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EUで内分泌かく乱物質の規制案をめぐる攻防が佳境に

「精子の数が減っている!」というショッキングな報告で、2000年代初めごろに日本でも大きな注目を集めた環境ホルモン(内分泌かく乱物質)。その後、素人には極めてわかりづらいどっちつかずの調査結果が環境省から出たり、この問題を扱った人気テレビ番組に化学業界から猛烈な抗議が寄せられて番組制作者をビビらせたりしているうちに、最近は何となく立ち消えになった感があります。けれども、そんな人間サマのご都合とは無関係に、この問題は自然界や私たちの環境に厳然と存在し続けています。EUではいま、内分泌かく乱物質の規制をめぐる攻防が佳境をむかえているようです。内分泌かく乱物質の実態は日本もまったく同じなので、その一端を知って他山の石としましょう。


ECの内分泌かく乱物質の定義案に市民・研究者が反対

内分泌かく乱物質(別名環境ホルモン)について、世界保健機関(WHO)は2013年に「世界的な脅威」と警告したが、EUでは規制が遅れてきた。その理由は、「内分泌かく乱物質とは何か?」という、用語の定義をめぐって何年も交渉が難航してきたからだ。どう定義するかによって、今後使用を禁止されたり、制限される物質が決まってしまうのだから、業界の抵抗が苛烈を極めるのは想像に余りある。現在EUではこうした物質の使用は、(哺乳瓶を除いて)食品とじかに接触する包装についても無規制の状態だ。

この長い確執の結果、EU閣僚理事会は2017年7月4日、欧州委員会(EC)が提出した最終基準案を了承したが、その内容に対して市民側や研究者から強い反発の声があがっている。6月15日には、関係する欧州の3大学会である内分泌学会、欧州内分泌学会、欧州小児内分泌学会が欧州加盟28カ国の政府宛にEUの規制案を廃案にするよう求める公開書簡を送っている。

有害性は明らか でも断定は困難

内分泌をかく乱させるとされている物質は、プラスチックや農薬、化粧品など、私たちの身の回りにあふれている。これらの物質は、甲状腺や卵巣、睾丸、下垂体などのはたらきを妨げたり、乱したりするため、体の成長や性徴、代謝などに悪影響を与える。また、とくにホルモン依存性がん(乳がんや前立腺がん)、2型糖尿病、肥満、自閉症などを、直接暴露した人だけでなく、その子孫にも誘発するとされている。

その有害性は、動物でも人間でも多くの研究で実証されており、その影響は広範囲に及んでいる可能性がある。たとえば、2015年に専門誌Journal of Clinical Endocrinology and Metabolismに掲載された論文によると、EU住民の内分泌かく乱物質への暴露による健康被害のコストは、年間€1500〜2600億(19兆5000億〜33兆7500億円:GDPの1.2〜2%)にのぼる可能性があるという。しかし、一部の化学物質を除いて、こうした物質と健康影響の間の因果関係を証明するのは簡単ではない。従来の有害物質は毒性が摂取量のみに依存するのとちがい、内分泌かく乱物質はその活動様式の同定が困難だからだ。いくつもの化学物質が混ざり合っているときの「複合効果」や、内分泌のかく乱されてから器官に影響が出るまでの潜伏期間、影響の個人差などにより、断定することが難しいのだ。多くの専門家は、内分泌かく乱物質は他の有害物質のようなしきい値(これ以上なら危険、これ以下なら安全という境界値)がなく、ごく微量でも大きな影響を及ぼすことがあると見ている。

業界寄りのEC品目別規制案

2013年に欧州理事会と欧州議会は「第7次環境行動計画」を決めたが、これに依拠すればECはすべての製品を横断する形で内分泌かく乱物質の規制案を提出することもできたはずなのに、EC定義案は、「できるだけ早く規制するため」として、とりあえず植物薬剤(CE n° 1107/2009) と殺生物剤 (CE n° 528/2012)から始めるとして品目別の定義案を出すことに決定した。このため、これら以外の化粧品や食品包装プラスチック、水などの食品関係、さらには溶剤、塗料、繊維など非食品類については積み残しになってしまった。

今回のEC定義案には、これ以外にも重要な欠陥が2つある。そのひとつは、内分泌かく乱物質の複雑な作用様式(長期の暴露期間、曝露量にたいする反応の個人差)がまったく考慮されていないこと。もうひとつは、内分泌かく乱物質であることの証明要件が、発がん性物質や変異原性物質、生殖毒性物質よりもはるかに厳しいことだ。発がん物質で採用されているような3段階の判定区分(証明されている、推察される、疑われる)を採用せず、2段階(証明されている、推察される)だけを採用したこと。このため、ある物質を規制対象にするための証明のハードルが高くなり、これまで発表された研究結果の多くが「証拠不十分」として採用されなくなり、多数存在する「疑わしい」物質が規制をまぬがれるおそれがある。

このEC定義案は、このあと4カ月をかけて欧州議会と欧州理事会で審議され、修正案を提出後、多数決で賛成/反対を決める。EUの市民団体は、植物薬剤と殺生物剤の定義が、その後決められるその他の製品の定義の土台になることから、この間に各国の政府、議員に働きかけて業界からの強力な圧力に対抗するよう呼びかけている。

出典: Florentin PINEAUD, «ENVIRONNEMENTPerturbateurs endocriniens : une définition à hauts risques», 01/09/2017 ALTERNATIVES ECONOMIQUES N°371 / «Perturbateurs endocriniens : l’état de la science et l’enjeu des négociations européennes», La Fabrique Ecologique, juillet 2017

参考: 「ブッリュッセル内分泌かく乱物質の定義を’今年の夏までに’と約束

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