電気料金はどうなる?託送料金問題これまでのまとめ〜知られざる2つの上乗せ料金は違法?
電力需要の逼迫がニュースで流れ、JEPXでの価格の高騰が電気料金の高騰を招き、新電力が立ち行かなくなるとの報道がされています。
コンシューマネット・ジャパンでは、電力システム改革について、消費者の立場から電源標示の義務化や託送料金についての意見など様々な提言をしてきました。
一方で容量市場の創設、非化石証書の見直しや託送料金制度の見直し、新たに導入が検討されている配電事業の自由化などこれから私たちの電気料金にどう影響があるのかが気になります。
発送電分離はどうなっている?
2020年は2015年から始まった電力システム改革の完成目的年でした。電力システム改革とは、①電力の安定供給 ②電気料金の抑制 ➂消費者の選択と事業者の事業機会の拡大の3つを目的とした電気事業の制度改革です。2015年からスタートし、まず最初に広域系統整備がされました。
https://www.occto.or.jp/iinkai/kouikikeitouseibi/
2016年4月からは、電力小売の自由化、そして2020年4月に旧一般電気事業者の送配電部門を法的に分離する「発送電分離」が実施されました。
送配電網の中立性とは
電気事業法は、送配電部門の一層の中立性確保のため、2020年4月までに発電・小売事業と送配電事業を法的に分離することを求めています。これを「法的分離」と呼びます。電力システム改革前は送配電網は、旧一般電力事業者が、各管内の需要家に安定的に安定的に電気を供給するため、独占的かつ独自の運用してきました。2011年の東日本大震災を契機に、電力システム改革への機運が高まり、国が進める固定価格買取制度(FIT)の下、「再生可能エネルギー(再エネ)」の導入が進み、多くの発電事業者が新規参入しましたが、送配電部門に部門は旧一般電力会社のまま残され、自由化はされませんでした。広域系統機関の公平な運用により託送料金も規制料金とすることで中立性を保つという趣旨です。
各社の送配電部門の状況
2020年4月1日に分社化したのは、北海道電力、東北電力、中部電力、北陸電力、関西電力、中国電力、四国電力、九州電力、Jパワー(電源開発)の9社です。東京電力は2016年に事業持ち株会社制(ホールディング)に移行し、送配電部門を別会社にしています。沖縄電力はそもそも発送電分離を行っていません。
発送電分離後、発電事業者と小売事業者は自由化され、送配電事業部門については旧一般電力事業者が依然として独占的に担うことになりますが、別会社となっても送配電事業者には、原則として自立した経営が求められることになります。発送電分離は法的分離に止まっており、欧州で一般的な所有権分離と比べて中立性は低く、妥協的な手法である法的分離では、規制機関による送配電事業者への厳しい監督が求められますが、内部補助がされるのではないかなど不十分であるとの問題点が指摘されています。
送配電部門の課題
送配電部門については、これまで2つの大きな課題に直面すると指摘されていました。
1つは収入の減少です。送配電事業が別会社になっても、電力の安定供給と品質の確保という大きな使命は変わりません。一方で、太陽光発電などの分散型電源の大量導入により、系統電力(電力を需要地に供給するための発電・送電・変電・配電設備から構成されるシステムによって供給される電力)の需要が減少し、託送料金(送配電系統の利用料金)の収入が減っていく可能性があります。
もう1つは調整力と言われる、一般送配電事業者が、供給区域における周波数制御、需給バランス調整その他の系統安定化業務に必要となる発電機、蓄電池、ディマンドレスポンスその他の電力需給を制御するシステムです。こうした点から、託送料金のあり方や系統安定化業務に配慮した方向での改革が進められてきたと言えます。
公平な競争環境の下、地域間連系線の効率的運用も進むとの前提で、発電単価がより安い電源から動かす、いわゆる「広域メリットオーダー」が本格化し、2021年度以降は、この送配電事業者が調整力を効率的に運用・調整するための「需給調整市場」が創設されることになっています。段階的にエリアを超えた広域的な調整力の調達・運用を行うことで、より効率的な需給運用の実現を目指すとされています。
3.11以後、電力システム改革(エネルギー転換)に関連した審議会、分科会、WG は複数ありますが、難解な専門用語も多く、横断的に俯瞰し特に需要家である消費者へのわかりやすい説明が難しくなっています。消費者は電力の安定供給、できるだけ低廉な料金、クリーンなエネルギーを求めていると思いますが、2050年のゼロエミッションに向けてようやく政府も明言し始めたとはいえ、あくまでも原発を維持したい首相の発言がされている中で、国の基本政策としてのエネルギー基本計画も改定期に来ています。容量市場や非化石証書が原発を優遇しすぎているとの指摘もある中で、改めて再生エネルギーの円滑な普及を図るための議論が求められています。内閣府には再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォースが設置されました。規制庁や電力ガス取引等監視委員会だけでなく、総合的な調整や意見聴取が始まったと言えると思います。(注1)
https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/conference/energy/e_index.html
託送料金見直しの経緯は?
2016年4月1日から電力小売り全面自由化がスタートしました。2016年12月に政府は電力システム改革の「貫徹」を掲げ、電力取引等監視委員会に貫徹委員会を設置しました。ここでは、異例の速さで託送料金へ東京電力・福島第1原子力発電所事故の賠償費用と、廃炉の前倒しにかかる費用の託送料金への上乗せを決めました。一方で、卸売市場の活性化を約束し、新電力も原発関連費用を託送料金等で徴収することを20兆円を超えるとの試算のもと決定しました。
2016年のこの決定には消費者団体も強く反発して2016年12月14日には院内集会なども開催しました。
原発事故の責任追及、原子力政策の国民的議論なく、国会での議論もなく、拙速に決めてしまうことに対し、多くの市民・消費者、新電力会社、国会議員、専門家から異議の声が上がったのです。
2つの料金の上乗せの問題点
ではなぜ、原発事故の「賠償負担金」を託送料金で回収することになったのでしょうか。東京電力・福島第1原発事故に関する賠償総額は、現時点で7.9兆円と見積もられています。原発事故後、新たに原賠機構法(原子力損害賠償・廃炉等支援機構法)が制定され、2011年の施行以来、原子力発電事業者(大手電力)は毎年一定額を原賠廃炉機構に納付しています。本来、こうした賠償への備えは原発事故以前から確保しておくべきだったものですが、事故以前から存在した原子力損害賠償法においては制度的な措置は講じられておらず、賠償に備えるべき費用が電気料金原価に算入されることもありませんでした。このため、原発事故前に確保しておくべき賠償への備えが「不足している」というのが政府の「理屈」でした。そして、事故前から備えておくべきであり、結果として不足している金額(「過去分」と呼ぶ)を、政府は約3.8兆円(3兆7631億円)と算定しました(図)。
不足分の2.4兆円を託送料金で40年かけて徴収すると決定
「過去分」であっても本来は原子力に関する費用であるので、原子力発電事業者自身が賄うべきですが、小売が自由化される前は小売料金規制が存在したため、賠償費用を電気料金に反映する仕組みは整備されていなかっという訳です。2011年の原賠機構法成立以降は、大手電力の小売料金を改定することにより、大手電力と契約する需要家から総額約1.3兆円(1兆3233億円)が2020年までに回収されています。過去分約3.8兆円から回収済み約1.3兆円を差し引いた約2.4兆円(2兆4398億円)をどのように回収するのかで、「国民全体の負担とする」のに適した託送料金に「上乗せすること」が決められたのです。
原子力発電事業者の負担ということであれば、2016年の小売全面自由化後、大手電力から新電力へ切り替えた需要家は「過去分」を負担しないことになるのが筋です。しかし、政府はそれは受益者間の「公平性等の観点からは問題」であると結論づけました。託送料金であればすべての小売電気事業者、つまりすべての需要家が等しく負担することになり、過去に原子力による電力を使用していたか否かは問われないと言う詭弁とも言うべき理屈です。原子力発電事業者という原因者負担に重きを置くのではなく、料金制度が不備であった観点や、需要家の公平な負担という説明ですが、果たしてこれが公平な負担と言えるのでしょうか。大半の新電力や消費者団体などからは大反対の声が上がったのは当然です。
託送料金を通じた「賠償費用の過去分」の回収は、年間約600億円程度を、2020年度以降、40年間にわたって回収していくという遠大な計画なのです。そのような長らえた負担を子や孫の世代にツケを回すと言うことはできないと貫徹委員会に参加していた消費者代表は発言しましたが無視されました。今回の託送料金の改定では、3年間の費用を用いて算定することとし、賠償負担金相当金については、40年間の回収期間のうち当初5年間での回収額のうち3年分相当分、5分の3を回収すべき額として算定されました。そのため金額としては目立って大きな額とはなっていません。
廃炉円滑化負担金相当金は、廃炉決定時の各資産の残存償却期間によって異なるため、各資産別に今後3年間で回収すべき額を算出し、合計した額として算定しているということであり、各資産の回収期間は電気事業法施行規則に基づき、国が一般送配電事業者に通知しているのです。
廃炉前倒し費用も託送回収で
賠償負担金だけでも反発が大きかったのに、貫徹委員会では、途中から廃炉費用の前倒し費用も託送料金で回収するとの案を出してきました。平たく言うと「原発が嫌なら廃炉費用を負担して早く無くしたいでしょ」と言わんばかりの筋違いの案でした。
異議あり!立ち上がったグリーンコープ生協
この中でグリーンコープ生協は2020年10月15日、原発にかかる「賠償負担金」と「廃炉円滑化負担金」を託送料金に上乗せして回収することを認可した経済産業省令は違法であるとし、その取り消しを求めて提訴しました。4年近い準備期間の間には何度も経産省への要請行動などもされました。訴えの趣旨等は(注3)参照。
国は託送料金問題にどう対応してきたか
2つの費用の託送料金への上乗せをめぐり、2016年当時消費者担当大臣であった、河野太郎大臣の鶴の一声で、内閣府公共料金等専門調査会の下に託送料金に関する調査会(以下、調査会と言います)が設置されました。2016年5月 20 日に、消費者委員会は、送配電事業を行う電力会社の託送料金に係る査定に関し、消費者利益の擁護・増進の観点からの問題の所在及び問題点の改善方法について、内閣総理大臣から正式に諮問を受けました。これを受けて、消費者委員会では、「公共料金等専門調査会」の下に、「電力託送料金に関する調査会」を設置し、6回の審議を経て報告書を取りまとめました。
電力改革問題や市場経済問題に詳しい専門家2名が加わり、2016年5月23日から同7月15日まで開催され、料金の適正性等の観点から、託送料金の仕組み、料金の推移、料金の算定根拠や原価構成等につき、 一般消費者に分かりやすい情報提供を推進すべきなどの意見書が出ました。(注4)
調査会の報告書の内容は以下のようなものです。
(内容)
・関係府省等も、相互に協力しつつ、情報提供に一層取り組むべき
・託送料金について、消費者とのコミュニケーションの場の設定等により、消費者の意見を反映する機会を拡大していく必要
・電源開発促進税等は、送配電のネットワークに要する費用と区別した形で原価算定及び料金の明示を行うべき。なお、政策的観点託送料金の査定等について取りまとめは以下の通り。
・日本の託送料金は、比較的高水準と考えられる。送料金の値下げ改定は事業者の任意による届出制となっているため、コスト削減結果が託送料金の値下げに必ずしも十分に反映されない懸念がある。原価算定期間を3~5年とし、その終了後には原価を洗い替えする等により、 原価低減を託送料金に反映する機会を適時かつ実質的に確保する。
・我が国の現行制度においては、原価算定期間(3年)後も、事業者からの申請がなければ洗い替えは行われない。 経常的な事業コスト低減分の料金反映機会を逸しないよう、料金改定に当たっては、将来的にはメリットがある必要な大規模設備投資等のコストは、経常的な事業コストから切り分けた上で、個別に審査することが必要である。託送料金原価の大部分(約8割)を占める固定費の家庭向け・産業向けの配分において、 低圧需要(家庭向け)に過大な配分となっている懸念がある。
・現在、固定費の家庭向け(低圧)や、産業向け(特別高圧・高圧)への配分は、最大電力、夏期・冬期のピーク時の需要電力及び発受 電量を2:1:1の割合で加重した配分方法等が行われている。→電力量(kWh)に基づく考え方及びピーク需要(kW)に基づく考え方のどちらの観点からみても、家庭向けに過大な配分がなされる結果となっているが、これを正当化する十分な理由を見つけることは難しい。
- 当面の対応としては、一般消費者に過大な負担を課さない配分基準に修正することが必要
- 一律の基準による配分は十分に精密とはいえず、中期的には、設備投資の必要性を実測データに基づきより精密に把握し、コストを適切に配分することが必要
個別の原価の適正性
現状・課題
- 事業者が地域独占の下で自ら効率化を徹底する事業環境にはない。
- 十分な競争性の下での調達が行われにくいため、資料・役務調達コストについて市場メカニズムを通じた適正な原価水準の把握が困難
- 原則10%とされた資材・役務調達効率化については、更なる効率化・ コスト削減が可能
託送料金認可に際し、資材・役務調達コストは東日本大震災前の価格水準から原則10%の効率化を求めることとされた。近時の効率化に係る実績値は、認可時の計画値を越えている。競争発注への移行や仕様・設計、調達先見直し・工夫を更に推進する余地がみられる。例)・競争発注比率(目標値)・・・東京電力 60%(平成27年度実績値65%)、その他大半 30~35% ・汎用標準的でなく、自社独自の仕様であるものも多い
対応策
事業者が効率化努力を継続するよう外部から恒常的な監視が必要であり、経済産業省による検証を強化・拡充すべき
- 各社の効率化の取組状況や効率化水準の妥当性について定期的に(例えば毎年)検証・評価
- 競争発注比率の引上げ、仕様・設計の汎用化・標準化等につき目標設定を各社に課す
検証・評価に当たっては、経験豊富な専門家の参画が必要がある。
金額の大きな調達案件等については、調達方式、仕様・設計、調達手続、応札状況等を個別に検証する必要がある。
料金審査においても、検証・評価の結果(効率化水準、適正原価水準等)を前提として、個別原価の査定を厳格に行うべきである。
2020年新たな託送料金制度への見直し始まる
2020年コロナ禍のなか、この二つが上乗せされた託送料金の回収が始まりました。その後の審議会での議論について見ていきましょう。2016年の調査会の意見書は活かされたでしょうか。
電力託送料金改革の経緯
2020年託送料金に関する調査会(第2次)の召集がされました。消費者庁からの諮問は以下のようなものでした。
「この度、令和元年12月に「総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会 持続可能な電力システム構築小委員会」の「中間取りまとめ(案)」が取りまとめられ、パブリックコメントが実施されました。同中間取りまとめ案において、託送料金の変動が小売経過措置料金に機動的に反映する仕組みの導入についても指摘されており、当事務局としては、消費者委員会においてフォローアップすべき事項と考えています。
託送料金に関しては消費者担当大臣から経産大臣に意見を発出した経緯もあり、レベニューキャップ制度についても消費者委員会でフォローする。」
2019年11月8日新たに設けられた エネ庁の第1回持続可能な電力システム構築小委員会では、「2020 年には発送電分離も控えており、今後も電力システムを取り巻く急激な環境変化が続くことが予想される中、いかにして電力インフラのレジリエンスを高め、新技術を取り込んだ形で持続的な安定供給体制を構築していくかについて、具体的な方策の検討が急務である。
そのため、総合エネルギー調査会基本政策分科会の下に設置された、「持続可能な電力システム構築小委員会」において、発電から送電、配電に至るまでの電力システムを再構築し、中長期的な環境変化に対応可能な強靱化を図るための具体的な方策について、 これまでの議論を踏まえた検討を行う。テーマは、強靭な電力ネットワークの形成と、電源の分散化の視点から、地域間連系線の増強を促進するための制度整備、送配電網の整備を行う」とされました。
今回の調査会では、託送料金のそもそも論ではなく、強靱化とコスト効率化の両立(託送料金改革)のなかで託送料金制度が構築されること、災害に強い分散グリッドの推進のための環境整備のなかで託送料金については新たにレベニューキャップ方式を基づくことが経済産業省(エネ庁)で決められ、構築委員会等の議論に沿ったテーマについての意見提出が求められることになったのです。
(今後の託送料金制度検討課題)https://www.emsc.meti.go.jp/activity/emsc_electricity/pdf/0001_03_00.pdf
2020年年8月7日から12月24日までに電力宅送料金に関する調査会は7回開催され、4回目の会議で2つの託送料金を上乗せした託送料金について、「賠償負担金・廃炉円滑化負担金の算入に伴う電力託送料金変更案の算定に関する電力託送料金に関する調査会意見」を出しました。(注5)
算定方法は定められており、原子力発電事業に関する費用を託送料金で回収する形を取った賠償負担金・廃炉円滑化負担金の各制度について、指摘の趣旨も踏まえて、消費者の納得を得られるよう一層努めるとともに、一般送配電事業者及び小売電気事業者に対して、料金変更に関して消費者にとって分かりやすく、丁寧な情報提供・説明を行うよう促すべきであるとするのが精一杯でした。その後の調査会は資源エネルギー庁の説明を受けながら、新しい託送料金制度と配電事業の自由化に関する説明を受けています。具体的な託送料金の制度については電力・ガス監視等委員会の料金専門会合が議論している「託送料金制度(レベニューキャップ制度)の詳細設計について」説明を受け、資源エネルギー庁から「配電事業ライセンスの検討状況について」説明を受けている状況です。具体的なレベニューキャップ制度についての詳細設計については料金専門会合の下に専門ワーキンググループ(直近の資料:https://www.emsc.meti.go.jp/activity/emsc_feesystemwg/pdf/001_03_00.pdf)が作られ、2016年の報告書がどう反映されるかはこれからの議論となります。(これまでの資料については(注6))
今回の値上げはどうだったか〜わかりにくい上に明確な説明なし
大手電力か新電力かを問わず、託送料金が改定されれば、通常は小売料金が改訂されます。しかし今回の報告書にあるように、2020年10月1日以降、当面は小売料金自体を変更しないで済ますか、エリアによっては値下げとなるケースもあります。今回の託送料金変更は表Aのとおりです(沖縄電力は対象外)。
表A
表中、一般送配電事業者各社の託送料金の変更内容。関西電力送配電は2022年3月に廃炉円滑化負担金の一部の回収が終了します。この変更を反映するため2022年3月末までは「関西A」を適用し、同年4月以降は「関西B」が適用されます。
過去の「不足額」をこれから徴収
今回、託送料金は一般送配電事業者9社のうち5社が値上げ、4社が値下げとなっています。値上げする5社は新型コロナウイルス感染症に伴う需要家の負担に配慮する観点から、2021年9月30日まで現行料金に据え置くとしています。据え置くだけで値上げに変わりはありません。大手電力の小売部門は、託送料金変更に伴う小売料金の改訂に関して、まだ方針を公表していません。10月以降の電気料金は確実に上がることになりますが繰延したことで2つの上乗せ金については消費者の関心は低くなっていると言えます。
表C「賠償負担金」と「廃炉円滑化負担金」の合計額(単位:百万円)
廃炉円滑化負担金とは
託送料金で回収することになったもう1つの原子力関連費用が、廃炉会計費用(廃炉円滑化負担金)です。従来の会計制度では、原子力発電事業者が予定よりも前倒しで廃炉する場合、設備の残存簿価が一括減損となり、一時的に多額の費用が生じ流ことになります。このことが事故後の対応として、早期廃炉を妨げる大きな要因になると考えられました。そこで、2013年に「廃炉会計制度」を見直し、分割償却と費用の分割計上を可能にしたのです(総額は変わらないが平準化される)。
この制度変更により、原子力発電事業者7社が計15基の原発の早期廃炉を決めました。当時は大手電力が小売料金(規制料金)を通じて分割費用を回収していましたが、これも2020年以降の小売料金規制の撤廃を見据え、託送料金を通じて回収することとなったのです。(一般送配電事業者ごとの「賠償負担金」と「廃炉円滑化負担金」の合計額は表のとおり)。
調査会で質問したところ、廃炉会計制度は、原子力発電事業者が廃炉決定後、事業者からの申請に基づき、資源エネルギー庁において、その費用が円滑な廃炉のために必要であるか等について審査を行った上で適用されることとなるものであり、ということでした今後の消費者庁への情報提供は、消費者庁及び消費者委員会とも協議の上、検討していかれるようでした。
今回の託送料金改定が値上げであることがわかりにくい理由
これまで、託送料金の内訳として「電源開発促進税」と「使用済燃料再処理等既発電費」が回収されてきました。これは2005年の再処理積立金法に基づき、原子力発電に伴って発生する使用済燃料の再処理に必要な資金を積み立てる制度であり、2020年9月までの15年間にわたって託送料金を通じて回収するというものでした。大手電力ごとの費用は表Cのとおりです。
2020年9月に終了した「既発電費」(バックエンド費用)(注7)と、新たに回収が始まった「賠償負担金」などの金額の大小により、一般送配電事業者の中でも2020年10月以降にトータルで値上げとなる事業者と値下げとなる事業者の違いが出てきました。小売料金の原価である託送料金が改定されると、小売料金の改定は不可避です。新電力、とりわけ大手電力と類似した料金体系を採用する新電力は、大手電力の動きを見たうえで、自社料金を値下げするか据え置くかの判断をすることになると思われます。
また、9月に改定される小売ガイドライン(電力の小売営業に関する指針)においては、「賠償負担金」や「廃炉円滑化負担金」を請求書などに記載することが「望ましい行為」と位置付けられていますが、電気事業法上の義務ではなく、罰則もないため、記載されるかどうか実効性に疑問があります。
東京電力エナジーパートナー(東電EP)の場合は現状、検針票(家庭向け)に託送料金平均単価9.26円/kWhとならんで、「平均単価には法律で定められた使用済燃料再処理等既発電費相当額0.112円および電源開発促進税0.406円が含まれております」と記載しているようですが今後2つに新たな負担金はどう表示されるのか不明です。
本来は10月に0.03円値上げするはずだった東京電力パワーグリッド(東電PG)は託送料金を1年間据え置く予定であり、東電EPも同様に現行の経過措置料金を1年間据え置くとされています。この「据え置き」が混乱を招く可能性がありますが、今後の処理についての議論まではされていません。
今回の託送料金を値上げしないことは、賠償負担金を回収しないことを意味しない
託送料金の据え置きは、別の費目を1年間値下げすることにより相殺しているのであって、賠償負担金は今年10月時点から、エリアを問わず全需要家が負担し始めていることに意識を向ける必要があります。旧一般電力会社だけでなく、新電力も2021年10月から、小売料金を通じて、託送料金とその内訳としての賠償負担金請求を消費者に分かりやすく、丁寧に、事前に説明する必要があります。しかし、現状は回収していることすら需要家に知らせないという状態になっているのです。グリーンコープ生協などはこうしたことについての理解も踏まえ、注意喚起を促す意味でも提訴に踏み切ったものと思われます。
今回の件は、原因者負担の原則を曲げて、本来は原子力発電事業者が負担すべき費用を託送料金を通じて回収するという、極めて例外的な措置が講じられた制度です。その経緯や理由、内容は一般消費者には非常にわかりにくく、政令のみで決定されたことは、決定的に消費者の知る権利を無視して、負担を一方的に強いるものであると言わざるを得ません。筆者の委員となっている電力託送料金に関する調査会で「2つの上乗せ料金の見直しの可能性」について質問したところ見直すことはないとの回答がありました。託送料金はレベニューキャップ制度が2023年にスタートするとされています。新しい託送料金制度が望ましい制度として構築されるとしても、今後40年間に渡って徴収する理不尽とも言える費用について、消費者の理解を得ることは難しいのではないかと思われます。グリーンコープ訴訟には注目していきたいと思います。
(本稿は筆者の個人的見解です。)
古賀 真子
(注1)
再生可能エネルギーの主力電源化及び最大限の導入に当たって、主に「立地制約」「系統制約」「市場制約」などの制約要因が存在する。として、「地域との共生」も重要な考慮要素としながら、規制庁であるエネ庁や監視委とは別に、どのような制度や規制にボトルネックがあり、どれが重要度・優先度の高い課題かを体系的に整理すること。その際には、再生可能エネルギーの導入拡大そのものに直接的な制約を課す「個別規制課題」のみならず、脱炭素社会へのパラダイムシフトの根底に存在する「構造的課題」についても、中長期的な検討のスコープに入れていくことが必要不可欠である。とし、とりわけ、上述の制約の緩和にも資する電力システム改革や電力市場の整備等が進む中で、より一層、透明性が確保され、かつ電源間の公正な競争環境が担保された、エネルギーシステム全体の制度設計が求められているところであり、その背景に横たわる構造的な論点についても検討の対象としていく。として現在各団体等からのヒヤリングを進めています。
(注2)
・「東京電力改革・1F問題委員会」(「東電問題委員会」)
http://www.meti.go.jp/press/2016/09/20160920007/20160920007.html
・「電力システム改革貫徹のための政策小委員会」(「貫徹小委員会」)
http://www.meti.go.jp/press/2016/09/20160920006/20160920006.html
(注3)
「2020年9月4日に上乗せを盛り込んだ新しい託送供給約款が経済産業省によって認可され、10月1日からその徴収が始まることになりました。2020年10月15日、福岡地方裁判所にむけて、一般社団法人グリーンコープでんきが原告となって、国(経済産業省)が9月4日におこなった認可を取り消す訴訟を提起することを、一社)グリーンコープ共同体理事会および一社)グリーンコープでんき理事会が決定して提訴。訴訟を通して、大手電力会社と原発がどれほど不当に優遇されつづけ、今後もそれが国民負担のもとに続けられていくことになるかを明らかにすること。東京電力と国による福島第一原発事故への責任をより明確にし、その対処が適切に進むようにすることと、原発廃炉が適切に進んでいくこと、国民に見えないようにされている原発が持つ問題をあらためて整理して、原発を本当に続けていくかについて、 組合員や国民一人ひとりが考え、 話し合って、 決めていける社会に向かうことのために、努力をかたむけていく」としている。
*詳細はグリーンコープ生協HP参照
https://www.greencoop.or.jp/takuso-ryokin/soshokeikahokoku/
申し立ての概要(小島弁護士の説明資料より)
(注4)
以下、内閣府ウェブサイトより(https://www.cao.go.jp/consumer/iinkaikouhyou/2016/index.html)
2016年7月26日
電力託送料金の査定方法等に関する答申
PDF形式:41KB
【別添】電力託送料金に関する調査会報告書 (PDF形式:207KB)
【別添】電力託送料金に関する調査会報告書 資料編 (PDF形式:960KB)電力託送料金に関する調査会報告書の概要
PDF形式:43KB
(注5)https://www.cao.go.jp/consumer/kabusoshiki/kokyoryokin/takuso/doc/010_20200824_shiryou4.pdf
(注6)
- 原子力関連の賠償過去分・廃炉会計費用に係る措置について(資源エネルギー庁 提出資料)
- 原子力関連の賠償過去分・廃炉会計費用に係る措置について(補足説明資料)(資源エネルギー庁 提出資料)
(注7)
バックエンド費用(使用済燃料再処理等拠出金費)は、原子力発電における使用済燃料の再処理等の実施に関する法律第4条に定めがあり、算定式は、廃炉を決定したことによって生じる使用済燃料の量に単価を掛け合わせたもの。
原子力発電施設解体引当金の要引当額は、原子力発電施設解体引当金に関する省令第5条及び原子力発電施設解体引当金等取扱要領に定めがあり、算定式は、廃炉によって発生する放射性廃棄物の量に想定される単価等を掛け合わせたもの。
*日経NEXTの2020年8月21日の梅田あおばさんの記事
「新たな原子力費用で新電力にのしかかるコストと説明責任」10月から原子力の「賠償過去分」と「廃炉会計費用」
https://project.nikkeibp.co.jp/energy/atcl/19/feature/00007/00035/
を託送回収を参考・引用させていただきました、この場を借りてお礼申し上げます。