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もっと知りたいフッ素の話 その54 妊婦がフッ素を摂取すると子どものIQに影響

秋庭さんからのフッ素に関する最新情報です。

タイトル:ベンチマーク用量分析による妊娠中の母親の尿中フッ素濃度とその子どものIQ

(A Benchmark Dose Analysis for Maternal Pregnancy Urine-Fluoride and IQ in Children )

                     原文は雑誌Risk Analysis:08 (改定16)June

2021 https://doi.org/10.1111/risa.13767

フィリップ・グランジュアン:ハーバード大学、環境衛生、ボストン、USA

リフカ・グリーン:ヨーク大学、健康学部、オンタリオ州、カナダ

マルタ・マリア・テレサ-ロジョ:国立公衆衛生局、中央公衆衛生調査部、メキシコ

ピーター・ソン:ミシガン大学、公衆衛生学部、生物統計学科、ミシガン州USA

ほか6名

 

要約

妊娠時のフッ素(fluoride)濃度注)の安全な暴露レベルは定まっていなかった。我々はベンチマーク(基準)服用量モデルとして2つの前向きコホート研究のデータを使用した。

我々が扱った研究は、メキシコの環境毒性物質調査の一環である母子への天然フッ素暴露群(ELEMENT)とカナダの環境中化学物質である人工的な水道水フッ素添加による母子暴露群(MIREC)である。

子どもの年齢はメキシコの研究では4歳(211人)、6~12歳(287人)、カナダの研究では3~4歳を対象としてIQを評価した。

我々は、母親の尿中フッ素濃度と子どものIQとの関係を探るため、共変量補正回帰分析と標準誤差を用い性差による影響も考慮して計測をした。

IQの1ポイントに相当する母親の尿中フッ素濃度を想定して、ベンチマーク濃度(BMCs)と信頼限界の下限値であるフッ素濃度(BMCLs)を推定した。

これら2つの研究結果では、回帰直線からの逸脱は検出されなかった。

回帰直線の勾配では、未就学男女児童(3~4歳)のIQを1ポイント下げる母親の尿中フッ素濃度(BMC)は0.29mg/L(BMCLは0.18mg/L)あった。

カナダとメキシコの年長者(6~12歳)を含めIQを1ポイント下げるベンチマーク濃度(BMC)は0.30mg/L(BMCLは0.19mg/L)であった。

男子のBMCは女子に比べ僅かに低かった。

2つの前向きコホート研究によると、母親の尿中フッ素濃度は普通の集団に見られる濃度で、BMCLは約0.2mg/Lまたはそれより若干低い濃度である。

これらの結果は、フッ素の悪影響を受けやすい集団の過剰暴露予防の指針となり得る。

注)歯科ではfluorideをフッ化物、フッ素はfluorine と訳しているが、フッ化物はフッ化ナトリウム(sodium fluoride)の様に化合物として表記するので、ここではフッ素と訳す。

解説)

2021年6月の時点で、フッ素とヒトの知能に関する研究は77ある。このうち69研究がヒトでのフッ素暴露濃度の上昇とIQ低下の関係を見いだしている。一方60以上の動物での研究が、フッ素暴露による記憶、学習能力の障害を報告している。

ヒトの研究によるIQ検査は、子ども26,142人((上記メキシコとカナダ論文を含む67研究)と成人245人(2研究)であり、胎児を含む生命初期でのフッ素暴露は子どもの発育中の脳に障害を強いることを示している。

なおフッ素とIQの関係が見られなかった8論文については検討がなされている。

 

上記の原著論文は、2021.6/8に初版、6/16に改定版として雑誌リスク アナリシス(the Journal of Risk Analysis)に掲載された。極低濃度のフッ素が妊娠中胎児の脳の発育を害し、集団レベルでは今のところ鉛、水銀、ヒ素以上の障害を与えるかもしれない。

水道水フッ素化地区に居住するカナダ住民(3~79歳)の尿中フッ素濃度(1.06mg/L)は、この研究で明らかにされた妊婦の尿中フッ素濃度である0.2mg/Lの5倍以上であり、IQを1ポイント下げるに十分な濃度である(Juria K.Riddell et al.Environmental Research and Public Health.2021.18,6203.across Canada)。

「IQの低下が起こるのはフッ素化濃度(0.7ppm:2011年以前は虫歯予防に最適な濃度は0.7~1.2ppmとしていた)よりずっと高い濃度だけである」というフッ素化推進派の間違った主張に対して、ベンチマーク濃度による評価は終止符を打つであろう。実際、フッ素化地区の妊婦の尿中フッ素濃度は、推定によるベンチマーク濃度の約4倍(0.74mg/L)高い濃度である (Dawud Abdweli Uyghurturk et al.Environmental Health.2020,19:38.Northern California )。

グランジュアンらが用いたコホート研究は、NIHの研究資金によるメキシコ(ELEMENT)とカナダ(MIREC)Mother-Offspring studies (Bashash, 2017 and Green, 2019)である。

ベンチマーク用量分析は、害を引き起こす濃度(この場合は1ポイントのIQ低下)を決定するために使われる。EPA(合衆国環境保護庁)では、他の物質のリスク評価でもこのベンチマーク(1ポイントのIQ低下)が使われてきた。1ポイントのIQ低下は、一生涯に18.000ドルの所得を損失することが立証されている。(以上、FANニュース6/16 2021より抜粋)

「年間1ドルで年間38ドルの歯科治療費を節約できる」がうたい文句の水道水フッ素化も大きな出費となる。

 

  • ベンチマーク(Benchmark):もとは測量の水準点、評価の基準、指標

ベンチマーク用量(benchmark dose、BMD)の概念は、Crumpらにより発表され、その後、リスク評価に関連して、アメリカの環境保護庁(EPA)や、WHOの環境保健クライテリア等において取り上げられ、近年非常に注目されている。この方法の第一歩は、まず有害物質等の曝露量を横軸に、有害影響のリスクを縦軸にとり、量-反応曲線を算出することである。この量-反応曲線が有意である場合には、量-反応関係が成立し、疫学的な因果関係の強固性を示すとされる。さらに、この量-反応曲線における、バックグラウンド、すなわち非曝露群における有害影響のリスクから、一定の上昇が見込まれる曝露量がBMDである。この、一定のリスクの上昇はbenchmark response (BMR)と呼ばれ、通常5%、10%とされることが多いが、発がんなど影響の有害性が強い場合にはより低い値が用いられる。さらに、BMDの確率的な変動を考慮するため、Benchmark Dose Low(BMDL)として、BMDの95%信頼区間の下限が算出される。

これまで、リスク評価における基準値、許容値の算出のための出発点として、最大無有害影響量(no observed adverse effect level、NOAEL)が用いられてきた。NOAELは、非曝露群と比較して、有害影響のリスクの上昇が有意に認められない群のうち最も大きい曝露量のことである。その算出においては、複数の群に対し、それぞれの曝露量と標本数を設定する必要があるが、曝露量の値の設定や、各群の標本数に依存する検出力の変動が、NOAELに影響する可能性がある。また、得られた結果について、どの程度のリスクが見込まれるのかが明瞭でなく、NOAELを超えた曝露領域における量-反応関係も結果に反映されない。さらに、例えば日本人の一般環境からのカドミウム曝露のように、一切曝露のない非曝露群の設定が困難な場合があり、その代わりに「非曝露群」として比較される非汚染地の対照群の曝露レベルがNOAELに与える影響も考慮する必要がある。

参照

  1. ベンチマーク用量の概念とリスク評価における活用について|千葉産業保健総合支援センター 
  2. EPA ベンチマークドース・テクニカルガイダンス 2012年6月 EPA/100/R-12/0012)

 

 

 

 

 

 

 

本文p12図1

妊娠中の尿中フッ素濃度(横軸)と非フッ素暴露の子どもと比べたIQ低下(縦軸)との関係

結論:他の方法に比べlinearが近似として妥当である。縦軸1に横軸0.3mgが対応する。

   BMCL(下限値)は0.2mgである。

 

linear:実線(単回帰直線)piecewise linear:破線(区分線形関数)squared:点線(2乗法)

0.75mg/L(0.7ppm)に破線の転換点(breakpoint)があり、フッ素濃度の影響が増す。

 

2)共変量補正回帰分析:Covariateajusted  regression coefficients

共変量(Covariate):影響を統制する対象となる剰余変数のこと

誤差=系統誤差+偶然誤差

系統誤差:被験者の反応(IQポイント)に一定の規則的な影響を及ぼす実験変数以外の

剰余変数による変動 

メキシコ:家庭環境、妊娠月齢、出生時体重、性、出産年齢、喫煙歴、教育程度など 

カナダ :同上のほか、居住地、人種など

IQ評価に関する標準回帰モデル式(本文p5)、但しモデルの適合度のチェックが必要。

IQ=α+α×covariate―――+α×covariaten+f(c)+ε  

標準誤差(ε):推定精度を表す指標(推定量の標準偏差:推定量のバラツキ) 

標準偏差:測定値から平均を引いた値(偏差)の2乗和を測定値の個数で割ったものを分散といい、その正の平方根。バラツキの指標であり、小さいほどバラツキが少ない。      

 

3)尿中フッ素濃度とフッ素洗口との関係

総フッ素摂取量の約1/2が尿中に排出、つまりその2倍が総フッ素摂取量となる。

尿中フッ素量0.2mg/Lの総フッ素摂取量は0.4mg/Lであり、合衆国での水道水フッ素化濃0.7ppm(0.7mg/L)を成人は1日2L,子どもは1L飲用するとして、それぞれ飲料水だけで総フッ素摂取量は1.4mg,0.7mgとなる。上記論文の0.4mg(BMDLの2倍)を超える。

1ppm(1mg/L)の水道水フッ素化を飲用した場合の推定血中フッ素濃度と、虫歯予防の各種フッ素応用による推定血中フッ素濃度も推定可能である。

 

前掲論文:Dawud Abdweli UyghurturkらEnvironmental Health.2020,19:38.p4の表2より

飲料水0.7mg/L以下の地区:妊婦の平均尿中F濃度は0.52mg/L,血中F濃度は0.011mg/L.

飲料水0.7mg/L以上の地区:妊婦の平均尿中F濃度は0.74mg/L,血中F濃度は0.021mg/L.

若年者はフッ素の尿中排泄量が成人より少なく1/2以下になり、体内に蓄積しやすい。

6歳以下(young children)は、20%しか排出されず80%が体内に蓄積する米国ATSDR(Agency for Toxic Substances and Disease Registry)HHS:2003年の官報p157)。

10歳の子どもが1ppmのフッ素化水道水を1日に1L飲用した場合の血中フッ素濃度を上記を参考として0.021mg/Lとすると、秋庭、成田の報告(第34回タイ国際フッ素学会、フッ素研究No34,2015P27~32)と驚くほど近似している。もともとこの研究の基礎は、日本フッ素研究会の元会長ある故高橋晄正氏によるものであり、限られた情報のもとでその推定精度に問題があったが、その報告のP29,表1,2によると、9~10歳のフッ素化地区での推定血中フッ素濃度は0.026mg/Lである。

この報告では、フッ素洗口と歯磨き剤により体内に吸収された血中フッ素濃度が、1ppmの水道水フッ素化の飲用による推定血中フッ素濃度の何倍に当たるか(α値)、を求め1ppmのフッ素化による既知(資料から推定)の発がん報告をもとに、フッ素洗口と歯磨き剤による発がん倍率を計算した。今回、そのα値が利用できる。

1ppmのフッ素化水道水を飲用すると尿中フッ素濃度は約0.5mg/Lとなり、フッ素摂取源として水道水だけの場合の1日総フッ素摂取量は1mg、2L飲用すれば2mgとなる。

グランジュアンらが、水道水フッ素化により発育中の脳へ悪影響を与える尿中フッ素濃度のBMCLを提起したことで、今回、フッ素洗口、フッ素入り歯磨き剤(いわゆる局所応用とされる)の害作用を検討した。表3は、そのまとめである。

注)表1.2.3の飲み込み量は、すべて平均量であり上限値は省略した。

フッ素洗口は225ppm週5回法である。週1回の900ppmのフッ素洗口は1日分に換算し1/7としたが、血中濃度はほぼ1ppmのフッ素化濃度に等しい(表は省略)。

表2により2,3,4歳児の歯磨き剤飲み込み量が極めて多いことがわかる。2歳児の飲み込み量は1.41となっているが1.14の誤植である。比例計算上使用量の1mgを超えているが、ほぼ100%飲み込むと理解できる。2,3歳児の飲み込み量は%に読み替えられる。

歯磨き剤のフッ素濃度は1000ppmで計算し、その後販売された1500ppm(6歳以下は禁止)を使用した場合の飲み込み量は、単純計算で1.5倍となる。

表3は、表1,2のC部分を再掲し、同年齢がフッ素洗口とフッ素入り歯磨き剤との重複使用をした場合の血中濃度の倍率である。しかし単純な合計が正しいかどうかは不明である。


英文の完全翻訳は追ってご紹介します。

                          (文責 秋庭 賢司、協力 成田 憲一)

 

 

 

 

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