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フランス、高速炉アストリッド ASTRID 計画を中止

もんじゅなき日本の核燃料サイクルの根拠も消えた

アストリッド計画中止を伝えるル・モンド紙スクープ記事 (挿絵 「原子力庁:将来計画埋設処分場。立入禁止」)

フランスの有力紙「ル・モンド Le Monde」は2019年8月29日、仏原子力・代替エネルギー庁(CEA)が高速原型炉アストリッド(ASTRID)の開発を放棄したと報道しました(紙版掲載は2019年8月31日付)。高速炉計画の放棄は、高速炉の燃料になるプルトニウムを抽出する再処理の理由がなくなるということであり、核燃料サイクル全体が行き詰まるということを意味します。

また、高速炉開発の口実として近年付け加えられた「長寿命放射性物質の減容化」という「前方への逃避」の道が断たれることで、長寿命放射性廃棄物の安全な管理という、原子力に内在する最大の問題に正面から向き合わざるを得なくなったということでもあります。

仏原子力庁は、翌8月30日発表の公式声明のなかで「今年中に2020年以降の第4世代原子炉の修正研究計画を提示する」として、ナトリウム冷却炉技術の維持・継承をはかる意向を示しながらも、「現在のエネルギー情勢のなかで、第4世代原子炉の産業的開発は、今世紀後半以前には見通しが立たなくなった」と述べ、ル・モンド紙の報道を認めました。

仏原子力庁の発表に対して、保守や極右政党からは「退行的・縮小志向のエコロージー教祖たちに屈した誤り」「経済的・技術的・エコロジー的犯罪」などと、激しい反発の声があがっています。他方、反原発派は「原子力発電への何十億ユーロもの補助金の上に、7億3800万ユーロもの公金が注がれている。これを再生可能エネルギーに使っていたら、どれだけの技術的飛躍と雇用が生まれていたか」「原子力神話の終焉だ。EPRの大失敗といい、原子力の行き詰まりは明らかだ」と計画中止を歓迎しています。

そもそも原子力開発の究極の目標は、プルトニウムを燃料とする高速炉にありました。大量に存在する核分裂しない天然ウランにプルトニウムの核分裂で発生する中性子を吸収させることで、消費した以上のプルトニウムをつくり、それを再び燃料にする「プルトニウムサイクル」を完結させれば、安価なエネルギーがほぼ無限に生み出せるという構想でした。そのためには、水で冷却する軽水炉(ふつうの原発)では中性子のスピードが遅くなって吸収が悪くなるので、水の代わりにナトリウムを使って中性子を「高速」に保つことで効率的に吸収させることができる高速(中性子)炉が必要ということで、各国で開発が行われてきました。

その中でもフランスは、高速原型炉フェニックス(25万kW:2010年に廃炉)や高速実証炉スーパーフェニックス(124万kW:ナトリウム漏れ事故などでほとんど動かないまま1997年に閉鎖)を建設して、この分野で世界のトップを走ってきました。フランスは2006年に、後継となる「第4世代原発」開発計画を立ち上げ、2012年に高速原型炉アストリッド(ASTRID:60万kW)計画として予備研究開発を推進してきました。日本は、度重なる事故や不祥事を起こした高速原型炉もんじゅ(28万kW)の廃炉を決めましたが、核燃料サイクルを継続する口実としてこのアストリッド計画への参加を表明しました。

けれども、フランスの原子力業界はアストリッド計画に乗り気でなく、仏原子力庁は2018年1月、当初60万kWとしていた出力を10〜20万kWに縮小することを発表しました(詳しくは本サイト「フランス新型高速炉ASTRID計画:仏原子力庁(CEA)、資金難から規模縮小の意向 —— 頼みは日本からの出資」を参照)。2018年6月に来日して日本政府に計画見直しを説明した仏原子力庁は、主要パートナーのひとつのフランス電力がアストリッド計画への出資打ち切りを表明し、他の仏企業もこれに追随したことを計画縮小の理由に挙げています(詳しくは「はんげんぱつ新聞」2018年8月号を参照)。

こうした流れのなかで、今回ついに立役者の仏原子力庁みずからがアストリッド計画放棄を認めたわけです。フランスだけでなく、日本を含めた原子力の今後に大きな影響を与える出来事として注目されます。

以下はル・モンド紙のスクープ記事の仮訳です。


2019年8月29日付仏ル・モンド紙電子版

フランス、第4世代原発を放棄

原子力庁(CEA)は高速炉アストリッド計画をひそかに放棄
高速炉の未来に大きな打撃

フランスの原子力産業発展の次のステップであり、原子力の未来を切り開くはずだった高速炉研究だが、二度と日の目を見ずに終わる恐れが強い。原子力・代替エネルギー庁(CEA[訳注:以下「原子力庁」])は、みずから立ち上げた高速中性子炉(RNR[訳注:以下「高速炉」])アストリッド計画を放棄しつつあることが本紙の取材でわかった。

現在も進行中のいくつかの基本設計研究は、現行の予備計画を完成させるために今年いっぱい続けられるが、そのままお蔵入りに直行することになる。25名を擁する計画統括室もこの春閉鎖された。原子力庁は本紙の取材に「原型炉の建設計画は短中期的に予定していない」と認めている。開発は「今世紀後半」を見込んでいるという。同庁内部の情報筋は「要するに、アストリッドは死んだ。もう資金もエネルギーも使わないということだ」と語る。この選択に、同庁内では懸念と緊張が広がっている。

「中止になる準備計画が出始めているし、原型炉用の資金が予算に載らなくなった」と原子力庁中央労組のディディエ・ギヨーム仏民主労連(CFDT)代表は言う。会計院によると、2017年末現在、この計画に7億3800万ユーロ[約862億円]が投じられており、うち5億ユーロ[584億円]近くは「未来投資計画」からの多額融資が充てられている。

ASTRIDという頭字語が表す英語名「工業的実証用改良型ナトリウム技術炉」のとおり、アストリッドはナトリウム冷却高速原型炉の計画で、ガール県マルクールの原子力用地に建設する予定だった。この新世代原子炉の目的は、劣化ウランとプルトニウムを燃料として用いること、言い換えれば現在の原子力発電から出る放射性物質を再利用することだ。この放射性物質は、大部分がオラノ社(旧アレバ社)が経営するラ・アーグ(マンシュ県)のサイトに貯蔵されている。アストリッドは、現在未利用のままになっている物質を燃料に変えるだけでなく、長寿命の核廃棄物を大幅に減らすとされていた。

政治面での支援もなし

ジョスパン政府の決定で1997年に閉鎖されたクレイ=マルビル(イゼール県)のスーパーフェニックス炉は、すでにこれと同じ考えに基づくものだった。ジャック・シラク大統領に続いてニコラ・サルコジ大統領、フランソワ・オランド大統領も、フランスの原子力技術の飛躍と、あわよくば核廃棄物の管理というやっかいな問題を部分的に解決することを期待して、この新型炉の研究を奨励してきた。「この計画の中には核のサイクル、核物質の再利用の環を完全に閉じるという構想がある」とフランス原子力協会のバレリ・フォードン代表は説明する。

このテーマに取り組んでいるのはフランスだけではない。アストリッドもまた日本の強力な参加を取り込んでいるが、達成した技術的進歩は広く評価されていた。ロシア、中国、インド、米国もこの分野で大きな進歩を遂げている。巨万の富を持つビル・ゲイツも、アストリッド方式に近い原子炉を開発するスタートアップ企業テラパワー(TerraPower)に投資している。

何カ月も前からアストリッド計画の将来は宙に浮いた状態で、悪い兆候も増えていた。2018年、原子力庁は、出力を当初計画の3分の1に縮小することを余儀なくされた。さらに、別途進めていたジュールホロウィッツ炉[訳注:材料試験炉]計画の費用が当初の5億ユーロ[約584億円]から25億ユーロ[約2,920億円]に膨れ上がったことも、原子力庁が財布の紐を締めざるを得なくなる一因となった。

先行きの怪しい諸計画の中でも、アストリッドは格好の悪者にされていた。ウラン価格は比較的低く、資源も豊富にある。安いウランが簡単に手に入るのに、何で50億や100億ユーロも掛かるような計画に投資しなければならないのか、というわけだ。原子力庁は、フランス原子力産業の中枢を担うオラノ社とフランス電力(EDF)に熱意がないことも理由に挙げる。「フランス電力には投資するだけの資金がなく、この計画に乗り気でなかった」と原子力庁の情報筋はこぼす。

アストリッド計画は、政治面からの支援がないことにも苦しんだ。それは、今年2月に発表されたフランスのエネルギー計画の向こう10年間のロードマップを策定する「多年次エネルギー計画(EPP)」の紹介文書にも表れていた。「少なくとも21世紀後半まで、高速炉の実証炉および実用化は有用でない」と明記されていたのだ。その代替策として提案されたのが、発電所で使ったあとのウランをリサイクルしてMOX燃料をつくり、これを多重リサイクルする方法だ。しかし、こちらも長期を要する取り組みになる。

放射性廃棄物の管理をめぐる全国的議論

アストリッドのこのひそかな放棄は、フランス原子力産業の未来に関わる重大な問題を2つ提起している。ひとつは、大量の劣化ウランとプルトニウムをフランスが保有している問題だ。これらは理論的には高速炉で再利用できることから、これまで「放射性物質[訳注:原語のmatièreには「材料」の意味もある]」と見なされてきた。だが、高速炉が放棄されれば、これらの物質は解決の見通しのない「廃棄物」に分類されかねなくなる。さらに、使用済燃料のリサイクルを専業とするオラノグループにとって、恵みの糧だったはずの潜在的経済価値がすべて消滅することになる。

「放射性物質と廃棄物の管理に関する国家計画」をめぐる全国的な議論が行われているいま、この問題は火急の課題だ。この公開討論の目的は、この問題に対する戦略を提案することにある。第4世代原子炉に反対している反核勢力は、長年、劣化ウランとプルトニウムを廃棄物と見なすよう求めてきた。 原子力安全局(ASN)もこの問題については神経を尖らせている。

アストリッドの放棄は、業界にとってより根本的な問題を突きつけている。第3世代原発の欧州加圧水型炉(EPR)は、フラマンビル(マンシュ県)の悪夢のような工事現場の泥沼に埋もれたまま、いまだに日の目を見ていない。この原子炉が発電を開始できるのは、早くとも2022年後半と見られている。

フランス電力は、EPRをもう1基建設する計画を急いで始める必要があることを政府に説得しようとしているが、成果のないまま2022年の次期大統領選挙が近づいており、議論が複雑になる恐れがある。第3世代原発の保証がなく、第4世代原発の研究もないとなれば、フランス原子力の将来はいっそう暗くなりかねないだろう。

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