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炭素偏析問題への仏原子力安全機関(ASN)判断を仏独立系研究所CRIIRADが批判

フランスの放射線測定研究所「放射能研究情報独立委員会(CRIIRAD)」は仏原発の主要機器の強度が基準を満たしていないことが発覚した問題(炭素偏析問題)について、「仏原子力安全機関(ASN)は安全性を犠牲にした幕引きをはかろうとしている」として、安全確保のために必要な措置を提言する声明を公表した。

(声明原文はこちら: POSITION DE LA CRIIRAD : «Autoriser la mise en service d’une cuve dont deux composants critiques ne respectent pas les exigences essentielles de sûreté serait irresponsable», CRIIRAD 2017.09.05)

フラマンビル原発3号機格納容器内の構造(ASNのwebサイトより)

炭素偏析問題とは?

仏原子力安全局(ASN)は15年4月、フラマンビル原発3号機(FL3)の圧力容器の上蓋と下鏡に「高炭素濃度部位が存在し、期待された破壊靭性値を下回る」ことが検査の結果わかったと発表した。つまり、原発の安全性で最重要の部品の機械的強度が基準よりも低く、脆いことがわかったということだ。

これらの部品はいずれも、世界最大の原子力総合企業である仏アレバ社のクルゾ・フォルジュ工場の工程を用いて製造されたもので、同工場が本来なら炭素濃度が高いため除外するはずの鋼材を使って鍛造製造し、その品質データを捏造していたことがわかっている。中国で建設中のEPR台山原発1・2号機の上蓋と下鏡も同工場で同じ工程で製造されているほか、後の調査でFL3と、仏国内で運転中の58基の原発(すべてPWR)のうち18基の蒸気発生器でも同様の炭素偏析問題があることが確認されている。

アレバは、問題のクルゾ・フォルジュ工場を2003年に法外な高値で買収したが、関係者によると国内の原発新設が長期にわたってなかったことからすでに同工場の設備は老朽化しており、技術者のノウハウ継承や安全文化も地に堕ちていたという。仏原子力安全機関(ASN)は2006年8月の検査で同工場の能力不足を認識し、以後アレバとフランス電力(EDF)に管理体制改善と品質検査結果の報告を再三求めたが、アレバもEDFも対応を怠り、ANSもそれ以上の措置を取ることはなかった。関係者は「アレバは100%自社生産とコスト削減にこだわるあまり、クルゾ工場にもともと無理な生産をさせた。かたやクルゾ工場は、アレバの品質管理が甘いのをいいことに、検査データを改竄して辻褄を合わせた」と話している。

15年12月、アレバと建設主体であるフランス電力(EDF)はFL3について、「設計仕様には満たないが、試験により十分な強度があることを示せる」として、同じEPRでEDFがイギリスで建設中のヒンクリーポイントC原発(HPC:165万kW2基)用に製造してあった実物を用いた強度試験の実施を申請。ASNはこれを許可し、EDFのデータに基づく解析を行った結果、17年6月28日、「上蓋と下鏡の機械特性は、事故時も含め、必要性を満たしている。しかし、炭素偏析は突発的破断のリスクマージンを減少させるため、①下鏡については、異常が生じていないか追加的な定期検査を行う、②上蓋については、こうした検査が不可能なので、2024年までに新しいものと交換する」との意見書案を発表した。FL3の欠陥圧力容器は2013年10月にアレバNPから納入され、この時点ですでに蒸気発生器との接続、配管・配線も終え、分厚いコンクリート壁の中に設置されてしまっているため、下鏡を交換するとなると莫大な資金と時間を要することになる。他方、上蓋は露出しているため交換は容易で、EDFは過去に既存原発のほとんどで実施している。EDFは今回のASNの決定を見越して、今年4月に早々と交換用上蓋を日本製鋼所に発注している。ASNが仏原子力産業を存亡の危機から救うために、安全性を犠牲にしたことは誰の目にも明らかだ。

この意見書案は、今年9月12日までパブコメに掛けられ、秋に正式決定されることになっている。

CRIIRADの批判

原発の安全性よりも経済を優先したASNのこの意見書案に対して、CRIIRADは次の点を批判している(要約)。

クルゾ・フォルジュ工場製造部品の検査は遅きに失し、検査対象が少なすぎる

欠陥の可能性が指摘されている問題は438件とされているが、これらはアレバとEDFの自主申告によるもので、同様の問題は約6,000件あるとされる製造部品すべてに存在する可能性がある。これらすべての解析が完了するまで、問題のある部品が実際にいくつあるのか、またその異常がどの程度なのかは誰にもわからない。

事業者やASN、放射線防護原子力安全研究所(IRSN)の資源が、現在稼働中の原発の安全性検査にではなく、建設中で未稼働のEPRの検査に対してのみ注がれているのは理解しがたい。このために、稼働中原発の検査結果は、問題が発覚してから1年後にしかわからず、その対策は16ヶ月も遅れることになる。この間に生じ得るリスクに対してASNは何の対策も取っていない。ASNの査察で、アレバ/EDFが取った対策に驚くべき異常が発覚したにもかかわらず、アレバ/EDFの確認作業の信頼性を保証する措置は何も取られていない。

安全管理体制そのものが破綻している

2015年から行われたクルゾ・フォルジュ工場からの事情聴取にもとづいて、ASNは「重大な技術的・組織的機能不全が何十年間も続いてきた」としているが、製造部品の欠陥がデータの改竄によって隠蔽されていたことは、性善説に基く現在の事業者管理体制の根幹そのものに問題があることを示している。

過去10年間については、クルゾ・フォルジュ工場の製品は、事業者内部やASN、およびASNが委託した検査機関、さらアレバNPとEDFによる数千もの品質管理手続きを経ていたはずであり、しかも2005年以降、同工場に問題があることは(一般市民をのぞいて)周知の事実で、アレバとEDFも監視を強化していたはずだった。にもかかわらず、今回のような重大な違反が10年近く経って初めて判明したことは、どのように説明できるのか? 重大な欠陥があることは確認されているが、その欠陥がなぜ起きたのかは今も闇の中だ。

この点に関する詳細な回答が明らかにされ、問題への対策の策定と実施が行われ、その実効性が確認されない限り、規制当局は現在フランスで稼働中の58基の原発を稼働させるべきではない。基準を満たさない部品をもつ原子炉の運転を継続させるために、規制に特例を設ける時ではない。

EPRの圧力容器:安全に直結する問題なのに闇の部分が多すぎる

CRIIRADの見解は以下の通りである:

  1. 情報が公開されていないため、独立の立場からの検証が不可能。しかも、その情報は機能不全から欠陥部品を設置した当事者が出したものであり、利益相反を免れない。
  2. 何千万人もの市民の生命を脅かしかねない施設であることから見て、安全マージンの減少も、深層防護原則(安全上余裕のある設計、事故拡大防止、放射性物質の放出防止という多重的安全対策の原則)の根源的改変も、検査を一部部品に限定することも許容することはできない。現実の事故状況は、モデルに基づくシナリオ解析よりもはるかに複雑である。
  3. ASNが課している欠陥圧力容器の稼働認可条件(下鏡については追加検査、上蓋については2024年までの暫定使用)は、この鋼材の欠陥を補う性質のものではまったくない。上蓋交換期限とされる7年間は、交換用上蓋の製造に必要な期間であり、それまでにこの欠陥による事故が起きないという保証は何もない。
  4. 2005〜15年の経緯を見ると、原子力産業が自らの責任や法的規制、ASNの警告をすべて無視してきたことがわかる。いま必要なのは、法規を歪めて重要な安全対策を事業者に免除させることではなく、事業者を処罰することである。

以上の理由から、CRIIRADはこの圧力容器の稼働許可に多数の市民が反対の声を上げ、原子炉の実際の状態のみならず、原子力施設の管理体制そのものを保証する措置を直ちに取ることを要求するよう訴える。パブコメにとどまらず、あらゆる手段を使って、破局的事故を引き起こしかねないこの決定を阻止しなければならない。

福島原発事故の後、IRSN首脳のひとりは、これからは「想定不可能なことを想定しなければならない」と語っている。この人物は、EPRに欠陥原子炉が設置されるという想定不可能なことが起きようとは夢にも思わなかったに違いない。だが、それがいま我々の目の前にある現実なのだ。