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もっと知りたいフッ素の話 ~その12  第33回国際フッ素学会(インド、ハイデラバード市)報告

33回国際フッ素学会(インド、ハイデラバード市)報告です。インドでの深刻なフッ素症患者の実態が明らかになりました。

国際フッ素学会とは

1966年に米国デトロイト市で有機フッ素、無機フッ素に関する情報交換として第1回が開催され 日本でも過去に3回開催されました。

インドのハイデラバード市で第33回国際フッ素学会が11/9-11に開催されました。2年毎の開催で前回はタイのチェンマイでした。

今回は国立栄養研究所の主催、ユニセフ等の共催で、48の口演と62のポスター発表がエントリーされ、インドの研究者を中心に約80名が参加しました。

フッ素症罹患者は世界の25ヶ国に及び、約6200 万人そのうち子供が600万人罹患しており、インドでは1000万人、子供は100万人に及ぶとの報告があります。

9日は会議前のワークショップで、フッ素症(歯、骨、非骨格性)の診断、治療、予防方法、フッ素濃度の測定法など一般医師向けのセミナーでした。フッ素症はインドでもまだ十分に認知されておらず、特に医師への啓発活動に重点が置かれています。フッ素症は予防可能であるが、治療困難な疾病です。成長期への介入で軽症化しますが、成人では困難です。小児へのフッ素の蓄積は80-90%,成人では60%との報告があります。

その予防戦略として、診断とフッ素の除去、雨水(フッ素が少ない)の作物への利用、食事の改善、外科的手術による治療などがあります。

夜に歓迎レセプションがあり旧知の友人と再会したり、初対面の方々との出会いがありました。参加者はトルコ、イラン、インド、中国、日本(北里大学衛生学角田助教授)米国、タンザニア、タイなど、フッ素中毒地区のある国々がほとんどで欧米からの参加者は暫減しています。

フッ素症患者も参加

ハイデラバード郊外70kmにあるフッ素症地区の住民が、主催者の計らいでわざわざ学会に参加してくれました。罹患者(添付写真2枚)は30歳後半の男性で骨奇形を伴う矮小体躯型、骨軟化症、骨粗しょう症、骨硬化症が混在する骨フッ素症で、成長期の栄養不足(特にビタミンD、C、E)のため発育不良のクル病を合併しています。

クル病・骨フッ素症

クル病・骨フッ素症

骨フッ素症

骨フッ素症

骨フッ素症は足の形状などにより弓状型、X脚状型、骨奇形型、骨奇形を伴う矮小体躯型に分類されます。高濃度フッ素(5ppmの井戸水)の摂取と栄養不良(特にビタミンD,C,E)のために罹患した疾病であり、予防可能なのですが、フッ素があると症状は増強されます。彼らは「皆の役に立つのなら」と人前に出てくれたのです。

WHOによる飲料水中フッ素濃度の基準は、1ppmが虫歯予防に至適、上限は1.5ppm、2ppmで中、重度の歯フッ素症が出現、5ppmを10年以上飲用すると骨フッ素症が出現する、となっていますが、事実は全く当てはまりません(添付:フッ素症の牛=フッ素濃度の高い牛乳)。1.6ppmから骨フッ素症が発症し、上限値とされる1.5ppmからの安全域が全くありません。日本の水道法による飲料水中フッ素濃度の上限は0.8ppm、中国、タイ、西アフリカは0.5ppmですが、インドでは最近までWHOの1.5ppmが上限値であり、2012年にようやく1.0ppmまで下げました。国家の取り組みが全くなされていなかったわけです。この点国家プロジェクトでフッ素症改善に取り組んだ中国(貴州省への資金援助は5年間で450億)との違いがあります。その代わりインドでは外国からの支援を受け、日本のJICA(国際協力機構)は水質改善事業としてインド南西部ゴア州のフッ素中毒地区(罹患者約100万人)にODA海外援助(2009-12年/340億)をしています。

フッ素症の牛

フッ素症の牛

またインド南部タルミナドゥ州の「ボゲナカル上水道西部フッ素症対策計画」として223億の円借款事業を決定しました。2008年に日本フッ素研究会がインドのスシ-ラ教授を招待した際、JICAの本部に行きこの件について意見交換をした際に私も同席しました。

今学会の特徴

2日間の学会は、生物学的見地、分子生物学的見地、チノニー賞(口演とポスタ-)部門、世界的な疫学的視野、フッ素症関連、フッ素症の予防戦略、の各テーマからなっており、私の発表は9日で学会のトップバッターでした。タイトルは「歯フッ素症の罹患率から推定したフッ素による発がんの疾病率」で、発表後4人から質問を受けました。

この日の午後、27歳までの若手研究者を対象としたチノニ-賞の選考委員(5人)を依頼され、2時-4時まで最前列で8人の発表を採点し緊張を強いられる羽目になりました。

学会で印象に残る発表は、主催者であるカンダ―レ氏による「フッ素症ラットの改善に炭酸脱水素酵素が重要な役割を果たす」との発表。またクマ-氏の「フッ素症の治療はカルシウム製剤の内服による病院頼みではなく、家庭でできる持続可能な野菜や果物摂取による栄養改善」を目指すことや、ポスター部門であるナゲスワララオ氏の「井戸水のフッ素濃度は雨季は乾季に比べ1ppmぐらいが低い」との発表は、経済環境条件にふさわしい対策が求められる良い例であります。スシ-ラ女史は、4項目のフッ素症関連疾患を提起しました。1.子供の甲状腺、骨奇形、脳神経疾患2.心血管系疾患3.貧血4.腎疾患です。

放射線診断の専門家であるグラグ氏によると「X線写真によるフッ素症の診断では、骨靭帯の石灰化や骨の間の砂粒様( sand scatter)の石灰化像などが特徴である」とのことでした。

フッ素症の多いインドですら、フッ素入り歯磨き剤の効果(in vitro)に関する発表がありました。シュリパシ女史によると(ポスタ-部門)1000ppmの乳酸桿菌に対する増殖阻止効果は5000ppmより大きく、ミュータンス菌に対する阻止効果は1000ppmも5000ppmとほぼ同じ結果が得られている。また歯フッ素症の表面に1400ppm、1000ppmなどのフッ素入り歯磨き剤を毎日2回作用させて表面の硬度を測定した結果、天然歯より硬度が増していた

とのシャンブホッグ氏の報告などです。ただ硬いだけでは破折しやすく、しなやかさが必要です。インドのフッ素研究者は、歯科用フッ素製品の使用を控えるよう警告しています。

今学会の様子を映像ジャーナリストのダウ氏が撮影しており、DVDを依頼したので希望者には後日供覧できると思います。

11日は発表と総会、そして全体の総括でした。インドでは政府の理解がまだ不十分でなかなかフッ素症への取り組みが遅れている半面、次々とフッ素症地区が見つかり現在15州に及んでいます。インドの飲料水フッ素濃度基準である1.0ppmを超えている地区に住む人口は6600万人(2015年の人口は約12.6億人)に及んでいます。

フッ素症地区の視察

12日朝7時に突然電話が鳴り、「今ホテルのロビーにいるのですぐ降りて来い」との知らせでした。昨日学会関係者に、70km離れたナルゴンダという病区視察に同行したい、とリクエストしておいたのでその連絡なのですが、9時頃出発と聞いていたのでゆっくりしていたのです。飛び起きて顔も洗わずとりあえず車に乗り込みました。後で気がついたら大事なカメラを忘れていました。インドのナラヤナ歯科医、映像ジャーナリストのダウ氏、が同乗しており、タイのチェンマイ大学歯学部長夫妻と水道工学専門家のエリ氏を途中で迎えて6人で病区に向かいました。季節は乾期、広大な乾燥したデカン高原の4車線の高速道路をひた走るが、混雑しており車間距離が5mぐらいなのでヒヤヒヤで前を見られません。ナラヤナ氏は何度もこの病区を訪問しておりボランティアで日曜雑貨品を寄贈しているそうです。歯学部長のスンサニ-女史は、前回の国際フッ素学会の会長で、水道工学専門の夫と共に既に病区を3回訪問しています。エリ氏はデンマーク人ですがタンザニアの水道工学専門の大学教授で、WHOからインド、バングラディッシュの水質改善事業に派遣され、この病区の水質改善の責任者でした。ただし雨水と酸化アルミニウムを利用した除フッ素対策は失敗だったと総括しており、今は動物の骨片を利用したタンザニア方式を推奨しています。

村に到着すると、村長以下住民と子供たちの歓迎を受けました。人口は約3000人で以前訪問した時よりずっと村全体が明るくなっており、家も建て替えてきれいになったそうです。既に水質改善と生活改善がなされ、重症な患者は手術も受けて日常生活に支障がないと言います。若い女性たちも村おこしの手造り民芸品を販売しており、自立しています。

また各家庭には、牛ふんを利用したバイオガスのコンロがあり、こうした生活指導まで、水質改善事業の一環として進められているそうです。

この日は夜9時にホテルに到着したので、疲労のためそのまま就寝しました。

インタビューを受ける

13日は1日中市内観光をしました。あすは帰国だ、とのんびりしていたら夕方ダウ氏から電話があり、「日本で水道水フッ素化を中止した理由が知りたい」と言うので夕食をご一緒することになりました。話をしているうちに部屋に行くことになり「今からカメラを回してインタビューをする」という羽目になりました。

昨日も朝4時までインドのフッ素関係者のインタビューを撮影していたとのことで、私も日本でのフッ素化中止や学校でのフッ素洗口反対運動など1時間30分の撮影に付き合わされたのです。

こうして国際フッ素学会は終了しましたが、どう考えても、フッ素が栄養素だとか必須微量元素だとかの発想は出てきません。しかし教科書や大学の講義(温度差はありますが)でそのように教えられ、それが試験で正答とする中で育ってきた多くの歯科医師には、これらの情報を理解も納得もできないでしょう。科学的事実ですから時間はがかかるけれども真実は浸透していくと思います。

今後は、知識よりも推進派が唱えている説の内部矛盾を指摘する知恵が必要です。

また現場の声を丁寧に拾うこと。水道に入れられたら拒否できないので、一人でもやめる、一人でもやるという姿勢が必要なのかな、と思いました。

関連情報:HOW FLUOROSIS IS CRIPPLING INDIA AND NEEDS URGENT ATTENTION
http://fluoridealert.org/news/how-fluorosis-is-crippling-india-and-needs-urgent-attention/

文責 秋庭賢司  2016 11/26

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