 電源IIIの実態 と発電実績の公表
脱炭素化の流れの中で、稼働率の低下等による事業性の悪化で火力の休廃止が増加して おり、調整機能を備えた電源が減少傾向にある。一方で、太陽光等の出力変動の大きい再 エネの導入拡大により、時間帯や季節により必要となる調整電源の量が大きく変動する結 果、調整機能の高い蓄電池や揚水発電とともに、調整電源としての火力の重要性が高まっ ている。こうした中で、減少傾向にある既存の火力電源の調整機能を最大限活用し、需給 ひっ迫時には出力を最大限高める一方、再エネの出力制御が発生するような供給余剰時に は出力を最大限抑制するための環境整備について検討していくことが必要である。例えば、 現状、一般送配電事業者からオンラインで調整を行えない電源IIIについて、発電余力をリ アルタイムで把握できる仕組みの導入や最適運用のための必要な情報の提供を促すため、 インセンティブあるいはディスインセンティブを設けることについて検討していくことが 必要と考えられる。また、既存電源の最大活用に向けて、平時から各発電所の発電状況を 可視化する観点から、一定規模(ex. 10 万 kW)以上の電源について、燃料調達環境等に影 響を及ぼさないよう配慮しつつ、発電実績を公開することについて、検討を進めていく必 要がある。例えば、発電実績の公開を可能とするためには一定のシステム費用が発生し得 るところ、その負担の在り方について、検討が必要である。なお、一般送配電事業者にお いて生じる費用については、託送料金で負担することになると考えられる。
自家発電設備は、自家発電を継続すること及び、今回のひっ迫時のように焚き増しによ る追加的な発電の両面において電力の安定供給に貢献しており、これらの既存設備を安定 稼働し続けることも重要。
このため、例えば、自家発事業者宛に、夏季及び冬季の高需要期に向けて予め、万全な メンテナンスとそれによる高需要期における設備の安定稼働、万が一の需給ひっ迫の際の 焚き増し等を求める要請を行う等、高需要期における安定供給確保のための自家発電の活用が重要。
昨年 2021 年1月上旬、断続的な寒波による電力需要の大幅な増加や LNG 在庫が減少した ことによる LNG 火力発電の稼働抑制を主因として、全国的に電力需給がひっ迫する事態が 発生した。これを踏まえ、発電事業者による燃料確保を促すために、2021 年 10 月に、燃料 調達行動の目安と、国・電力広域機関の取り得る対応や役割を示したガイドラインを策定 した。
また、2021 年度冬季における安定供給の確保のため、資源エネルギー庁では燃料ガイド ラインの策定に加え、燃料在庫のモニタリングとその情報発信、電力・ガス事業者をはじ め燃料調達を担う主要な事業者と資源エネルギー庁との間で、今冬の電気・ガスの需給の 見通し、燃料である LNG の調達・確保の重要性について認識共有を行った官民連絡会議の 開催、日本全体で燃料調達リスクに備える観点から、一種の社会的保険としての燃料対策 である kWh 公募等、日本全体で冬季に発電用の燃料を確保できるよう様々な対策を行って きた。
一方、足元ではウクライナ情勢が不透明さを増し、各国において対露制裁措置がとられ るとともに、日本においてもロシア産の石炭や石油の段階的削減を表明する一方、国際的 な燃料価格は引き続き高い水準を推移し、燃料調達リスクがかつてないほど高まっている。
高需要期において日本全体として十分な発電用燃料を確保することを指向する中で、こ のようなリスクがある中で、個社では十分な在庫を確保し続けることが困難な状況になる 可能性もある。このため、今後も機動的に kWh 公募を行う必要がある。
ただし、自由化された発電分野において、発電に必要な燃料の確保は基本的に発電事業 者が自らの判断で行うべきであり、託送料金の負担の下で行う kWh 公募は、事業者におい て取り切れないリスクに備えた補完的な位置付けとなる。
こうした中で、発電事業者による燃料確保をこれまで以上に促進するために、日本全体 での燃料確保の状況について事業者の予見可能性を高めることや、燃料ガイドラインに定 める燃料調達の規律の強化とそれに伴う費用負担の在り方等の検討が重要。
また、実際に燃料需給がひっ迫した際への対策として、燃料需給ひっ迫時に業界の垣根 を超えた燃料融通を行うための具体的なスキームが整備されることが重要であり、今後も 検討していくこととする。
2投資環境の整備
a)脱炭素 ークションにおける 火力の対象化の検討
2050 年カーボンニュートラルの実現と安定的な電力需給を中長期的に両立させていくた めには、電源の新陳代謝を進め、新規投資を促進していくことが不可欠である。脱炭素化 に資する新規の発電設備の固定費に係る収入を複数年にわたって受け取る新たな制度措置 の検討が進められているところであるが、今回の需給ひっ迫を踏まえ、対象電源の範囲の 拡大についても検討することとされた。具体的には、2050 年までに脱炭素化することを前 提として、一定期間内に限定し、脱炭素化がされていない電源についても、一部を対象と することで検討を進めていく。
b)容量市場の着実な運用
設備容量(kW)確保の観点では、4 年後に必要な供給力を事前のオークションにより効 率的に確保する容量市場は重要であり、効率性の更なる向上に向けて不断の見直しを行い ながら、着実な運用を行っていく。
c)発電事業の在り方を めた持続的な発電事業を可能とする制度環境の検討
自由化の進展や脱炭素化の流れ等を受けて発電事業を取り巻く環境は大きく変化してお
り、事業者の経済合理性に基づく判断供給力の減少が顕在化している。安定供給確保の観
点から持続可能な発電事業に必要な対策について、検討を進めていく。
3系統の柔軟性向上
揚水発電は、1950 年代以降の電源の開発を進める中、原子力発電所等の出力の調整が難 しいベースロード電源について、電力需要の少ない夜間の電力を有効活用するために全国 で開発が進み、現在 42 地点、合計 2,747 万 kW の発電出力を有し、2020 年時点で世界第二 位の規模を有している。発電量では、全体のうち約 1.3%を占め、2020 年度時点で約 110 億 kWh を発電している。
2011 年の東日本大震災以降、震災以前により原子力発電の稼働数が低下した結果、夜間 の電力供給が減少し、揚水発電に当初想定されていた夜間電力の有効活用という側面の役 割は低下したが、需要ピークに供給力を提供することで設備容量の効率化を図るという役 割を果たしている。また、近年、自然変動電源である再エネの導入拡大が進む中、電力需 要を供給力が上回る状況が発生しており、こうした供給力を活用して揚水により蓄電し、 夕方の需要ピークに供給力し、再エネの有効活用を図る重要な役割を果たしている。さら に、本年 3 月 22 日(火)には、福島沖の地震やトラブルによる発電所の停止によって供給 力が限られる中で、揚水発電が供給力を提供することで、東京エリアの停電を回避する役 割を発揮し、非常時の代替電源としての価値も評価された。
しかしながら、揚水発電は、揚水時に約 3 割のロスが発生することから、発電時には揚 水時に利用した電気料金の約 1.4 倍以上の価格差がなければ費用を回収出来ず、加えて設 備維持コストが大きいことから、他電源と比べて事業性の確保が難しく、停止や撤退のリ スクを抱えている。
他方、今後、再エネの導入拡大が一層進み、供給力の自然変動が大きくなる中で、再エ ネを有効活用できる蓄電機能の強化は必要不可欠であるとともに、揚水発電は火力発電と 比べて立地地域が異なることから、引き続き、非常時に供給力を提供できる電源としての 価値を有している。したがって、揚水発電については、維持及び機能強化していくための 具体的な方策について早急に検討を進める必要がある。
太陽光・風力等の再エネは、天候や時間帯等の影響で発電量が大きく変動するため、大量導入が進むと電力系統の安定性に影響を及ぼす可能性がある。再エネ導入が先行する地域では、これらの変動に対応できる調整力等が不足する可能性が指摘されており、再エネ導入の課題となっている。
系統側蓄電池は、その特性(瞬動性、出力の双方向性等)を活かし、再エネのインバランス回避や調整力の提供等を通じ、再エネ主力電源化にも資すると考えられる。
また、水電解装置は、再エネの余剰電力を吸収し別エネルギー(水素)へ転換すること が可能であるとともに、その出力を制御することで調整力の供出も可能である。
このため、系統側蓄電池や水電解装置について、現在実施中の導入支援措置のほか、制度面の整備等も含め、引き続き導入拡大に向けた取組を進める必要がある。
c)送配電網の増強検討におけるレジリエンス向上効果の確認
今回の電力需給ひっ迫において、東北・東京間及び東京・中部間の地域間連系線は最大 限活用されていたが、地域間連系線の増強によりレジリエンスの向上を図ることが、需給 ひっ迫の回避に効果的との見方もある。
こうした状況を踏まえ、今後の系統増強の検討においては、広域的取引の拡大による燃 料費・CO2 コスト削減等による便益評価のほか、例えば、東京中部間連系設備(FC/周波数 変換設備)の容量について、更なる増強によるレジリエンス向上効果についても確認する 必要がある。
おわりに
現下、世界のエネルギーを取り巻く情勢は大きく揺れ動いている。カーボンニュートラ ルの実現に向けた取組の必要性が強く認識され、我が国においても 2050年にカーボンニュ ートラルを実現することに向けて取組を進めることの宣言がなされた一方で、2022年2月に発生したロシアによるウクライナ侵攻により資源確保の不透明さが増すとともに、歴史 的な資源価格の高騰と円安により燃料調達コストが上昇するなど、エネルギーを巡り、数 年前には想定することが難しかった大きな変化が次々と生じている。
このような状況の中、前年度冬季に続く形で発生した今回の電力需給ひっ迫は、今後の電力需給の在り方に大きな示唆を投げかけた。本委員会において指摘されたように、今回の電力需給ひっ迫については、需給ひっ迫が発生した当日の対応や、需給ひっ迫に対する 事前の備えに加えて、需給ひっ迫の背景にある、電力需給を取り巻く構造的な要因がある。 したがって、万が一需給ひっ迫が発生した際への備えを万全としつつ、需給ひっ迫を未然 に防止しうる需給構造を構築することが何よりも重要である。このような立場から、本委員会においては、今回の需給ひっ迫に係る事実関係や原因について徹底的な検証を行い、 今後の政策検討の方向性をできる限り明瞭に示すことを試みた。
足元では、本年 3 月に電力広域機関により示された供給計画の取りまとめにおいて、今年度の電力需給について、昨年度以上に厳しい見通しが示されている。今回の検証取りまとめで示した対策については、需給ひっ迫への備えと構造的対策の両面において、可及的速やかに実行していくことが重要である。そして、そのためには、政府のみならず、電力システムに参加する全ての事業者においても、適切に備えを行っていくことが不可欠である。なお、このことは、電力システム全体の安定のために重要であることに加え、それが 各事業者の経営の安定化にとっても不可欠なものでもあるということを申し添えたい。
他方で、長期的には、電力システム全体に関わる大きな論点についても、着実に取組を 進めていく必要がある。敢えて付言するまでも無いが、冒頭述べたようなエネルギーを取 り巻く大きな環境変化が発生したとしても、エネルギー政策が「S+3E」の実現を基本方針 とすることが変わることは無い。冒頭に述べたような予測不可能な変化が立て続けに起こる中、電力を巡り、関係者に求められる判断は高度化している。本検証取りまとめにおいて「構造的対策」として示した一連の対策は、複雑性を増す情勢の中、「S+3E」を満たす電力システムに少しでも近づくための手段となる。
今回の需給ひっ迫を受けて、本委員会においては、今般の事象と今後の対策について、5 回にわたる集中的な検証及び議論を行ってきた。本検証取りまとめを踏まえ、国、電力広域機関及び電気事業者それぞれにおいて、より望ましい電力システムの在り方のために対策を進めていくことが求められる。