消費者のための安全安心情報サイト

仏ラ・アーグ再処理工場:斜陽産業の実態

世界最大の原子力総合多国籍企業だった仏アレバが経営破綻し、大量の政府資金注入により旧アレバから核燃料サイクル部門を引き継いで新設されたニューコ(NewCO)。日本からも三菱重工と日本原燃が資本参加して再出発した新生ニューコですが、同社の主力事業である再処理とMOX燃料の前途は闇の中のようです。「もう再処理やめたら?」という声が真実味を帯びてきました。


仏ニューコ社のラ・アーグ再処理工場

仏原子力安全機関(ASN)がプルトニウム作業場で水素爆発の危険を指摘

フランスの原子力安全機関(ASN)は、2017年7月31日、ラ・アーグ再処理工場(仏ノルマンディー地方、アレバ社が経営)に対し、「爆発の危険に対する防護対策が不充分」として改善命令を出していたことが仏紙の取材でわかった。

問題の施設は、原発からの使用済燃料を再処理して抽出されたプルトニウムから不純物を除去して純化する処理を行なっているT4と呼ばれる作業場。処理の過程で多量の水素ガスが発生するため、通常操業時は換気設備を通して外部に放出されるようになっている(水素は空気中の濃度が4%を超えると自然爆発する危険がある)。何らかの原因で排気設備が停止した場合には、工場内から供給される空気か、これが供給できない場合は非常用の圧縮空気ボンベから空気を送り込んで撹拌する防護システムが設置されている。

ASNは、2017年3月21日、抜き打ちで、同工場の電源がすべて喪失して上記の防護システムのいずれもが働かず、外部から空気ボンベを搬入しなければならなくなったという想定で模擬試験を行った。T4では、換気停止後96分で水素濃度4%に達することがわかっている。模擬訓練では訓練開始から55分後に、同工場外部の倉庫から圧縮空気ボンベ9本を積んだコンテナが工場ゲートに到着したものの、工場入口のセキュリティーチェックで時間を食い、期限の96分に間に合わなかったという。ASNは、もしこれが現実に起きていれば、水素爆発が起きて大量のプルトニウムが拡散していた可能性があるとして、同工場を経営しているアレバ社に改善を要請した。

[ちなみに、フランスではこうした抜き打ち模擬訓練を全国の原子力施設で頻繁に行っている。事前にASNが各サイトで想定し得る異常事態のシナリオを用意し、対象施設にはその内容を知らせないまま、抜き打ちで模擬対応させるもの。現場の運転員や作業員の多くは「緊張で胃が痛くなった」と話している。]

斜陽化する核燃料サイクル事業

ASNの今回の抜き打ち検査は偶然ではない。ここ数年、ラ・アーグ再処理工場の労働組合は「工程手引書の無視が常態化している」、「設備の老朽化は危機的状況」、「職場の雰囲気が険悪化して辞めていく職員が続出している」など、安全管理や職場環境の悪化を再三批判してきた。2016年11月には、工場の職員からASNに「コスト削減を理由に予防保守は最小限まで切り詰められ、人手不足で現場での実地訓練もなおざりにされている。深層防護よりも経済性が優先されている」とする内部告発状が送付されている。

こうした安全文化の低下の背景には、再処理事業の厳しい台所事情がある。フランスは「グリーン成長のためのエネルギー移行法」(2015年)で2025年までに電力に占める原発の比率を50%以下に下げることを定めている。2017年6月に誕生したマクロン新政権はこの規定を遵守することを表明しており、ルラ・エネルギー環境相は17基の原子炉(既存原子炉の1/3近く)を閉鎖する意向を表明している。閉鎖対象となる原子炉はまだ特定されていないが、寿命を40年以上に延ばすさいには老朽部品の交換や安全対策の追加が必要になることから、こうしたコストが高く採算性の低い旧型の90万kWクラスの原子炉から閉鎖されると見られている。

新生ニューコ(旧アレバNC)にとって問題なのは、ラ・アーグ再処理工場で抽出されたプルトニウムの唯一の用途であるMOX燃料(ウランとプルトニウムを混ぜた燃料)をフランス国内で燃やしているのがこの90万kWということだ。これまで、MOX燃料は外国原発にも輸出されてきたが、311以降、日本の原発停止、ドイツの脱原発、ベルギーやスイスの原発フェードアウトなどで国外市場は激減。頼みの綱であるフランス電力(EDF)のMOX使用原発がこの先閉鎖されれば、ニューコの主要な収入源になっているMOX燃料事業が存亡の危機に立たされる。

それはそのままラ・アーグ再処理工場で日々生産されるプルトニウム使い道がなくなることを意味する。現在、ニューコはプルトニウムの在庫を59トン抱えており、「余剰プルトニウムを持たない」という核不拡散条約(NPT)の原則を守るためには再処理量を減らす必要がある。ラ・アーグ再処理工場はすでに再処理量を定格能力の3/4に落として操業しているが、アレバによれば、年間処理量1,118トンのうち1,100トンが国内原発からのものという。これらのうち17基が閉鎖されることになれば、再処理事業も大幅に縮小せざるを得なくなる。

ラ・アーグ再処理工場の従業員数4,000人、下請け労働者1,000人と、同工場のプールに貯蔵されている使用済燃料9,778トンの未来はどうなる? 新生ニューコの未来まさに闇の中だ。

 

出典 : «Inspection explosive à la Hague, première poubelle nucléaire du monde», Le Canard Enchaîné 2017.09.13(同紙は電子版がありません)