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電力小売自由化と電気料金:三段階料金制度は維持すべき

2016年を目途に電力小売の全面自由化が予定されています。地域独占と発電・送配電・小売の垂直統合、総括原価方式による電気料金という現在の制度に護られて原発など巨額の設備投資を偏重し、「殿様経営」を続けてきた電力会社に、ふつうの企業なみに経営を合理化・効率化させるための自由化それ自体は、歓迎されるべきものと考えられます。

しかし、現行制度のなかには、全面自由化後も維持した方がいいものもあります。そのひとつが電気の「三段階料金制度」です。これは、電気をたくさん使うほどkWhあたりの電気料金が高くなる(逓増料金)制度で、省電力を促すと同時に、電気をあまり使わない低所得者の電気料金を低く抑え、生活必需品である電気を誰もが使えるために貢献してきました。この三段階料金制度が、電気料金が自由化されるとなくなってしまう可能性が高いと予想されます。

以下では、省エネ推進・低所得層保護の観点から、自由化後にどのように三段階料金制度を維持するかを考えてみました。


電気の全面自由化後も三段階料金制度」は維持すべき

2013年11月13日に成立した改正電気事業法では、2016年を目途に電力小売業への参入全面自由化、2018年から2020年を目途に電気小売料金の全面自由化が定められています。

現在、電力の小売は部分自由化段階にあり、工場や大規模事業所といった大口需要家(自由化部門)は、少なくとも制度上は電気の小売事業者を自由に選択することが可能であり、電力小売事業者(一般電気事業者や新電力)は、小売料金を自由に設定することが可能です。一方、家庭や商店といった小口の需要家(規制部門)に対しては、原則、一般電気事業者のみが小売可能であり、その小売料金も規制がなされています。

三段階料金 図1現在、一般電気事業者の小売料金の設定方法には、「三段階料金制度」が適用されています。三段階料金制度とは、省エネ推進、低所得者層保護の観点から、電気の使用量に応じて料金単価を三段階に設定したものです。(イラスト出典は東京電力)

小売参入全面自由化後には、一般電気事業者や新規参入者(新電力等)は、自由に小売料金を設定可能となります[1]。電力小売事業者にとって、電力を大量に消費する消費者は「お得意様(上顧客)」となる可能性があります。一般的な商品にボリュームディスカウントがあることと同じく、上顧客維持のため、電力大量消費者に対しては割引料金を提供する可能性があります。割引でなくとも、一律料金とする可能性もあります。自由化された競争環境では、小売事業者は、価格面でみすみす上顧客を失いかねない三段階料金制度を自主的に維持するインセンティブを持ちません。

仮に三段階料金制度が廃止された場合、消費者の価格インセンティブが失われ、電力消費の抑制が困難となります(逓減型料金メニューの場合は逆インセンティブとなり、消費量増大が促進されます)。

また仮に逓減型料金メニューが導入された場合は、120kWh未満の料金が現在よりも相対的に割高となるため、低所得者層にとって一層の負担となりかねません。節電に努力する者の経済的負担により、電力を大量に消費する消費者の料金が値下げされることは、一般消費者の納得を得られるものではありません。

ですから、国は電力小売事業者に対して、三段階料金制度もしくはそれを維持強化する逓増料金制度を義務付けるべきです。国は電力小売事業者の事業予見性を高めるためにも、早急に方向性を示すべきです。

三段階料金制度は託送料金で維持できる

現在の総括原価方式による料金規制が廃止されることにより小売料金が自由化されますが、送配電部門に関係する託送料金は料金規制を受けることになります[2]。しかし、省エネ推進、低所得者層保護という政策目的から、小売自由化の下でも規制料金である託送料金において三段階料金制度を維持することは可能です。

電力小売事業者は、等しく託送料金を負担し、明示的に顧客に転嫁したうえで託送料金以外の部分で自由に料金設定することができます。

なお、会計分離が導入されている現在、一般電気事業者の小売部門は、送配電部門に対して(低圧)託送料金を支払っている(部門間処理しています)はずです。一般電気事業者は、その託送料金を明示するとともに、その算出根拠を開示すべきです。

三段階料金制度を税制で置き換えられないか?

消費者の価格インセンティブ維持・強化の政策手法として、税制を活用することも考えられます。電力小売事業者が自由に設定する料金メニューに別途、電力税(電力消費量に応じた逓増型)を導入することにより、価格インセンティブを維持することも一案です。

料金方式と税方式の併用は望ましいかたちですが、仮に料金方式を廃止し税方式だけを採用する場合、以下の点に留意が必要です。

  1. 三段階料金 図2電力小売への参入が全面自由化された時点(2016年目途)で、当初の新規参入者はクリームスキミング[3]を狙うことが予想されます。仮に多くの小売事業者が料金を逓減型とした場合、税だけで実質的な価格インセンティブを維持するためには、かなりの高税率にしなければなりません。また、「電気料金+電力税」の支払総額は小売事業者ごとに異なるため、「適切な」税率設定が困難です。その一例として右図では、A社とB社は同じコストで料金総額も同じですが、料金体系だけが異なる例を仮定しています。仮にkWh固定の税率を設定した場合の支払総額を示していますが、これでは両社の競争条件は公平とは言えないことが分かります。
  2. 逓増型の電力税が存在する場合、小売事業者は(顧客の実質支払額抑制のため)むしろ料金を一層、逓減型にしようとするインセンティブが働く可能性があります。
  3. 総税収として数兆円が見込まれる大型税となる可能性があります。消費者の多くは新税に対して心理的抵抗感が大きいため、当面、大型新税の導入は非常に困難です。
  4. まったくの新税としての環境税ならば、最初は低率で導入し徐々に税率を上げていくことが妥当ですが、今回の場合、小売参入全面自由化時点(2016年目途)で、いきなり三段階料金が無くなってしまうため、低税率導入では実質的に価格インセンティブが失われてしまいます。
  5. 東京電力の場合、第1段階(0~120kWh)料金は18.89円/kWhですが規制部門全体の平均原価は25.74円/kWhです。新規参入者がコスト抑制に努めるとはいえ、仮に一律料金を導入した場合、その一律料金を18.89円よりも低価格とすることは困難と予想されます。
    一方、料金全面自由化(2018~2020年目途)が実施されるまでの経過措置期間中は、一般電気事業者は従来通りの規制料金を維持することが義務付けられています。つまり当面、規制料金の第1段階料金が最も低廉であり続ける可能性が高いのです。仮に電力消費少量範囲では電力税率をゼロとした場合でも同様です。この場合、電力少量消費者はこの経過措置期間中、規制料金に留まる強いインセンティブが働くため、新規参入者へのスイッチング(移行)が著しく抑制される可能性が高くなります。

三段階料金 図3

このように、電力税自体はその早期導入が強く望まれますが、税制だけで三段階料金制度を代替することには無理が生じる可能性が高くなります。税制度設計の工夫と予算面の措置(補助金給付等)により、上記課題を一定程度解決しながらも、ポリシーミックスを取るべきです。

以上のような理由から、コンシューマネット三段階料金制度を実質的に維持するために、規制料金である託送料金において逓増型(現行と同等の三段階)とすることを提案します。

三段階料金制度以外にも、電気料金自由化後に国が政策的見地から小売事業者に対して料金設定の一定のガイドラインを示すことが必要になることも考えられます。

 


[1]ただし消費者保護の観点から経過措置として、一般電気事業者は従来どおりの規制料金のメニューを別途、一定期間(料金全面自由化までの間)提供することが義務付けられます。

[2]現在、家庭など小口・低圧部門を対象とした託送料金は存在しないため、自由化後に「低圧託送料金」が新設されます。これは規制料金となります。

[3]新規参入者が、収益性の高い分野のみにサービスを集中させ「いいとこ取り」をすること。


 

文責 船津 寛和(ふなつ ひろかず)

*コンシューマネット・ジャパン研究員。気候変動、エネルギー政策担当。炭素税や排出量取引、固定価格買取制度などを研究、政策提言を行う。研究対象は再生可能エネルギー、省エネ、電力システム改革、環境教育・ESD(持続可能な開発のための教育)など。

 


三段階料金についての参考情報

三段階料金 図1▶「三段階料金制度とは」東京電力ホームページから)

三段階料金制度とは、省エネルギー推進などの目的から、昭和49年6月に採用したもので、電気のご使用量に応じて、料金単価に格差を設けた制度のことです。第1段階は、ナショナル・ミニマム(国が保障すべき最低生活水準)の考え方を導入した比較的低い料金、第2段階は標準的なご家庭の1か月のご使用量をふまえた平均的な料金、第3段階はやや割高な料金となっています。

 


三段階料金 図4「3段階料金制」関西電力ホームページから)

高福祉社会の実現・省エネルギーの観点から下記の3段階に設定。

第1段階:比較的低廉(生活に必要不可欠な部分)

第2段階:平均的

第3段階:割高

※昭和49年3月の電気事業審議会料金制度部会答申を受けて同年6月より導入。(従量電灯A・B、時間帯別電灯 等

 


三段階料金制度の経緯経産省資料から)

●電気事業審議会料金制度部会中間報告(昭和49年3月)

【検討内容】・生活必需的な消費量に相当する第一段階の部分については、比較的低廉で、かつできる限り全国格差の少ない料金を適用することが適当。・生活必需的な部分を超える消費量については、第二段階と第三段階に分け、料金制度に逓増制を導入することにより、価格機構を通じて省エネルギー化を図ることが適当。
      • 中間報告を受け、一般電気事業者各社は昭和49年6月以降、3段階料金制度を導入。
      • 本制度は法律に基づくものではなく、あくまで電気事業者の自主的取組であることに留意。

三段階料金 図5

●電気事業審議会料金制度部会中間報告(昭和62年12月)

【検討内容】・制度創設当時に比べエネルギー情勢は緩和し、本制度に期待される省エネルギー上の役割は、制度設定当時とはかなり変化してきていると言える。(エネルギーの絶対的消費量の減少から、効率的使用へ)・供給原価の上昇傾向が大幅に緩和している現在の状況においては、供給原価の実態に即し、逓増料金制度(三段階料金制度)の積極的緩和が望ましいが、需要家に対する影響等を総合的に勘案し、当面は格差率の縮小等を段階的に行っていくことが適当。
    • 昭和62年の料金制度部会中間報告を受け、電力各社は、昭和63年の料金改定以降、料金改定の都度、三段階料金の格差率を段階的に縮小。(※引用ここまで)

なお、2012年以降の東京電力をはじめとする電力各社の電気料金改定(値上げ)においては、第1段階料金の値上げ幅を抑制したため、三段階の格差率は拡大しました。

現状の三段階料金制度に基づく、電力消費量による料金差の試算例

(東京電力の単価を使用。簡略化のため、基本料金は含まず)

以下の例では、節電に努力するAさんの月間電力消費量は200kWh、節電をしていないBさんの電力消費量は600kWh、と仮定。すると、Bさんの電力消費量はAさんの3倍ですが、電気料金は3.6倍となります。割り戻した平均単価はAさんが21.41円/kWhに対して、Bさんは25.89円/kWhであり、1.2倍となっています。

Bさんは節電に努力することにより、自ら料金単価を2割下げることが可能です。

 

 

三段階料金 図6

 

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