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ちょいのりタクシーは成功するのか?

2017年1月30日から、東京特別区、武三地区(武蔵野市、三鷹市)のタクシーの初乗り料金が410円になりました。今回のタクシーの「運賃組み替え」は本当に値下げなのか?実質値上げなのか?消費者にとっての利便性と業界の思惑はどこにあるのか、気になるところだと思います。

国土交通省は2016年12月20日、東京都(東京都特別区、三鷹市、武蔵野市)のタクシー初乗り運賃を現行の700~730円から、380~410円に引き下げる新運賃を、2017年1月30日から適用することを発表しました。

この運賃改定は2016年4月~7月に改定申請がなされ、国交省で審査を実施し、その結果について消費者庁(消費者委員会に付議)との協議や、物価問題に関する関係閣僚会議の了承を経て公示されたものです。

タクシー事業規制の推移

タクシー運賃は事業規制の歴史と言ってよい側面があります。道路運送法による規制緩和前(2002年)以前はタクシー事業への参入は免許制で、事業計画により、車両数や営業区域、最低車両台数などが認可されました。運賃(料金)については、下限割れ申請は認めないとされていましたが、2002年の規制緩和で、事業参入が免許制から許可制に変わり、最低車両台数が5~10両と軽減され、下限割れ運賃も個別審査で認められることになりました。

しかし、乗車数が減少したこと等により、2009年10月からは許可が厳しくなり、特定地域においては最低車両台数が20~40両とされ、2014年1月からは改正特措法により、特定地域の参入は禁止、準特定地域も需要判断による許可制となり、下限割れ運賃は変更命令の対象となるなど、既得権保護が疑われる規制の強化がされました。

これは、タクシー乗務員の労働環境改善などとの説明がされましたが、実質的には既存業者保護のためともいわれ、新規のベンチャー事業者の参入を阻止し、ワンコインタクシーなど、低額タクシーの進出を拒むための規制自体が司法で争われるなど、議員立法により規制は不当として批判され、業界全体の在り方も問われることになっていました。

初乗り運賃引き下げはなんのため?

これまで、タクシーの運賃制度の初乗り運賃は「2kmまで730円」が上限となっていましたが、これを「1.052kmまで410円」を上限に引き下げたことになりました。

初乗り運賃は幅を持たせた規制のため、380円、390円、400円の設定も可能ですが、今回は最大上限である410円に個人タクシーもふくめた各社が足並みをそろえたことになります。加算される距離ならびに時間を短くすることで、一定の減収が見込まれる短距離利用者からの運賃収入を、中長距離利用の運賃引き上げによってカバーするとのことですが、これについては公共料金調査会でもその収支見通しや、実質値上げなのに組み替えという手法では料金の妥当性を検証しきれないのではないかとの意見もだされました。そもそも、初乗り運賃を下げるという話はどこから始まったのでしょうか。

2016年3月30日に、「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議」(議長内閣総理大臣)が策定されました。この中で公共交通利用環境の革新に向け、世界水準のタクシーサービスの充実として、2015年度初めの実施を目指した東京23区でのタクシー初乗り運賃の引き下げ、東京23区でのUD(ユニバーサルデザイン)タクシーの拡充(2020年25%、2030年75%)、プライベートリムジンの全都道府県への導入が記載されました。

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kanko_vision/

これを受けて、「新しいタクシーのあり方検討会」が立ち上げられ国際化への対応として、初乗り運賃引き下げが決められました。

http://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha_tk3_000067.html

初乗り引下げにこだわったのは、タクシーの初乗り運賃の国際比較で、東京730円に対して、ロンドン410円、ニューヨーク420円(ドル:116円、ポンド:172年で試算)となっているためです。2キロ以降の運賃上昇はかわらないものの、1.4キロまでの初乗り運賃が東京は割高になっていることが指摘されました。増加する訪日外国人のニーズに応えるというのが主たる目的でしたが、増加する高齢者をはじめとする短距離需要の喚起を図ることも目的とされました。

タクシー業界は10年で3割減収?

一方で、日本ではこの10年間、国内旅客運送量を輸送モード別にみると、タクシーは減少傾向が継続しています。2005年を100とした場合、67と3割以上減少しています。旅客船を除く他の鉄道、航空、乗り合いバスがほとんど変わらないのと比較しても利用減は明らかです。

タクシー料金も公共料金ですが、その算定は総括原価方式によるとされています。原価計算事業者28者の実績値を基に試算した場合、今回の試算値は初乗り運賃が810円(2キロ)と11.46%の値上げとなるはずでした。これを初乗り料金を引き下げ、中長距離で調整して「組み替え」とすることで、値上げとならないとされたものですが、収支がどうなるかは、まさに実証実験と言わざるを得ません。

(参考)
「東京のタクシー運賃組替えについて」(国土交通省)
http://www.cao.go.jp/consumer/kabusoshiki/kokyoryokin/doc/021_161102_shiryou1.pdf

出典:「東京のタクシー運賃組替えについて」(国土交通省)(http://www.cao.go.jp/consumer/kabusoshiki/kokyoryokin/doc/021_161102_shiryou1.pdf, p16)

出典:「東京のタクシー運賃組替えについて」(国土交通省)(http://www.cao.go.jp/consumer/kabusoshiki/kokyoryokin/doc/021_161102_shiryou1.pdf, p18)

新しいサービスへの期待と課題

2016年11月2日の公共料金調査会での東京ハイヤー・タクシー協会のヒヤリングでは、東京オリンピック・パラリンピックに向けてより安価で利用しやすい運賃制度に向けた取り組みとして初乗り料金引き下げが説明され、IDタクシー1万台の導入を目指すことなどが説明されました。観光英語対応ドライバー300人の育成や、東京12000台強のスマホ配車システム、リーズナブルは空港アクセス、陣痛タクシー、子育てタクシーなどのサービスへの取り組みが説明されました。

報道も、「ちょいのりタクシー」はサービス向上への第一歩として評価しているようですが、消費者団体からのヒヤリングでは、一般消費者があまり利用していない実態も明らかになっています。今回の中長距離の値上げや、加算運賃の説明がしっかりされているか疑問もあります。ちょいのりは安いが実質は値上げでは客離れに歯止めはかかりません。

 

東京オリンピックを控え、観光立国を標ぼうする外国人客への対応も重要ですが、海外からの参入にも注視しながら、乗車率の減少をどうするか、少子高齢化のなかでのタクシーの需要と消費者の意見の反映を踏まえた対応を期待したいと思います。

(古賀真子)

・約2kmまでの運賃は引き下げ

・約2km~約6.5kmは引き下げになる部分と、引き上げになる部分がある

・約6.5km以上は引き上げ

になり、東京都の平均乗車距離である4kmまでの利用においては現行と同等の運賃になるとしている。


2016年11月1日付で、消費者庁長官から消費者委員会へ、物価問題に関する関係閣僚会議に付議するための建議をうけ、消費者委員会の公共料金専門調査会は、同年11月2日から11月30日まで4回にわたり関係団体等のヒヤリングを経て、報告書を提出しました。

http://www.cao.go.jp/consumer/kabusoshiki/kokyoryokin/doc/024_161130_shiryou.pdf

 

(参考)

一般乗用旅客自動車運送事業(東京都特別区・武三地区)の運賃組替え案に関する公共料金等専門調査会意見

消費者委員会公共料金等専門調査会は、平成28 年11 月1日付で消費者庁より付議を受けた、東京都特別区及び武三地区における一般乗用旅客自動車運送事業(以下「タクシー」という。)の国土交通省による運賃組替え案について検討した。運賃組替え案の内容は以下の通り。

1.結論

○ 今回の運賃組替え案については、方向性としては理解出来るものの、2.に述べる通り、中長距離(概ね4km 以上)運賃の値上げを伴うことの必要性については必ずしも明白ではないため、組替え案の実施に当たっては、国土交通省において、丁寧な事後の検証や、負担が増加する中長距離利用者への対応等を行うことが必要である。また、消費者利益の増進を一層図る観点から、国土交通省は3.に示す留意事項に関する対応についても事業者と協力して併せて実施すべきである。

○ 公共料金等専門調査会は、検証に必要なデータ等が整った段階で、国土交通省による対応状況等についてのヒアリングを含め、運賃組替え後の状況の検証を行うこととしたい。

2.結論に至る理由及び課題

○ 我が国のタクシー市場は、長年にわたり利用者の減少傾向が続くなど厳しい経営環境下にあり、ITを活用したライドシェア等の新たなサービスが世界的に台頭する中で、タクシーが公共交通としての役割を果たしていくためには、新たな需要の開拓等を通じ、これまで取り込んでいなかった消費者のニーズをかなえていく必要がある。

○ 国土交通省の説明によれば、人口の高齢化や訪日外国人の増加等に伴い、短距離でのタクシー利用の需要拡大が見込まれるとのことであり、また、現行の運賃体系については、長い間の慣行に基づくもので必ずしも合理的な運賃体系ではなく、現行の初乗り運賃は国際的に見ても標準的とは言えないとの指摘もなされていることから、これを正していく方向性については理解出来る。

○ しかしながら、本件タクシー運賃組替え案は、初乗り運賃を値下げする一方で、中長距離(概ね4km 以上)運賃の値上げを伴う内容である。初乗り運賃の値下げは、上記の観点から望ましいものの、他方で、中長距離運賃値上げの必要性は必ずしも明白ではない。まず、値上げが妥当であるためには、総括原価方式の考え方に基づき、事業コストに適正利潤を加えた額の範囲内で値上げがなされることが必要である(注1)。

○ 仮に組替えにおける値下げが運送収入の減収をもたらす場合でも、これを相殺する限度の値上げ(運送収入増減中立運賃変更)が無条件に許されるわけではない。なぜなら、前回のタクシー運賃改定時(平成19 年)から相当な期間が経過しているため、この間に事業コストが低下している可能性があり、この場合には、コストの減少によって運送収入の減少を相殺出来るので、値上げの必要がないからである。

○ 本件運賃組替え案においては、簡略な方法で、運送収入の増加がないことが推定されている。他方、前回改定時からのコスト低下がないことは、厳密には検証されていない。このため、不必要な値上げがなされるおそれもあるので、国土交通省は以下の措置を講じる必要がある。

① 運賃変更に伴う運送収入の増減に関する試算の手法の向上を図ること。

② 運賃組替え後、適切な時期に、運賃組替えの収入増減への影響を調査し適切な措置をとること。

③ 併せて、前回改定時からのコストの低下がないことを確認し、説明すること。

なお、これらの措置を行った上で、国土交通省は、初乗り運賃や加算運賃の妥当性の再検討を行うとともに、併せて時間距離併用制運賃等の付随する運賃制度についても、現代の交通事情に適合したものであるかという観点から、必要に応じて見直すべきである。また、事業者による原価計算書の提出を省略した今回の手続きが妥当なものであったかについても検証する必要がある。

○ 中長距離運賃の値上げは、高齢者や病院通院者など、必需性が高い一方、経済的負担能力の乏しい利用者に不利益を与えることになる。その影響に配慮し必要な措置を検討するべきである。

3.留意事項

(運賃組替えに関する丁寧な周知)

○ タクシー運賃は、利用後に事後的に確定する性質のものであるため、利用者が事前にタクシーの利用の是非を適切に判断するためには、運賃の予測可能性が高いものでなくてはならない。また、運賃の予測可能性の向上は、タクシーの利用促進にもつながるものである。

○ このため、新運賃の導入に当たっては、十分な広報活動により、運賃体系について消費者への丁寧な周知を図るべきである。特に、概ね4km 以上乗車した場合、運賃は現行運賃より高くなる可能性があることや、時間距離併用制運賃における加算時間が現行より短くなることについては、消費者に確実に理解される必要がある。また、幅運賃制度等、タクシーの運賃設定に係る制度全般についても、消費者の更なる理解向上を図るべきである。

(短距離利用者への適切なサービスの確保)

○ 初乗り運賃の引き下げに伴う短距離利用の需要の増加により、実車率が現状より高まる可能性があるが、その結果、路上でタクシーがつかまりにくくなったり、駅前等のタクシー乗り場での待ち時間が増加したりする状況が発生していないか注意深く見守り、必要に応じ対策を講じるべきである。

○ 利用者が、現行より運賃が安くなる短距離の利用であることが見込まれることを理由に、タクシーに乗車しにくくなったりしないようにするなど、短距離利用者が乗車する際の運転手のマナー維持等に対して十分な対応策を講じるべきである。

(長距離利用者の負担抑制)

○ 長距離利用者の負担額の増加を抑制出来るよう、事業者間の競争等を通じて、迎車料金の割引や、配車サービス利用者への長距離割引等のサービスが充実することが望ましい。

4(消費者の意見の反映)

○ タクシーの利便性向上に向けて、例えば地域協議会等の場において、消費者の意見を聴取し、反映させる仕組みを更に充実させるべきである。

(サービス利便性の向上)

○ スマートフォンアプリによる配車システムの普及や、事前確定運賃の導入等、新たなサービスの積極的な展開を進めるべきである。ただし、新たなサービスを導入する際には、消費者が利用の際に混乱したり、高齢者等が使いにくくなるようなことがないよう、十分な配慮を行うべきである。

○ 荷物の多い乗客や、高齢者、障がい者等がタクシーを利用しやすくなるよう、ユニバーサルデザイン車両の普及等、タクシー車両の改善を進めるべきである。

○ 駅前等でのタクシーへの乗車を円滑にするため、既存のタクシー乗り場の利便性向上や新規の乗り場の設置を進めるべきである。

○ 深夜や早朝等、他の交通機関を利用出来ない時間帯において、運転手のシフト体系等に起因するタクシーの供給不足が顕著とならないよう、必要な対策を講じるべきである。

(持続可能な経営環境のための取組)

○ 運賃組替えの結果、仮に、短距離輸送による運送収入の減少や、中長距離利用者の減少等の影響が大きくなり、事業者の経営を圧迫するような状況が広がった場合、運転手の労働環境が悪化し、それがタクシーのサービスの質や安全性に悪影響を及ぼすおそれもある。また、タクシー事業者が適正な利潤を確保出来なければ、サービス改善に向けた投資も進まない。このため、今回の運賃変更について、国土交通省は、事業者の経営状況や、運転手の労働環境にどのような影響があるか監視しつつ、一定の期間の後に事後検証を行うべきである。ただし、非効率な経営を行っている事業者や、サービスの質が十分でない事業者が市場からの退出を余儀なくされることは避けられないことであり、需給バランスの適正化にもつながることなので、これを妨げるべきではない。

○ さらに、運賃規制全般について、消費者の利益となるような柔軟な運賃設定を事業者が工夫して行うことを必要以上に妨げるような硬直的な仕組みとなっていないか、今後更に検証する必要がある。

(注) 1 タクシー運賃の改定を行う場合、本来であれば、総括原価方式の考え方に基づき、原価の精査を行った上で、適正な利潤を含めた総括原価と総収入が均衡することを確認するプロセスが必要となるが、今回は、収入増加を目的としない運賃組替えであるとして、これを省略している。

( 以 上 )__

 

11月2日

http://www.cao.go.jp/consumer/kabusoshiki/kokyoryokin/senmon/021/shiryou/index.html

11月9日

http://www.cao.go.jp/consumer/kabusoshiki/kokyoryokin/senmon/022/shiryou/index.html

11月18日

http://www.cao.go.jp/consumer/kabusoshiki/kokyoryokin/senmon/023/shiryou/index.html

11月30日

http://www.cao.go.jp/consumer/kabusoshiki/kokyoryokin/senmon/024/shiryou/index.html

 

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