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予防接種・ネット・de・講座~その23 被害救済申請の不支給処分を千葉県が取消しの裁決~審査請求での被害救済をひろげましょう

予防接種による被害救済手続きはとても複雑です。2016年1月12日、千葉県で、これまで全国で4件しか認められなかった、審査請求による不支給処分の取り消し決定(裁決)が出されました。5件目となります。これまで、審査請求などで被害者の支援をされてきた栗原敦さん(MMR被害児を救援する会)に報告をしていただきました。


予防接種被害の審査請求とは

千葉県知事は、2016年1月12日付で、A児の健康被害救済申請に対するB市の「不支給処分」の取消しを決めました。これは、英断です(後述)。DPT(ジフテリア・百日咳・破傷風の3種混合)ワクチン接種後の急性脳症について医療費・医療手当及び障害児養育年金を請求したものです。

定期接種の場合、接種の実施主体である市町村長が救済給付の申請者に支給か不支給を通知(処分)します。ただし、法令上、厚生労働大臣の判断に基づくことになっていますから、実質的には厚生労働大臣の諮問をうけた疾病・障害認定審査会の感染症・予防接種審査分科会の答申により支給、不支給が決まります。それを不服とした場合、請求者は都道府県知事に対して「審査請求」を行ないます。(予防接種における救済手続きの概要は図を参照のこと。)

図 予防接種健康被害救済の手続き

図 予防接種健康被害救済の手続き 

国の判断を専門的見解を踏まえ否定

国の判断をもとに、市町村が不支給(接種と症状は関係ないので救済できません)としたものを都道府県知事といえども覆すことは極めて困難です。

たとえば、ある県は「都道府県に対して不認定処分の審査請求がなされた場合、国の審査内容の詳細が不明であり、都道府県にはそれを分析・評価できる機関がなく、専門的見地からの審査ができず、書式等の形式的な審査しかできない。審査請求に対して、国の審査会で再審議すべき。」(2010年10月29日開催の第15回厚生科学審議会感染症分科会予防接種部会の参考資料1「予防接種制度見直しに関するアンケート結果【全国衛生部長会】」より)ということで、医学的な意見書が添えられた審査請求であってもそれを検討することなく「棄却」してきました。他の都道府県でも同様の棄却が行なわれてきたと推測されます。

今回、千葉県はA児の保護者が申し立てた通り、専門家を参考人として鑑定意見を求めました(3名の医師)。その医師らがそろって接種との関係は否定できないとの意見を述べたことから、厚生労働大臣の「因果関係を否定する論拠」を否定し、「不支給処分取消」を明確に判断しました。そこが「英断」の理由です。

近年の事例である新潟県の裁決によって2011年に逆転・認定された事例にならぶものです(表参照)。2012年に高知県も同様の裁決をしています。

表 審査請求で逆転、認定された事例一覧

表 審査請求で逆転、認定された事例一覧

予防接種被害者のたたかいと法改正

予防接種法の健康被害救済制度は、1948年の予防接種法制定・施行以来、罰則をもって強制されたものの、被害救済されずに放置されてきた被害者家族が集まり「予防接種事故防止推進会」を結成(1970年6月)し、まもなく国を相手に賠償を求める裁判を起こした(1973年、東京地裁)ことなどが契機となったとみられる1976(s51)年改正で実現したものです。*

おそらく、救済制度創設以来、審査請求により逆転、認定された事例は表の事例だけかと思われます。厚生労働省によれば、予防接種後の健康被害について、救済申請のおよそ8割を認定しているといいます。しかし、否認された2割の申請者のうちどれほどが審査請求に至ったか、厚生労働省は正確に把握していないフシがあります。「最新の医学的知見にもとづいて判断している厚生労働省の対応に誤りはない」という誤った姿勢を示しているのかもしれません。今回の千葉県の裁決はそのことを裏付けているといえます。国の見解を、県の参考人(医師)が「最新の医学的知見」によって否定しているからです。

A児のお母さんは次のように言っています。

 「健康被害の救済申請をして、否認された場合の次の手続きなど、普通、一般市民には全く分からない」

「市の予防接種委員会の会議録の開示請求をして、厚生労働省の審査分科会の会議録の開示請求をして、県に審査請求をしてなんて、私には発想もなかったし、意見書を書いてくれる医師には、普通は出逢えないし、審査請求の書類の書き方もフォーマットがある訳じゃなくて、行政に聞いても行政不服審査法をみてとか言われても、素人にはどう書いていいのやら、審査請求の書類そのものも難しくて、ハードルが高すぎて誰にでも審査請求できるわけではない?と思っています。」

「口頭意見陳述なんて、とてもとても私一人では心細いし怖くて行けなかったですよ。」

「あとに続く人達にとって希望にもなると考え、県がこの裁決を公表することに同意しました。」

 

裁決後の報道の中には、「自治体が不支給を取り消した後、国が因果関係を認めず、再度不支給とした事例はない」という厚労省健康局健康課予防接種室のコメントにより、「国が改めて因果関係を審査するが、同様のケースで不支給となった例はなく、逆転で救済される可能性が高い。」と報じたものもありました(2016.1.16毎日新聞、千葉日報もほぼ同様)。おそらく、行政不服審査法第43条第1項「裁決は、関係行政庁を拘束する。」の解釈によるとみられます。新潟の事例に関する、国の再審査部会議事録に、事務方が「この場合、認定せざるを得ないのです」と説明し、医学論議が全くなされず、認定を確認しています。

この報道がネット上で広がっています。さらに拡散し、千葉県の英断が埋もれた被害者救済につながることを願っています。

A児の審査請求は、小児科医である黒部信一さん、NPO法人コンシューマネット・ジャパン理事長古賀真子さん、MMR被害児を救援する会事務局長栗原敦の3名が、審査請求、意見書提出、代理人として口頭意見陳述などの支援を行ないました。

(2016.1.17 栗原 敦 さん 記)

*審査請求手続きは行政不服審査法に準拠するものですが、予防接種禍は、これまでは専門家(弁護士)による「不支給処分取り消し訴訟」(裁判)をいきなり起こすことが通常で、あまり利用されない手続きでした。しかし、栗原さんは粘り強く被害者に寄り添い支援をされ、新潟県のMRによる被害児、今回のDPT被害の支援を行い、審査請求により「認定」を勝ち取ってきました。裁判は年月、費用が多くかかり、被害者救済には困難がともなうものです。審査請求での救済が認められれば被害者救済に役立つとして、黒部医師の協力を得て審査に臨みました。栃木県でも1件継続中です(追ってご報告します)。改めて皆様のご支援をお願いいたします。(古賀)


(参考)

裁決をうけて千葉県知事あての文書

160115千葉裁決知事あて:古賀・栗原(PDF 112KB)

千葉県の裁決書、鑑定意見書などについても追って公開する予定です。

 

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