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教えて電力システム改革 1: 固定価格買い取り制度で買い取られた電力はなぜエコ電力として売れないの?— 21のQ&A

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世界の再生可能エネルギー生産の国別シェア

固定価格で買い取った電力がエコ電力として売れないことは、再生エネルギーの普及やいわゆるエコ電力を望む消費者の選択する権利に大きな足かせとなりそうです。どうして、固定価格で買い取った電力がエコ電力として売れないのか?制度設計はどうあるべきか、ドイツの電力事情に詳しい、千葉恒久さん*にお聞きしました。

Q 固定価格で買い取った電力は、なぜエコ電力として売れないのですか?

各種アンケート調査では、政府の原発再稼働推進の姿勢とは異なり、消費者がエコな電力を求めていることが示されています。日本でもようやく固定価格買取制度がスタートしました。すべての消費者が自由に電力やガスを選べるようになる日も目前に迫っています。消費者がエコな電力を自由に選べる日が来るのでしょうか?

A 再生可能エネルギーでつくったエコ電力を買いたいという消費者が増え、それを売るための小売事業者も現れました。こうした動きが広がってほしい、と多くの人が望んでいると思います。ところが、エコ電力の小売事業の先行きが危ぶまれる事態が生じています。いくつかの要因がありますが、その一つが固定価格買取制度(FIT)で買い取った電力をエコ電力として売ることを認めないようにしよう、という動きです。もしFITの電力をエコ電力として売ることができなくなれば、エコ電力の小売事業者は、FITの枠外で再生可能エネルギーの電力を調達するほかなくなります。しかし、現状では再生可能エネルギーの電力はコストが高く、消費者に対して売る電力の値段が高くなりすぎます。一部の消費者は高くてもエコ電力を買ってくれるかもしれませんが、それではエコ電力の小売事業は広がりません。あまり需要が期待できない事業に乗り出そうとする企業も現れない。結局、消費者はエコ電力を買うことができなくなってしまうのです。

Q FITのもとで再生可能エネルギーが増えて行けばそれで十分、とは考えられませんか?

A エコ電力の小売事業はいらない、FITだけでいい、と割り切ってしまえれば悩む必要はありません。でも、FIT制度のもとでは、消費者が自分の使う電力を100%エコ電力に変えたい、と思ってもその願いはかなえられません。FITで供給される電力は、消費者が使う電力の一部分にすぎないからです。

それに、消費者はFITの賦課金をいくら支払っても、FITの電力を使っているという実感を全く持つことができません。エコ電力の小売事業というものを介さないと、FITの電力は原発、石炭などの電力と混ぜられて消えてしまいます。消費者のもとに届くのは、ほかの電力と混ざった「グレー」の電力だけです。FITで発電がおこなわれた分だけエコ電力の割合が増えていることは確実です。でも、それは数合わせの世界での話です。消費者がそれを実感する術はありません。こうなると、FITの賦課金は消費者にとってメリットを実感することができない、逃げようのない税金のようなものになってしまいます。これは非常に不幸であるだけでなく、FITの制度そのものを危うくさせかねない要因だと思います。

Q FITだけでなく、エコ電力の小売事業にも目配りする必要がある、ということですか?

A そうです。FIT制度による発電のことだけでなく、作った電力を消費者に届けるエコ電力の小売事業が果たす役割を常に考えに入れなければなりません。FITはいずれ消えてなくなる制度です。FITがなくても再生可能エネルギーによる発電事業が成り立つようにする、というのがFITのゴールのはずです。そのためには、FITとともにエコ電力の小売事業が広がり、消費者がエコ電力を選んで買うようにして行かなければならない。FITの電力をエコ電力として売ることを禁止しよう、という考え方は一見するともっともですが、本当にFIT制度の趣旨にかなうのかは大いに疑問です。

Q ドイツではFITが大きな成功をおさめ、再生可能エネルギーによる発電量が伸び続けています。エコ電力の小売事業はどうなっているのでしょうか?

A ドイツはFITでは大きな成功を納めましたが、エコ電力の小売事業をともに育てていく、という点では完全に失敗しました。原因は、エコ電力の小売事業をFITの枠外に追いやってしまったことにあります。

ドイツの再生可能エネルギー法は2000年3月に制定されましたが、FITで買い取った電力をいったん送電事業者のもとに集めたうえで、すべての小売事業者に均等に配分することにしました。小売事業者には配分を断る自由がなく、FIT電力の配分は嫌でも受け取らなければなりません。つまり、買い取らなければならないのです。その負担は小売事業者から電力を買う消費者に転嫁されていきます。小売事業者に配分するFIT電力の比率は、送電事業者の間で均等になるように調整するので、消費者が担う負担は全国一律です。これは抜け穴のない公平な仕組みではありますが、ここには小売事業者がFITの電力を使ってエコ電力の小売ビジネスをおこなう余地が全くありません。2010年1月からはやり方を少し変え、FITの電力を電力取引市場(前日市場)で売る方式に改めました。小売事業者にはFITの経済的な負担だけが配分されるように変えたのですが、小売事業者がFIT電力に触れないのは以前と変わりません。FIT電力は電力取引市場で売られることで、原発や石炭などの電力と混ざって「ただの」電力に姿を変えてしまいます。

Q ドイツのFITはエコ電力の小売事業に無頓着だった、ということでしょうか?

A 完全に無頓着であったわけではありません。2000年に再生可能エネルギー法を制定する際、エコ電力の小売事業をどうするのかが議論になりました。ドイツの電力市場が自由化されたのは1998年4月ですが、自由化とともに内外から多くの事業者が小売事業に参入しました。エコ電力の小売を専門におこなう事業者も生まれました。環境保護団体BUNDは風力発電協会などと共同で「自然の電力」(Naturstrom)という会社を設立しました。後を追うようにして、環境保護団体グリーンピースも「グリーンピースエネルギー」(Greenpeace Energy)を設立しました。北ドイツのハンブルグでは「リヒトブリック」(Lichtblick)という同じくエコ電力専門の小売会社が誕生しました。同じ時期、南ドイツのシェーナウでは、町民らが自力で電力会社(EWS)を立ち上げ、エコ電力の全国販売にも乗り出しました。自由化とともにエコ電力の小売事業も一気に花開いたのです。こうしたなかで、再生可能エネルギー法の制定をめぐる議論がおこなわれました。当然、エコ電力の小売事業をどうするのかも議論されましたが、そのなかで設けられたのがエコ電力特例(グリーン電力特例)でした。

Q どんな特例なのですか?

A 販売する電力の50%以上が再生可能エネルギーによる電力であれば、その小売事業者にはFITによる電力を分配しない、という特例です。つまり、こうした小売事業者とその事業者から電気を買う消費者はFIT制度による負担を負わなくてもすみます。そのメリットを生かしてエコ電力の小売事業をやってください、という趣旨です。

しかし、この特例はほとんど使われませんでした。特例の適用を受けるためには、再生可能エネルギーの電力の割合を半分以上にしなければなりません。しかも、FITの対象ではあるがあえてFITによる買い取りを求めない、という施設の電力でなければならず、外国から買ったエコ電力はカウントされません。当然ながら、小売事業者はFITの価格と同等の値段で電力を仕入れることになりますが、当時はまだ再生可能エネルギーの電力の価格が非常に高かったため、たとえ50%であってもFITの電力を混ぜて売るとなると消費者に売る電力料金が高くなりすぎました。FITの負担(賦課金)も当時は微々たるものだったので、賦課金の負担を免れるメリットも小さかった。そんなこともあって、この特例はほとんど使われませんでした。

Q エコ電力の小売事業者はどうしたのですか?

A 結局、彼らはドイツ国内でつくられた再生可能エネルギーの電力を消費者に売ることができなくなってしまいました。でも、幸い、北欧(とくにノルウェー)やスイス、オーストリアなどから水力発電によるエコ電力を比較的安く買うことが可能でした。このため、彼らはこうした電力を仕入れて消費者に販売することで生き延びました。詳しい説明はまたの機会にしたいと思いますが、エコ電力の小売事業者が国外のエコ電力を仕入れて販売するようになったことで、FITとエコ電力の小売事業は完全に分断されてしまいました。つまり、国内の施設で作られたエコ電力はほとんどすべてFIT制度に吸収されていき、その一方でエコ電力の小売事業者は外国からエコ電力を調達して販売する、という状況が生まれてしまったのです。

Q エコ電力を買う消費者は増えているのですか?

A ドイツではエコ電力の購入者が年々増え続けています。いまでは家庭向けに供給される電力の16.7%がエコ電力となっています(2014年)。FITによる電力の割合がすでに27.8%に達しているので、両者を単純に足し合わせると家庭用電力の42%が再生可能エネルギー由来、ということなります。エコ電力専門の小売事業者だけでなく、地域型の電力会社から大手の電力会社まで、ほとんどすべての電力会社がエコ電力メニューを提供しており、エコ電力は消費者にもすっかり定着しました。

Q エコ電力の販売量が伸びているのに、売られているのは国内の電力ではないのですか?

Aそうなのです。現在のドイツで「エコ電力」として売られているのは、主として北欧やオーストリアなどの電力です。最近は国内産のエコ電力を売ることをうたう事業者も増えていますが、主流は外国頼みです。

Q それは消費者の思いとかけ離れているように感じますが。

A エコ電力を買う消費者は、ドイツ国内でつくられた再生可能エネルギーの電力を使いたいと思っています。自分の払う電気料金が国内の発電事業に生かされることを願っているはずです。それなのに、いくらエコ電力を買っても自分が支払うお金は外国の再生可能エネルギー事業に吸収されて行ってしまい、国内の事業者を支援することにはつながりません。そのうえ、そのお金は外国でも新たな再生可能エネルギー施設を建設することには必ずしもつながりません。古いダム式水力発電施設の事業者を潤すだけ、ということも多いのです。このため、環境への配慮や新たな施設への投資など独自の条件を満たすエコ電力だけを売る小売事業者もあり、こうした条件を満たした電力であることを認証するための仕組みも多く存在します。でも、たとえ「まじめな」エコ電力の小売事業者から電力を買っても、ドイツの消費者に「エネルギー転換に貢献している」という実感はなかなか生まれません。その傍らでは、「再生可能エネルギーの電力なら何でもいい」というポリシーの小売事業者が、「エコ電力」を安く売っています。結局、「エコ電力」は消費者にとって何だかよくわからない、形だけのものになってしまっています。

アンケートをとると、多くの消費者が地元のエコ電力を買いたいと望んでいる、という結果が出てきます。これは、消費者にとっては、CO2排出量の削減などだけでなく、エネルギー転換や地元の経済に自分が貢献しているという実感も非常に重要な要素であることを示しています。こうした消費者の思いにこたえるためには、電力の供給を出来る限りわかりやすい、透明なものにしていく必要がありますが、残念ながらドイツの状況はこうした消費者の思いとはかけ離れてしまっています。

Q 改善に向けた動きはないのでしょうか?

A 2010年ころ、先ほど紹介したエコ電力の特例を使う動きが広がりかけました。FITの賦課金があがったため、賦課金の負担を回避できることのメリットが膨らんだだめです。それで、FITの価格で仕入れたエコ電力を半分以上混ぜて売るという事業がビジネスとして成り立つようになりました。再生可能エネルギーの発電コストが急激に下がったことも背景にあります。ところが、こうした動きが広がりかけた途端、エコ電力の特例は再び使えないものに変えられてしまいました[i]。FITの枠外でエコ電力を売る事業が広がると、FITの賦課金を支払わない人が増え、賦課金の単価がさらに高くなってしまうことを懸念しての法改正でした。結局、特例は再びお蔵入りし、2014年の再生可能エネルギー法の改正でついに制度自体が姿を消してしまいました。

Q まさに八方ふさがりですね。

A でも、特例の撤廃を契機に、FITとエコ電力の小売事業の関係をもう一度考え直して、両者をうまく組み合わせる制度を構築しよう、という機運が生まれました。そこで、FIT電力を小売業者が販売できる新しいシステムを設けるための検討が始まりました。再生可能エネルギー法にも、FIT電力の小売りを認めるための新しいシステムを導入するために政令を制定することを認める条項[ii]が盛り込まれました。

Q これまでのFITの仕組みを変えよう、という試みですね。改革は実現したのですか?

A いえ、まだです。今まさに議論がおこなわれているところです。2014年秋、FIT改革のためのモデルとして、主要なエコ電力の小売事業者が連名で「エコ電力のための新しいマーケットモデル」を発表しました[iii]。それは、FITに追加の負担を生じさせない、消費者にも負担をかけない、という条件のもとで、小売事業者がFITの電力をエコ電力として売ることを認めよう、というものです。

Q FITにエコ電力の小売事業が加わるのですね?

A そうです。彼らが考えたのはこんな仕組みです。

小売事業者は、再生可能エネルギーの発電施設からFITと同等の価格で電力を買います。そして、その電力を消費者に売って、消費者が支払う電気料金で電気の調達や事業の運営にかかるコストなどをまかなっていきます。でも、消費者が支払う電気料金はこれまでと変わりません。電気料金のなかにFITの賦課金が含まれていますが、小売事業者はそのお金でエコ電力を買い取るコストをまかなうのです。大まかに言えば、これまで全国版のFITが担って来た役割を、個々の小売事業者が担っていくという発想です。個々のエコ電力事業者が「自分のFIT」を運用して行く、いわば「ミニFIT構想」です。

Q 消費者にとってはどんなプラスがあるのですか?

A 大きなプラスがあります。消費者はFITを使ってつくられた電力を選べるようになります。FITの電力は原発や石炭の電力と混ぜ合わさった「グレー」の電力ではなく、エコの電力として消費者のもとに届くのです。消費者は自分が支払う電気料金(に含まれるFITの賦課金)がどの発電施設に支払われるのかを知り、選ぶことができます。地元の再生可能エネルギー施設の電気を買いたい、と思っている消費者は、地元のエコ電力を買うことが可能となります。発電事業者にとっても、自分がつくるエコ電力を使う消費者の顔を見ることができるようになります。小売事業を介して、発電事業者と消費者がつながることが可能になります。

Q FITという仕組みが発電事業者と消費者の思いにかなったものに変わる、ということですね。

A そうです。ここはFITの生命線といってもいいくらい重要な点だと私は思っています。これまでのFITがいわば血の通った仕組みに変わる契機になるはずです。

でも、この構想には限界もあります。FIT電力の全国平均を超えて、例えば100%をFIT対象施設の電力にすることはできないのです。それを実現しようとすると、電気料金に含まれるFIT分の負担が全国平均より高くなってしまい、それを納得してくれる消費者にしか買ってもらえなくなります。電気料金をこれまでの水準に維持しようとすれば、FIT電力の平均割合を超える部分はこれまでどおり外国のエコ電力に依存せざるを得ません。

でも、ドイツの一般の消費者が使う電力に占めるFIT電力の割合は、すでに44%[iv]に達しています(2015年の予想値)。さらにFIT電力の割合がさらに上がっていけば、少し背伸びをしてFIT電力の割合を100%にすることも可能になって来るはずです。それが何年後に実現するのかはまだわかりませんが、「ミニFIT」によってエコ電力の小売事業も自立を促されて行くはずです。

Q 新しいモデルはFIT制度全体に弊害をもたらさないでしょうか?

A 例えば、小売事業者が太陽光や風力などの変動する発電源を避けて、小水力やバイオマスなどの電気ばかりを買うと、従前のFITのほうには変動タイプの電力ばかりが集まってしまいます。変動に対応するためのコストも従前のFITばかりが負担しなければならない。それは避ける必要があります。このために、モデルでは、小売事業者がFIT全体と同じか、それ以上の割合で変動タイプの電力を購入しなければならないという条件を課すことを想定しています。また、小売事業者が安いFIT電力ばかりを集めても困ります。このため、平均の買取価格をFIT全体の平均の買取価格(2015年は約16セント/kWh)と比較して、安すぎる場合は調整金を支払わせるなどの調整をおこなうことも考えています。このあたりは制度の設計によっていくらでも対応が可能です。

Q もし新しいモデルが実現したら、FIT制度の姿はかなり変わるのではないでしょうか?

A 新しいモデルのもとで小売事業者が独自にFITを運用するようになれば、従前のFIT制度の役割は大きく変わってきます。各地のFITの相互間の調整が主たる役割になってくるはずです。それだけでなく電力市場とFITとの関係も大きく変わります。

ドイツのFIT制度は、2012年1月の「マーケット・プレミエ」制度の導入で大きくモデルチェンジしました。この制度で、再生可能エネルギーの発電事業者は自分で電力を売ることが可能になりました。もちろん、それ以前から発電事業者が自分で作った電力を取引市場で売ることはできました。しかし、取引市場で電力を売っても安くしか売れないので、誰もそんなことはしませんでした。でも、「プレミエ」制度によって取引市場の平均価格と固定買取価格との差額が補てんされるようになったので、事業者は損をせずに市場で電力を売ることが可能となりました。上手に売れば固定価格での買い取り以上の利益を得ることができます。この制度の導入後、風力を中心に取引市場で電力を売る事業者が急増し、わずか3年あまりの間にFITの電力量の約半分がこの方式で売られるようになりました。「プレミエ」制度によって、FITのもとでおこなわれる発電が取引市場の状況に応じて行われるものに姿を変えたのです。

Q FITの発電事業が電力取引市場と結び付けられた、ということですね。

A そうです。でも、このプレミエ方式で売られた電力は、エコ電力として売ることはできません。小売の部分は依然として門を閉ざされたままなのです。「プレミエ」制度のもとで売り買いされる電力もFITの支援を受けている以上、固定価格で買い取った電力と同じだ、という扱いです。そこを変えて、FITの電力を小売の世界でもエコ電力として使えるようにしようというのが、先ほど説明したモデルなのです。もしこのモデルが実現すれば、FITの電力は発電から小売りまで、市場で取引される存在に生まれ変わります。これはFIT制度によって第2のモデルチェンジになるはずです。

Q 日本でもFIT電力の表示について議論がなされています。

A 経済産業省の審議会(電力システム改革小委員会・制度設計ワーキンググループ)では、FITの電力を固定価格で買い取った小売事業者が再生可能エネルギーの電力であることを表示することを認めない、という方針が打ち出されています[v]。「FITの電力が持つ環境価値は負担に応じて全需要家に配分・調整されるのが適当である」というのがその理由とされています。FITの電力はその電力を買い取った事業者の顧客だけでなく、すべての消費者の負担によって支えられていること、制度全体で出来る限り統一的な扱いとすることが望ましい、という考え方がその基礎になっています。確かに、FIT制度の「みんなで支える」という要素は重要です。でも、だからといって、FITの電力を小売事業者が全く使えない、表示することができないものにしてしまう、というところには大きな論理の飛躍があります。FIT電力の扱いについての問題を「環境価値の帰属」という学者風の割り切りで済ますことはできません。むしろ、FITという仕組みを支えて行くために、エコ電力を売りたい・買いたいという小売事業者と消費者の存在を積極的に活用していくことを考えて行くべきです。

日本では、外国からエコ電力を買い取ってくることができません。もしFITからエコ電力の小売事業を追い出してしまったら、エコ電力の小売事業というものがそもそも成り立たないと思います。そうした状況は果たしてFIT制度が目指す電力供給市場の将来像にそぐうのでしょうか。先ほどの経産省の方針は、消費者の期待に答えて行くという点でも大いに疑問です。自らエネルギー転換に貢献したいという消費者は確実に存在します。そのニーズをくみ上げてビジネスにつなげていこうとする小売事業者はFITにとっても重要な存在です。彼らの役割を無視することはFITにとって大きなマイナスになるのではないでしょうか。

経産省の考え方は、一言で言えば視野が狭すぎるのです。そこには、FITの将来を見据えた長期的な展望が欠けていますし、実践的で戦略的な観点も全く感じられません。

Q 日本ではどんな仕組みが考えられますか?

A 日本のFITはまだ始まったばかりです。FIT制度の成熟度という点ではドイツとは比較のしようもありません。FITの電力の買取価格にも大きな差があります。ですので、先ほどの「ミニFIT」構想を今すぐ日本で実現できるとは思いません。でも、日本の制度は、小売事業者がFITの電力を直接買い取る仕組みになっているので、ドイツよりFITと小売事業者との間の距離がずっと近くなっています。こうした枠組みを積極的に生かしつつ、FITと小売事業を両立させる道を探っていくべきです。

両立のためのアイデアはいろいろあると思います。一番肝心になるのは、消費者がどの発電所の電力を使うのかを選べるようにすることです。それが実現すれば、消費者は発電事業を後押しできるようになり、消費者と発電事業者が結び付けられます。あとは、FITの会計に余計な負担をかけないことも必須です。送配電網への負担を軽減する方向に働けばなおベターです。

ごく単純なモデルとして、例えば、FITの電力をエコ電力として小売りすることを認める代わりに、事業者はFIT会計に1kWhあたり1円を納付しなければならない、という仕組みを導入することを考えましょう。もしこうした仕組みがあれば、「地元のエコ電力を売る」という小売事業が成り立つ可能性が出てきます。電気料金の単価がたとえ2高くなっても地元のエコ電力を買いたい、と消費者が存在すれば、小売事業者はFIT会計に1を納めても、地元の発電事業者からFITの買取価格より1高い値段で電力を買い取って事業をおこなえるからです。FIT会計にとっても、小売事業者の納付金が収入源になるので負担の軽減につながります。小売事業者にはFITの電力であることを表示させることが大前提ですが、それでも自分が支払うお金で地元の発電事業を支援したいという消費者はある程度存在すればこうした事業が成り立ちます。

これは、FITという仕組みの中に、発電事業者と消費者との間に「顔が見える関係」を作り出して行くためのひとつのアイデアにすぎませんが、私はこうした仕組みをFITに取り入れることが「みんなで支える」というFIT制度の趣旨に反するとは思いません。むしろ、FITという仕組みを単にお金だけの関係だけに収斂させてしまうことの方がFIT制度にとってはずっと危険ではないかと思います。

要は、エコ電力を買いたいという消費者のニーズと発電事業者やエコ電力小売事業者の力をうまく取り込み、「生きた」FIT制度にしていくことが非常に重要なのです。

(2015年4月15日談)

[i] 2012年1月以降、賦課金の免除が全額ではなく2.0セント/kWhに限定された。また、風力と太陽光の電力が2割以上を占めること、という要件が追加された(2012年再生可能エネルギー法39条)。この法改正はEUの2009年再生可能エネルギー指令との関係でも必要であった。2013年にエコ電力特例(グリーン電力特例)の対象となった発電量は合計で3037GWhであり、再エネ法の買取対象電力の約2.4%である。特例対象施設の内訳は、陸上風力(41.4%)水力(24.9%)、廃棄物系バイオガス発電施設(汚泥・ゴミ処分場など)(31.6%)。

[ii] 2014年再生可能エネルギー法95条6項。政令の内容についても法律で細かな条件が明記されており、制度の大枠はすでに定められている。

[iii] モデルの内容はHPで紹介されている。http://www.gruenstrom-markt-modell.de/

[iv] 経済的な負担比率という観点で捉えた場合の割合。2015年の全電力消費量に占めるFIT電力の割合は30%と予測されているが、電力を多用する工場や鉄道会社などがFITの賦課金の負担を軽減・免除されている関係で、一般の消費者はより多くの賦課金の支払を強いられている。その追加的な負担分を計算に入れると、一般消費者が消費する電力に占めるFIT電力の割合はすでに40%を超えている。

[v] 電力システム改革小委員会・制度設計WG第9回資料(事務局資料5-3の8ページ以下)http://www.meti.go.jp/committee/sougouenergy/kihonseisaku/denryoku_system/seido_sekkei_wg/pdf/009_05_03.pdf


*千葉恒久さん

弁護士。日本環境法律連盟所属。ドイツフライブルグ大学で環境法研究。ドイツの再生エネルギー事情に詳しい。著書「再生可能エネルギーが社会を変える~市民が起こしたドイツのエネルギー革命」(現代人分社) ほか。コンシューマネット・ジャパン協力者。

(参考著書)

千葉恒久著『再生可能エネルギーが社会を変える―市民が起こしたドイツのエネルギー革命』
ドイツの再生可能エネルギー法が市民運動のなかで生まれ育って来た経過について詳しい紹介がなされています。

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