電気料金はどうなる その2 電気料金制度の歴史から〜新電力の過酷な現状・原発再稼働論に反対!
公共財としての電力
第二次世界大戦前の日本は、電力は国家による一元的な管理体制でした。第二次世界大戦後、民営化され、9つの地域に分割し、沖縄返還とともに日本全国10社体制として独占的に電力供給が行われるようになりました。
1990年代の世界的な規制緩和の流れの中で、日本の高コスト構造・内外価格差の是正を目的に競争原理の導入が求められるようになりました。1995年4月に電気事業法改正後も電気事業法は何度も改正されてきました。
自由化前は、全国を10の供給区域に分けた各地域の電力会社(一般電気事業者)が独占して家庭や商店向けに電力供給を行うことが、電気事業法で義務付けられていました。また、発電所の建設に伴う設備投資の資金を回収する目的や安定供給を行うために、経済産業省によって電気料金の認可制(値上げは消費者庁との共管事項として消費者委員会の答申を経ての許可制)が取られていました。公益的観点から電力の安定供給を目的とした電力の独占供給が認められ、電気料金は総括原価方式のもとで収益確保が保障されている反面、規制料金であることで消費者(需要家)保護がされてきたのです。
電気小売の自由化〜特別高圧から小売完全自由化まで
電気事業は「2001年を目標に、コスト水準を目指し、電気事業のあり方全般について見直しを行う。」(経済構造の変革と創造のための行動計画)ことを目指して、2000年3月に最初の小売自由化がスタートしました。最初に大規模工場やオフィスビルなどが対象となる「特別高圧」から電力会社を選ぶことができるようになりました。その後、2004年4月・2005年4月と「高圧」区分が自由化となりましたが、2011年3月11日の東日本大震災を経て、電力システム改革が開始され、2016年4月に「低圧」区分が自由化となってことで電力小売完全自由化となり消費者は電力会社を自由に選択することができるようになりました。
電力システム改革と小売電気料金の自由化
2015年6月に電気事業法等の一部を改正する等の法律が国会で可決し、2016年4月1日以降は小売が完全に自由化され一般電気事業者の電力供給義務が一部を除いて外されることになりました。さらに、完全自由化により競争力が十分でなかった場合の電気料金高騰が危惧されるので、小売電気事業者の競争が十分に発展するまでの間は消費者保護の観点から、2020年3月までは従来の電気料金プランや認可料金制は残ることになっていました。しかし、消費者団体の強い要請等もあり、2019年7月に2020年4月以降も経過措置料金が継続される事が決定され、現在も規制料金の完全撤廃時期は未定となっています。
電力自由化によって、さまざまな業種の企業や新規参入による電力販売が可能になりました。電気とガス、通信などの併売が可能となりました。エネチェンジなどの価格比較サイトなどもできました。
FIT制度により再エネ発電所の普及が進み、小売電気事業者も増えました。電気料金をどう決めるかこれまでは特定の地域だけにしか供給ができなかった一般電気事業者も、地域の枠を超えて電力を販売することができるようになり一般電力事業者間の競争や合従連衡が進みました。一般企業も、電力小売事業に参入できるようになりました。消費者にとっては、これまでよりも安い電気料金プランを選ぶことや、新電力会社のサービス利用が可能となるなど、多くのメリットが期待されました。
新電力の競争力は〜撤退や倒産は不可避?
電力の安定供給と電力需給逼迫
2021年1月10日、九州電力エリアなどで、でんき予報は100%を超え、深刻な状況に陥りました。需給ひっ迫の主要因は、大手電力各社による火力発電燃料のLNG(液化天然ガス)の調達量不足によるものでした。この時、電力業界が節電要請を求めても、国は要請の発出を渋ったとされています。2021年12月から2022年1月にかけてに逼迫は、地震による発電所の損壊と低気温という分かりやすい原因が引き金だったため、需給ひっ迫警報が発出されました。経産省が需給ひっ迫警報を出すのは初めてでしたが、電力需給が起きるのは初めてではなく、電力の安定供給は非常に危うい状況にあるということです。
需給ひっ迫警報の発出基準は、予備率が複数エリアで3%を下回ること。日本の場合、予備率は8%あれば十分だとしてきました。「欧米では15%程度は確保しておくのが当たり前。日本は高度経済成長期に発電所建設が追い付かない状況が続き、予備率の水準が低いままここまで来てしまった経緯があると言われています。識者は「エリアで最大規模の発電所が落ちても停電が起きないように、発電所は分散配置して備えておくのが世界の常識だ。しかし、日本は発電所立地の難しさもあり、1カ所の発電所の規模が大きすぎる」と指摘する。
例えば、2018年に北海道でブラックアウトが発生したのは、地震発生時に北海道電力・苫東厚真火力発電所がエリア需要の半分近くを賄っていたことに起因します。立地の難しさから発電所の規模を大きくせざるを得ないのであれば、あらかじめ送電線を増強し、全国大の融通が柔軟に行える体制にしておくべきだったとされています。
新電力の多くが調達価格が販売価格を上回る「逆ざや」に陥り、撤退・倒産が増えました。帝国データバンクによると、昨年度の倒産数14社、撤退数は31社(うち14社が倒産)あったとされています。
2022年3月22日に東京および東北エリアで電力需給ひっ迫が発生し、初めて「需給ひっ迫警報」が発令されました。国の指針では、撤退・廃業する電力会社は遅くとも15日前には利用者に電力供給の契約解除日を知らせることになっています。利用者は解除日までに新たな電力会社と契約すれば、引き続き電力を使うことができることにはなっています。解除日を過ぎて「無契約」の状態になっても、各地域の一般電力会社が電力を供給する仕組みになっているので、すぐに電気が止まることはありませんが、無契約が数カ月続くと、電力は止まります。撤退・倒産する新電力の中には、別の電力会社に契約を引き継ぐことがあり、この際に料金が以前より上がってしまう事例があります。例えば、エルピオ社(千葉)は、2016年に電力小売り事業に参入。割安な電気料金プランで「格安でんき」を売りに顧客を増やし、北海道や沖縄などを除く幅広い地域で電力を供給してきました。しかし撤退により、電力会社の契約変更が必要になる顧客は10万件以上に上るとみられています。
こうした中、どの新電力とも契約を結べなかった企業が「最終保障供給」と呼ばれるセーフティーネット制度を利用する契約が急増し、関西電力管内ではことし3月末の時点で、637件になりました。
これは、ことし2月の92件と比べるとおよそ7倍、電気料金の上昇が始まった去年9月の9件と比べるとおよそ70倍の水準で、企業向けの電力の小売りが自由化された2000年以降、最も多くなっています。
大手電力の子会社の送配電事業者が提供する「最終保障供給」のプランは、標準的な電気料金よりもおよそ2割高く設定されていて、企業が別の電力会社を見つけるまで一時的な契約を結ぶのが一般的です。
しかし、エネルギー価格の高騰で関西電力も、新電力を離れた企業からの契約の切り替えの受け付けを事実上停止するなど、電力の小売りが自由化された結果企業の選択肢が狭まる、異例の事態となっています。
大手電力会社が、企業など法人向けの新規契約を事実上停止しています。ロシアによるウクライナ侵攻などで燃料価格が高騰し、電力の調達コストが上昇しているためだと説明されています。電気料金を大幅に上げる新電力会社の顧客からの問い合わせが急増していますが、大手電力も余裕はなく、赤字で電気を売る事態を避けようとしているのです。
大手10社のうち北陸電力、関西電力、四国電力、九州電力の4社が停止をしています。2022年3月から止めている北陸電力は「新電力から戻ってくる分は断っている。市場から電力を調達すると価格的にメリットがある提案ができない」と理由を説明しているようです。四国電力は「ウクライナ情勢が不透明で、適正な価格設定や十分な供給力の確保ができない」としているようです。
ほかの6社も交渉には応じるものの、割高な価格を提示して契約に至らないケースがあるといいます。中国電力は「お客が納得できる料金設定にならず、契約が成立しない場合はある」としているようです。
大手新電力も影響を受け撤退?
2011年に設立された丸紅新電力は、大手電力会社以外で700社以上ある「新電力」業界で、トップ20に入る大手新電力です。2020年末から21年初めに襲った寒波による電力需給逼迫で、顧客に販売する電力を仕入れる日本卸電力取引所(JEPX)のスポット価格は、1kWh当たり150円を突破するなど例年の10倍以上の水準まで爆騰しました。「逆ざや」による大量のキャッシュが流出しました。丸紅新電力は21年3月期決算で68億円の最終赤字を計上し、財務の健全性を示す指標である自己資本比率は4%を切り、業績を立て直せなければ債務超過に陥る恐れすら出ていたとされます。
エネルギー安全保障に遅れる日本
3.11から11年が経過しても原子力を塩漬けにし、再生可能エネルギーの導入を後押しし、2050年のカーボンニュートラルを宣言するも、具体的なシナリオや施策は皆無といっていい状況が続いています。国は大手電力に対して、ひとたび事故が起きれば民間では負い切れない経営リスクをはらんだ原子力を背負わせたまま、電力自由化に踏み切りました。原子力の行方を何ら決めないまま、大手電力に原子力に維持させるという無理な前提が、電気事業制度や電力市場をゆがませているのです。
ロシアによるウクライナ侵攻によって、エネルギー安全保障への関心が世界的に高まっています。日本はLNG火力が電力供給に占める割合が高く、LNGは中東に依存しています。しかし、ロシアからの天然ガス輸出が途絶すれば、グローバルなLNG供給が深刻な状況になることは避けられない。図日本も沖な影響を受けざるをえません。
ウクライナ危機と停電危機に直面した今、塩漬けの原子力問題を整理し、再生可能エネルギーをさらに導入しながら安定供給を担保するための仕組みに逃げずに取り組むことが、結果的にエネルギー安全保障と脱炭素の両方を担保する道になるはずです。2050年の脱炭素目標までにどんな道筋をたどるのか、現実的なシナリオを国民に示し実行すべきです。日本は制度設計や市場整備が遅れており、現時点ではDRなど需要側での対応は難しい状況を改善すべきです。
監視委員会は市場を監視しているといえるか?
Foeno質問に監視委員会は以下のように回答しています
「2021年度冬の卸電力市場価格の上昇は、燃料価格高騰等に起因するものですので、発電量の多くを火力発電により賄っていることに鑑みれば、市場として自然な動きともいえると認識しております。また、こうした卸電力市場価格の上昇は、日本だけではなく、諸外国のスポット市場においても生じていると認識しております。したがいまして今般の価格上昇の一事をもって、卸取引市場の市場設計に問題があるとは考えておりません。
いずれにしましても、当委員会においては、健全な競争環境を確保するため、引き続き厳格な監視を行うとともに、市場参加者が適切な値決めを行えるよう、さらなる情報公開に取り組んで参ります。」
監視委員会を監視する必要がありそうです。消費者庁に至っては回答もできないようです。
なぜ電気料金が上がるのか?その3割を占める託送料金は規制料金ですが、政策コストや制御不能コストが上乗せされている疑いがあります。非化石証書制度や容量市場制度も原発や水力に寛容で新電力には高負担を強いるものとなっています。非対称的な競争により新電力が倒産しひいては消費者の選択権の影響が起きているのが現状です。
電力自由化により消費者が声を出せる機会が狭められている今、ウクライナ情勢や原発再稼働などの報道に惑わされることなく電気料金値上げが簡単にされないように私たちの生活防衛のために何をすべきか、真剣に考える時です。
(古賀 真子)