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コロナ対応を知るシリーズ その17 コロナ抗体検査疫学的観点を踏まえた今後の応用〜感染拡大コントロールの鍵

コロナ対応を知るその6 でインフルエンザとの比較を論じていただいた山本英彦さんの,抗体検査についての貴重な検証(第二段)です。豊富な小児科臨床医の経験とコクランをはじめとする世界的文献のEBMに基づく鋭い分析で現在最も信頼できる論考だと考えています。第二波かと不安が掻き立てられている今、冷静な情報目を向けていただきたいです。(CNJでは抗体検査に関する厚労省への申し入れも検討しています。)

 

新型コロナの抗体検査について

医療問題研究会 山本 英彦

 

 抗体検査(IgM、IgG、IgAなどの血液中の免疫グロブリンタンパクの検査)は最近までの罹患履歴を示す検査であり、公衆衛生上も、個人の感染を振り返る意味でも重要な検査である1)

一方、ウィルスのどこに対する抗体を測っているのか(例えばコロナのスパイクタンパクか、膜タンパクかなど)やウィルスを不活化する中和抗体なのか2)、いつ測った抗体なのか(測定が早すぎると陽性にならないし、遅すぎると陰性になるかもしれない)、どの程度の価から陽性と判定するのか(陽性閾値)や感度特異度の問題、抗体陽性なら新型コロナに二度と罹らないのかなど、多くの不確定要素も含む1)

さらに多くの研究所からの検査キットや商業ベースでも用いられる検査キットもあり、品質の差も大きい。これらも踏まえて、現在まで明らかになってきた、新型コロナウィルスと抗体について、主として疫学的な観点から現在わかっていることと今後の応用についての知見を紹介したい。

NEJM, Lancet, JAMA, Nature, ScienceなどのSARS-CoV-2/COVID-19関係論文を中心に、論文検索サイトであるPubMedからCOVID-19/SARS-CoV-2、antibody,seroprevalence、serology surveillance などをキーワードに、抽出論文タイトル約900編から50論文をhand searchし検討した。

1. 感染後どのくらいで抗体陽性となるか?

図1は中国香港3病院での有症状者262名、363サンプルでのIgG, IgM 抗体の出現日時、頻度である。症状出現後20日までにIgG 抗体の100%、IgM抗体の94%が陽性となった。また、IgG抗体の30%は症状出現2-4日で抗体陽性化した。

2. 抗体上昇でウィルスは消えるか

図2に別の論文でのウィルス培養の有無と抗体価との関係を示した。この論文は、ドイツのミュンヘンでの比較的若く、軽症の医療従事者9名からのデータを分析したものである。明らかに抗体価の上昇が起こり、抗体陽性になるとすべてのケースでウィルスは培養されなくなった(症状出現開始の1-5日くらいに比べ、6-14日までに9名とも最初低かった抗体の力価が1000倍以上に上昇。このように抗体が陰性から陽性に変わることをseroconversionという)。なお測定された抗体は、新型コロナウィルスのスパイクタンパクに対するIgGIgM抗体で、中和抗体といえるとされた4)

 

3. 厚労省の抗体検査からの推定

2020年6月1日から7日にかけて、厚労省主導で新型コロナウィルス感染の実態を把握するためとの理由で、東京都、大阪府、宮城県の無作為抽出7950名に新型コロナウィルスの抗体検査が実施された。3社の検査キットを用い、対象とした宮城県の陽性率の高かった検査キットを除き(東京、大阪に比べ宮城県での新型コロナの流行は低いはず)、ロッシュ、アボットの2社キットでの抗体陽性率は東京0.1%、大阪0.17%、宮城0.03%という結果であった。それぞれの都府県の人口に対するPCR累積陽性結果からの5月31日までの推定感染率はそれぞれ0.04%、0.02%、0.004%であり、数字上はPCRに比べ抗体からの新型コロナり患は10-20倍高いという結果であった。が、抗体陽性数は全体でも6名であり、こういった評価は不正確であるが、大半の人は抗体を保有していない(罹っていない)ことは明らかとなったといえる。つまりPCR陽性率の10-20倍実際の罹患者がいたとしても、国ごとの比較としては欧州、中南米に比べ、日本の新型コロナり患者は少ないといえるだろう。

(図3)厚労省の抗体保有調査(厚労省より)5)

4. 各国の献血者の抗体陽性率からみた感染の広がりの推定

献血者の血液抗体は、年齢の画一性、健康体であること、定期的な検体採取が必要なことなどから、各国や同じ国での罹患情報の比較をしやすい。

4月の日本の日赤献血検体での抗体陽性者は2/500=0.4%であった(データ略)。

イングランドでは毎週地方ごとに1000検体を検査し、経時的にフォローしている。4月から5月にかけてのデータを見るとロンドンでは血液献血者1000名のうち、15週(4月6日ころから)約11%、18週(4月27日ころ)には約14%の人が抗体陽性を示した(図3)。6)

デンマークでは4月6-17日やはり献血者9496検体での陽性率は1.7%だった。

以上のように、欧州でも国の差はあるが、おおむね日本より新型コロナウィルス感染が広がっていたことが推定される7)。

5. 都市レベルの抗体陽性率 

ロサンゼルスでは863名中35名が陽性、陽性率4%とされた。が、この35名の中には発熱+咳10名、味覚異常7名を含む25名の有症状者が含まれている8)。

スイスのジュネーブでは広範囲な地域と年齢層で、4月6日から5週間、計2766名に抗体検査、279名の陽性(10%)を得た9)。対象者選出規模と方法、範囲により陽性率はかなり異なるので、地域の陽性率を比較する場合は条件を均等にする必要がある。なお参考までにジュネーブのPCR実施率は70/1000人である。

特に公衆衛生的な意味で都市や狭い地域での抗体陽性率を比較する場合は、年齢や観察時期と期間などを均一化させることは当然であるが、「ホットスポット」の存在も考慮する必要があるとされる10)。

6. 医療機関での抗体検査

神戸中央市民病院では3月31日から4月6日までに通院し年齢層別化した患者さん1000人の血液抗体を調べ、33/1000名が陽性だった11)。

スウェーデンのカロリンスカ医科大学では11000人の病院職員からPCR5500、抗体3200を採取し、PCRは7%、抗体は10%、両者陽性が2.4%と報告された。12)。

なお、抗体検査を持ち出すまでもなく、日本では施設の集団感染が多い。大阪市のなみはやリハビリテーション病院では4月11日看護師の感染を皮切りにスタッフ71名、入居者59名、出入り業者3名の計133名の感染が判明、一番感染者が多かった病棟ではスタッフの71%、またリハビリスタッフの64%が感染した。マスクやガウンも足りずスタッフ不足のため感染が分かっていたのに勤務せざるを得なかった実態、重症者は系列病院に行かざるを得なかった実態、行政からは約一週間後に初めて感染症対策スタッフが現場入りしたなどの貧困な実態が明らかとなった13)。

イタリアやフランスなどでもこういった傾向はあり、医療職員での感染者の多さを示すものと思われる。個人防護器具(PPE)や日常の健康チェック、調子が悪い場合の代替要員、感染者の早期割り出しと隔離などが重要なことは言うまでもない。

7. PCR検査と抗体検査の関係 無症候感染者と抗体検査

新型コロナに感染したクラスターでの濃厚接触者164例の分析で、PCR陽性は16例、陰性は148例であった。この164名に対しIgG/IgMの抗体検査を実施したところPCR陽性者16名はすべて陽性、148例のPCR陰性者のうち7例は抗体陽性であり、陰性は141例であった。抗体検査を基準にした場合、PCRの感度は16/23=70%特異度は141/141=100%であった。なお、この論文では、クラスターの濃厚接触者164名中有症状者は13名(8%)、無症状者151名中抗体陽性者は7名(5%)であった3)。

 

8. 結論

以上から、現在流布されているSARS-CoV-2ウィルスのスパイク抗原に対するIgGないしIgM抗体キットの一部は中和抗体として働き、ウィルス増殖を阻止できる可能性がある。

もちろん、抗体ができたからと言ってすぐワクチンに応用できるやもというデマは危険この上もない。ワクチン開発にとって必要な基礎研究や動物実験などの前臨床研究の軽視、臨床研究や治験すら免除しようとする目論見などが、抗体キットの商業化と軌を一にするばかりか、国家的?威信もかけて横行しつつあるようである14)。遺伝子操作を駆使して抗体の量産ができたとしても、人体への接種が害作用として働く可能性は、RSウィルスワクチンやデング熱ウィルスワクチンを見ても明らかである。また、2003年のSARSワクチンが動物実験レベルで同じような害作用が出現したため断念されたという教訓も忘れてはならない15,16)。

どのくらい抗体が持続し、再感染を防げるのかとか、どの程度の中和作用があるのかとか、いわゆるherd immunityの役割を果たすかどうかなどについてもまだわかっていない。

新型コロナウィルスの抗体検査は無症候者の不必要な隔離期間を短くする根拠となりうる検査とも考えられるし、疫学的には流行規模や罹患率などについては、PCRより正確に分析することができるものと考える。

 が、商業ベースで製品の不均等など多くの課題がばらばらのまますすめられるのではなく、抗体検査キットの世界的標準化と、得られた抗体がワクチンに応用できるかなどについての世界的規模での基礎研究や特に安全面からの疫学研究の促進を図る必要がある。一方、抗体検査の個人負担の無料化も実現しながら、厚みのある疫学情報としての活用が求められると考える。

 

【参考文献】

1). COVID-19 Serology Surveillance Strategy

CDC COVID-19 

https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/covid-data/serology-surveillance/index.html

2). Serological Approaches for COVID-19: Epidemiologic Perspective on Surveillance and Control

Front Immunol 24 April 2020 

doi: 10.3389/fimmu.2020.00879

3). Antibody responses to SARS-CoV-2 in patients with COVID-19

 Nature medicine 29 April 2020

https://www.nature.com/articles/s41591-020-0897-1 

4). Virological assessment of hospitalized patients with COVID-2019

Nature volume 581pages465–469(2020) 01 April 2020 

https://doi.org/10.1038/s41586-020-2196-x 

 

5). 厚労省 抗体保有調査結果

hthttps://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000640184.pdf 

 

6). Weekly Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) Surveillance Report

Public Health England Year ;2020 week ;22

https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/888254/COVID19_Epidemiological_Summary_w22_Final.pdf

 

7). Estimation of SARS-CoV-2 infection fatality rate by real-time antibody screening of blood donors

medRxiv 28 April 2020

https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.04.24.20075291v1 

 

8). Seroprevalence of SARS-CoV-2–Specific Antibodies Among Adults in Los Angeles County, California, on April 10-11, 2020

JAMA 18 May 2020 

https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2766367?utm_campaign=articlePDF&utm_medium=articlePDFlin

 

9). Seroprevalence of anti-SARS-CoV-2 IgG antibodies in Geneva, Switzerland (SEROCoV-POP): a population-based study

The Lancet 11 June 2020 

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0140673620313040?via%3Dihub

 

10). Epidemiological study to detect active SARS-CoV-2 infections and seropositive persons in a selected cohort of employees in the Frankfurt am Main metropolitan area

medRxiv 25 May 2020

https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2766367?utm_campaign=articlePDF&utm_medium=articlePDFlin

 

11). Seroprevalence of novel coronavirus disease (COVID-19) in Kobe, Japan

medRxiv 5 May 2020

https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.04.26.20079822v2

12). 20200519のsara.pramsten@lakartidningen.se署名入りのネット情報から

https://lakartidningen.se/aktuellt/nyheter/2020/05/studie-15-procent-pa-karolinska-har-haft-viruset/

[題名 カロリンスカの15%が感染]

13). なみはやリハビリテーション病院における新型コロナウイルス感染症院内発生 に関する現地調査支援報告

 2020年5月20日 新型コロナウイルス厚生労働省対策本部クラスター対策班

 https://www.city.osaka.lg.jp/kenko/cmsfiles/contents/0000490/490878/namihaya.pdf

 

14). DRAFT landscape of COVID-19 candidate vaccines – 2 July 2020

WHO  14 July /Publication

https://www.who.int/publications/m/item/draft-landscape-of-covid-19candidate-vaccines

 

15). Fields Virology Fifth edition  Antibody-dependent enhancement p1214など

16). Antibody-dependent enhancement of SARS coronavirus infection and its role in the pathogenesis of SARS

 Hong Kong Med J 2016;22(Suppl 4):S25-31

 https://www.hkmj.org/system/files/hkm1603sp4p25.pdf


(ご参考)

抗体検査については様々な問題が指摘されています。

医療問題研究会の柳元和医師は下記のように指摘されています。

  • 抗体検査の重要性に鑑み,商業ベースで信頼性の欠ける製品が出回っていることについては、厚労省は厳しく取り締まるべきである。
  • しかしながら,競争原理の中で品質の標準化は困難であるので、国やWHOが共同開発を計画すべきである。抗体検査が感染拡大防止の鍵であるので,効果の証明されなかったアビガンの備蓄云々を言っている場合ではなく、抗体検査の品質向上を図るべきである。
  • 世界的に取り組むべき課題であり、米国のWHO脱退は、命と健康を守るべき役割を放棄した世界標準化に背を向ける暴挙で、批判されるべきである。日本は米国の脱退について異議を述べるべきである。
  • WHOは、ワクチン開発会社が抗体に関する有用な情報を持っていても、競争原理の中では公開しないと思われるので、共同開発を推し進めるように国やWHOが圧力をかけるべきである。
  • 国はこれら標準化施策を推進するために予算をつけること。(以上柳医師の提言)

 

  • 感染拡大による被害を防ぐためには今何が必要かを国益をかけて考えるべきです。作ることが難しいワクチン接種の優先順位を決めるより、抗体検査の品質向上を図ることこそ、感染拡大を防ぎながら経済を再生させるポイントであると考えます。 皆さまのご意見も是非お寄せください。  (古賀 真子)

 

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