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教えて電力システム改革 6: 日本のFIT買取義務者の変更案の問題点② FIT買取義務者変更に関するメリット/デメリット整理

FIT買取義務者変更に関するメリット/デメリット整理

2015年10月13日

コンシューマネット・ジャパン

 

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現在、再生可能エネルギー導入促進関連制度改革小委員会(以下、再エネ改革小委という)では、再エネ電力の固定価格買取制度(FIT)の抜本的な見直し作業を進めており、その議題の一つが、「FIT電力買取義務者(FIT電力応諾義務者)の変更」である。

現行制度においては、FIT認定発電所で発電されたFIT再エネ電力は、小売電気事業者が買取申込みに応ずる義務を持つ。この買取義務者を送配電事業者(TSO)に変更しようとする議論がされている[1]

が、これはFITの根本的な制度変更であるにも関わらず、再エネ改革小委ではその制度変更の目的が十分に説明されているとは言い難い。また後述のように、第2回再エネ改革小委では、一方的に制度変更メリットを述べるだけで、現行制度のメリットや制度変更のデメリットは説明されておらず、十分な比較検討がされているとは言い難い。

本ペーパーでは以下、資源エネルギー庁(以下、エネ庁という)が審議会の配布資料で説明しているメリット/デメリットを抜粋するとともに、それらに対するコンシューマネット・ジャパン(CNJ)の見解を述べるものとする[2]

なお、表中の第3回制度設計WGとは2013年10月に開催されたWGであり、約2年が経過したため、関係する制度環境はすでに変化が生じているものも一部あることに留意願いたい。

1.2013年10月開催 第3回制度設計WG資料[3]から抜粋

【小売電気事業者が買い取る方式(現行方式)】

◆メリット
エネ庁(第3回制度設計WG) CNJ見解
小売電気事業者が特定供給者と直接特定契約を締結し、固定価格買取制度により再生可能エネルギー電気を調達することが可能となるため、需要家のニーズに応じた調達や安定化のための技術開発等の取組み等、競争原理が働くことによる導入量拡大の可能性がある。 概ね同意である。

特に、消費者ニーズに応じた調達が可能という点が大きなメリットである。

◆デメリット
エネ庁(第3回制度設計WG) CNJ見解
小売電気事業者のみに応諾義務を課すとした場合、特定契約と接続契約の応諾義務者が異なることとなり複雑な制度を志向することになるほか、小売事業の自由競争における電源選択の制約となる恐れがある。 現行制度はすでにFIT特定契約と接続契約の応諾義務者が異なっており、特別に複雑な制度を志向するとは言えない。また、FIT電力を調達するか否か、またその調達量について小売事業者が判断できる一定の余地があるため、現行制度は小売事業の競争を促進することに役立つ可能性がある。
市場への入退出が比較的容易な小売電気事業者に特定契約の応諾義務を課すことは、制度的に不安定となる。 現実的に旧一般電気事業者が当面の間、最終的な買い手として存在するため、仮に小規模な小売電気事業者が廃業、退出した場合にも、発電事業者が買い手を見つけられないという事態は起こらない。
小売電気事業者は電圧や周波数の調整機能を自ら持たないため、現行法の特定契約の拒否事由を前提とすると、確実に特定契約の応諾が可能な小売電気事業者がどこにいるのかがわかりにくくなり、発電事業者は、極めて不確実な状況に置かれる。 現行法の特定契約の拒否事由は小売全面自由化後、制度変更が予定されており、新規参入者等の例外を除き、小売事業者は拒否することが出来ないこととなる。よって上記同様に、発電事業者の売電確実性は脅かされることはない。
小売電気事業者は電圧や周波数の調整機能を送配電事業者に依存するため、小売電気事業者が確実に特定契約の応諾義務を履行するためには、現在の電気事業者のコスト負担を見直す必要がある。 同時同量制度、インバランス制度は制度変更が予定されており、小売事業者は応分の費用負担を担う予定である。仮にアンシラリーサービス等の費用がさらに不足するならば、その料金制度を変更すべきである。

小括:CNJ見解としては、現行制度である小売電気事業者が買い取る方式には、消費者による電力選択の実現という大きなメリットがある一方、デメリットはそれほど大きなものとは言えず、すでに制度的に解決されていると考えられる。

【送配電事業者(TSO)が買い取る方式(制度変更案)】

◆メリット
エネ庁(第3回制度設計WG) CNJ見解
自ら系統の電圧や周波数の調整力を持ち、その調整コストも確実に回収することができるため、出力が不安定な再生可能エネルギー電気を安定的に特定供給者から調達することができる。 そもそも、系統の電圧や周波数を維持することは送配電事業者(TSO)の重要な責務である。現状でも、大きな需要変動や再エネ発電の出力変動に対してその役割を果たしている。再エネ発電事業者とTSOが接続契約のほかに特定契約(電力売買の商取引契約)を結ぶことが、変動再エネの拡大に役立つか否か不透明である。TSOのみに調整機能を集中されることは再エネ発電がもつ調整機能の活性化、調整コストの低減化という可能性を奪うことになりかねない。

詳細は※1を参照。

地域独占が想定される送配電事業者に接続請求と特定契約の双方の応諾義務を課すことで、発電事業者から見て簡素な制度となる。

接続契約と特定契約の関係が複雑にならないように整理することは重要であるが、それは買取義務者の制度設計には直結しない。一時的にTSOを買取義務者にしたところで、買取期間終了後には接続契約と買取契約の関係という問題が生じてくる。

他方、ドイツがすでに新規発電所の大部分をFIPに移行したように[4]、日本でも今後TSOが買取を行わず、発電事業者は自力で卸取引所に売電する制度に速やかに移行する可能性もある。

制度変更を行うにしても、旧制度の経過措置期間が設けられると予想するが、「小売事業者買取方式」「TSO買取方式」「FIP直接販売方式」など複数の制度、経過措置が併存することは一層の制度複雑化を招くおそれがある。

よって長期的には、「発電事業者から見た簡素な制度」とは言い難い。

※1 FITを始めとする様々な政策により、今後も再エネの発電所数・発電量は増加することが想定される。FITの買取期間が終了した際には、その再エネ発電所は通常の発電所と同様に小売電気事業者と直接に売電契約を結ぶことが想定される。FITの買取期間が終了する2030年代においては現在よりも再エネ発電量が増え、系統安定確保は一層重要な課題となっていることが想定される。この場合、FITの買取期間のみを送配電事業者(TSO)が買い取る方式が、系統安定性に役立つという説明は全く説得的ではない。

また、今後も電圧や周波数の調整、系統の安定性確保を送配電事業者が担うことに変わりはない。その実現のため、送配電事業者と発電事業者、小売事業者の役割を慎重に定める必要があるが、それは例えば同時同量制度やインバランス制度の在り方に大きく依拠することとなり、FITの買取義務者が誰であるかは副次的な論点に過ぎない。

電力需給の柔軟な調整は、再エネを導入して行くうえで大きな課題であるが、もっぱらTSOに調整を委ね、中央給電指令所等からの一方的な指令によって需給バランスを取ろうとすることは賢明なやり方とは言い難い。むしろ、例えば電力卸取引所からの適切な価格シグナルを強化することにより、柔軟な需給調整に資する資源を積極的に発掘していくべきである。また将来的には再エネ発電事業者も発電量の予測に責任を持ち、系統の安定運用に貢献することが可能となる。TSO買取方式への移行は、こうした中長期的な電力市場のあり方に反するものと思われる。

◆デメリット
エネ庁(第3回制度設計WG) CNJ見解
小売電気事業者による引取義務等最終的に電気の利用が担保される仕組みを追加的に用意する必要がある。 同意。送配電事業者(TSO)は原則小売をできないので、FIT発電所から買い取った電力を何らかの方法で小売事業者に引き渡す必要がある。引き渡し方法としては、卸取引所で売却する、小売事業者に比例配分するなどの方法があるが、それらの売却が卸取引所にどのような影響を及ぼしうるのかなど、十分に事前検討がなされているとは言い難い。
送配電事業者のみに応諾義務を課すこととした場合、固定価格買取制度により再生可能エネルギー電気を利用したい等の需要家のニーズに応じて、小売電気事業者が特定契約により、直接、再生可能エネルギー電気を調達することができなくなる。 小売事業者買取方式メリットの裏返しであり、これが最大のデメリットであると捉えている。消費者による電力選択を著しく制限するものである。

小括:まず第一に、電力を物理的に送配電する機能やその契約関係(接続契約)と、電力の商取引である売買契約(特定契約)は、別物であるということを十分に認識する必要があり、両者を混同してはならない。今回のFIT買取義務者の変更議論は、後者の商取引としての売電契約を発電事業者が誰と結ぶかという議論であることを認識する必要がある。

CNJ見解としては、送配電事業者買取方式のメリットとされている、系統に再エネを安定的に吸収するという主張は、十分に説明されているとは捉えられない。FIT買取期間終了後はいずれの方式であっても小売事業者が買い取ることになるため、小売事業者買取方式であっても系統安定性を実現するための方策を講じて行くことが不可欠であり、それが制度設計の本来のあり方と思われる。


2.2015年9月開催 第2回再エネ導入促進関連制度改革小委員会資料[5]から抜粋

【送配電事業者(TSO)が買い取る方式(制度変更案)】

◆メリット
エネ庁(第2回再エネ改革小委) CNJ見解
①需給運用の柔軟化

送配電事業者が需給調整を直接行うため、揚水発電所の活用や広域融通等がより行われやすくなる。

本来、送配電事業者(TSO)は、需給調整を直接行うことと位置付けられており、小売事業者買取方式であっても、揚水発電所の活用や広域融通等を行うことは妨げられない。

他方、エネ庁資料では、小売電気事業者への引渡し方法を「小売事業者への割付け」とした場合は、送配電買取のメリット(揚水発電や広域融通による柔軟な調整)が失われるとされている。

②制度の簡素化

発電計画値と発電実績値の差であるインバランスの精算ルールが簡素化する(FITインバランス特例が不要)。

すでにFITインバランス特例は制度化済みであり、送配電事業者(TSO)や発電事業者等はITシステム化で対応済みである。逆にここで制度変更することは、ITシステムの設計変更を事業者に強いることとなるおそれがある。
②制度の簡素化

買取義務者が自ら出力制御を行うことにより、出力制御時の業務フロー、権利義務関係等が簡素化する。

簡素化することは事実であるが、上記のように一旦、業務フローが作成され、システム化、ルーティン化されれば、特段の困難は生じないと思われる。
③その他

特定の小売電気事業者への買取の集中が回避され、競争中立的となる。

エネ庁や一般電気事業者はこの「競争中立的、イコールフッティング」という言葉を多用しているが、まずそもそも、自由化後当面の間は「非対称規制」が必要であると考える。独占的巨大事業者と新規参入者をただちに等しく扱うことは、競争政策上不適切であると考える。

上述のとおり、FIT電力を調達するか否か、またその調達量について小売事業者が判断できる一定の余地があるため、現行制度は小売事業の競争を促進することに役立つ可能性がある。

③その他

送配電事業者は倒産リスクが非常に低いため、買取の安定性が保証される。

小売事業者買取方式であっても買取の安定性は保証されると考える。現実的に旧一般電気事業者が当面の間、最終的な買い手として存在するため、仮に小規模な小売電気事業者が廃業、退出した場合にも、発電事業者が買い手を見つけられないという事態は起こらない。

これら以外に、第2回再エネ改革小委では、送配電事業者を買取義務者とする場合の以下の論点が挙げられている。

FIT買取期間終了後の扱い
エネ庁(第2回再エネ改革小委) CNJ見解
・現在の固定価格買取制度上、余剰買取対象の住宅用(10kW未満)太陽光については、買取期間が10年間に設定されているため、2019年11月以降、買取期間が終了する案件が大量に発生する見込み。

・買取期間終了後は、通常の電源と同様、小売電気事業者と買取契約を締結することが原則。ただし、買取先が決まらない旧FIT電源が発生する場合に備えて、最終保障買取を行う必要性や条件等について検討すべきではないか。

左記のとおり、余剰買取制度発電所の場合2019年から、FIT発電所の場合、多くは2032年から買取期間が終了する案件が大量に発生する。買取期間が終了した再エネ発電所は小売電気事業者と買取契約を締結することとなる。つまり現行の小売事業者買取方式と同じとなる。FITの買取期間のみ、送配電事業者が買い取ると変更することに、再エネ促進の観点から十分に合理的な理由は見当たらない。

まとめ:

FIT買取義務者を送配電事業者(TSO)に変更することのメリットはエネ庁から十分に説明されているとは言い難い。他方、現行の小売事業者方式には、小売電気事業者が消費者ニーズに応じた柔軟な調達が可能であるという大きなメリットがある。また、将来的には、ドイツで実現しているようにFIP(フィードインプレミアム)制度による直接販売に移行する可能性も高い。ドイツはすでにTSO買取方式から離れつつあることは別ペーパーで示したとおりである。

すでに現行制度である小売電気事業者買取方式で特段問題なく制度が運用されている中、それほど大きなメリットの見えない新方式(送配電事業者買取方式)[6]に向けて、敢えて根本的なFIT制度変更を今、行う必要性はどこにあるのか。十分に丁寧な説明を行うことをエネ庁には要望するとともに、再エネ改革小委での丁寧な議論が行われることを期待する。

以上


[1] FIT電力買取義務者変更に関する意見書(現行制度のメリットや制度変更の問題点)は以下webサイトを参照。https://consumernet.jp/?p=2650

[2] 本ペーパーは以下webサイトからダウンロード可能である。https://consumernet.jp/?p=2786

[3] http://www.meti.go.jp/committee/sougouenergy/kihonseisaku/denryoku_system/seido_sekkei_wg/pdf/03_04_04.pdf

[4] ドイツではすでにEEGFIT)電力の約67%はTSOの買取対象ではなくなっており、固定価格買取の対象になっているのは約32%にとどまっている(2015年の推計値)。

再エネで発電した電力を発電事業者が卸取引市場で直接売却する方式(「マーケット・プレミアム」)への移行が進んでいるためである。

2014年は、EEG電力の約62%がマーケット・プレミアム方式で売却された。20161月以降に稼働を開始した施設は100kW以下の小規模施設だけがTSOによる固定価格での買取りの対象となることが決まっている。つまり、政策的に出来る限りTSOが買い取る量を減らそうとしているのがドイツの現状である。

https://consumernet.jp/?p=2755

よって、日本が今からTSO買取方式に移行しようとすることは、ドイツが離れつつある旧制度に向かっているように見える。

[5] http://www.meti.go.jp/committee/sougouenergy/kihonseisaku/saisei_kanou/pdf/002_02_00.pdf

[6] ドイツではこれは一つ前の「旧制度」であることは先述のとおりである。

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