教えて電力システム改革 7: 発電源表示は難しくない! — ドイツにおける発電源表示 Q&A
2016年4月の電力全面自由化を目前にして「消費者が電気を選べる制度」に注目が集まっています。消費者が商品を選べるためには、それがどのような商品なのかを示す表示が不可欠です。まもなく「ふつうの商品」になる電気に対してどのような表示制度にすべきかについて現在審議会で議論が行われています。
電力システム改革の先行例としてしばしば参照されるドイツでは、電気の表示についてどのような制度になっているのでしょうか? 以下では『再生可能エネルギーが社会を変える―市民が起こしたドイツのエネルギー革命』(現代人文社、2013年、243ページ) の著者で、CNJ協力者の千葉恒久弁護士にQ&Aの形で分かりやすく解説していただきました。
Q1: どのような情報が表示されるのですか?
A. 小売事業者が販売する電気についての発電源の割合と環境負荷の情報です。
発電源の割合は、「原子力」、「石炭」、「天然ガス」、「その他の化石燃料」、「再生可能エネルギー」、「再生可能エネルギー法で援助された再生可能エネルギー」の6種類に分けてそれぞれの割合を表示することになっています。
環境負荷については、少なくともCO2の排出量と放射性廃棄物量を表示しなければなりません。例えば、コージェネレーション発電についての情報など、追加の情報を提供することも認められています。
算定のベースになるのは、前年にその小売事業者が調達・販売したすべての電力の合計です(全電力ミックス)。
10月31日までは前々年の情報を表示することが認められますが、それ以降は前年の情報を表示しなければなりません。
Q2. どこに表示されるのですか?
A. 消費者向けの広告物、電力販売用のインターネットサイト、電気料金の請求書のそれぞれに表示することが義務付けられています。
ドイツ全体の平均との比較を表示すること、グラフなどを使って視覚的にわかりやすく表示することも法律で義務付けられています。一般に、ドイツ全体の発電源割合と当該事業者の発電源割合を示す円グラフが並べられ、その下にそれぞれのCO2排出量と放射性廃棄物量が数字で示されるという方法がとられています。
Q3. グリーン電力など複数のメニューを提供する場合は?
A. 再生可能エネルギー電力など発電源割合で差別化を図ったメニューを提供する場合は、当該メニューについて発電源割合と環境負荷だけでなく、そのメニューを除いた残りの電力についての発電源割合と環境負荷も表示しなければなりません。残りの部分を表示させるようにしないと、グリーン電力の部分だけを表に見せて、残りの部分に「汚い」電力を集めて売ることが可能になってしまうためです。
Q4. 小売事業者は発電源割合や環境負荷についての情報をどうやって入手するのですか?
A. 電力取引を行う場合、発電事業者や取引事業者は、その電力の発電源割合と環境負荷についての情報を提供することが義務付けられています。
提供されるのは、個々の具体的な取引において対象となる電力ではなく、その発電事業者や取引事業者がある期間内(通常は前年の1年間)に売ったすべての電力(全電力ミックス)についての情報です。情報の受け渡しを容易にすると同時に、情報の信頼性を担保するためにこうした方法を用いています。
この発電情報の受け渡しは業界団体のガイドライン[i]において以下のようにフロー化されています。受け渡しの対象となる情報は、前年の全電力ミックスにおける発電源割合と環境負荷についての情報です。
8月15日まで 大規模発電事業者が前年の発電源割合と環境負荷を公表
8月31日まで その他の発電事業者が前年の発電源割合と環境負荷を公表
9月15日まで その他の情報提供義務者(取引事業者等)が前年の発電源割合と環境負荷を公表
これらの公表データをもとにして、小売事業者は自分が前年に調達した全電力についての発電源割合と環境負荷についての情報を算定します。11月1日以降はその数値を表示することになります。
Q5. 卸電力取引所で仕入れた電気についてはどうするのですか?
A. 卸電力取引所で取引されている電気は、発電源が特定されていません。このため、この電気についてはドイツ全体の発電源割合が適用されます。その割合は、欧州電力系統事業者ネットワーク(ENTSO-E)が毎年公表します。ただし、発電源割合に占める再生可能エネルギーからは、再生可能エネルギー法で援助を受けたものと発電源証明が発行されたものが除外されたうえで、発電源割合が算定されています。これらの電気の割合は別途表示されることになるため、ダブルカウントを避ける趣旨です。外国から輸入した電気などで販売者の発電源構成が不明な場合も、上記の国全体の発電源構成を使うことが許されます。
Q6. 調整用の電力や送電ロスはどうカウントするのでしょうか?
A. 需給制御のために系統事業者から投入された電力については無視されています。「小売り事業者が調達したものではない」というのがその理由です。送電ロスも同様です。
Q7. 新規の小売事業者は?
A. 過去の調達・販売実績がない新規の小売事業者については、合理的に見込まれる発電源割合を表示することが認められます。ただし、過去の実績がないことを注記することが必要です。
Q8. 再生可能エネルギー法で援助された電力は?
A. 再生可能エネルギー法で援助された電力は、その割合を「再生可能エネルギー法で援助された電力(EEG電力)」として表示することになっています。現在のところ、再生可能エネルギー法電力の大部分は卸電力取引所で売られており、小売事業者がこれを調達・販売する電力にはなりません。しかし、小売事業者は賦課金を負担しており、それが電力料金を通じて消費者に転嫁されているため、上記の表示をおこなうことになっています。
再生可能エネルギー法電力の表示がおこなわれるため、発電源表示は実際の発電源割合に合致しません。実際の発電源割合は、再生可能エネルギー法電力を除いた部分に圧縮して表示することになっています。
Q9. 表示の信頼性はどう担保されているのですか?
A. 発電事業者、取引事業者、小売事業者など電気を取引するすべての事業者は、年1回、発電源割合と環境負荷情報の内容、算定のベースにした電力の量を連邦ネットワーク庁に届け出なければなりません。
Q10. もし表示をしなかったら?
A. 以上の小売事業者の表示・報告などの義務はエネルギー事業法に規定されています。法律上の義務ですので、守らない事業者に対しては監督官庁が是正を命じることができます。命令を無視する場合は、強制金(Zwangsgeld)として、最低1000ユーロ、最高1000万ユーロ(日本円にして約14億円)の制裁金を課すことが出来ます。
表示の有無は外部から容易に確認できるため、小売事業者が表示義務を守らないという事態は希有の事例です。
[i] BDEW Leitfaden “Stomkennzeichnung” (ドイツエネルギー・水力事業者連合「電力表示ガイドライン)2012年8月27日改訂版