コロナ対応を考える その63 実行再生産数とは?第6波にどう備える? ハンガリーからの提言
オミクロン株への対応に奔走しているかのような日本ですが、感染数は減少の一途を辿っています。それでも3回目の接種や子どもへの接種が必要だとの報道がされていますが、実際のところ第6波が来た場合にワクチンで予防することは限界があることは明らかになっていると言えるでしょう。日本のコロナ対策はどこdおかしくなったのか、今回は実効再生産数の考え方について、立山R & D ヨーロッパ KFT.の 盛田常夫さんからのハンガリー通信「個人通信からの転載」をご紹介します。以下引用転載です。(太字は古賀)
ハンガリー関係者の皆さん
ハンガリーでは連日、1万人を超える新規の感染者、200名近い死者が報じられています。一段落するまでに後2週間程度必要だと言われています。ただ、新規の感染者が増えている割には、社会的緊張度が高まっていません。一つには子供の感染者が多く、自宅療養している人が多いので、医療崩壊のような状況にはないことがあるようです。しかし、高齢者や基礎疾患を持つ人の死亡が増えており、ワクチン接種でも免疫が充分に生成されない人が犠牲になっていると思われます。
ヨーロッパ全体は一時的部分的なロックダウンはあっても、鎖国を選択していません。ウィルスを絶滅させることができない以上、どうやってウィルスと共存していくかがテーマになっています。ウィルスの死滅を待っていれば、社会生活が死滅してしまいます。それでは意味がありません。そのために、ワクチン接種が行われているのですから、ワクチン接種を完了した人、十分な抗体が生成された人を中心に、社会を動かしていくという明確な社会生活方針が提示されてしかるべきです。
日本のように、一律に渡航を禁止すれば政治家は批判を受けることもないでしょう。しかし、それでは社会生活が枯渇してしまいます。接種を奨励するなら、接種を完了した人から、自由な社会生活に戻るという明確なメッセージがなければなりません。一律に禁止するのではなく、2回の接種を終えた人の場合には、渡航前、到着時、到着から3日あるいは5日目のPCR検査や抗体検査で陰性反応がでれば、後は自由行動を許すべきでしょう。接種を推奨するなら、接種を終えた人の行動の自由を束縛すべきではありません。
Covid19の感染力は高いですが、毒性(致死率)はインフルとそれほど変わりません。それをあたかもエボラ熱のように、感染したことが悪で罪であるかのように騒ぎ立てるのは奇妙です。添付したファイルは人類がこれまで苦しんできたウィルスやバクテリアごとの、感染力(再生産数)と致死率(治療しなかった場合の死亡率)の相関を図示したものです。ベースになっているのいろいろな医学雑誌で紹介されているDavid McCandless氏が2016年に作成した図ですが、それにハンガリーの研究者がCOVID19を挿入した図を添付ファイルに収めました。ただし、ハンガリーの研究者が挿入したCovid19の再生産数は昨年春の段階のもので、きわめて高く表示されています。いわゆる「8割叔父さん」の西浦教授が採用した再生産数2という高い数値を採用しています。しかし、この数字はきわめて特殊な集団に当てはまる数値だと理解する必要があります。
さて、そこで問題になっている「再生産数」ですが、この理解をめぐって、専門家自身が誤って解釈していると思われる言動が多々あります。それは、西浦教授の8割隔離を提唱した時の感染計算にも現れています。
① 日本と韓国の感染状態を比較した専門家が、「原因」の一つに再生算数の違いを上げていました。これはたいへん奇妙な議論です。「日本の再生産数が低いから、感染力が低い」という主張は、トートロジーです。これは原因の説明ではなく、結果の説明です。なぜ、再生産数が低いのか、その原因が求められているのです。原因と結果の明確な論理的区別ができない議論が、専門家の間でも横行しています。
② 西浦教授がその主張への批判を受けたときに、「世界のどの専門も使っている数式を利用している」と反論しました。ここにこそ、西浦教授の誤りがあります。世界共通の数式で、個別社会の感染力が測られると考えるのがそのそも間違いです。ウィルスやバクテリアの再生産数はあらゆる要因から独立した数値ではなく、社会環境に依存した数値です。問題はその社会環境をどのように分析するかです。健康保険の状況、公衆衛生観念や状況、医療水準・環境、人種、社会集団、地域、季節などの多くの要因によって、再生産数は異なります。したがって、1国全体の再生産数などと言う数値は、たいんなる平均以上の意味を持ち得ません。ところが、多くの数理統計学者は社会的要因を無視して、部分的な現象だけにもとづいて、それを一般化する傾向があります。そうなれば、社会的要因を無視したたんなる数理統計計算の世界になってしまいます。これは医学でも社会分析でもなく、単なる計算式です。こういう計算が何の役にも立たないことを証明したのが、西浦教授の提言です。
ただし、社会的要因を分析するのは簡単ではありません。政府は一時期、社会問題の分析家を専門家集団に入れるべきだという批判を受けて、ゲーム理論を専攻している経済学者を委員会に入れましたが、これもピント外れな選択です。ゲーム理論を先行している専門家は社会要因を分析する専門家でないだけでなく、そういう分析をもっとも苦手にする専門家だからです。
③ 再生産数の計算問題は、Covid19にたいする対応に現れています。全体を一律に統制するのは再生産数を一般的な数値だと誤解することにもとづいています。感染力が強くなる状況や要因、地域を明確にし、さらに重症化する恐れのある基礎疾患を持つ人や免疫活不全の人々の隔離を徹底した上で、可能な限り自由な社会活動ができるような態勢を探るという方向に、社会生活方針を転換する必要があります。批判をおそれる政治家や官僚は、一律に規制しておけば批判を受けないでしょう。しかし、それでは社会を動かしていくことにはなりません。慎重にやれば良いのではありません。社会生活の活性化をどうやって実現するの、それを指揮するのが政治家でしょう。
コロナ感染によって絶対に避けるべきは,重症化リスクです。このリスク回避を徹底しながら、他方で社会生活を正常に戻していくという明確な社会方針が示されるべきです。たんに鎖国すれば良いというのは、解決策ではありません。